一方、当の真里はコチャン少年の姿を求めてアジトの地下通路へと足を踏み入れた。
敵の目を盗みながら、最深部へと向かう真里はやがて未舗装のむき出しの岩に覆われた
歩道が続く通路へとたどり着いた。水滴の落ちる音が時折聞こえる中、真里は暗闇に
囚われた少年の姿を探す。
しかし、彼女は気づいてはいない。外で起きた騒ぎによって、まんじ教の警戒が
基地の中に向けられたことを。真里の動きはたちまち、教団の知るところとなって
しまった。ツバサ大僧正が祈りをささげる祭壇のそばに設けられたモニターに侵入者
の姿が映し出されると、それを目ざとく見つけた戦闘員がツバサ大僧正の祈りを遮る
形で彼に報告した。
「ツバサ大僧正さま、侵入者を発見しました!」
「何だと?見せてみよ」
岩壁に隠された隠しカメラは、壁伝いに少年の姿を探す真里の姿を克明に捉えていた。
その姿に、ツバサ大僧正は邪悪な笑みを浮かべて言った。
「フフフフフ。さてはあの坊主を探しに忍び込んだか。まぁよい、行かせてやれ。
しかし独房にたどり着いたときが、あの小娘の最期よ」
そして真里はついにコチャンの囚われている独房へとたどり着いた。疲れて
すっかり眠っている少年に、真里はまずとにかく呼びかけてみることにした。
「コチャン、起きて。コチャンってば」
自分の名を呼んでいる耳慣れない少女の言葉に、少年は目を覚ましゆっくりとその
身体を起こす。彼の眼の前に立っていたのは、先ほどの謎の少女とはうって変わって
小柄な日本人の少女だった。
『あなたが日本から来た仮面ライダーなの?』
眼の前にいる少女が、風の聖霊に聞いた救い主だとは到底信じられない。見た限り
では、自分が見聞きして知っている日本人の女の子とそう変わりないのである。髪の
色が少々違うくらいで、あとは何の変哲も無い日本人にしか見えないのだ。しかし
コチャンのこの言葉も、真里に通じているかどうかは怪しいものだった。なにせ通訳の
ウィラポンは表でまんじ教とやり合っているのである。自分の意思を伝える手段は今の
彼女には無いのである。ただ、彼女にたった一つだけ耳に残る単語があった。コチャン
はしきりにこう尋ねているのである。
『ライダーなの?』
これが真里の耳に届くとこうなる。
「アイモッデーン?」
彼はしきりにこの単語を口にする。まるで何かを確認しているように、である。
とにかくまずは自分に対する警戒を解いてもらわなければ助けることも出来ない真里は
適当に相槌をうって答えた。この真里のしぐさに、コチャンは初めて警戒を解き真里に
笑顔を見せる。
「よかった・・・おいらのこと信用してくれたんだね?」
しかし、今の真里には余り時間が無かった。コチャンの房と通路を隔てる鉄格子は
太い金属の棒で作られている。迅速な救出を考えるなら、変身して一気に破壊した
方が早いに決まっている。真里はすぐさま変身の構えを取ると、少年の眼の前で仏の
奇跡に匹敵する科学の生んだ希望の光がほとばしった。この瞬間、少年は眼の前の
少女こそが正義の人、仮面ライダーであると確信したのだ。
「さぁ、下がって」
V3はコチャンに対して房の奥へ下がるようジェスチャーで伝える。一方コチャンも
それを理解したかすばやく房の一番奥へと一目散に駆けていく。V3は今一度鉄格子
の強度を手で触って確認すると、鋭い手刀をぶちかます。
「とうっ!!」
人間の力では到底破壊することなど不可能な太さの金属棒が、一瞬にして切断され
房の外へと転がり落ちる。自分の体が入る程度の隙間が確保されたところで、V3
は独房の中へと足を踏み入れ、駆け寄った少年の肩を抱く。
「よくがんばったね。えらいえらい」
後は少年と共に房を脱出し、外へと出るだけなのだが・・・その時である。
「残念だが、お前達を逃がすわけにはいかん。お前達にはここで死んでもらう」
「何だと!!」
どこかから聞こえてきた不気味な声にV3が周囲に視線を走らせる。次の瞬間、床から
分厚いガラスな壁がせり出してくると、先ほど手刀で切断した鉄格子を覆うように二人の
退路をふさぎ取り囲んだ。
「くっ・・・出せ!!」
V3は何度もガラスの壁を叩くが、その壁はびくともしない。いくら殴ろうとも、傷一つ
入らないのである。そして、ガラスの向こうに人影が現れた。それは長い金髪とひげを
蓄えた怪しげな老人の姿だった。まんじ教教祖、ツバサ大僧正がついにV3の前に姿を
現したのだ。
「お前が仮面ライダーか。この強化ガラスはバズーカ砲の直撃でもヒビ一つはいる
ことはない。そして、この房の床にはゼティマの科学力で作られた趣向が施されて
おる・・・重力発生装置のスイッチを入れろ」
そう言うや、傍らに待機していた戦闘員が壁に設置されているスイッチを押す。その
直後、独房に閉じ込められたV3とコチャンに尋常ならざる圧力がのしかかる。いや、
それだけではない。謎の力は二人の足元にも及んでいた。頭上からの力と同時に、まるで
何十人もの人間に引き込まれそうな力が二人の足を襲っているのだ。それは頭上と足元
から発生する何かの力によって身動きを取れなくされるような感覚であった。
「今、この房には地上の20倍の重力が働いてお前達を足止めしておる。そしてワシ
は今から一分後にこの寺院を爆破するつもりだ。瓦礫に埋もれて死ね、仮面ライダー!」
ゼティマの科学力によって作られた重力発生装置によって、絶体絶命の危機に立たされた
仮面ライダーV3。このままコチャン少年と共に、寺院の爆破に巻き込まれてしまうの
だろうか?!