一方、旅路を行くユキの一行。
「茶店の危機」から三日後の夜、河原の洞窟で野宿をしていたユキは、
不思議な夢を見ていた・・・・・・。
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気が付いた時には、ユキの身体は何故か宙に浮いていた。
狼狽するユキ。
「な・・・何だ、どうなっているんだこれは!
わ、私は…一体・・・・・・???」
ユキは何とか地上に降りようと自分の真下に目を遣る。
その瞬間、ユキは目の前の光景に甚く驚愕した。
果たして、その眼中に飛び込んできた物は・・・・・・!?
「これは一体・・・どう考えてもあれは江戸じゃない・・・いや、日本じゃない!!
判らない・・・益々判らない!!一体どこなんだここはぁ!!!」
ユキの目に映ったもの・・・それは彼女の想像を遥かに絶する、摩訶不思議な光景であった。
いや、ユキでなくとも、「ユキと同じ世を生きている者」にとっても、この「異様な世界」を目の当たりにしたならば
忽ちのうちに錯乱に陥るであろう。
その「異様な世界」とは・・・
目の前に広がるのは、天まで届けよと高くそびえる大小様々な特異な形の建造物。
民家もあることにはあるのだが、ユキの知る物とは大きく異なり、色とりどりの壁に
藁とは違う無機質な屋根と言った見慣れぬ作りをしている。
その建造物の密集している所では、オランダ人(江戸時代、家光の頃から
日本は“鎖国”政策を採っていたため、海外の国ではオランダやポルトガル、中国と
長崎の出島でのみ交易していた)のようで、オランダ人とも違う
得体の知れない服を着た人々が行き交い、聞き慣れぬ言葉を交わしている。
更によく見ると、洋式の畏まったような服を着た者が小箱のような物を手に、
それを耳に当てて、まるで誰かと会話しているみたいに独り言を喋っているではないか。
その上、広い公道と思しき路面を四つの輪を獣の脚のように並べた箱のような乗り物が、
煙を噴き出しながら走っている。見れば、馬に似た乗り物まで存在する。
その賑わいを、更にユキ(たち)には理解し難い得体の知れない音楽が彩っている。
・・・ここまでご覧頂き、もうお判りのことであろうと思うが…
ユキが今いるのは、“二十一世紀の日本の首都・「東京」”。
即ち、江戸の約四百年後の姿なのである!!
その「未来の江戸」の上空に自分がいるなど思いもよらず、ユキは困惑する。
「これは夢なのか・・・そ、そうだ!夢に違いない…ならば早く覚めてくれ!!」
混乱から絶叫するユキの姿が、眼下の人々には全く見えないことなど
彼女は気付いていない。
そして彼女が悲観にくれかけた・・・その時!
ド ゴ ォ ォ ォ ・・・・・・ ン ン !!!!!!
地上の「街」から爆発音が聞こえた!!
と同時に、「群衆」の逃げ惑う声もユキの耳を衝く!!
「な・・・何ィ!!?」
下界を見遣るユキ。その視線の先には・・・!
「ば・・・馬鹿な!!?あれは…血車の…化身忍者!!??」
そう、見ようによっては血車党の化身忍者に見えなくもない異形の者たちが
我が物顔で跳梁跋扈・横行闊歩の限りを尽くし、破壊・略奪・殺戮を繰り返していた。
当然と言うべきか、この者らは血車党ではない。そう、この二十一世紀において
最も忌まわしき「悪」と言えば……!!
「ウワッハッハッハッハハハハ……
愚かな人間共め、お前たちは我々ゼティマの足元に跪くしか
生きる道はないのだ!!」
血車党とは違う未来の悪…ゼティマの一団は、逃げ惑う人々を片っ端から
血祭りに上げ、或いは次々と攫っていく。
人々は成すすべなく、ただゼティマのいいようにされるがまま、
絶望の淵に立たされるのみであった。
だが、そのような無法がいつまでもまかり通るわけなど有り得ない。
そのことばかりは、いつの時代も同じである。
「待てぇ!!」
突如聞こえた若い娘の声。
それはこの時代の人々にとって希望に満ち溢れ、
幾度と無く危機を救われた天の使いの声である。
「む!!…貴様らは!!??」
声のする方向に視線を移すぜティマ。
そこにいるのは、最早何の説明も要るまい。
「また性懲りもなく暴れとるんか、ゼティマ!」
「いい加減これ以上何の罪もない人たちをいじめるのはやめなしゃい!!」
彼らに怒りの一喝を浴びせる二人の少女。
いずれもあどけない印象を与えており、その口調は
一人は関西弁、もう一人は舌足らずで子供っぽい。
だが、幼い顔とは言え、その二人の瞳には、正義に燃える怒りの炎があった。
その光景を上空で見ていたユキは、以前にも増して驚愕の色を強める。
「何…馬鹿な!見ればまだ子供ではないか!!一体何が出来ると…
助けねば!!」
だが、ユキの身体は宙に浮いたままその場を動けず、
ただ目の前で繰り広げられる展開を見守るしかなかった。
止むを得ずユキは、二人の少女に逃げるよう呼び掛けるが、
姿が見えないのと同様に、その声もまた聞こえていない。
「どうすればいい…どうすればいいんだ私は!!??」
焦燥に駆られるユキ。
一方、地上の少女たちはユキの存在など全く気付かぬまま、
自分らの目の前のゼティマに対し身構える。
「あいぼん!!」
「判っとる…こいつら一人残らず倒さなあかん!
このまま野放しにしとったら、この街はお終いや!!
いくで、のの!!」
「うん!!」
二人の少女=辻希美と加護亜依は
許せぬ悪の群れ目掛け猛然と突進する。
その悪=ゼティマもまた、怪人が戦闘員に迎撃の号令を掛ける。
「小癪な…かかれぇ!!」
大挙して、二人に殺到するゼティマの戦闘員たち。
亜依と希美は、そのうちの何人かを軽くあしらうと、近くのビルの屋上へと
大きくジャンプする!
それを見て、ユキは絶句する。
「し…信じられぬ…あの力はどこから…もしや!?」