「これは!一体どうしたことだ」
V3とコチャン少年を重力の罠に掛け、地下から脱出したツバサ大僧正。しかし、
地上に出てきた彼が見たものは信じられない光景であった。外でヴィルット博士ら
を拘束しているはずの二大怪人と戦闘員が全て倒され、その累々として横たわる
屍の真ん中に踊る白い猿の姿だった。
「まさか・・・あやつがやったのか?!」
狼狽するツバサ大僧正の姿を見つけた貴子とウィラポンは、敵の親玉を逃がすまいと
ツバサ大僧正のそばに駆け寄る。
「お前たちの手下はハヌマーンが退治したぞ!観念するんだな!!」
「・・・そういうことらしいで。観念したほうが身のためや」
神仏の奇跡に心酔しきりのウィラポンと、いまだに状況を把握しきれない貴子。
しかし巨悪をみすみす見逃すつもりが無いのは同じだ。二人は呼吸を合わせ
ツバサ大僧正を捕らえようと攻撃を仕掛ける。貴子のパンチとウィラポンの跳び
膝蹴り、二人のコンビネーションが同時にツバサ大僧正を襲う。
「うらぁぁっ!」
『ハッ!』
二人の攻撃は間違いなくツバサ大僧正にヒットした。しかし、二人の身体に
伝わるのは生身の人間を殴ったときの感触ではなかった。筋肉のその下に、まるで
鉄骨でも入っているかのような硬質な感覚に、二人は互いに顔を見合わせる。
「まさか、お前も・・・」
貴子のその言葉にツバサ大僧正は邪悪な笑みと共に答えた。
「察しが良いではないか・・・その通り。ワシもまた、改造人間よ」
そう言うと、怪しげな高笑いと共にツバサ大僧正は黒いローブを翻す。そしてその
直後バサリと脱げ落ちたローブの下から現れたのは、赤黒い体毛に包まれ、鋭い
牙をむき出しにしたコウモリの怪物だった。
「ギィーッ!俺様は死人コウモリ。この姿を見たからには、生きて返さんぞ!」
ついにその正体を現したツバサ大僧正。怪人死人コウモリは一連のヒマラヤの
悪魔に関わる事件の真犯人であり、ウィルスに感染して辛うじて命を繋いでいる者は
みな彼の意のままに操られるロボットと化してしまうのである。そして、怪人は
ウィルスの邪悪な本領を発揮した。
「お前達が救おうとしている、無辜の民の手にかかって死ぬがいい。出でよ!」
死人コウモリの声が寺院に響き渡る。すると、どこに隠れていたのかあちこちから
周辺村落の住民と思われる人々が姿を現した。
「なっ・・・」
「いけない、あれはウィルスに感染した村人達だ!」
ウィラポンの言葉どおり、彼らはヒマラヤの悪魔に感染した村人達である。おそらく
は万一のときに備え、潜伏させていたものであろう。まるでホラー映画のゾンビの
ように、うつろな目のままよろよろとおぼつかない足取りで群れを成して姿を見せた
村人達は、敵の犠牲者であったとしても敵そのものではない。怪人は彼らに、良心の
呵責とともに立ちすくむ二人を無抵抗のまま殺させるつもりなのだ。全く抵抗できない
二人に対して、三叉戟を振るいながら村人を威嚇するのはハヌマーンだ。彼は命の
危機にありながら攻撃をためらう人間二人に苛立ちを隠さない。
「二人ともなぜ攻撃しないんだ!」
「罪も無い村人をどついたり殺したりできるかい!!」
「神であるあなたはともかく・・・私達にそれはできない!くそっ・・・」
まさに万事休すと思われた、まさにその時であった。
聞き覚えのある声と共に空中高く上昇するロケット。『スクランブルホッパー』
とは、ホッパーに装着されて空中へ運ばれるリング状のパーツであり、そこから
怪人の機能を狂わせる妨害電波を発することが出来る、V3「26の秘密」の
一つなのだ。そう、貴子とウィラポン、そしてハヌマーンの危機を救ったのは誰
あろう、仮面ライダーV3なのだ。そして、妨害電波が発せられたことで怪人の
命令電波が届かなくなり、ウィルスの活性化が抑えられると村人達はまるで糸の
切れた操り人形のようにその場に倒れてしまった。
「ぬうううううっ!一体誰の仕業だ!!」
ウィルスの効果を打ち消され、歯噛みする死人コウモリ。邪魔者の姿を探して
周囲を見回す。と、ひときわ高く石を積み上げた円錐状の屋根に何者かが姿を
現した。赤い仮面に白いマフラーをなびかせた正義の戦士、仮面ライダーV3だ。
「ツバサ大僧正、いや死人コウモリ!!お前のウィルスは無力化したぞ!」
眼下の敵に見得を切ると、V3は大きく跳躍して怪人の眼前に立ちはだかった。
そして挨拶代わりのパンチを叩き込み、敵を大きく吹っ飛ばした。V3の出現
と時を同じくして、解放されたコチャン少年も貴子たちのところへ駆けて来た。
「V3!!」
「稲葉さん、ウィラポン、この子を頼みます」
V3はそう言ってコチャンの身柄を二人に預ける。
「OK。任しとき!」
貴子とウィラポンはコチャンを連れて車の中に逃げ込む。一方死人コウモリも
態勢を立て直して再びV3に牙を剥いて襲い掛かる。そして、そこへハヌマーン
も駆けつけて、怪人に対して身構えた。
「V3、力をあわせて怪人を倒そう!」
「クラップ(OK)!おいら達が力をあわせれば、あんな奴敵じゃないっ!」
たとえ敵がツバサ一族最強の怪人、死人コウモリであろうとV3とハヌマーン
は恐れない。ついに正邪最終決戦の時がやってきた。