【モー娘。矢口の問題疑惑写真】

このエントリーをはてなブックマークに追加
863書いた人

心臓はいつものペースに戻っていて。
よし・・・全然緊張してないね。
ゆっくりと飯田さんの右腕が上がる。
垂直にその指先が天井を指し示すと、唇の端から僅かにブレスをしたのが見えた。

「それじゃあ・・・・・・前半15分。キックオフ!!」

ピッ!!

耳を劈く(つんざく)高音に、私は目を広げて窓全体を見回す。
手前の歩道には僅かな人通り、その奥の車道も車が行き交う。
ごく普通の風景、アウトも、セーフも・・・今の所は無い、ね。
そうおもった刹那、隣で上がった大声に私は思わず振り向いた。

「今の天気、暑すぎず寒すぎない、秋の午後を過ごすには最適です!
セーフです! ツーベースヒット!!」
864書いた人:03/10/01 01:36 ID:sa66dho2

嘘でしょぉ?
天気なんて判定の対象なの?
ついつい、試合中だっていうのにまこっちゃんの方を見詰めてしまう。
両手を水平に真っ直ぐ広げたまこっちゃんは、凛とした目で飯田さんの判定を待つ。

ピィィィィッーーーーー!!

手を真っ直ぐ上に上げたまま吹いた笛の音が、私たちの鼓膜を震わせる。

「小川、トライ! 5対0!」
「トライなんですかぁ!?」
「よっし」

私の反応なんかお構いなしに、まこっちゃんは小さくガッツポーズを作ると再び目を凝らす。
あぅ・・・・・・そうだよねぇ。
飯田さんは『この窓から見える全て』を判定しろって言ったもん、天気だって当然入るのかぁ。
865書いた人:03/10/01 01:36 ID:sa66dho2

よし、それなら私にだって考えがあるんだから。
ここで残念がってなんかいられない。
さっき見てたら、いいのがあったんだもんね。

窓から見える、道路を挟んで反対側のカフェ。
木目調の店構えが凄く素敵なんだけど・・・
考えをまとめていると、さっきのトライで調子付いたまこっちゃんが再び両手をピッと広げる。

「あそこに見える喫茶店! 雰囲気がすっごく素敵です。
セーフ! 三塁打!」

今度は私は呆気に取られない。
まこっちゃんが言い終わった瞬間に、即座に言葉を被せる。

「違います!! 素敵な店構えですけど、周りのビルと余りに不釣合い過ぎます!
ファールです!!」
866書いた人:03/10/01 01:38 ID:JBPMN7Cn

今度はまこっちゃんが私に振り向く番だった。
両手を頭の上で大きく振りながら、私は飯田さんの判定を待つ。
確かに店構えは素敵だけど、両隣の煤けたビルの間じゃ魅力も半減してる。

「よし、紺野にトライ!! 同点、5対5!」
「ッ・・・!!」
「いいぞッ!!」

まこっちゃんの舌打ちをかき消すように、矢口さんが歓声を上げる。
それに頷き返したけど・・・今のはちょっと危なかったぁ。
まこっちゃんのジャッジに判定が出たあとだったら、
私のジャッジはただの後付けになっちゃうところだ。
867書いた人:03/10/01 01:39 ID:JBPMN7Cn

気を抜いてられないなぁ・・・・・・鼻に滲んでいた汗を、指先ですくう。
ふと横目でまこっちゃんを見ると、こっちを向いて笑っていた。
この一月半、見ることが出来なかった、まこっちゃんの笑顔。
そう、あのジャッジをする時の不気味な半笑いじゃなくって、
いつものあの、あどけなくって少し照れたような笑顔。

「あさ美ちゃん・・・・・・やるねぇ」
「まこっちゃんも・・・ね」

試合中だっていうのに笑いあう私たち。
すぐに飯田さんが再開の笛を吹いたから、交わった目線はすぐに離れたけれど。
それでも私はこの試合に、何かの可能性を感じ始めていた。
868書いた人:03/10/01 01:39 ID:JBPMN7Cn

―――――

「あさ美ちゃんさぁ・・・モーニング娘。ってなんなんだろ?」
「ハァ? どしたの? まこっちゃん」
「いや、ふと考えちゃってさ。モーニング娘。って何?」
「さあ・・・・・・アイドルでしょ?」
「アイドルなのにさぁ、あんなコントやったりしなくちゃいけないのかなぁ?」
「うーん・・・・・・それじゃ、エンターテイナー?」
「エンターテイナー・・・って、何?」
「それは・・・なんだろ?」
869書いた人:03/10/01 01:41 ID:V04vaGVN


―――――



そうだ、私たちは、いつも考えてたんだ。



―――――

870書いた人:03/10/01 01:41 ID:V04vaGVN

「あの男の人! 歩きタバコは危ないですからダメです。
即刻退場!」
「よろしい! 小川トライ、15対10」
「歩道にあるあのオブジェ、気持ち悪いだけで作った人の自己満足にしか見えません!
存在意義がありませんから、掠(かす)ってすらいません。三振ッ!」
「紺野もトライ、あと三振にした点を評価! ゴールキックの得点も!
15対17!」
871書いた人:03/10/01 01:41 ID:V04vaGVN

―――――

「あ〜あ、またパート割り少ないなぁ・・・
いいねぇ、まこっちゃんは。たくさん歌える所あって」
「うーん、あさ美ちゃん、さくらの方でも、あんまパートなかったのぉ?」
「うん、愛ちゃんや加護ちゃんと比べたら、私下手すぎるから、しょうがないんだけどねぇ・・・」
「そっかぁ・・・・・・」
「・・・・・・うん、しょうがないの」
「でもさ!」
「?」
「あさ美ちゃんは、もっとがんばれば、もっと伸びる可能性がある、ってことだよ!」
「でもさぁ・・・でも『お前らは個性を大事にしろ』ってつんくさん言うよねぇ?
どーすればいいんだろ?」
「確かにねぇ・・・どこをとっておいて、どこを直していけばいいのか、分かんないよね」
872書いた人:03/10/01 01:43 ID:ryo2uD5q


―――――



私たちはどうしているのが正しいのかって、ずっと考えてたんだ。



―――――

873書いた人:03/10/01 01:44 ID:ryo2uD5q

「えーっとぉ・・・歩道の点字ブロックが・・・そう、あのブロックの上、放置自転車が止まってるから、
ホントに役立つか分かんないです。だから、ブロックはファール!」
「違うよ、あさ美ちゃん! 放置自転車とあれを置いた人、退場!」
「小川のほうが適切だから、小川にトライ! 27対17!」
「くぅ・・・」
「さっきのお返しだよ、あさ美ちゃん」

得意げにウィンクなんかするの反則だよ、まこっちゃん。
874書いた人:03/10/01 01:45 ID:ryo2uD5q

―――――

「まこっちゃん・・・・・・また口空いてるよ?」
「あぁぁ、ごめん」
「鼻詰まってるわけじゃないのにねぇ、どして?」
「うーん・・・なんでだろ?」
「最近よく突っ込まれるよね、それ」
「うたばんとか?」
「うん、だから結構目立ってるよ」
「そうなんだけどさぁ、でもそれって、アイドルとして正しいか、微妙じゃない?」
「微妙っつーか、高校1年生としてどうよ? って感じ」
875書いた人:03/10/01 01:46 ID:IcCEBdRZ


―――――



もしかして・・・『正しいもの』を見つけるために、まこっちゃんは審判になった?



―――――

876書いた人:03/10/01 01:47 ID:IcCEBdRZ

「スーツの女性、清楚でいて美しいです! ストライク!」
「簡潔でよろしい! 紺野にトライとゴールキックのポイント、27対24」
「あのマンホール・・・」
「前半、終了! 小川、タイムオーバーだ」

笛の音とともに、私とまこっちゃんは床に座り込む。
慌てて後ろのみんな差し出してきた椅子に、なんとか這い上がっても、しばらくは顔を上げられなかった。

疲れた・・・
ずっと目を皿のようにして集中っていうのは、こんなにも体力使うんだ。
まこっちゃんも同じなんだろう、椅子の上でくたっとしたまま。
877書いた人:03/10/01 01:48 ID:IcCEBdRZ

「どう、紺野ちゃん? 大丈夫そう?」

冷たいグラスに入ったジュースを渡しながら、心配そうにのんつぁんが見下ろす。
やっぱり見ているほうも気疲れがあるんだろう、どこかその顔には疲労感が浮かんでいる。
まこっちゃんのほうには私がお願いしておいたように、
公平になるように加護ちゃんがジュースを持っていってくれていた。

でも、一番疲れていたのは多分飯田さん。
奥の方で椅子に倒れこんだまま、ピクリともしない。
矢口さんがノートでパタパタ仰いでいるけど、首筋にじっとりと浮かんだ汗は一向にひく気配が無い。

「うーん、何とかなるかなぁ・・・? 分かんないや」

私の返事に、のんつぁんは要領を得ないような顔をした。
試合のほうは何とかなる。多分。
逆転できない点差じゃないだろう。

・・・・・でも・・・・・・
試合中に頭に浮かんだまこっちゃんの『理由』が、もしその通りだとしたら・・・
ちょっと納得できる。それだけに、私の胸の内は複雑だった。