あー雨が降るかも。
なんとなく外を見ながらつぶやいた一言は矢口の耳にも届いたらしい。
「え!うそ!!オイラ今日傘持ってない!!」
と焦りながらカオリのいる窓際までとんできた矢口は恐ろしく俊敏だった。
小さい矢口の頭と金髪がカオリの視界にとびこんでくる。
カオリもこのくらい頭が小さかったらよかったのになぁ・・・
「カオリ、矢口、脱線しないの!ちょっと二人ともちゃんと聞いてよ!!」
そんなことを考えてると圭ちゃんのちょっとイライラした声で現実に引き戻された。
そうでした、このそう広くない部屋にはカオリ、矢口、圭ちゃん、の3人がいる。
収録の空き時間に圭ちゃんに話があるといって、この部屋に押し込まれた。
なんでも、スタッフには話しをつけて30分だか1時間だかの時間をもらったらしい。
何を話しているかというと。単刀直入にいえば
「石川について」
ということになる。
「I wishから押されてた加護はわかる。子供人気抜群だし、
大人にもかわいいって人気あるし。
松浦もわかる、売りたいものね。ソロだし。
で、3人祭りのイメージには石川だったのもわかる。
3人祭りはわかるのよ。
モーニング娘。の本体にまで石川を持ってくるのはどうなのよ!!」
圭ちゃんが絶叫している。
この場にいるのは、石川の教育係りだった圭ちゃんにタンポポで一緒だったカオリと矢口。
石川のことをよくも悪くもよく知ってる人間。
そして、未だにモーニング娘。本体シングルでメインになったことがない3人だった。
正直こういうのをジェラシーというのかもしれない。
若くてかわいい石川、人気も高くって、メインというかセンターボーカルになったことに
やきもちを焼いてるんだろうなー・・・あたしたち。
しかし圭ちゃんのテンションは尋常じゃない。
同期で圭ちゃんの一番の理解者である矢口ですらちょっとひいてる。
こういうときたいがい矢口が文句を言い出したりすることが多いのにさっきからフォローにまわってる。
「でも、石川メインっつってもさすがにあの歌だし、ほとんど歌うとこないじゃん。」
そう石川梨華はかわいい顔、かわいい声、ぶりぶりの女の子キャラ!天才的に天然アイドル!
そして天然アイドルはアイドルの極意「音痴」も天才的だったんだよねー・・・
でも、圭ちゃんが怒っているのは石川についてじゃない
「石川をメインで売り出そうとしている大人達」に対してなのだ。
そして、教育係りをまかされたのにほとんどどうにもなってない(特に歌に関してね)
圭ちゃん自身に対してなんだからタチが悪い。
確かに石川にはまだメインになれるだけの、歌唱力もない。
なっちみたいな知名度、後藤みたいな存在感、矢口みたいなトークのよさみたいなものはない。
でも、大人達は彼女に次への期待のあらわれとして
カントリー娘。へのレンタルと、シャッフルでの最少人数ユニットへの加入を決めた。
そしてそれだけでなく、モーニング娘。本体でのセンターポジションまで与えてしまった。
それはいままでにあったモーニング娘。内での秩序のようなものが
どこかにいってしまったような気がする。
まぁ、つんくさんの言うようにモーニング娘。は日々変化しないといけないんだろうけど。
ふっと意識を現実に戻すとまだ圭ちゃんがプリプリ怒って矢口があたふたとフォローしていた。
一瞬矢口と目があったらものすごい矢口がカオリのことを怒ってるのが分かった。
どうしろっていうのよ〜、こんな圭ちゃん裕ちゃんにだってとめられるかわかんないじゃない!!
そんなあたしの心の声が聞こえたのかまだぶちぶちいってた圭ちゃんが表情をかえて
カオリと矢口にむかっていった。
「そんなわけで、石川をどうにかしましょう」
無言。カオリも矢口も何もいえない。沈黙をやぶったのはカオリ。
「・・・カオリいじめとかしたくないんだけど・・・」
「オイラも・・・・そういうのって後々めんどくさいし・・・」
そう二人力無くつぶやくと圭ちゃんは違うわよ!!と思いっきり否定した。
「そうじゃなくて、それぞれ得意なことを石川に伝授すればいいのよ!
矢口のトーク、あたしの歌唱力、カオリのキャラ・・・極められなくても
ある程度やれるようになったら、石川もなんとかなるのよねー。
ホラ、石川がなんとかなったらモーニング娘。も安泰じゃない?」
圭ちゃん何もそんなに思いっきり否定しなくてもいいよ、顔怖いし。
とかいう思考でとまってたカオリはよくわかんなかった・・・けど、アレ?
石川改造計画?さすが圭ちゃん、前向きねー。
矢口のトークがあれば歌番組でいじられても平気だし、
圭ちゃんの歌唱力・・・は無理でも音程はずさなくなったらずいぶんよしよねー、
うんうん。で、カオリの・・・あれ?
「なんでカオリの歌唱力じゃないのよ!?」
「そうだよ、オイラだってハモリには自信があるよ!!」
「今回石川ハモるとこなんてないんだから、矢口はいいわよ!!」
カオリと矢口の軽い口論に仲裁に入る形で圭ちゃんが脱力しながらいう。
「つーか石川まだはもるなんて技術到底無理でしょ・・・」
・・・そうね・・・タンポポの名曲がいつになったらハモリ付で歌えるようになるんだろう・・・
なんて考えているうちに圭ちゃんいわく‘石川改造計画会議’は終わりを迎えたらしい。
そそくさと会議室兼楽屋を出て行ってしまった。
でも、圭ちゃんカオリのキャラって何?
交信のことなのかなー・・・でもこれってみんなするよね?
うーん・・・よくわかんなかったのでその夜吉澤にメールできいてみたら
「それは飯田さんのジョンソンみたいなもんですよ!」
と返ってきた。そっかジョンソンなのかー。
納得してカオリはベッドに入った、いい夢みれますように。
次の日圭ちゃんに
「石川もジョンソンになればいいのよね!!」
と力説したら、「そうそう」と圭ちゃんがいう。
「よし石川、怒りなさい!!」
と石川にいったら石川が思いっきりおびえた。
「怒りなさい!!」
と更に石川にいってたら圭ちゃんがぶつぶつといいながらやってきた。
「そうじゃなくて、石川には石川のキャラを・・・あーもういいわ。
アタシがするから。今回この計画カオリ外れて、お願い。」
といわれ、カオリは石川改造計画をはずされてしまったらしい・・・
後ろでなにやら吉澤が笑ってる。
矢口がさすがだねー、カオリィ。とつぶやいてる。
あいかわらず辻加護はものすごくウルサイ。
後藤はぼーっとお菓子をなっちと食べている。
カオリはこの子たちをリーダーとしてまとめられるのかな・・・
こんな計画ですらはずされてるようじゃ無理かもしれない・・・
でも、カオリはこの子達がいてくれてよかったと思う。
そうしみじみしてたときにいきなり加護にみぞおちパンチされた・・・
声も出ずにのたうちまわってると能天気な吉澤の声がした。
「飯田さんリアクションさすがですねー!!参考になります!」
・・・カオリ、やっぱりリーダーやめたいかもしれない。
なんとなく本気でそう思った。
カオリの予報を裏切って外から今頃雨の香りがした。