仮面ライダーののアギト

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750名無し天狗
「♪高知の城下へ来てみぃや〜、じんばもばんばもよう踊るぅ〜…♪」

土佐の民謡「よさこい節」を口ずさむユキとお美和。
お美和は諸国巡りが好きで、四国八十八箇所行脚のお遍路に勧んで加わるほど
大の旅好きであった。
また、ユキも三歳で両親を失って以来、谷一族に入門するまでの八年間、
独学で武術の腕を磨くために諸国を巡ってきた。
それ故、行く先々の土地柄に造詣が深くなり、その土地に伝わる民謡も覚えてきたのである。
ましてユキはここ、土佐の高知の生まれで、人生の転機を余儀なくされるまでの三年間、
この「よさこい節」を子守唄代わりに母から聞かされていた。

その二人の吟ずる「よさこい節」にお順は聞き惚れ、先の船旅の疲れが癒されるような心地であった。

かくして、この三人の道中は、終始和やかに進んでいった。談笑する三人。

そんな中、今度はお美和がユキに尋ねてきた。

「あの…ユキさんのお父様とお母様って、どのようなお方だったのですか?」
「・・・・・・!」

このお美和の問いかけにユキは一瞬返答を躊躇ったが、改めて「隠すようなことではない」と思い、
話すことにした。
751名無し天狗:03/10/18 22:16 ID:4VOFmp6Y
「・・・とても優しい、それでいて厳しい人たちだった…。
 私はここ、土佐の農村の貧しい家に生まれた。
 不自由な暮らしではあったが、幸せな家庭だった…。
 私は物心付いた時から、よく両親の手伝いをしたものだった。
 百姓仕事だけでは食い繋げず、父は笠や草鞋を作り、それを売って生計を立てて、
 私も父を手伝って草鞋などを作って売りに出ていたものだった・・・。」

ここでユキの口が止まった。お美和はそれを見て、嫌なことを思い出させてしまったか、と思い、

「あ…すみません!何だか、悪いこと聞いてしまったみたいで…。」

と慌ててユキに詫びた。

僅かな沈黙のあと、ユキは再び口を開いた。が、が、その口調はどこか苦しかった。

「いや、お気に召されるな…。
 先程も申したように、暮らしは貧しくとも私は幸せであったのだ。
 そう…私があと数日で四つになる、あの日までは……!」
「・・・・・・!!」

ユキの言葉を聞き、お美和は息を呑んだ。

その彼女に、ユキは思い切ってその衷情を打ち明けた。
752名無し天狗:03/10/18 22:43 ID:4VOFmp6Y
「四つになる生まれ日を数日後に控えたある日の夜、眠っていたところに
 突然誰かが言い争う声や物を荒らし回る騒がしい音が聞こえ、目を覚ました私は
 何事か、と音の出所を探した。そして居間に辿り着いた時、私は余りの凄惨さに言葉を失った!
 部屋中は嵐に見舞われたかの如く荒らされ、床一面は血の海と化し、
 そこには身体中をズタズタに斬り刻まれた父と母が横たわって……!!」

いつしか、ユキの声は嗚咽交じりになり、時折上ずっていた。

「私は思わず両親の遺体に縋って泣きじゃくった!!
 その時、家の外から何人かの声が・・・!!

 『チッ…結局金になりそうな物はなかったみてぇだな!』
 『全く、あの二人も大人しくしてたら命だけは助かったろうによ…馬鹿な奴らよ。』
 『ねぇ〜え、今度はもっとましなところに行きましょうよぉ。』
 『そうだな、畜生!』

 ・・・あいつらが父と母を……!!
 私の心は奴らへの復讐に燃えていた!!
 私は表へ飛び出し、奴らを追った!…だが、悲しいかな、その頃の私はまだ幼く、
 いくら走っても、奴らに追いつくことは出来なかった……。
 だが、あの時の憎々しい声は今でも鮮明に覚えている。必ず見つけ出して、両親の無念を晴らす!
 私は改めて復讐を誓い、強くなるための修業の旅に出た。」

複雑な面持ちでユキの話を聞くお美和。

「・・・それでユキさんは…その旅の途中で、その谷一族って言う忍者の集団のことを知って…。」
「・・・そうだ。あの日から私の全てが決まったのだ。
 …辛い話を聞かせてしまったようだな。」
「私の方こそ、すみません。嫌なことを思い出させてしまったみたいで……。」

悪気がなかったとは言え、ユキの心の傷に触れてしまったことを、お美和は悔いた。
753名無し天狗:03/10/18 23:06 ID:4VOFmp6Y
「いや、良いのだ…。
 実は此度の両親の墓参は、仇討ちのお許しをご公儀より頂いたので、その報告をするのだ。
 これで仇討ちの大儀は得た、あとは仇を捜すのみ…。」

当時、仇討ちをするためには、幕府にその理由を述べた上で申し出て、
「仇討ち免許状」を獲得する必要があった。
ユキは江戸を発つ前に、その手続きを済ませていたのだ。
お順もまた同様に、「柳澤家を滅ぼされた無念を晴らし、お家を再興する」と
申し出て「仇討ち免許状」を貰っている。

因みに、元禄期に赤穂藩浅野内匠頭の元家臣たちが「藩を破滅に追い遣った」と言う理由で
吉良上野介の屋敷に討ち入り、上野介を「仇敵」として殺したが、彼らは元々幕府への反逆を意図していたため
手続きを踏まえぬまま「仇討ち」に乗り出したのである。故に、将軍家と幕閣上層部には
「私怨」「私闘」と捉えられていた。

「本当に申し訳ありません。
 この上は、ユキさんとお順さんの本懐成就を八十八箇所に祈念する所存…。」
「あ、いや、そこまで思い詰めずとも…。」

先程の悔し涙から一変、お美和の飛躍した言動を慌てて宥めるユキ。
その彼女の顔には、照れ笑いと苦笑いが入り混じっていた。

賑やかさを取り戻した三人の旅。果たしてその先に待ち受けるのは・・・・・・!?