82 :
ミスト:
亜依の家庭で起きた嵐とカミナリは、ひと晩で通過し、翌日にはおだやかな青空が広がる。
亜依が学校に着いたのは、朝の8時10分を過ぎたくらいだった。
この娘は、赤点を取りまくるのだが、遅刻が0という微妙な模範生であった。
教室にはいると、中の人間の視線が一気に亜依に集中した。
「な、なんだよ」
亜依が問いかけると、皆が顔をそらした。教室全体が不自然であった。
亜依の机は、何か鋭いもので傷つけられたような跡が無数にあった。
椅子にすわると、何やら鈍い悲鳴があがる。今にも壊れそうだ。
「さっき、山崎さんたちがやったんだよ。昨日、山崎さんたちを怒らしたみたいだけど
あの人を敵にまわしたら生きていけないよ。今からでも謝ったほうがいいんじゃない」
妙におどおどした印象の男子が話しかけてきた。亜依は、「そうかもね」と気のない返事をしただけだった。
こんな朝早くから、こんな事するなんて、山崎はずいぶん規則正しい不良なんだなと亜依は思った。
83 :
ミスト:03/07/06 22:21 ID:GcRjcV5e
座り心地の悪い椅子に腰をおろし、教科書を机の中に放りこんでいると、れいながやって来た。
「亜依、ちょっと話し相手になってよ。も〜、みんな山崎におどされてるのか、全然口をきいてくれないんだよ」
「普通に嫌われてるんじゃないの?」
「亜依と一緒にしないで。わたしは、クラスでも一番の人気者よ。それよりも、お姉ちゃんは
来てないんだ」
「別にいつも来てるわけじゃないけど・・・・・・何?」
「えっ・・・別に何でもないよ」
そう言いながらも表情が残念そうであった。ここに来れば梨華がいると思っていたのかもしれない。
ふと昨日のれいなの部屋に貼られていたチャーミー石川がお姉ちゃんに似ていたことを思い出した。
れいなは、憧れの先輩とうちの姉ちゃんを重ね合わせてるのかもしれないと思った。
84 :
ミスト:03/07/06 22:24 ID:GcRjcV5e
「れいなは、山崎からの陰湿ないじめ受けてないか」
「それは大丈夫だよ」
れいなは、笑顔で答えた。
どうやら山崎は、亜依だけを標的にしているようだ。ずいぶん憎まれたもんだ。
もっとも山崎の子分たちをボコボコにした張本人だから、仕方ないと言えば仕方ないわけだが
奴らの本来の目的はれいなのはずだ。亜依は、橋渡し役を拒んだだけにすぎない。
亜依をおどすより、れいなをおどす方がよっぽど早く目的を達成できるんじゃないかと思ってしまう。
それと、気になるのが、れいなの底なしの明るさだ。
いくら楽天家だとしても、学校の実質的支配者である山崎に狙われて、
ここまで明るく振る舞えるものなのだろうか。
れいなからは、悲壮感のようなものが感じられない。むしろこの状況を楽しんでいるように思える。
「これが現代っ子ってやつか」とあまり年齢の違わないれいなを、そう決めつけた。
その時、教室に女の子が入ってきて、亜依のもとに駆け寄ってきた。
「亜依!あんたのお姉ちゃんが階段から落ちてケガしたわよ。
保健室にいるから、今すぐ行って」
その言葉を聞いて、すぐに亜依は走り出した。不安がよぎり、心臓が、はげしく脈打った。