亀井絵里が目を覚ますのと、それが倒れこんでくるのとは
どちらが先とは言えない位近いタイミングであった。
絵里が、云われないこの状況の
詳細な認識と抗議の声をあげようとして、
初めて自らの異常を知覚することが出来た。
体中が考えられないほど重いのだ。
手足はまるで鉛で出来ているかの様で、
幾ら叱咤激励を飛ばしても、頑として
喜劇の様なスローモーションでしか動かなかった。
声帯は必要な振動を制御することも出来ず、
瞼すら、通常の広さ近くまで視界を確保するのに
あらん限りの努力を必要とした。
それが背格好から馴染みのある人物であることを
認識することはさほど時間を要さなかった。
そしてその人物の頭部に輝く
見覚えのある禍禍しいヘルメットと
自らの脇腹と左腿に穿たれた穴。
まるで他人事の様に、非日常的な速度で溢れ出る物。
そこまで積み重なって初めて、絵里は状況に得心がいった。
そして、自らのこれからの運命にも。
(・・・ドウシテ? ・・・嫌ぁ ・・・いやっ ・・・イヤァァァァ)