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270加紺とう
     16.負けられへんのや!
「よっしゃー!」
大会6日目第二試合、一人の女が燃えに燃えていた。
三重代表の四日市工業高校所属、平家みちよ。
彼女は娘。甲子園が開幕して以来、第一線でずっとプレーを続けていた。
しかし、彼女は今年で自分の野球道にピリオドを打つことを心に決めていた。
最近では思った通りのプレーが出来ず、自分の力が出し切れなくなってきたと判断したからだ。
それだけに、今大会にかける彼女の思いは誰よりも熱かった。
対明徳義塾戦。
四日市工の平家と明徳の前田の両先発は7回までを0封で抑えていた。
両者の気迫が、白熱した試合展開を演出する。
271加紺とう:03/10/20 01:25 ID:j6/R5E+0
しかし、8回に試合は動いた。
裏の四日市工の攻撃、疲れの見え始めた前田を捉えて9番打者からの三連打で2点を勝ち越す。
明徳も唯では倒れない。
9回表に平家が四球でランナーを許し、1死1塁の場面。
4番の前田が甘く入ったスライダーを打ち、乾坤一擲の同点ツーランがレフトスタンドに突き刺さった。
9回裏、先頭打者は4番の平家。
平家は初球から積極的に打ちに行き、カウントは早くもツーストライクと追い込まれた。
前田が投げた。
伝家の宝刀、スライダーだ。
バランスを崩す平家、だが、この時には彼女の熱い気持ちがバットに乗り移っていた。
『カキーン!』
当てただけだが、確実に芯で捉えた打球はぐんぐん伸びていった。
そして気持ちがのった打球は、そのままライトスタンドへと消えていった。
劇的なサヨナラ弾に歓喜した平家は大声で叫んだ。
「うちは負けられへんのや!」
こうして気持ちで勝利を掴んだ四日市工が、3回戦へと駒を進めた。
272加紺とう:03/10/20 01:26 ID:j6/R5E+0
     17.新時代の申し子
第三試合、マウンドに上がっていたのは柳川高校の一人のルーキー、田中れいなだ。
新人とは思えないマウンド度胸を見せる彼女は、8回まで終わってパーフェクトに抑えていた。
安打は愚か、出塁すら許さなかった。
彼女はリトルリーグ時代から全日本選抜に選ばれる程の実力者だった。
それでも彼女は練習を怠ることはなかった。
当時から140km/h前半あった速球も、今では150km/hを楽々越えるほどに成長した。
キレのある速球に隠岐打線は17奪三振とまったく手も足も出なかった。
9回表、柳川は田中自らの適時打で1点を勝ち越した。
運命の9回裏、先頭の7番打者は初球を打ち上げて左飛(レフトフライ)。
続く8番も三球三振に打ち取り、2死までやってきた。
あと一人。
273加紺とう:03/10/20 01:30 ID:j6/R5E+0
「あと一人、絶対に抑えちゃるけんね。」
最後の9番打者が打席に入る。
球場全体を異様な空気が包み込んでいた。
田中が投げる。
初球を打った。
ワンバウンドして高く跳ね上がった打球が三塁の方へ飛んでいく。
三塁手は捕球してすぐさま一塁へと送球した。
微妙なタイミング、誰もが塁審の判定を固唾を飲んで見守る。
その判定は…。
「セーフ!」
この判定を聞いた時、誰もがため息を漏らした。
しかし、田中は以外にも落ち着いていた。
後続を今日19つ目の三振で抑え、見事試合に勝利した。
大記録を逃すも、田中はまた狙えばいいといった感じで試合後も淡々としていた。
大器の片鱗を感じさせた田中の好投で、柳川が隠岐相手に見事な完封勝利を収めた。