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298加紺とう
     20.LAST RUN
第三試合は早大付と四日市工が対決した。
世間では早大付が圧勝だろうとの予想が圧倒的だった。
しかし、意外にも試合は緊迫した投手戦が続いていた。
早大付先発の安倍は中盤まで四日市工打線をノーヒット。
一方の四日市工先発の平家も毎回ランナーを許しながらも意地を見せ、無失点で切り抜ける。
緊迫が続いたまま試合は後半に入り、7回表の四日市工の攻撃を迎えた。
安倍は先頭打者に初安打を許してしまう。
ここからリズムが崩れたのか、犠打と四球で一死一・二塁とこの試合で初めてのピンチを迎えた。
299加紺とう:03/11/12 00:41 ID:wbX+TcjN
続く打者は4番の平家。
この時、平家は観衆の大声援が全く聞こえなくなるくらい集中していた。
この試合を最後にはしたくない、その想いがとても強かったからだ。
安倍が投じた直球を平家は振りぬいた。
打球は中堅手と右翼手の間を鋭く破り、打った平家は二塁へ。
ランナー二人が返り、2点適時打で四日市工がほしかった先制点をもぎ取った。
その裏の早大付の攻撃。
徐々に疲れが見え始めた平家を早大付打線が捉え始めた。
先頭打者の里田が三塁前へのセーフティーバントで見事に内野安打を決める。
続く紺野が送り、3番の藤本はレフトへの流し打ちでチャンスを一・三塁と広げた。
300加紺とう:03/11/12 00:42 ID:wbX+TcjN
そして4番の安倍が打席に入る。
平家はすかさず少し間をとった。
なんとなくわかった。
ここが勝負を決める場面になるということが。
一息つき、セットポジションに入る。
平家はもう一度集中力を高め、ボールを投じた。

『カキーン!!!』

振り返らずとも十分わかった。
完璧に真芯で捉えた当たりは、弾丸ライナーでライトスタンドへと突き刺さった。
301加紺とう:03/11/12 00:43 ID:wbX+TcjN
逆転のスリーラン。
この瞬間、平家は集中力が完全に途切れてしまった。
その後も連打を浴び、平家の後を受けた投手も一度火の付いてしまった早大付を抑え込む事は出来なかった。
結局この回は8点を取るビッグイニングとなり、そのまま勝負は決した。
最後の挨拶、安倍が平家に熱い抱擁を交わした。
そして一言。

「お疲れ様、それとありがとうね。」

その時、平家の頬には一筋の線が眩しいほどに光っていた。
球場全体から沸き起こる平家コールに包まれながら、最後の試合を終えた平家が今ベンチの奥へと姿を消していった。