(・・・どっ、のわぁ・・・)
青天の霹靂とはこの事だった。
加護亜依は、一瞬スクリーンに写し出した赤い光点に誘われるように
数十程歩を進めたが、まさか何も無い筈の空間で、何も無い筈のものに
蹴躓くとは事前に予想がつく筈も無かった。
そこは若干大きめの木の脇、やや開けた場所であったが、
スクリーンには空間以外何も映っていない、
地上数cmの高さに踏み出した亜依の足が
何か柔らかくかなりの大きさと重量を兼ね備えたものに引っ掛かったのだ。
避け様も無くソレの上に倒れこんだ亜依は、
更に二重三重の驚きを隠せなかった。
ソレは僅かながらの温もりを持ち
緩慢ではあるが、明らかに自らの意思で動いているのだ。
宙に浮いてるようにしか見えない自分の下の
その十数cmばかりの空間が。
傍から見れば、狂人の行いに見えるかも。
加護亜依は、その行為を続けているうちに徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
実際何と言うことだろう、自分の視界に映るのは透明な空間を
ある形に沿うようにまさぐる自らの掌のみなのだ。
まるで酷く趣味の悪いパントマイムを演じさせられている様だった。
(・・・肩? ・・・顎?顔? ・・・髪?)
その触感、その柔らかさ、その形状。
考えられるものは一つしかなかった。
(・・・人間? ・・・女の子? って、透明人間?)
顔と思しき場所を、状況を認識できつつある優しさをもって
撫で回した時、亜依はその表面を
粘性の低い水脈が行く筋か流れ落ちていることに気が付いた。