【1094】迷うなぁ【0910】

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89ミスト

階段を降りながら、亜依の頭には、最悪な状況が次々と浮かんできた。
骨折してるんじゃないだろうか、いや受け身に失敗して頭を強く打ったんじゃないだろうか。
そしてー
(山崎のしわざじゃないだろうか)

亜依の見えないところで悪事を働くものの、直接的な攻撃はしてこなかった山崎だが
とうとう、しびれを切らしたのか?
亜依ではラチがあかないと思い、梨華に狙いを変更したのか?
次々と浮かんで来る疑問に答えを出せぬまま亜依は保健室の前に到着した。

90ミスト:03/07/09 23:54 ID:S5PT6tl5

保健室は、校舎の中央にある。保健室のドアをあけると、室内には10人以上の生徒がいた。
内訳は、梨華の友人と追っかけで、比率にすると3:7であった。

室内の一番奥の椅子に座っている梨華の姿を見つけた。
「姉ちゃん!」
姉の姿を見つけるや、亜依は駆け寄って飛びついた。
「うわっ、あぶないよ、亜依」
椅子から落ちそうになりながらも、しっかり妹を受け止める。
そして、抱きついたまま離れようとしない亜依の頭をなでた。

「大丈夫だよ。ちょっと足をひねっただけだから」
「うん」
亜依は、抱きついたままうなずいた。

91ミスト:03/07/09 23:56 ID:S5PT6tl5

さっきまでの緊張感がゆるみ、涙が出そうになる。
ただ、こんな大勢の前で泣くわけにはいかない。亜依は、なんとか笑顔を作ろうと努力した。
室内は感動的な雰囲気が包んだ。だがー

「ぬるぽ」
その一言で場の空気はぶち壊れた。入り口付近で山崎が不敵に笑っていた。

「山崎・・・お前が姉ちゃんを・・・・・・」
亜依はうめいた。そして山崎をにらみながら戦闘態勢にはいる。
室内にパシーンと乾いた音が響く。
ほほをおさえたまま、山崎が床にうずくまる。これは亜依が加えたものじゃない。
山崎のわきから、れいながビンタをお見舞いしたのだ。

「なにするんだ、れいな!?」
「うるさい!梨華さんにケガを負わすなんて最低よ!」
れいなは、床にうずくまっている山崎に、ぐいっと詰め寄る。
場の空気を読めない山崎だが、れいなの殺気は敏感に感じ取った。

92ミスト:03/07/09 23:58 ID:S5PT6tl5

「ちょっと待ってくれ。梨華をケガさしたのは、俺じゃねえ。マジで違うぞ。
 俺は、人がいっぱいいたから、何だろうと思ってここに来ただけなんだよ。
 それなのに、何で殴られなきゃならないんだ」

山崎は、必死に弁解とグチを言った。後半の口調は、少し泣きそうである。
もはや山崎は、お母ちゃんに怒られるジャイアン状態であった。れいなの迫力に完全に負けていた。

「れいなちゃん、山崎君は悪くないよ。実は鬼ごっこしてて、階段の着地を誤って
 足ひねっちゃったの」
梨華の発言に室内の全員が「いい大人が鬼ごっこなんてするなよ」っとツッコミたい衝動にかられた。

93ミスト:03/07/10 00:00 ID:JjxdQf55

「そらみろ、俺は悪くなかったろ」
山崎は勝ち誇ったように腕を組んだ。

「うるさい!もう帰れ!」
れいなの鋭い蹴りが、山崎のすねに炸裂する。
再びうずくまる山崎渉。さすがに彼が、かわいそうに思えてきた。

ただ、好奇心で保健室に入っただけの山崎が、ここまで理不尽な扱いを受けるのは
日頃の行いの悪さが原因だと言えなくもない。
山崎は、ぶつぶつ文句を言いながら保健室から出ていった。

山崎が出ていって数分後、室内には歓喜の声がとどろいた。
「す、すごいね、あんな山崎初めて見たよ」
「君、田中れいなさんだよね。俺、ファンになっちゃおうかな」
大絶賛を受けるれいなを遠目に見ながら亜依も「すごいなあ」と素直に感嘆した。
そして、休み時間の終わりと授業の始まりを知らせるチャイムが鳴り響いた。

94ミスト:03/07/10 00:02 ID:JjxdQf55

それを合図に保健室にいた生徒たちは、それぞれの教室に戻っていく。
亜依も教室に戻ろうとしたとき、通り過ぎざまに一人の男子生徒のつぶやきが
聞こえてきた。

「山崎が、田中のファンって本当みたいだな」
「・・・・・・!」

それを聞いて亜依は立ち止まった。男子生徒は、こちらの様子を気にすることもなく
保健室から姿を消した。
山崎がれいなに反抗しなかったのは、れいなが好きだから?嫌われたくなかったから?
それにしては、山崎の普段の行動は、れいなに嫌われることに徹してるように思えるが。

「こらっ!亜依、遅刻になるよ」
梨華の声で思考が中断させられた。梨華とれいなは、すでに保健室から出て、廊下から
亜依が来るのを待っていた。

ある程度時間が過ぎると、遅刻扱いされることを思い出して、亜依はあわてて
保健室から飛び出した。