そして、互いにプールサイドの両側に立つ二人の視線が交錯した。謎の
少女は真里の存在に気がついたのか、ちょっとはにかんだような表情を
見せるとそそくさと立ち去ろうとする。真里はいてもたっても居られなくなり
少女の後を追う。少女は真里が追いかけてくるのを知って、かえって
楽しそうにプールサイドをぐるぐると駆け回る。その間にも、心地よい風が
プールの周囲を巡っている。こうして真里と謎の少女の追いかけっこは
しばらく続いたが、ついに真里が少女に追いつき、彼女の肩に手を伸ばした。
「ちょっと待ってよ!おいらのことからかってないでさぁ」
真里の手が少女の肩に届こうとしたその時、眼の前の少女が急に真里のほうを
振り返った。柔らかくなびく黒髪の向こうに垣間見えた少女の顔。それは彼女
が知っているある少女に、非常に良く似ていた。
「ちょっと待って、ここに来てるのはおいらたちだけのはずじゃ・・・」
そんな真里の言葉をさえぎり、少女はおもむろに自分のうなじの辺りに手を
伸ばす。そして黒髪が二度三度ゆれると、その直後に少女の手に握られていた
のは、メダルのついたペンダントだった。少女はそれを真里の首にかけると、
どこかさびしげな笑顔を残して風と共に掻き消えた。
「何だろう、このメダル・・・」
真里は手渡されたペンダントについたメダルを手のひらに乗せてみた。
月明かりに輝くメダルには、踊るようなしぐさをした神様のような人物が
彫刻されている。真里はそれをそのままポケットにしまい込むと、つかの間の
不思議な体験とともにプールを後にした。
同じ頃、隣国ラオスの密林。うっそうと茂る木々に隠された、数百年前に
建立されたと思われる寺院があった。人の手の全くついていないかのように
密林に抱かれた荘厳な建物を象徴するかのように鎮座した、蔦の絡まる巨大
な仏の顔は、見るものをやさしく出迎えているようにも、威圧しているよう
にも見える。そんな世界遺産級の寺院の地下に、近隣諸国を脅かす邪教の
信徒、まんじ教の本山があるということはもちろん誰も知らない。
「タスキーパールーパーネーマラヤーヒー・・・ゼーティマー、
ゼーティマー・・・」
あの奇怪な僧侶が唱えていた読経が、かがり火の炊かれた地下の洞窟に
響き渡る。まんじ教に改造手術を施され、ツバサ一族の一員となった例の
悪党達が僧侶に身をやつし、この奇怪な経文を読み上げている。彼らの
周囲には例のまんじ教戦闘員がひざまづいて祈りをささげ、そしてその
先頭で祭壇に祈りをささげている、黒いローブをまとった白みがかった金髪
の老人の姿が炎に照らし出された。老人は赤い眼鏡のような仮面〜まるで
仮面舞踏会か何かのような、翼を模したであろう装飾が施されている〜を
かぶり、髪の毛と同じ色合いの長いひげを蓄えている。祭壇の向こう側には
コウモリを従えた大きな鷲の彫刻が周囲を威圧していた。
「偉大なるゼティマ、偉大なる創世王に栄えあれ・・・」
老人の祈りと共に、祭壇の炎がひときわ大きく燃え上がる。と、その時鷲の
彫刻の胸の部分が怪しく輝くと、地の底から響くような何者かの声が
聞こえた。
「ツバサ大僧正、この度の働き大儀であった。すでに東南アジア圏に
まんじ教の名が轟いているようだな」
「大首領、過分なお褒めの言葉ありがとうございます。すでにここラオス
を中心にベトナム、タイ、カンボジアにヒマラヤの悪魔をばら撒いて
おります。いずれは拳竜会が失った基盤を再び確保できましょう」
「だが、安心してばかりも居られぬ。ヒマラヤの悪魔のワクチンを開発した
科学者がいるそうではないか。ヴィルット博士という科学者から目を離すな」
謎の声の主、大首領の言葉に老人〜ツバサ大僧正は邪悪な笑みと共に言う。
「それならばご安心ください・・・すでに手は打っております。あの博士には
確かコチャンという息子がおります。我が手のものに命じて連れ去れば、
博士も我らの言うがまま。フッフッフ・・・」
今日のところは以上です。また明日お目にかかりましょう。
<<STUDY!>>
「コチャンって誰?」
「ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団」では、辮髪の信仰少年。仏像泥棒に殺された後に
ウルトラの母によってハヌマーンに転生、旱魃に苦しむタイを救う前に仏の権威を
脅かした仏像泥棒を二又一成の声で追い掛け回して仏罰を下します(w。
本作の元ネタである「5人ライダー」でも同じキャストで同じ子役が出演。その際は
博士の助手の少年という役割なのだそうです。