245 :
加紺とう:
11.元祖天才・後藤真希
試合は6回表に入る。
後藤も加護に負けじと力のある速球で打者を攻める。
二死走者なし、そして再び加護が打席に入る。
と、後藤が間合いを取り、辻をマウンドへと呼んだ。
「ごとーしゃん、どーしたんれすか?」
「のの、『アレ』使うよ。」
この瞬間、辻が目を見開く。
「ほんとーにいいのれすか?」
辻が心配そうに後藤に聞く。
しかし、後藤の答えには迷いはなかった。
「本当はなっつぁんとの対決まで取っておきたかったけどね。
ここで負けちゃったら意味ないじゃん。」
その言葉を聞いて、辻は意を決したように頷き、守備位置へと戻っていった。
246 :
加紺とう:03/10/07 01:36 ID:V7uWdc57
「うちを抑える方法思いついたか?」
楽しそうに辻に話しかける加護。
しかし、辻は真剣な表情で加護に言った。
「このたまだけは、ぜってーにうてねーのれすよ。」
その表情に加護はごくりと唾を飲んだ。
一体どんな球を投げるつもりなんや?
それでもうちは絶対に見切ったる、ただ勝つために!
そして加護の顔に笑顔が戻り、そのまま打席に入る。
今度は右打席、しかしそのフォームは先ほどと同じ後藤のフォームだ。
後藤はゆっくりと振りかぶり、ボールを投げた。
いたって普通の速球、それがベース付近にきて微妙に変化する。
見逃しストライク。
しかし、加護の様子が少しおかしい。
目を皿にして呆然と立ち尽くしている。
「ボールが…消えた?」
驚きの中、加護がボソッと口にした言葉だった。
247 :
加紺とう:03/10/07 01:37 ID:V7uWdc57
二球目も、三球目もまったく同じ球。
しかし、加護は全く手を出す気配もなく見逃し三振を喫した。
加護は未だに信じられないといった表情をしながらつぶやく。
「今のは…一体何やったんや?」
すると後藤は加護に答えるように言った。
「魔球『なんなんだぁ』。」
誰もが意味を理解しかねるだろう、このネーミング。
しかし、読んで字の如く、打者が何が起こったのか理解できないような球、それが後藤の魔球『なんなんだぁ』なのであった。
248 :
加紺とう:03/10/07 01:41 ID:V7uWdc57
人は二つの目の焦点を合わせる事で、物の大きさ、形、距離、速さなどを認識する。
野球でも当然、打者は目の焦点を合わせてボールを捉えている。
しかし、人の目には視界に入らないところもある。
盲点である。
実は後藤の魔球はこれをついているのだ。
打者が目でボールを追うが、そこで急にボールが変化して見えない部分、盲点へボールが入っていく。
打者は何が起こったのかわからず、ただ見送るしかないわけである。
しかし、これも後藤の正確無比の制球力と盲点を見極める洞察力があっての代物である。
ここは元祖天才の後藤真希が意地を見せ、そして試合は6回裏へと進んでいく。