通常の20倍の重力が働く閉鎖空間で、思うように動きが取れないV3とコチャン。
その姿を残忍な笑みと共に見届けているツバサ大僧正。と、そんな彼の元に戦闘員が
やってきて爆破準備が整ったことを告げる。
「ツバサ大僧正様、アジトの爆破準備が整いました。スイッチを押せば正確に1分
後にはここは跡形なく吹っ飛びます」
「よろしい。総員脱出せよ・・・それでは、さらばじゃ仮面ライダー」
黒いローブを翻し、ツバサ大僧正は独房に閉じ込められた二人の前から去っていった。
恐らく彼らが確実に脱出したのちスイッチは押され、その1分後には二人はこの世から
いなくなってしまう。それが敵の目論見だ。
「ちっくしょう・・・何とか脱出する手立てを考えないと。変身したのは良いけど
ダブルタイフーンが回らないなんて」
V3の力の源、ダブルタイフーン。そこからパワーを引き出そうにも、風の力が無い
のと20倍の重力でV3はその能力を発揮できないでいるのだ。と、その時V3の
耳に聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「仮面ライダー、私があげたメダルを使って・・・」
「もしかして・・・ラブリー?!」
特殊強化ガラスで隔てられた独房の向こうに、プールサイドで出会った少女の姿が
あった。声の主は彼女であった。ラブリー、いや水の聖霊アンジャナーはV3の心に
語りかけ、脱出のための力を授けに来たのである。しかし二人はまだ、彼女が水の
聖霊であることを知らない。V3は言われるがままに受け取ったメダルを取り出す。
「これをどうすればいいの?」
「あなたのベルトには、このメダルと同じ大きさの窪みがあるはず。そこにメダル
をセットすれば、聖なる風の力があなたを助けてくれるの」
V3はその言葉に従い、手探りでベルトにあるという窪みを探す。そして、腰の辺り
にそれを見つけると、V3は迷うことなくそこにメダルをセットした。すると。
『ギュイイイイイイン!!』
通常では考えられないほどのまばゆい光を放ってダブルタイフーンが猛回転し始めた。
そのとたん、V3の身体に信じられないほどのパワーが漲る。20倍の重力が押さえ
つけているのもなんのその、全く普段どおりの身のこなしが可能になった。そうなると
最初にこの力をぶつける場所は一つだ。
「よーし・・・とうっ!!」
v3は掛け声と共に、先ほどまで歯が立たなかった強化ガラスにパンチ一発。すると
その直後、まるでクモの巣のようにひび割れがはしるとガラスは粉々に砕け散った。
すると先ほどまで二人を苦しめていた通常の20倍もの重力を発生させていた装置は
まるでガラスの崩壊に呼応するかのようにものの見事に破壊され、二人は重力の罠
から解き放たれた。
「よし、行こう!」
V3はコチャンの手を引き、地下の独房から脱出する。先ほどまで外にいた少女に
礼を言うつもりだったが、いつの間にか少女の姿は消えうせていた。それと同時に、
腰にはめたはずのメダルもまた、影も形もなくなっていた。
一方、寺院の中庭ではハヌマーンが二大怪人を相手に互角の戦いを繰り広げていた。
鋭い爪で襲い来る火炎コンドルの一撃をひらりとかわし、そのまま返す刀で怪人の
胸元に三叉戟をぶち込む。
「怪人め、これでも食らえ!」
「グエエエッ!!」
噴水のように噴出する真っ赤な血。三叉戟でさされた胸に手をやりながら火炎コンドル
はヨロヨロ後退すると、苦し紛れに口から火炎を吐く。燃え上がる炎が黒煙を伴って
ハヌマーンに襲い掛かるが、風神の子は猛火を華麗にトンボを切ってかわすと、再び
三叉戟を身構えて怪人に見得を切った。しかし、そんなハヌマーンの前に新手の敵が
現れた。
「俺も助太刀するぞ!」
そう言うや、二人の戦いに割ってはいるのはバショウガンだ。コチャンを地中に引きずり
こんだ長い蔦がハヌマーンに向かって伸びる。しかし手にした三叉戟でこの蔦を切り払う
と、ハヌマーンは戟を自分の顔の前に構えて何事かを念じる。すると次の瞬間、三叉戟は
一瞬にして長剣へとその形を変えた。
「お前達もこれで終わりだ。観念しろ!」
長剣を振るいながら、ハヌマーンはまるで踊りでも踊るかのように軽やかなステップで
相手に近づいていく。怪人たちの眼の前で剣を振りかざすと、そこから不思議な風が
巻き起こり、二人の怪人をまるで金縛りにでもかけたように動けなくしてしまった。
そのままハヌマーンは動けない怪人の前で長剣をかざして念を込める。すると、次の
瞬間長剣からいかづちのような光が迸り、その光は吸い込まれるように二人の怪人に
命中した。そしてその直後、火炎コンドルとバショウガンはまさに仏罰とも言うべき
聖なる光によって粉々に吹き飛んでしまった。