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200加紺とう
     4.二人のai

小さい体に似合わず、ダイナミックな投球フォーム。
体を目いっぱい使い、加護は第一球を投げた。
『ドカッ!』
ボールは打者の左腕を直撃した。
死球(デッドボール)だ。
「うちとしたことが…ちょっと力んでしもうたわ。
ほんま、ごめんな〜!」
帽子を取り、軽く頭を下げながら加護は言った。
打者の方も、右手を少しだけ横に振り、大丈夫であることをアピールした。
何はともあれ、いきなり無死一塁となった。
2番打者はきっちりとバントで送り、一死二塁と早速先制のチャンスを迎えた。
しかし、ここから加護も踏ん張る。
3番は直球にタイミングが合わず、空振り三振。
4番の高橋愛は同じく速球に詰まらされて一飛(ファーストフライ)。
最初はヒヤッとさせられたが、加護はなんとか0で抑えた。
201加紺とう:03/09/26 03:10 ID:b7XQMq+g
1回裏の攻撃。
一番打者の加護が打席に入る。
「さ〜、今日も一発ぶちかましたるでぇ〜!」
意気揚々と加護がそう言うと、高橋が尋ねる。
「あんた、投手で一番ってえらい珍しいやよ。何でなん?」
加護は自慢げに答えてみせる。
「うちは一番がいっちゃん好きやねん!」
変わってるなと思いながらも、高橋は投球フォームへと入った。
バレエで培ったしなやかな投球フォームの『演舞投法』は、
まるでマウンド上でバレリーナが舞っているように見えることからこう名付けられた。
直球が加護の膝元へ走ってゆく。
しかし、加護もドンピシャのタイミングでスイング。
打球はバックネットへと飛んでいった。
「これぐらいやったら打ちごろやでぇ〜。」
加護が挑発するように言う。
202加紺とう:03/09/26 03:11 ID:b7XQMq+g
すると、高橋も負けずに言って来た。
「でも、次の球は絶対打てんやよ〜。」
そして第二球を投じる。
先ほどと同じ膝元の球に、加護が打ちにいく。
すると、球が急に高めにホップしてきた。
加護のバットは空を切る。
「これがあたしの必殺『ホッピー』やよ〜。」
今度は高橋が自慢げに加護に言ってのける。
『ホッピー』、一般にはジャイロボールと言われる球で、
この空気抵抗を利用してホップしてくる球を捉えるのは至難の業である。
加護は、続く『ホッピー』にもバットが空を切り三振に倒れた。
後続も簡単に打ち取られ、スリーアウトチェンジとなった。
この後も完全な投手戦が続く。
加護は最初の死球以降は安定し、力のある速球で福井商業打線をノーヒットで抑え込む。
一方の高橋も『ホッピー』を織り交ぜ、こちらも智辯打線をノーヒットで抑える。
そして試合は両者ノーヒットのまま、延長戦へと入っていった。
203加紺とう:03/09/26 03:12 ID:b7XQMq+g
10回表、二死から4番高橋が加護の速球を捕らえて右中間二塁打とチャンスを作る。
しかし、後続が抑えられて結局0に終わった。
10回裏、先頭の1番加護は、『ホッピー』で攻められ、ツーストライクと追い込まれた。
高橋が投じた三球目も『ホッピー』、ここで加護が勝負に出た。
セーフティーバント。
打球は三塁線を転がっていく。
虚を衝かれたためにスタートが出遅れ、間に合わないと判断した三塁手はそのまま打球が切れるのを待った。
が、打球は見事ライン上でピタリと止まった。
無死一塁、智辯にとって初めてのランナーが出る。
続く2番・3番と連続して送りバントを決める。
二死三塁、一打サヨナラの場面である。
打席に4番打者が入り、セットポジションになる。
その時、高橋はあることに気付く。
「(三塁走者のリードが大きい…。)」
加護がリードをかなり大きく取っていた。
高橋は打者への気を散らすための囮だと判断し、目だけで牽制し、そのまま投球モーションに入った。
この時、高橋は予想外の光景を目にする。
204加紺とう:03/09/26 03:20 ID:b7XQMq+g
なんと、同時に加護がスタートを切っていたのだ。
打者は動く気配がない。
明らかに本盗(ホームスチール)である。
本来なら楽々アウトだっただろう。
しかし、高橋が投じたのは『ホッピー』だった。
そう、高目へとホップしていく『ホッピー』だと、捕手が捕球してからタッチするまでが若干遅れてしまう。
そこを狙い、加護は限界までリードを取り、ギリギリのタイミングでスタートを切っていた。
加護がトップスピードからそのままヘッドスライディングで飛び込む。
捕手は球を捕球してすぐさま加護をタッチしにいった。
加護の手は捕手の真下にあった。
智辯学園のサヨナラ勝利である。
誰もがその目を疑った。
まさか本盗で勝負が決まろうとは…。
しかし、誰もが唖然とする中で、整列する時には、高橋は意外と平然としていた。
「あんた、すごかったわぁ〜!またどっかで戦おうな!」
加護も少し息を切らせながら答える。
「あんたのあの球もたいしたもんやったで!次会った時には絶対打ったるで!」
そして二人は固い握手を交わした。
勝利校の校歌の後の応援団への挨拶で、笑顔で高橋が言った言葉、「絶対また来るやよ〜!」に、
福井商業応援団ではその後しばらく高橋コールが止まなかった。
こうして、息の詰まった娘。甲子園開幕試合は幕を閉じた。
205加紺とう:03/09/26 03:21 ID:b7XQMq+g

加護が球場から出て来ると、目の前には一人の少女が立っていた。
「あいちゃん、おつかれさまなのれす。」
いきなりの辻の登場に少々ビックリした加護だったが、すぐさま答えた。
「おおきに、試合見てくれたんやろ?次は希美ちゃんのとことやなぁ。」
「のののことはののとよんでくらはい。」
『希美ちゃん』と呼ばれたのがちょっとくすぐったかったらしい。
辻が少し顔を赤らめて言う。
「そうか、それやったらうちもあいぼんでええで。」
少し二人の間に沈黙ができる。
辻がその空気を切り裂く。
「あいぼん、ののたちはらいばるなのれす!だから、つぎのしあいはぜってーまけねーのれす!」
その言葉を聞いて嬉しかったのか、加護はニヤニヤしながら答える。
「ののがライバルか…ええで。相手にとって不足なしや!次の試合もうちは全力で行くでぇ!」
そういって加護は右手を前にずいっと差し出した。
辻も右手を差し出す。
そして、二人は固い握手を交わした。
その後、二人は一言二言だけ話してその場は別れた。
来たるべき闘いの日が来るその日まで…。