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「アスファルトの花」
僕はハロプロ専属の運転手の一人だった。
僕はソロとかの少人数を担当した。車は大人数用のハイエースと一緒に買ったカローラだった。
時々、ソロではない人も運んだ。おけいさんの時には安倍を運んだし、明治座の時はぎっくり腰に
なった小川を搬送して、その後2週間くらいは通院の送迎もした。
モーニング娘に新メンバーが決定した。しばらくは修行期間だったし、団体様だから乗せることもないだろうと思っていた。
ところがすぐに上司から指示が飛んだ。「亀井を週2でここへ連れて行ってくれ。」
行き先は皮膚科の町医者だった。肌にあまりよい兆候が見られないらしい。
そうして、僕は絵里の運転手になった。
絵里は必ず運転席の真後ろに乗った。隣にはマネージャーが座った。
何ヶ月も絵里を送迎しているうちに、絵里の具合は良くなっていくように見えた。
ある日、僕はマネージャーが欠席したので絵里一人を乗せることになった。
まともに話したのはそれが初めてだった。帰りに夕張メロンアイスをおごってあげた。
それからは、マネージャーが同乗していても少し話すようになった。
でも絵里の具合はよくなっているのに、絵里の声は変わらず、いや前よりも小さくなっていた。
気のせいだと思っていたそんなある日、上司から新たな指令が来た。
「亀井の病院が変わった。今度はこっちにやってくれ。」
…行き先は大きな病院だった。内科、外科、そして精神科があった。
そこに絵里を送りだして3回目に異変は起こった。
その日の往路、絵里はいつにも増して気分が悪そうだった。
誰とも一言も話さなかった。
それからいつもどおり病院の前で二人を待った。ところがいつまで経っても帰ってこない。
日も暮れるころ、マネージャーが一人で戻ってきた。
「今日亀井は病院に泊まることになりました。私は付き添いでここに残ります。この手紙をチーフに渡して、明日の昼頃にまた迎えにきてください。」
会社に戻って、マネージャーのチーフに封筒を渡した。
チーフは表情を硬くしたままそれを読んだ。そしてそのあとに「君、アップフロントの本社に乗せていってくれないか。」と言われた。
チーフを送り、本社の駐車場で待つこと2時間。チーフは相変わらず固い表情をしたまま戻ってきた。
帰り道、我慢ができなくなって聞いてみた。「亀井に何か起こったんですか?」
チーフは頭を抱えたまま言った。
「本来は…部外者には言わないことだが…君は亀井の送迎をしていたから話すべきだろうな。
…亀井は極度のストレスで一種の神経症、というか精神的にかなりガタが来ちゃってる。医者
の手紙が言うには、芸能活動は当分控えたほうが、もしくは引退も考えたほうがいいということ
なんだ。…でもまだどうするかは決まっていない。本人も呼んできちんと話し合いをしなくちゃい
けないからね…」
言葉が出なかった。絵里を本当に心配している自分がいた。
翌日、昼前に病院に着けると、そこにはすでに絵里が一人で立っていた。
「マネージャーさんは?」と聞くと、
「電車で帰った。」と低い声で言われた。
そんなはずはないと言う僕を無視して、絵里は乗り込んで言った。
「…海が見たいの。」
絵里の口調には強い意志が感じられた。僕は黙って車を出した。
千葉の京葉道路に入ってすぐの頃、絵里のマネージャーから電話が入った。
出ようとすると、後ろから絵里が身を乗り出して電話を奪い、電源を切った。
僕は黙って運転を続けた。
千葉東金有料道路から東金ICを通り、国道126号から東金九十九里有料道路を抜けると、
眼前に九十九里浜と太平洋が広がった。
人気のないところに車を停め、二人で海の見えるベンチに座った。もう3時だった。
絵里は海風に吹かれながら、いつまでも海を見つめていた。
また夕張メロンアイスを買ってきた。絵里は黙って食べた。
海洋深層水のスポーツドリンクを買ってきた。絵里は黙って飲み干した。
ふと時計を見ると、もう夕方だった。
帰り道も、絵里は話さなかった。
東京に入る頃、気が付くと絵里がバックミラーから消えていたので思わず振り返った。
絵里は後部座席に横になって眠っていた。
絵里をつれて会社に戻ると、そこは修羅場だった。
僕は絵里の誘拐犯らしかった。絵里のマネージャーには平手打ちを食らった。
ただ、僕の課の上司は「君は車には、もう乗せられないな。」と言っただけだった。
僕は経理に回された。絵里はまだ普通のアイドル業務をしていた。なんでも自分から「やります」
と言い出したらしい。
絵里とはあれ以来会っていない。少しさびしいが、絵里の笑顔を見ていると、とてもうれしくなる。
元気に、やっているんだなぁと感じるから。
絵里、僕はもう心配しないよ。海の帰り道、バックミラー越しに見た君の顔には、決意と、やる気が
満ち溢れていたんだ。君ならやれる。涙の数だけ強くなったんだ。みんなに元気を与えられる。これ
からも見守っていくよ。がんばれ、絵里。