熱々の茶漬けにフーフーと息を吹き掛け、
「いただきまぁ〜す。」
とお美和、お順が口にしようとした…その時!
「待ったぁ!!
…亭主、済まぬが、ちとど…あ、いや、味見をしてはくれまいか?」
突然ユキが二人を制し、店主に味見を勧めた。
「どうしてですか?ユキさん!」
「そうですよ!一体何があると言うのです!?」
訝しげな表情でユキを見る二人。だがユキは構わずこう続けた。
「叔母上とお美和さんには判らぬであろうが…何やら妙な臭いが…。」
「き…気のせいでございますよお客様…。
お客様に平気で傷んだ物をお出しする店が…どこにあると言うんですか!?」
店主は必死に被りを振る。だが、ユキの猜疑心は消えない。
「それならば尚のこと、ささ亭主、先ずはそなたが食してみてくれ。
傷んでおらぬのであれば大事はなかろう!?さぁ!さぁ!!」
「・・・・・・!」
店主の顔に脂汗がジットリと浮かび出した。
と、そこへ丁度折りを見たかの如く一羽の鳩が舞い降りてきた。
鳩は餌を求めているのか、ユキたちの目の前をウロウロと徘徊する。
ユキはその鳩の姿を認めるや、手にしていた茶漬けを地面にぶちまけた。
鳩はやっと餌に有りつけた安堵感から、地面に汁が染み込んだ茶漬けに歩み寄り、
そのふやけた米粒を一粒啄ばんだ。
すると・・・!!
鳩が突然苦しみ出し、痙攣を起こしてその場にのたうち回ったではないか!
そして苦悶の末、その鳩は…程無くしてピクリとも動かなくなった。
この光景に驚いたのはお美和だ。
「は…鳩が…死んだ……毒!!?」
ユキは鳩に手を合わせ、土に埋めて懇ろに弔うと、
背の太刀・ハヤカゼを抜いて身構えた!
「貴様ら…もしや血車党か!!?」
「クックック…よくぞ見破ったなユキとやら!この前の礼を
キッチリ返させて貰うぞ!死ねぇ!!」
と言うが早いか、店主と毒茶漬けを作った小女は
着ていた衣類をバァッ!と剥ぎ取った!!
着衣の下から姿を現したのは…
迷彩模様の忍び装束に全身鎖帷子に鎖覆面。
紛れもなくユキの父母の仇と並ぶ怨敵・血車党の下忍たちだ!
が、男下忍の方は短い袖があって袴を着けているのに対し、
女下忍の装束には袖と袴がない。性別によって区別されているようだ。
二人は短刀を携え、ユキたちに肉薄する。
「このままではいかん!叔母上、お美和さんを頼みます!!」
「ええ!」
お順はユキの呼び掛けに応じ、お美和を背負うと、その身を一頭の白馬…
ハヤブサオーへと変えていく。
お順のこの「化身」に驚くお美和。
「あ…あなた方は…一体!?」
「詳しいことをお話ししている余裕はござりませぬ!さ、しっかり掴まって!!」
言われるままにハヤブサオー=お順の手綱にしがみ付くお美和。
「さぁ、行きますよ!それっ!!」
「え・・・ぅわ、きゃああ!!」
かくしてお美和を乗せたハヤブサオーは、
彼女に危害が及ばぬ所を求めて走駆した。
ハヤブサオーがお美和を無事逃がしたのを見届けたユキは、改めて血車党の下忍と対峙する。
「貴様ら…何故我々がここにいると判った!?」
「うるさい、貴様の知ったことか!!」
「今度こそその首…貰っていくよ!覚悟しな!!」
一斉にユキに飛び掛かる下忍たち。ユキもまた駆け出す。
忽ち乾いた空気を斬り裂く剣戟の響きが轟き渡る!!
だが、二人の下忍たちは絶妙な連携を以って
ユキの攻撃を巧みにかわし、即座に反撃に転じる。
二人の息の合った妙技の冴えに、ユキは手も足も出せなかった。
そして遂には追い詰められてしまう・・・危うし、ユキ!!
「貰ったぁ!」
男の下忍が疾風の如くユキに突進し斬り掛かる!万事休すか!?