インターミッション「つはものどもが 夢のあと」
ライダー達の絆を打ち砕こうと目論んだゼティマライダー、そしてそれらを率いる
ゲルダム団の怪人ハエトリバチとエイドクガーは、試練を乗り越えて更なる絆を深めた
ダブルライダーあい・ののの前に滅び去った。
死闘の末に勝利を掴み取ったダブルライダーは、必勝の策を授けてくれた中澤裕子、
そして彼女と共にライダーの勝利を信じて戦況を見守ってきた小川麻琴と手を取り合って
喜びを分かち合った。
・・・だが、それはやがて無常へと変わっていった・・・。
帰還の途に就こうとした4人の目に映ったのは、風が吹き荒ぶ荒野に
野ざらしのように散らばるゼティマライダー達の無残な死体であった。
ダブルライダーの新技「ライダー車輪」によって、ゼティマライダーの殆どは爆散し、
風の中の塵と消え、僅かに数体ばかりが残っているだけである。
その光景を目の当たりにして、4人の心はたちまちに曇った。
特に裕子とライダーののは、現在いる仲間達の中では一番最初にゼティマの怪人と遭遇し、
ライダーののはその怪人・蜘蛛男を倒している。
しかもその蜘蛛男は今は亡き木村麻美=タックルの父親であった。
それ以来、ライダー達は「これ以上の犠牲が出るのを抑えるには
ゼティマを根絶やしにする以外に道はなし」と悟り、心を鬼にして
次々迫るゼティマの刺客を打ち破ってきた。それでも「元は人間」であることを考えると、
その場では勝利を噛み締めても、それが暫くして罪悪感へと変わった日も少なくなかった。
今回の一件で、彼女たちは戦いの非情なまでの残酷な現実を改めて思い知らされたことだろう。
ライダーあいが呟く。
「ゼティマライダーって、ゼティマ選りすぐりの女戦闘員を改造して造ったと、ウチが戦うた
ゼティマライダーが言うてました…。」
裕子が同調する。
「そっか…今まで襲うてきた連中はその殆どが“改造人間”やもんなぁ…。
彼女たちだって、形はどうあれゼティマなんかに関わってもうたばっかりに…
ウチらにも責任はあるかもしれへんけど、ホンマ、気の毒やわ……。」
いつしか、裕子の目には涙が浮かんでいた。麻琴も複雑な面持ちで、
黙してこの凄惨な光景を見ていた。
「…お墓を作ってあげましょう……。」
短いようで長い沈黙を破ったのは、ライダーののであった。
せめて最期は手厚く葬ってやろう、そう思ったのである。
「そやな…って、のの、お墓作る言うたかてどないするん…」
同意しつつも疑問を投げかけるライダーあいをよそに、ライダーののは
重い足取りで歩を進める。やがて彼女は、一際広い箇所に辿り着くや・・・
「うりゃア!!!」
と言う気合い諸共、地面に向かってパンチを放った。
ドゴォォ!!と言う轟音と共に地面が抉れ、直径約2〜3m程のクレーターが出来た。
「とぁー!ぅおりゃー!!でぇえぃ!!!」
ライダーののはそのクレーターの底へ更にパンチを打ち込み、深く穴を掘って行く。
やがて深さも2mに達したところで、ライダーののは穴から這い出てきた。
「のの…。」
「辻…。」
「辻さん…。」
ライダーあい、裕子、麻琴もライダーののの辛い胸中を察し、
今の自分達に出来る精一杯の行動を起こした。
ライダーあいは墓石を作り、裕子と麻琴は死体を穴の近くへと運ぶ。
死体は、目を背けたくなる程惨たらしいものであった。
もはや手足の指先しか残ってないものもあれば、身体の一部が
大なり小なり消し飛んでしまっているもの・・・・・・。
仮面が砕けて、亜依とも希美ともつかぬ程に顔がグシャグシャに歪んだものもあった。
「もしもウチらがゼティマに改造されとったら、ウチらもこうなってたんやろか…。」
墓石を作り終え、死体搬送を手伝うライダーあいの心を更なる苦悩が覆う。
裕子もまた、ゼティマに対するやり場のない怒りをグッと堪えていた。
初めからゼティマによって造られた麻琴に到っては・・・いや、やはりやめておこう。
それぞれが苦い思いを抱きつつ、ゼティマライダーを安らかな眠りに就かせようとした
・・・その時!
「・・・う・・・うううぅ・・・・・・。」
どこからか呻き声が聞こえて来たのだ。驚く4人。
声は・・・ダブルライダーが抱えていたゼティマライダーからのものだった。
そのゼティマライダーは、ダブルライダーの「ライダー車輪」を受けた際、
一番最後にジャンプしたNo.5であった。
No.5は最後にやや遅れてジャンプしたため衝突こそしなかったものの、
爆発による衝撃と爆風に煽られて、体制を立て直すこともままならぬうちに
地面に激突したのである。
「もしかしたら…助けることがれきるかもしれないれす!!」
「オイ…オイ!しっかりしぃや!!」
ダブルライダーはNo.5をそっと下ろし、気付かせるよう呼びかけた。
今のダブルライダー達には、最早ゼティマライダー達に対する敵意はなかった。
程無くして、風前の灯火にあったNo.5は意識を取り戻した。
「う・・・・・・あ・・・こ、ここは・・・・・・・?」
「よかった、気が付いたか。」
「ろうやら…ライダー車輪のショックれ自分の意識がもろったみたいれすね…。」
ライダーののの言う通り、ゼティマライダーとなった女戦闘員たちは
脳改造によって意識を操作されていた。それがライダー車輪を受けた影響で、その効果が
失われたのであろう。ダブルライダーの遺伝子も、同様に消えていた。
その顔は、亜依のものでも希美のものでもなく、「本人」の「素顔」であった。
年の頃から10代後半から20代前半と言ったところか。
「ここは・・・どこ・・・?あたしは・・・どうして・・・・・・?」
彼女はどうやら、今に至るまで自分の身に何が起こったのかを全く覚えていないようだ。
ライダーあいは、これまでの経緯を簡潔に教えたあと、No.5だったその女性に尋ねた。
「お姉ちゃんはなぜ、ゼティマに…?」
No.5…いや、「元」No.5は、自分がゼティマの一員となった
〜「されていた」と言うべきか〜理由を打ち明けた。
「あたしは・・・5年前、トライアスロンの・・・国際大会に出場するため・・・特訓を、していました・・・。
日本、代表に・・・選ばれて・・・。
けど、その時の・・・水泳の特訓中、に・・・黒い連中・・・その、ゼティマに誘拐されて・・・。」
「それで…無理矢理改造手術を受けさせられた、と・・・。」
「ええ・・・。怖かった・・・死ぬより・・・・・・。」
全てを理解した4人。中でもゼティマに一層の憎しみと怨みを抱いたのは裕子だった。
「人の夢や幸せを平気で踏み躙る…ゼティマはそれくらい容易うやる言うんは知っとったけど…改めて聞くと
ホンマ、このままにはしておけへんね……!!」
「中澤さん…。」
今の麻琴には、裕子に掛ける言葉が見つからなかった…。
「…れも、今なら助かるかもしれないれすよ!!」
「せや!早う研究所に…!!もうちょいの辛抱や!!」
ダブルライダーは元No.5を必死に励ます。が・・・
「も・・・もういいの・・・。もう、長くはないって・・・わかってるから・・・・・・。」
死期を悟ったのか、元No.5は彼女たちの援助を断った。
「ろうして!!?」
諦めちゃダメだ!折角助かった生命じゃないか!!ライダーののは尚も彼女に
強く訴えかける。
「ありがとう・・・ごめんね。
でも・・・このまま、悔しい思いをしたまま・・・死ぬのは・・・イヤ・・・・・・。」
そう言うと元No.5は、最後の力を振り絞り、自分の首に手を掛けた。そして・・・
「・・・形見と言うのも、おかしいけど・・・これを、受け取ってほしいの・・・。」
そう言って彼女が差し出したのは…先程まで首に巻いてあった紫色のマフラーだった。
「…これは…?」
不思議そうにマフラーを受け取ったライダーあいであったが、そのマフラーに込められた意味を
彼女はすぐに察した。
「…判った。ゼティマの理不尽なやり方に泣かされた人たちのため、ウチらは戦う!!
せやからこれ以上、何も喋らんといて!!」
改めて決意を誓うライダー達。だが・・・
「・・・ありがとう・・・これで・・・あた、し・・・も・・・こ、ころ、お・・・き・・・・・・。」
言い切らぬ内に、元No.5は眠るように息絶えた・・・・・・。
「そ…そんな…!!」
「目ェ開けてや!なぁ!!」
「何でや…何でやぁ!!」
「うぇええええ〜〜〜〜〜ん!!!!」
麻琴、裕子、ライダーあい、ライダーののは言葉に表せぬ程の慟哭に駆られた。
また一つ、救えたかもしれない尊い生命の火が消え去った・・・。
・・・数時間後・・・
ゼティマライダーを残骸一欠けらも残さず全て埋葬した4人は、彼女達に黙祷を捧げた。
「今度生まれ変わってくる時には…狂った無法のない平和な世の中になるように力を尽くすからね。」
と言う誓いと共に。
改めて帰還の途に就く4人。
ライダーあいの左腕には、元No.5が「形見」として託した紫色のマフラーがしっかりと巻かれている。
尚、このマフラーはのちに、「やがて訪れるであろう新たな絆を深める」重要な意味合いを持つものと
なることになるが、それはまた「別の機会」にて。
因みに、その墓標には、後日中澤一家全員から花が手向けられたことも書き加えておこう。
インターミッション「つはものどもが 夢のあと」 〜完〜