「死ねぇ、V3ィィ!!」
鋭い爪が今まさに首筋に振り下ろされようとしたその時、V3は気配で敵の動きを
察知し、振り下ろされた腕をがっちりと掴む。
「おのれ、騙したな!」
「毒ミサイルの爆発はとっさに手で防いだ。爆風は堪えたが、毒は平気だったぞ!」
V3は突然の爆発に見事に対応し、毒液の飛散を手で防ぎその被害を逃れたのだ。
そのときに腕を襲った衝撃は確かにかなりのものだったようだが、それさえもV3が
戦いをやめる理由にはならない。そしてV3は右腕を振上げ、必殺の一撃を怪人の
腕に見舞った。
「V3ーっ、電撃チョーップ!」
手刀にエネルギーを集中し、自由の利かない怪人の腕めがけて振り下ろす。強烈な一撃は
一撃の下に怪人の腕を切断してしまった。
「ギャアアアアアア!!」
ムササビ特有の皮膜だけで支えられた腕を押さえてのた打ち回る木霊ムササビ。
この機を逃さずV3は空中高くジャンプする。落下の勢いと共に繰り出されるパンチ
が怪人の脳天を打ち砕くと、再びV3は宙を舞い、高空からパンチを繰り出す。
こうして繰り出される3連続の空中パンチこそ、「V3トリプルパンチ」だ。
「V3ーッ!トリプル、パァーンチ!!」
「グアアゥァァァァァッ!」
V3の必殺技の前にツバサ一族の刺客木霊ムササビは絶命し、瞬く間に不気味な
泡となって消滅した。
戦いを終えたV3に、シグナルランプが新たな事態を告げる。ヴィルット博士を
救出しに研究室へ向かった貴子からの連絡が入ったのだ。
『V3、稲葉や。博士の息子さんがまんじ教にさらわれてしもうた。すぐ来てや!』
まんじ教はヒマラヤの悪魔に対抗できるワクチンの開発を断念させるために、ヴィルット
博士の一人息子であるコチャンを連れ去ったというのだ。V3はすぐさま東棟にある
博士の研究室へと駆けつける。そして、研究室にたどり着いたときV3が見たものは、
うなだれて呆然となる一人の男性と貴子、ウィラポンの姿だった。
「V3!」
「稲葉さん、どうしたんですか?博士は!?」
「博士もワクチンも無事や。ただ、博士の息子さんが・・・」
木霊ムササビ率いるまんじ教の部隊とV3が戦っている間に、二人はヴィルット
親子を救うために研究室へと急いだ。しかし敵はもう一人存在したのだ。突然姿を
現した、まるで植物の塊のような怪人が突如現れてコチャン少年を蔦で絡め取る
と、そのまま裏庭の地中へと引きずり込んでしまったのである。
「俺はツバサ一族、『バショウガン』!お前の息子は我らが預かる。返して欲しくば
ラオスの『月の寺院』へワクチンを持って来い!!」
コチャン少年を人質にとられ、貴子とウィラポンは怪人の狼藉を黙って見ているしか
出来なかった。その一部始終をV3に語り終えた貴子は、ウィラポンとともに博士に
わびる。
『私達がいたらないばかりに、ご子息を危険な目に・・・』
しかし博士は二人の肩に手を置くと、落胆する二人を見つめて言う。
『こうなることは判っていました。ワクチンが完成してから、私たち親子は
狙われていたんです。みなさんにお見せしましょう。これがワクチンです』
そう言ってヴィルット博士は厳重に施錠されたジュラルミン製のケースを
取り出すと、それを開いて数本のアンプルを3人に見せた。
『ヒマラヤの悪魔というウィルスがその効果を完全に発揮するためには、一定の
周波数の超音波が必要です。感染者がこの超音波にさらされると、本人の意思に
関係なく操られてしまいます』
ヴィルット博士が突き止めたヒマラヤの悪魔の正体。それは感染した人間を己の
意のままに操ることの出来る恐るべきウィルスであった。
「人間を操るウィルス・・・ゼティマめ、とんでもないものを」
『したがって、超音波自体を遮断すれば感染者が操られることはありません。
しかし、それでは何の解決にもならないのです。そこで私はこのワクチンを開発
しました』
タイ王国が誇る頭脳、ヴィルット博士は比較的早い段階でこのウィルスの正体を
解明していた。そしてワクチンの開発に成功するが、その頃から親子に対する
何者かの脅迫が続いていた。そしてついに、彼の息子コチャンは敵の手に落ちて
しまった。
『私にはこのワクチンを使って人々を救う使命がある。しかし、奴らに逆らえば
息子の命が危ない。私は一体どうすれば・・・』
一人息子の命と、ヒマラヤの悪魔の猛威に苦しむ人々の命。あまりに厳しすぎる
選択である。しかし、そんな博士を勇気付けるように、V3は力強い口調で言った。
「大丈夫。仮面ライダーV3がついています。まんじ教の脅しに屈することは
ありません。ワクチンの増産をお願いします」
「あたしもウィラポンもおるし、必ず息子さんを助け出して見せます」
V3と貴子の言葉がウィラポンの通訳によって博士に伝えられると、その言葉に
勇気付けられたか博士は3人の手を取る。
『ありがとう。私も勇気が湧いてきました。コチャンのことを頼みます』
博士の言葉に、3人は力強く頷いて応える。卑劣極まる邪教の信徒に対し、反撃
の救出作戦が始まろうとしていた。