322 :
加紺とう:
24.爆発、石川梨華
白熱した試合が続く準々決勝、次のカードはチーム打率3割5分を誇る横浜と平均得点9点の平安の対決だ。
両校の先発は、横浜が石川、平安が中澤。
中澤の先発に球場がどよめいた。
ここまで中澤はワンポイント、もしくはリリーフでの登板しかなかった。
しかし、防御率は0.00と完璧なリリーフをしている。
その訳は中澤独特の投法にあった。
まるで砲丸投げのような豪快なフォームから繰り出される球は、例えるなら鉛のような重さがあった。
現にこの中澤の球を完璧に打ち返した人間は過去に数えるほどしかいなかった。
だが、その一方でこの投法には副作用的なものもあった。
323 :
加紺とう:03/11/23 15:48 ID:R8vlq3yK
それはかなり豪快な投法であるがゆえに、普通の投法とは比べものにならないくらいに腕力を消耗してしまうのだ。
それ故、回を追うごとに疲労が溜まり、そうなれば自然と球に力もなくなり、しかもそれが打撃にも影響してくる。
中澤が得点源でもある平安にとって、中澤が打てなくなってしまうのは死活問題だ。
なので、先発での起用がまったくといっていいほどなかった。
では、今回先発になったのかというと、それは中澤の希望だったからだ。
一度火が付けば手に負えない横浜打線を私がいけるとこまで抑えてみせる、ということだった。
324 :
加紺とう:03/11/23 15:49 ID:R8vlq3yK
試合が始まる。
先攻の平安がいきなり石川に襲い掛かる。
2死2塁から4番の中澤、カウントを取りにきた変化球を上手く流し打った。
打球は伸びていき、ライトスタンドへ。
いきなり2点を先制した。
一方の横浜はというと、中澤の球にまったくといっていいほど歯が立たない。
1番の矢口は詰まらされてセカンドフライ。
2番の新垣は同じく詰まってファーストファールフライ。
3番の柴田はぼてぼてのピッチャーゴロに打ち取られた。
いずれも初球だった。
この後も、平安が2点を追加、対する横浜がノーヒットのまま回は進んだ。
8回表に中澤のソロで1点を追加したその裏、横浜は4番の未だに今大会ノーヒットの石川からの攻撃。
さすがに中澤も疲れが見え始めていたが、まだひとりのランナーすら許していなかった。
このまま完封するかとも思われた。
325 :
加紺とう:03/11/23 15:53 ID:R8vlq3yK
が、次の瞬間、球場全体が青ざめる。
石川への初球がすっぽ抜けた。
そして中澤の投じた直球が石川の顔面へと一直線に向かっていった。
誰もがこれは危ない!と目を瞑った瞬間…。
凄まじい打球音が球場に木霊した。
球場全体が静寂に包まれ、ひとり、またひとりと目を恐る恐る開く。
そこにはスイングを終えた石川の姿だけが残っていた。
ボールはいずこへ?
そう思った瞬間、ボールが何かにぶつかる音が響いた。
誰もがそこに目をやる。
場所はバックスクリーン、そこにはボールが転々と跳ねていた。
審判が慌てて手を回した。
326 :
加紺とう:03/11/23 15:57 ID:R8vlq3yK
「やったぁ〜!ハッピィ〜!!!」
石川はピョンピョンと飛び跳ねながらベースを一周した。
中澤はただ呆然としていた。
なぜあの球を打てたのか?
しかも、今大会ノーヒットの石川が…。
その答えが石川とハイタッチを交わす、矢口の口からこぼれた。
「やっと出たねぇ、石川の悪球打ちが!」
この石川の一発が横浜打線爆発の起爆剤となった。
この後、気落ちした中澤を攻め立て、マウンドから引き摺り下ろす。
止まらない横浜打線は2番手投手も攻め続けて、矢口、柴田のタイムリーで1点差に、そして石川が今日2本目となる満塁弾を放って一気に試合をひっくり返した。
これで勝負は決まった。
このまま横浜が逃げ切り、結果8-5で準決勝へと勝ち進んだ。
まんまとやられたよ、と少々呆れ顔の中澤。
しかし、その表情からは十分満足した試合だったことが伺えた。
そしてこの後、準決勝へと進むことのできる最後の一校が決まる。