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57名無し募集中。。。
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               「アスファルトの花」
58名無し募集中。。。:03/08/02 14:37 ID:SNRWeeuG

 僕はハロプロ専属の運転手の一人だった。

 僕はソロとかの少人数を担当した。車は大人数用のハイエースと一緒に買ったカローラだった。

 時々、ソロではない人も運んだ。おけいさんの時には安倍を運んだし、明治座の時はぎっくり腰に
なった小川を搬送して、その後2週間くらいは通院の送迎もした。
59名無し募集中。。。:03/08/02 14:38 ID:SNRWeeuG

 モーニング娘に新メンバーが決定した。しばらくは修行期間だったし、団体様だから乗せることもないだろうと思っていた。

 ところがすぐに上司から指示が飛んだ。「亀井を週2でここへ連れて行ってくれ。」

 行き先は皮膚科の町医者だった。肌にあまりよい兆候が見られないらしい。

 そうして、僕は絵里の運転手になった。
60名無し募集中。。。:03/08/02 14:39 ID:SNRWeeuG


 絵里は必ず運転席の真後ろに乗った。隣にはマネージャーが座った。

 何ヶ月も絵里を送迎しているうちに、絵里の具合は良くなっていくように見えた。

 ある日、僕はマネージャーが欠席したので絵里一人を乗せることになった。

 まともに話したのはそれが初めてだった。帰りに夕張メロンアイスをおごってあげた。

 それからは、マネージャーが同乗していても少し話すようになった。

 でも絵里の具合はよくなっているのに、絵里の声は変わらず、いや前よりも小さくなっていた。


61名無し募集中。。。:03/08/02 15:28 ID:SNRWeeuG
 


 気のせいだと思っていたそんなある日、上司から新たな指令が来た。

 「亀井の病院が変わった。今度はこっちにやってくれ。」

 …行き先は大きな病院だった。内科、外科、そして精神科があった。

 そこに絵里を送りだして3回目に異変は起こった。

 その日の往路、絵里はいつにも増して気分が悪そうだった。

 誰とも一言も話さなかった。
 
 それからいつもどおり病院の前で二人を待った。ところがいつまで経っても帰ってこない。



62名無し募集中。。。:03/08/02 15:29 ID:SNRWeeuG
 


 日も暮れるころ、マネージャーが一人で戻ってきた。

 「今日亀井は病院に泊まることになりました。私は付き添いでここに残ります。この手紙をチーフに渡して、明日の昼頃にまた迎えにきてください。」

 会社に戻って、マネージャーのチーフに封筒を渡した。

 チーフは表情を硬くしたままそれを読んだ。そしてそのあとに「君、アップフロントの本社に乗せていってくれないか。」と言われた。

 チーフを送り、本社の駐車場で待つこと2時間。チーフは相変わらず固い表情をしたまま戻ってきた。

 帰り道、我慢ができなくなって聞いてみた。「亀井に何か起こったんですか?」



63名無し募集中。。。:03/08/02 15:31 ID:SNRWeeuG


 チーフは頭を抱えたまま言った。

 「本来は…部外者には言わないことだが…君は亀井の送迎をしていたから話すべきだろうな。
  …亀井は極度のストレスで一種の神経症、というか精神的にかなりガタが来ちゃってる。医者
  の手紙が言うには、芸能活動は当分控えたほうが、もしくは引退も考えたほうがいいということ
  なんだ。…でもまだどうするかは決まっていない。本人も呼んできちんと話し合いをしなくちゃい
  けないからね…」

 言葉が出なかった。絵里を本当に心配している自分がいた。



64名無し募集中。。。:03/08/02 15:32 ID:SNRWeeuG






 翌日、昼前に病院に着けると、そこにはすでに絵里が一人で立っていた。

 「マネージャーさんは?」と聞くと、

 「電車で帰った。」と低い声で言われた。

 そんなはずはないと言う僕を無視して、絵里は乗り込んで言った。

 「…海が見たいの。」

 絵里の口調には強い意志が感じられた。僕は黙って車を出した。



65名無し募集中。。。:03/08/02 15:33 ID:SNRWeeuG

 千葉の京葉道路に入ってすぐの頃、絵里のマネージャーから電話が入った。

 出ようとすると、後ろから絵里が身を乗り出して電話を奪い、電源を切った。

 僕は黙って運転を続けた。

 千葉東金有料道路から東金ICを通り、国道126号から東金九十九里有料道路を抜けると、
眼前に九十九里浜と太平洋が広がった。

 人気のないところに車を停め、二人で海の見えるベンチに座った。もう3時だった。



66名無し募集中。。。:03/08/02 15:34 ID:SNRWeeuG



 絵里は海風に吹かれながら、いつまでも海を見つめていた。

 また夕張メロンアイスを買ってきた。絵里は黙って食べた。

 海洋深層水のスポーツドリンクを買ってきた。絵里は黙って飲み干した。

 ふと時計を見ると、もう夕方だった。

 帰り道も、絵里は話さなかった。

 東京に入る頃、気が付くと絵里がバックミラーから消えていたので思わず振り返った。

 絵里は後部座席に横になって眠っていた。

 絵里をつれて会社に戻ると、そこは修羅場だった。

 僕は絵里の誘拐犯らしかった。絵里のマネージャーには平手打ちを食らった。

 ただ、僕の課の上司は「君は車には、もう乗せられないな。」と言っただけだった。

 
67名無し募集中。。。:03/08/02 15:35 ID:SNRWeeuG



 僕は経理に回された。絵里はまだ普通のアイドル業務をしていた。なんでも自分から「やります」
と言い出したらしい。

 絵里とはあれ以来会っていない。少しさびしいが、絵里の笑顔を見ていると、とてもうれしくなる。
元気に、やっているんだなぁと感じるから。

 絵里、僕はもう心配しないよ。海の帰り道、バックミラー越しに見た君の顔には、決意と、やる気が
満ち溢れていたんだ。君ならやれる。涙の数だけ強くなったんだ。みんなに元気を与えられる。これ
からも見守っていくよ。がんばれ、絵里。