【1094】迷うなぁ【0910】

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57ミスト

天気は快晴。雲一つない青々と輝く空を小鳥たちがはばたく。
実に澄みきった朝なのだが亜依は不快な気持ちでいっぱいだった。
亜依の席には人相の悪い男が腰をかけ、その周りを昨日、亜依がこてんぱんにしてあげた
男たちが囲っている。

不審な視線を亜依が向けると、敵意を含んだ八個の目が亜依を捕らえた。
「お前が亜依か、どんな奴かと思ったら子供だな」
椅子に腰を下ろしたリーダー格の男が言ってきた。この暴力的な雰囲気をまとった男は
山崎渉といい、悪い意味で亜依以上に注目されている人間だ。
けんか、タバコ、酒、2ちゃんねる、と何でもやりたい放題の山崎だが一度も停学になったことがない。
父親が有力な政治家であるからだという一面もあるのだろうが、教師が彼の報復を恐れて
見て見ぬふりをしてるのが大きいようだ。

「俺は山崎だ。昨日はこいつらが世話になったな」
亜依はうんざりしながら山崎を見た。
「なに、昨日の続きを希望なわけ?」
「おいおい、そんな好戦的な目をすんなよ。俺は何もけんかしに来たわけじゃねえんだから。
 実は、いい儲け話があるんだよ」

58ミスト:03/06/24 23:29 ID:4/54hEjb

亜依が黙っていると山崎は話を続けてきた。
「中学生の生写真ってやつは一部の人間に高く売れる。ましてや中学生で芸能人となると
 それは高値になる。嬉しいことにうちの学校にはそれに当てはまる人間がいるんだなぁ」
「あんた、れいなで商売する気なの?」
亜依は、鋭い視線を山崎に放った。胸の中で、何かがざわめいた。

「そうにらむなよ、協力してくれたら、あんたにも十分報酬を与えるからよ。
 あんたにしてほしいのは、れいなと俺たちとの橋渡し役になってほしいということだ。
 あの女、頑固で警戒心が強いから、なかなか交渉に応じねえ。恩人である、あんたなら
 れいなは心を開いてくれるはずだ。どうだ、5万出すぜ」
「やだね」
亜依はきっぱり断った。山崎たちの真意をもう少し探りたい気はあったが、感情が即答してしまった。
山崎たちがれいなの写真だけじゃなく下着も売りたいと考えているのが亜依にはすぐに分かった。
この娘は、こういう嗅覚が優れている。

「もういいかなぁ、うちは君たちと違って、真面目な生徒だから、次の授業の予習したいんだよね」
そう言うと、亜依は強引に山崎たちの中に入っていき、椅子の所有権を奪い返した。
山崎は憎々しげに亜依をにらんだ。
「あんまり調子にのると長生きできねぇぞ、覚えときな」
「やなこった」
亜依はベーッと舌を出した。周りの男たちは両眼をぎらつかせたが、山崎がそれを無視するように
無言で歩きだすと、全員がそれにしたがい教室から姿を消した。
山崎たちが残した悪意の満ちた空気を入れ換えるため亜依は教室の窓を全開にした。

「なんか面倒なことになりそうだなぁ」
危機感のない、ぼんやりとした調子でつぶやくと、大きく外の空気を吸った。