290 :
加紺とう:
19.新たな力
大会は順調に試合を消化している。
大会9日目、第一試合は昨年優勝校の上野学園が千葉の東海大浦安と相対する。
実は上野の後藤、浦安の保田・市井は幼い頃は近所に住んでいた。
よくキャッチボールをしたりなんかもした。
しかし、リトルリーグに入って2年ほどで後藤は東京の方へと越してきたのだ。
それでも年に何度かはあって遊び程度ながらも、一緒に野球を楽しんだりしていた。
それ故、相手の弱点をどちらも知り尽くしているのだ。
後藤と保田・市井のどちらが相手を上回るかが勝負の鍵を握っているだろうと言われていた。
291 :
加紺とう:03/11/09 13:39 ID:RO39FaUN
そして試合は始まった。
上野は後藤、浦安は市井が先発した。
先攻の上野、しかし初回は保田・市井のバッテリーに三者凡退に抑えられた。
その裏の後藤も負けてはいない。
初回は2奪三振でこちらも三者凡退と完璧な立ち上がりを見せた。
そして、2回に注目の対決が実現する。
2回表、4番の後藤が打席に立つ。
「きっと圭ちゃん達は、後藤の弱点のインハイを中心に攻めてくるはず…」
自分の弱点を完全に知り尽くす二人が相手、となれば当然弱点を徹底的に攻めてくるだろう。
そう思った後藤は、インハイに山を張った。
そして市井が第一球を投げた。
292 :
加紺とう:03/11/09 13:40 ID:RO39FaUN
「うそ、ど真ん中!?」
予想外の球に後藤は思わず手を出したが、鈍い打球音を残し、結果三飛(サードフライ)に終わった。
後藤は完全にこのバッテリーに裏をかかれた形になった。
保田はマスクの中でニヤリとうっすら笑っていた。
この後も市井は快投を続け、2回も三者凡退に抑えた。
その裏の攻撃、今度は4番の保田と5番の市井が後藤を打つ番だ。
まずは保田、後藤は徹底的に内角を直球で攻め立てた。
カウント2−1からの6球目、アウトハイの吊り球に思わず保田は手を出してしまった。
この時、電光掲示板には154km/hが表示されていた。
293 :
加紺とう:03/11/09 13:42 ID:RO39FaUN
「前よりも格段に速くなってるわね。」
保田は苦笑いしながら呟いた。
続く市井にも後藤は直球勝負を挑んだ。
今度は内外と揺さぶり、最後はインローの際どい直球で見逃し三振に仕留めた。
白熱の投手戦を繰り広げる中、試合が動いたのは4回の表だった。
依然上野打線をノーヒットに抑え込んでいた市井を最初に打ったのは、後藤ではなく意外にも2番の亀井だった。
市井の得意球、縦に落ちるカーブを狙い打ちし、センター前へとはじき返した。
そして3番の辻が続く。
カウント1−2からの4球目、カーブが若干甘めに入ってしまう。
それを辻は見逃さなかった。
豪快に掬い上げ、ボールは瞬く間にレフトスタンドへと消えていった。
辻のツーランで上野が2-0と先制した。
しかし、市井は気持ちをしっかりと切り替え、後続をきっちりと抑え込んだ。
当然、後藤には細心の注意を払っていた。
バッテリーはこの後も後藤は完全に抑え込んでいた。
294 :
加紺とう:03/11/09 13:43 ID:RO39FaUN
それでも、あの二人だけは抑えきれなかった。
6回表の亀井の第3打席目、2−2から粘ってライト線へ二塁打を放ち、続く辻が初球をセンター前へはじき返して貴重な1点を追加した。
9回表の第四打席目には亀井が右中間を深々と破り、俊足を活かしての三塁打。
辻がきっちりとレフトへ大きな犠飛を打ち、ダメ押しの4点目を叩き出した。
一方の後藤は、後半に来てもまったく球威が衰えなかった。
8回に唯一の失投を市井にライトスタンドへ運ばれて1点を返されたものの、まさにエースらしい力投を見せた。
試合後、保田はこう言っていた。
「ごっちんにばかり意識が集中しすぎてました。
あまりマークしてなかったあの二人にまんまと打たれてしまったのが敗因ですね。」
後藤の背中をいつも見ている新時代の申し子達が、この夏により逞しく成長を遂げつつあった。