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255加紺とう
     13.誰よりも後藤真希を知る者
9回裏、加護はあっさりとツーアウトをとる。
まさか、あの上野学園が初戦にノーヒットノーランで負ける?
誰もが予想だにせぬ結末に少しずつ、しかしながら確実に近づき、球場全体が異様な空気を醸し出す。
そんな中、1番の辻が打席に向かった。
「のの、あんたで最後やな。」
加護は右手でロージンを弄びながら辻に話しかける。
「ののじゃ、おわらせねーれすよ。」
辻は静かにそう言うと、ゆっくりと右打席に入った。
ロージンを投げ捨てる加護。
その右手は先ほど辻の打席と同様に微かに震えていた。
一体なんでやねん…。
もう一度辻を見た時、その理由がわかった。
威圧感。
体をビリビリとしびれさせるような空気が辻から発せられていた。
加護はその威風堂々とした辻の姿に少し圧倒されていた。
256加紺とう:03/10/11 02:05 ID:5gKed/Ow
だが、このまま怖気づく加護ではない。
むしろ、震えの正体がわかって吹っ切れた。
「のの、あんたの尊敬する人の球で終わらせたる!」
そう叫ぶと加護は投球モーションに入る。
小さな体に似合わぬダイナミックなフォームでボールが放たれた。
ボールは辻の足元へと沈んでいく。
スクリューボールだ。
辻は腰を開き、ボールを思いっきり叩きつけた。
『カキーーーン!!!』
ボールがはちきれんばかりの音を上げ、サードの真上へと飛んでいく。
サードは思いっきりジャンプしグラブを伸ばすが、ボールをかすめただけ。
257加紺とう:03/10/11 02:07 ID:5gKed/Ow
打球はそのままぐんぐん伸びていく。
そして、そのまま弾丸ライナーでレフトスタンドまでもを越えていった。
その様子を呆然と見ていた加護。
まったく今の状況を理解できていないようだ。
辻はゆっくりとグラウンドを一周し始める。
そして、辻は加護に静かに言った。
「あいぼん、ののはいままで、だれよりもたくさんごとーしゃんのたまをみてきたのれすよ。」
辻の起死回生の場外弾が飛び出し、ようやく上野学園は勝負をふりだしへと戻した。
258加紺とう:03/10/11 02:11 ID:5gKed/Ow
     14.一球入魂
辻に打たれたショックからか、ここから加護はまったく別人になったかのようにリズムを崩す。
続く亀井には中前安(センター前ヒット)、福田には右前安(ライト前ヒット)。
亀井は三塁へ行き、ノーヒットノーランから一気に二死一・三塁とサヨナラのピンチとなった。
続く打者、後藤が打席へ向かう。
すると、加護が突然大声で叫びだした。
「ポッポーーー!!!」
誰もが目を点にしてこの様子を見ていたが、当の加護はリラックスできたのか、
先ほどの険しい表情は消え、笑顔が戻っていた。
どうやら気持ちを切り替えるために叫んだらしい。
すると、今度はボールを握った右手を後藤の方に突き出す。
259加紺とう:03/10/11 02:13 ID:5gKed/Ow
「後藤はん、うちは逃げも隠れもせえへん。
全部ストライクの速球で勝負すんで!
そして、あんたに勝つ!!!」
あの後藤に予告投球なんて…やけくそか?
誰もがそう思う中、後藤は微かに微笑んでいた。
加護がセットポジションから投球モーションに入る。
今まで見たことのないフォーム。
おそらく、これが加護本来のフォームなんだろう…。
小さな体を目いっぱい使い、ボールを投げる。
ど真ん中の速球、後藤は迷わずバットを振った。
『ガキン!』
鈍い音を残し、ボールはふらふらっと三塁ファールグラウンドへ。
三塁手が追う、が打球は風に乗り、かろうじてスタンドへと入っていった。
260加紺とう:03/10/11 02:17 ID:5gKed/Ow
重い…。
全身のバネを使った加護のボールに、後藤の手は少し痺れていた。
「(これは骨が折れるな…。)」
二球目・三球目とファールが続く。
四球目、見逃せばボールという球を後藤は打ちにいった。
またしてもファール。
「(なるほど、予告投球のお返しですか…。)」
福田は心の中で呟く。
福田はランナーでありながらも、この二人の熱い勝負に完全に見惚れていた。
八球目、後藤の打球はまたしてもファール。
ところがその後、後藤の手からバットが一塁ベンチ方向へと飛んでいった。
一塁ベンチに謝りながら、慌ててバットを拾いに行く後藤。
加護の速球のあまりの重さに、後藤の握力がかなり落ちていたのだ。
タイムをとり、一度ベンチへと戻る後藤。
「ごめん、のの。サラシ巻いてくれる?」
そう言うと、辻が奥の後藤のかばんからサラシを取り出し、後藤の手に巻き始めた。
そして、手際よく巻き終え、辻が言った。
「かならず、うってきてくらはいよ!」
「おぉ、任しとけぇ〜。」
そうは言うものの、現状はかなり厳しい。
バットに手をかけるが、思ったように力が入らない。
「(次で打てなきゃ終わりかな…。)」
261加紺とう:03/10/11 02:27 ID:5gKed/Ow
一方、その頃加護も右手を見つめながら同じような事を考えていた。
「(そろそろこの腕も限界か…次で打ちとれな負けやな。)」
後藤は打席に入り、加護はセットポジションにつく。
どちらも満身創痍、互いに次の一球に全ての力を込めた。
『カキン!』
叩きつけた打球は加護の足元の右を襲う。
グラブでは届かない、そう判断した加護は咄嗟に足を伸ばした。
しかし、僅かに届かなかった。
打球はそのまま中前安(センター前ヒット)となり、三塁走者の亀井が還ってゲームセットとなった。
智辯学園(奈良) 1-2x 上野学園(東京)
王者上野学園が見事なサヨナラ勝ちで3回戦へと駒を進めた。
挨拶の時、加護は後藤の前に立った。
「後藤はん、ほんますごかったですわぁ〜!
今からうちの師匠って呼ばせてもらいますわ。」
満面の笑みでそんなこと言われちゃ断れないじゃん、後藤はそう思った。
それくらい加護は眩しい笑顔を見せる。
そして、辻の方に向きかえる。
「のの、今回はやられてもうたけど、次は絶対に負けへんで!」
「かえりうちにしてやるのれす!」
そして二人は固い握手を交わした。
最後の最後まで涙を見せなかった加護だったが、次の日には目を真っ赤にするくらい宿舎で泣き続けたそうな。