仮面ライダーののアギト

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757名無し天狗
所変わって、こちらは某藩城跡・血車党の本拠地。
その頭領の間に入ってきた一人の奇ッ怪な人相の男。

「おかしら様。物見よりの報せによりますれば、あのユキとか言う小娘め、
 どうやらただ今土佐の高知に身を潜めておるとか…。」

物見の乱破(らっぱ。密偵の役目をする忍者のこと)を使ってユキの素性
(初対面時は嵐に化身するくノ一が何者かを掴めていなかった)とその行方を探り、
“おかしら様”に報告した、頭蓋骨が半分露わになっているこの男、嵐=ユキによって
辛酸を舐めさせられた血車党の前線指揮官で、名を骸丸(むくろまる)と言う。

「何、土佐の高知とな?」
「はっ、恐らくは亡き父母の墓参のためと…。」

髑髏の鉄仮面に西洋風の甲冑姿の頭領・血車魔神斎の問い返しに、骸丸は更に事の詳細を報告する。

「しかも奴め、父母を殺した仇を捜して旅をしておるとも聞き及んでおります。」
「そうか。」

報告を続ける骸丸。その彼の報告を聞き、魔神斎の眼が邪まに光る。

「それならば…骸丸、近う寄って耳を貸せ。」
「?…は、はぁ…然らば、ご無礼仕りまする…。」

おかしら様は一体何を思い付かれたのか?不思議に思いつつ骸丸は魔神斎の前に歩み出た。
その骸丸に、今思い付いた策をそっと耳打ちする魔神斎。

「!・・・おお!それはご名案!!流石はおかしら様、お見逸れ致しました!!」
「じゃが骸丸、この策、活かすも殺すもその方次第ということを決して忘れるでないぞ!!」
「ははー!肝に銘じまする…。」

魔神斎から一計を授けられた骸丸は、早速支度に執りかかった。
758名無し天狗:03/10/19 22:17 ID:1/x5Hfo5
数日後・・・

ユキの生まれ故郷の村に辿り着いた三人は、
ユキの父母が弔われていると言う寺に向かった。
と言っても、ユキの生まれた村には、寺は一つしかない。
この寺に、この村で死んだ者たちが、村内外を問わず葬られているのである。

「いよいよですね、ユキさん、お順さん。」
「ああ、あのお寺に父母が弔われている筈だ。まずは此度の免状のことをご報告し、
 父母を安堵させねば。」
「私も、兄を失った辛さは深うござりまする。ユキと共に、兄を殺めた仇をこの手で…!」

仇討ちの本懐を間近に向かえ、ユキとお順の心は高潮していた。と、その時…

“ぐぅううぅ〜〜〜…”

誰かの空腹を告げる物と思しき、けったいな音が鳴り響いた。
759名無し天狗:03/10/19 22:28 ID:1/x5Hfo5
「?…あれ?」

ユキは忍びなので、ある程度の空腹には耐えられる。
となると・・・腹を空かせたのはお順か、お美和か?

「ごめんなさい…ちょっとお腹が…。」

決まり悪そうに苦笑いしながら告白したのはお美和であった。

「そうか…ここのところ、殆ど飲まず食わずで急ぎ足に付き合わせてしまったからな。
 お美和さん、済まない。」
「いえ、いいんです…。」
「茶店を捜して、そこで一休みしましょう。」

三人は茶店を捜すことにしたが、この広い農村、家同士が隣り合うと言っても
数間も離れているような村である。そんな環境のもと、茶店一軒を捜し出すのは
殆ど至難の業に近い。

方々を歩くうちに、お美和の顔に疲労の色が見え始めた。
お順もまた、お美和ほどではないものの、空腹から徐々に元気がなくなりつつあった。

「ん〜〜む…困ったな。」

流石のユキも、腕組みをして考え込む有様であった。
760名無し天狗:03/10/19 22:50 ID:1/x5Hfo5
「・・・!?そうだ、あれがあったではないか!!
 何故早うに思い付かなんだか、ユキの愚か者め。」

ユキは「あること」に気付き、己をなじった。
そして彼女は、己の懐に手を遣り、何かを探す。

「おお、これこれ。」

そう言ってユキが懐から取り出したのは、ビー玉程の大きさの、
粉をふいた飴の様な球体であった。

「さぁ、お美和さん、叔母上、これを。
 これは「飢渇丸(きかつがん)」と申して、忍びの任の際、誰にも気取られず
 その場で飢えや渇きを癒せる物。一時凌ぎの上、味は保障しかねるが、これで持ち直せましょう。
 茶店が見つかるまでの辛抱でござる。ささ…。」

ユキは、用意した「飢渇丸」を食べるよう尾順・お美和に勧めた。

体力を回復させた二人は、ユキと共に改めて茶店を捜す。

「今暫くの辛抱でござるぞ!!」

二人を励ましつつ、ユキは茶店捜しに奔走する。
761名無し天狗:03/10/19 23:10 ID:1/x5Hfo5
やがて・・・

「お美和さん!叔母上!ここより一町(現代の距離に換算して百九メートル)先に
 一軒、茶店がありましたぞ!!」

茶店を発見したユキが、二人の下に駆けながら告げる。
その「吉報」に二人は望みを託し、ユキに続いて道を急いだ。

暫くして・・・

「ハァ、ハァ…。」
「漸く辿り着けましたね…。」

茶店に辿り着いた三人。だが、お美和とお順は、「飢渇丸」のお陰で
一時的に体力を回復させたものの、今この時にはすっかり困憊していた。

早速ユキは、店主の初老の男に注文を始めた。

「ご免、茶漬けを三杯所望したい。あと水も。」
「へい、毎度あり。」

注文を受けて、男は店の奥に引っ込んだ。

「よかったですねぇ、お美和さん。」
「ええ、ええ、本当にもう死にそうでしたぁ…。ユキさんのお陰です。
 何とお礼を申して良いのやら…。」

だが、嬉しそうに礼を述べるお美和の声は、何故かユキには届いていない。

「・・・・・・。」

ユキには、店主の男の動きに何か引っ掛かる物があるようだった。
762名無し天狗:03/10/19 23:19 ID:1/x5Hfo5
「どうも怪しいが…まさか、そんな筈は…いや、気のせいかもしれんが…やはりどこか…。」
「あの…ユキさん?」

お美和は不審に思い、なおもユキに呼び掛ける。

「?…あ、ああ、済まぬ。ちと、考え事をしていた。許されよ。」

漸くお美和の声に気付き、ユキは決まり悪そうに頭を下げた。

「いえ、いいんです。それより、本当に助かりました。あなた方は私の恩人です!」
「いやいや、そんな大袈裟な程のことでも…。」

顔を赤らめるユキ。と、そこへ・・・

「へい、茶漬けにお水、三人分お待ちどお様でした。ではごゆっくり。」

注文の品々が届いた。
やっと空腹を凌げる…特にお美和とお順はそれだけで幸せそうであった。