【モー娘。矢口の問題疑惑写真】

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746書いた人

「あ、あの・・・・・・飯田さん!」

とてもこんなの解けません。
その言葉をグッと飲み込んで、必死で他の問題を探す。
私のその様子に、少し首を傾けて飯田さんは私を見下ろしている。

いや、まだ絶望を伝えるには早すぎる。
他の・・・他の問題は?
何かにすがるようにページを捲る私の目にと、「類題」という文字が止まる。
さっきとおんなじような問題だったら・・・もしかしたら、応用して解けるかもしれない。
747書いた人:03/09/19 23:19 ID:8vgMIxpA

【類題一 小学6年生のB君たちは、男友達6人でクリスマスパーティーを開きました。寂しいですね。
さて用意されていたのは、ホールのデコレーションケーキです。
そこでB君たちは、ケーキを六等分して食べました】

どうでもいいけど、「寂しいですね」なんて合いの手要らないでしょ。
男の子同士だからなぁ・・・・・・これはこれで○だと思うけど。
男の子だったら、別に相手に譲ったりしなくてもいいもんね。
よし、○!

自信を持った答えも、意地悪な巻末の赤い文字によって全否定される。

【類題一 ×
・・・・・・・・・男同士だったら闘え!!】
748書いた人:03/09/19 23:20 ID:8vgMIxpA

・・・・・・・・・・・・

よし! 数学は捨てよう。
次行こう、次!
とは言ったものの、その後も私の回答は尽く外れていった。

【ブラジルの主要輸出品目は、サンバとカーニバルである】

・・・・・・○なの?

【日本の国技はほぼモンゴル相撲】

・・・・・・いや、モンゴル出身が多いだけであってさ、別にちがうでしょ。
確かにあの暴れん坊横綱のイメージ強すぎですけどねぇ。
749書いた人:03/09/19 23:21 ID:8vgMIxpA

だめだこりゃ、と頭の中で爆発ヘアーのチョーさんが唇を突き出した。
ホワワワワワ〜ンというSEまで付いてくる、私の頭脳のサービス精神に乾杯。

「あのぉ〜、飯田さん」

ダメですよぉ、これじゃ。
と正直に言おうとした所、他の参考書をパラパラとみていた飯田さんが雄叫びをあげた。

「おっ! また正解・・・圭織ってば、やっぱりこういうの向いてるのかなぁ?
これだったら、紺野なら余裕だね?」
「・・・・・・・・・えぇ」

あぁ、私ったらダメなヤツ。
飯田さんの脳味噌と私の脳味噌の造りが根本的に違うのは、百も承知だけど。
こんな舞い上がってる飯田さんに言えないよ・・・・・・無理です、なんて。
750書いた人:03/09/19 23:21 ID:8vgMIxpA

「それじゃ紺野、この本でいいのね?」
「はぁ」

自分のダメっぷりと、暗室よりもお先真っ暗な未来に返事も虚ろ。
正直言って、これじゃあどの参考書を使っても同じ気がする。
私を残して、飯田さんはさっさと会計に向かってしまった。
自分のお財布を軽くしないで済むのは嬉しいけど・・・
やってきた不幸の余りの濃密さに、これくらいの喜びなんか霞んでしまう。

どうなんだろう・・・ホントに準一級なんか受かるのかなぁ?
寺に篭って、一週間精進料理を食べるのよりはまだ楽だけどさ。
今度の試験がいつか、っていうのにもよるよね。
なるべく先の方がいいな・・・・・・

とぼとぼと飯田さんの後を追う私の身長は、多分オーラで5cmくらい縮んで見えたと思う。
751書いた人:03/09/19 23:22 ID:8vgMIxpA

飯田さんは会計の横で、腕を組んで待っていた。
私を見つけるなり、嬉しそうにポスターを指差す。

「ほら、紺野。今度の準一級の試験、一ヶ月後だってよ」
「ええぇ!? 無理ですってば・・・一月(ひとつき)じゃ足りません
これならスワヒリ語をマスターするほうがマシですって」
「英語も碌にできないくせに、生意気言ってんじゃないの。
印鑑持ってきてるんでしょ? ほら、今すぐここで申し込みしちゃいな」

保険セールスのおばさんのような強引さ・・・って、私はセールス受けたことないですけど。
ともかくそんな勢いとあつかましさで、飯田さんは申し込み用紙とボールペンを私に叩きつける。

あとはまるで霊感商法に罹ったみたい。
あら不思議、私の右手が勝手に動いております
・・・・・と、ふざけてナレーションでも入れなくちゃやってらんない。
752書いた人:03/09/19 23:24 ID:1EEeEivg

――――――

「結果が出るのが試験の二週間後か・・・・・・早くていいね。
それじゃそれまでは、とにかくガマンガマンだ」
「はぁ」

飯田さんは我慢するだけでいいんですけど、私は頭をフル回転させてあのふざけた思考回路に合わせないといけないんですよぅ。
私の心の中を絵で表すなら、ムンクの「叫び」がぴったりだ。
とりあえず一月・・・猛勉強だなぁ・・・

冷房が効いた本屋さんから出るのが少し名残惜しくて、私たちはゆっくりと出口へ向かう。
飯田さんが渡してくれた本屋さんの袋が、鉄アレイでも入ってるみたいに重い。
と、飯田さんの腕にも同じ袋が抱きかかえられているのに気付いた。
753書いた人:03/09/19 23:25 ID:1EEeEivg

「飯田さん・・・・・・何か買われたんですか?」
「え? あ、うん・・・・・・ちょっとね」

そう言ってそっぽを向く。
あれ?
どうしたんだろう?

「何買ったんですか?」
「いや・・・別に、つまんないもんよ」
「ちょっと見せて下さいよ」

手を伸ばそうとした瞬間、飯田さんはその袋を頭の上に高く掲げる。
754書いた人:03/09/19 23:26 ID:1EEeEivg

「見せるほどのもんじゃないよ」
「うぅ・・・」

多分のんつぁんが「見せて〜」って言ったら、飯田さんは本を一ページ一ページ、読み聞かせすらするだろう。
それに比べて私ときたら審判の資格取得を押し付けられ、
揚げ句の果てにリーダーの買った本まで見せてもらえないなんて・・・

『自分はもしかして、モーニング娘。の中で大切に思われていないんじゃないか?』

そんなことまで頭に浮かんできて、一気に悲しくなってくる。
あ、ヤバイ。
目に溜まった涙は、『止めなくちゃ』って私の感情とは関係なく、流れ落ちる。
755書いた人:03/09/19 23:27 ID:+3sUMlox

「ちょ、ちょっと・・・紺野、泣いてんの?」
「いえ・・・・・・泣いてなんかッ、いませんよ」

涙を流しながら言うこの言葉は、殆ど説得力ゼロ。
飯田さんは漫画みたいにあたふたとすると、観念したように「しょうがないなぁ」と呟いた。

「紙袋破くの嫌だったから、見せなかっただけだって。
ほら、紺野・・・・・・教えてあげるから。私が買った本、ほら・・・えーと・・・これ、そうこれ」

「よっ」と背伸びをして、飯田さんはすぐそこの本棚から本を抜き出す。
心配そうに私と目を合わせたまま、ぞんざいに本を私に見せてくれた。

「ね? これだって、これ」
「・・・・・・ホントに・・・これなんですかぁ?」
「そうだって。ね? だからもう泣かない」
「ホントに・・・保田さんの写真集なんですかぁ?」
756書いた人:03/09/19 23:28 ID:+3sUMlox

涙を手で拭いながらの私の言葉に、飯田さんは初めて視線を本に落とす。

「あ、う、うん・・・そうだよ、これ。
ほら、圭ちゃんの写真集まだ持ってなかったから、買ってあげないといけないって思ってさ」
「そうなんですか」
「そうだよ、ほら、だから圭織、『つまんないものだ』って言ったでしょ?」
「それって・・・酷いです」

私の言葉にぺろっと舌を出した飯田さんが凄く可愛くて、涙はすぅっとひいてしまった。
笑いながら本棚に写真集を返す飯田さんを見ながら、
今まで一度もあんな飯田さんの顔を見たことが無いのに気付いた。

泣いていたのと飯田さんの新たな一面を見た満足感で、この時私の感覚は鈍っていた。
だって保田さんの写真集を見て、飯田さんがあんなに慌てていたのを見逃していたから。