車を走らせホーチミン大学へと向かう3人。車窓の風景を眺めていくうち、車は
目的地へと辿りついた。大学の管理部に通された彼女達は、しばらくして現れた
男に早速ヴィルット博士がいるという第6研究室へのある、大学東棟へと案内
された。東棟へは歩いても2分ほどだというので、一行はとりあえず彼の後を
ついて歩き始めた。
『日本から博士の研究のためにいらしたんですか?』
がっしりとした体格の男はそう言って貴子に話しかける。ただ、彼女は言葉が
わからないので、当然のことながら意思の疎通のためにはウィラポンの手を
借りなければならない。
「そういうところですね。ところで博士のいる研究室というのは」
『もうすぐてすよ。ほら、あそこです』
男の指差す先、前方100メートル程度の所にある近代的な研究施設が一行の
目にとまった。清潔感のある白い壁の表面には、空調機器の配管がわずかに
通っているだけなので、一見するとそこが細菌類の研究施設であるとは判りにくい。
『綺麗でしょ?この大学でも一番新しい建物でしてね。みなさん、そろそろ博士に
お会いになりますか?』
にこやかな笑顔で貴子と真里に男は言う。あまり時間をとっているわけにはいかない
ので、貴子は彼の言葉に頷く。
「せやな。いろいろ聞きたいこともあるし、博士のところに案内してくださいよ」
「おいらたち、あんまり時間がないんです。お願いします」
真里も貴子の言葉に追随して答えたが、それを聞くや男は不意に人が変わった
ような恐ろしい形相で言い放った。
『そうですよね・・・ですが、残念ながら皆さんが行くのはあの世ですよ?』
「何ぃっ?!」
そう言って男は自らの顔を手でひと撫ですると次の瞬間彼の顔は灰色の毛に
覆われ、鋭い牙を覗かせる怪物の顔に変わった。
「俺はツバサ一族、『木霊ムササビ』!お前達をヴィルットに会わせるわけには
いかん!!」
「お前達が何者かは知らんが、ヴィルット博士に近づく者は全て殺せと命じられて
いる。お前達とて例外ではない・・・者ども、出でよ!」
木霊ムササビの命令が下るや、奇声を上げて突如現れたのはまんじ教の戦闘員
達。その姿に真里と貴子は教団とゼティマとのつながりを確信した。
「こいつらはゼティマの戦闘員や・・・」
「するとやっぱり!」
取り囲む戦闘員達に対して、互いに背中合わせになって身構える真里と貴子。
ウィラポンも隠し持っていた拳銃を取り出すと、両手で構えて射撃の準備姿勢を取る。
数で勝るまんじ教の軍団にたった3人で挑む愚か者達に目に物を見せてやる、と
不気味な笑みを浮かべた木霊ムササビは、戦闘員達に攻撃を命じる。
「一人も逃がすなよ、殺れ!!」
怪人の声に呼応し、戦闘員達は一斉に3人に襲い掛かった。迎え撃つウィラポンの
銃が火を噴き、手近な戦闘員を吹き飛ばすと、それを合図に真里と貴子が包囲する
敵の輪の中に自ら踊りこむ。まんじ教の手が大学にまで伸びているとするならば、
博士の身に危険が及んでいる可能性がある。3人は敵中を突破して博士を救うつもり
なのだ。
「おらぁ!」
「えいっ!!」
貴子の拳が駆け寄ってきた戦闘員の顔面を捉えると、戦闘員はコマのようにくるくると
回転して宙に舞う。真里も負けじと小さな体から渾身の蹴りを見舞い、食らった戦闘員
はくの字に折れ曲がって動かなくなった。ウィラポンも銃から素手の格闘戦に切り替え、
まるでキックボクサーのようなしなやかな上段蹴りで戦闘員を沈める。
「おぉ、ウィラポンかっこええやん。見直したで」
そんな貴子の言葉ににっこり微笑むウィラポン。続いて襲ってきた戦闘員にも肘打ちを
叩き込み、よろめいたところを首相撲に持ち込んで膝蹴りを叩き込む。この光景に、
たった3人と高をくくっていた怪人木霊ムササビの顔から余裕が消えた。予想外の敵の
猛反撃に、気づけば手下はあらかた叩きのめされてしまっている。
「こいつはおいらに任せて、二人は博士のところへ!」
真里の言葉に促され、ウィラポンと貴子は東棟の中へと消えていく。残るは
木霊ムササビ一人。真里は怪人を睨み据えたまま、両腕を右にそろえて構え、
そのまま変身のポーズへと移行していく。
「変・身、V3ァ!」
まばゆい光を放って回転するダブルタイフーン。少女の姿は見る間に赤い仮面の
戦士へと変貌した。
「V3だと?もしや貴様は仮面ライダーの一人か!!」
「仮面ライダーV3!お前達の悪巧みを打ち砕くために、日本からやってきたぞ!!」
力強い見得とともにV3は怪人に駆け寄り、先制の一撃とばかりに顔面にパンチを
食らわす。一方の木霊ムササビも負けじと腕を振るって反撃を試みる。その手を
上手く捌き、V3は木霊ムササビの顔面を蹴り上げ、そしてのけぞったところにパンチ
の連打。連続攻撃で怪人相手に畳み掛ける。
「とうっ!とうっ!!」
「ギィィッ!!」
顔を抑えて悶える木霊ムササビ。この機を逃すまいとV3は更なる追撃のために
一気に間合いを詰めるが、その時である。
「食らえ!」
「うわぁっ!!」
木霊ムササビが突如繰り出した不意打ちの一撃、「毒ミサイル」。この一発を食らって
ひるんだV3に、怪人の反撃の一打が炸裂する。お返しとばかりにV3の胸にキックを
食らわすと、後方に転がって間合いを広げたV3に木霊ムササビは言った。
「俺の毒ミサイルを思い知ったか。飛び散った毒のせいで目が見えんだろう?
ケッケッケッ」
そう言うや、木霊ムササビは視界を奪われて片膝をつくV3に飛びかかり、嬉々として
その身体を打ち据え、蹴り飛ばす。吹き飛ばされたV3を追いかけると、更に追い討ち
の一蹴りがわき腹に叩き込まれた。
「ぐぁっ!」
「ケッケッケッ・・・どうだV3、目が見えなければ反撃も叶うまい」
どこからか聞こえてくる怪人の声。今のV3は、木霊ムササビが背後を取っている
ことに気がつかないのだ。見えない目で敵の姿を捜し求めるV3の背後から、
木霊ムササビの鋭い爪が迫る!