ハヌマーンの活躍によってほとんどの戦闘員が倒されたとはいえ、死人コウモリ
と共に地下から脱出した戦闘員達は相当数残存している。村人達がスクランブル
ホッパーによる妨害電波で操れないとわかった今、怪人の手勢といえばこの戦闘員
達だけである。
「ギギィ!お前達、やってしまえ!!」
「ギィーッ!!」
奇声と共に黒いヴェールを脱ぎ捨てて、V3とハヌマーンに殺到するのはまんじ教
の戦闘員。それぞれ手にした武器を振るって眼前の敵に襲い掛かる。踊るような
軽やかなステップを踏みながら敵に接近すると、ハヌマーンは手にした三叉戟で
戦闘員の一群を一薙ぎする。一瞬の閃光にもにた白刃のきらめきと共に、黒覆面
の戦闘員の首がまるで熟した果実のようにたやすく落ちて転がる。
「うっ!」
その光景を目の当たりにした戦闘員達は、風神の子の阿修羅のごとき戦いぶりに
恐れをなして立ちすくむ。一方のV3も寄せ来る敵をちぎっては投げ、叩きのめ
された戦闘員達はたちまちのうちに山のように折り重なっていく。気がつけば、
数の上では勝っていたまんじ教の軍団も死人コウモリただ一人を残すだけに
なっていた。
「おのれぇ・・・コレでも食らえ!!」
空中を飛翔しながら、鋭い爪で引き裂こうと襲い掛かる死人コウモリ。怪人が
頭上を掠めるたびにまがまがしく長く伸びた爪も二人の頭を掠める。そして
死人コウモリが放った一撃はV3の胸元近くにヒットし、その一撃で態勢を崩した
V3はよろめいて倒れてしまった。そこを逃さず、死人コウモリはV3の頭上から
降下し、その両脚を引っ掴んだ。
「V3ィィィ、空中回転であの世へ行け!」
「うっ、何を!」
そう言うや、死人コウモリはV3の脚を掴んだまま空中高く舞い上がり、なんと
高空でそのまま回転し始めたではないか。まるでヘリのプロペラのような高速回転
はV3の平衡感覚を麻痺させ、じわじわとダメージを与えていく。そして、十分な
回転がついたところで死人コウモリはその手を離す。
「このまま激突して死ぬがいい、V3!!」
「うわぁぁぁぁっ!」
猛回転しながら落下していくV3。尋常ならざる力で加えられた回転力は、さしもの
V3の力を持ってしても勢いを殺せない。
しかし、今のV3には風神の子がついている。ハヌマーンはV3のピンチを見逃して
はいなかった。
「任せてくれV3!つむじ風よ、吹け!!」
三叉戟をかざしてハヌマーンが再び念を込めると、剣の切っ先からつむじ風が生まれ、
それは空中を回転しながら落下するV3に近づいてく。そして、二つの回転が交わった
その時、ひときわ大きくなったつむじ風がV3の身体を宙へと持ち上げた。
「これは一体・・・」
高速回転するV3の眼下には、この風を呼び起こしたハヌマーンの姿があった。V3が
回転しながら突き進むその先には、この突然の事態に恐れおののく死人コウモリの姿
が見える。
「風でV3の身体が押し上げられた・・・馬鹿な!」
直進するその先には死人コウモリがいる。それに気がついたV3は両足をぴんとそろえ
回転に身を任せたまま怪人に突っ込んでいく。
「V3、スクリューキィーック!!」
竜巻のような空中回転とともに繰り出される両足蹴りが、空中の怪人を捉える。必殺
の一撃は敵のボディを、そしてなにより自慢の翼を完全に破壊した。
「グエエエエエ!!」
地上に叩きつけられた死人コウモリはしばらくのた打ち回っていたが、その姿はやがて
もとのツバサ大僧正の姿に戻っていく。そこへ地上で待機していたハヌマーン、そして
マフラーで風に乗りながら見事に着地したV3が駆け寄る。死を悟ったツバサ大僧正は
ヨロヨロと起き上がる。
「まだやる気か!」
身構えた二人にツバサ大僧正は最後のセリフを残し、地下に埋められていたと思しき
棺おけの中に身を横たえた。
「死が来た・・・ゼティマ大首領よ、永遠に栄えあれ・・・・」
その直後、無数に飛び交うコウモリと共に、彼の亡骸は大爆発と共に消えた。ここに
仮面ライダーV3とハヌマーンの活躍によって、まんじ教は滅びたのだ。
戦いを終えて、密林に夕日が落ちる。赤い夕日を浴びながら、コミカルに舞い踊る
ハヌマーン。その姿を見つめながら、真里は風の聖霊であるラブリーの両手を握り
心から礼を述べた。
「あなたの力がなかったら、まんじ教とは戦えなかったかもしれない。助けて
くれて、ありがとう」
一方のラブリーも恥ずかしそうに視線を落としながら、真里の言葉を理解したのか
小さく頷いた。そして、彼女はどこかにしまっておいた白い花の髪飾りを真里に
差し出した。友情の証として、彼女にプレゼントしたいようだ。それは地上のどんな
花よりも透き通った白い花びらと、天上のいかなる美酒よりも甘い香りを漂わせて
いた。真里は髪飾りを笑顔で受け取って言った。
「ありがとう。おいら大事にするよ」
その言葉を耳にした水の聖霊は、自らの子ハヌマーンと共に再び一陣の風となり、
3人の眼の前から姿を消した。二人が去った後には、コチャンが持ち歩いていた
ハヌマーンの人形だけが残されていた。貴子がそれを拾い上げ、車の中にいる
コチャンに手渡すと、一人つぶやいた。
「神様とか仏様って、やっぱおんねんな・・・」
そんな彼女の隣で、ラオス警察への連絡を終えたウィラポンが空港で出会った時の
ような屈託の無い笑顔で言った。
「諦めたりくじけたりしない限り、仏様は助けてくれます」
「せやな・・・」
そう言って二人は車に乗り込みエンジンをかける。ただ、真里だけはしばらく風の
吹きぬけた方向を、二人が去って行った方向を見つめていた。
異国の大地で悪の野望と戦った仮面ライダーV3。水の聖霊と風神の子とともに
戦いの末にまんじ教を打ち砕いた。人々の自由を守るために、仮面ライダーの戦いは
続くのだ。
Another story 「風の神話」 終