660 :
書いた人:
「はい、のんつぁん・・・ポッキー」
「うおぉぉぉ・・・・・・・ありがとぉ!紺野ちゃん!」
私の差し出したポッキーに、そのまま喰らい付くのんつぁん。
いやぁ・・・かわいいなぁ。
もう1本あげちゃんだから。
最近の私、紺野あさ美の密かな楽しみはこれ。
楽屋でのんつぁんと一緒にお菓子を食べること、やっぱこれしかない。
のんつぁんと一緒に食べるお菓子は、数十倍(当社比)美味しい気がする。
やっぱり美味しそうにものを食べる人と一緒だと、自分まで美味しくなっちゃうのだ。
一本、また一本とポッキーを蹂躙していくのんつぁんに目を細めていると、
「アウトオォォォ―――――!!」
背後で突然起こった絶叫に、腰が抜けそうになった。
661 :
書いた人:03/09/09 23:55 ID:jY6/4KYQ
【ジャッジメント・ジャッジメント】
662 :
書いた人:03/09/09 23:56 ID:jY6/4KYQ
のんつぁんはまるでお説教をされたみたいに、おっきな目を潤ませて、震えている。
思わず抱き寄せると、のんつぁんもぎゅっと私の背中に手を廻してきた。
そのままの体勢で振り返ると、どこか誇らしげに、
親指を立てた右手を高く掲げたまこっちゃんの姿。
私の口から出てくるのは溜息とも付かない、一音節だけ。
「は?」
「・・・・・・アウト」
「いや、なにが・・・?まこっちゃん?」
「だから、さっきからのあさ美ちゃんとのんつぁん、アウト」
663 :
書いた人:03/09/09 23:57 ID:jY6/4KYQ
○月×日
今日、遂にまこっちゃんの脳が悪い小人さんたちに占拠されてしまいました。
とりあえず今日の日記の書き出しを決めてみた。
日頃無駄に口を開けて、他人より多く酸素を脳に送っている甲斐も無いのか、
まこっちゃんは火星大接近に伴って、どうやらタコ型宇宙人からの指令をまともに傍受したらしい。
いや、宇宙人の方がまだまともに話せる気がする。
噛み合わない会話に呆気に取られて、思わず私はのんつぁんを抱きしめる腕を緩めた。
そして私は、そのまままこっちゃんに身体を向ける。
664 :
書いた人:03/09/09 23:58 ID:jY6/4KYQ
私と同じく勿論事態が把握できないのんつぁんは、
まだ自慢げに右手を高々と掲げているまこっちゃんを気の毒そうに見ていた。
私のキャミソールの裾を、のんつぁんはぎゅっと握ったまま。
やれやれ・・・ここは同期の私がどうにかしなくちゃいけないんだよねぇ。
2・3歩まこっちゃんに向けて歩み寄る。
私の動きに首を傾げてみせるまこっちゃん。
私はあなたの行動に首を傾げてあげたい、とは流石に言わない。
「えーと・・・・・・まこっちゃん?何がアウトなの?」
「だからぁ・・・・・・さっきから、のんつぁんとあさ美ちゃん、ずーっとお菓子食べてたでしょ?
あれが、アウトなんだぁ!」
「いや・・・・・・さ、だから・・・・・・それが何で?って聞いてるんだけど」
665 :
書いた人:03/09/09 23:59 ID:jY6/4KYQ
昨日までの友人だと思っていた人はどうやら異次元出身だったらしく、私の問いかけにニヤッと笑った。
「あれ?あさ美ちゃあん、もしかして・・・・・・私の資格を疑ってるんだなぁ!?
ふふふ・・・・・・これ、見てみなさいってば!」
ジャーンって効果音を付けるかのように、颯爽とまこっちゃんは手帳みたいなものを取り出した。
思わず私とのんつぁんは、首を伸ばしてそれを覗き見る。
【証 小川麻琴 右の者 審判2級と認める】
カンタンな作りだけど、それでも結構立派そうな手帳の中には、それだけ書かれていた。
ダメだ。
ますます訳が分からない。
666 :
書いた人:03/09/10 00:01 ID:eofDQTK1
私たちの戸惑いを放っておいて、まこっちゃんは「エッヘン」とばかりに胸を張って、そんなに有りもしないバストを突き出す。
「・・・だからぁ、私はあさ美ちゃんとのんつぁんのそーいう行為は、
アイドルとしてダメダメだと思うからぁ、アウト判定を下したんだぁ!」
そう言って、眩しいほどの笑顔でもう一度アウトのポーズ。
・・・・・・よし、私の知ってる小川麻琴は死んだ。
心の中では往年のキンキンが『ハイ消えた〜』と、台を叩いていた。
自分を無理やり納得させようとしていた所、ツンツン、とのんつぁんが私の脇腹を突付く。
振り向いた私に、楽屋の隅っこをちょんちょんと指差した。
667 :
書いた人:03/09/10 00:02 ID:eofDQTK1
「・・・・・大丈夫なの?あれ」
楽屋隅で、既にのんつぁんの中ではまこっちゃんは「あれ」扱いだった。
壁におでこをつけて、二人でひそひそと会話。
「なんだろう?あれかな?夏だから遂に来ちゃったのかな?」
「いや・・・それにしたって、あれはおかしいでしょ」
「だよねぇ」
「何なの?あの審判・・・・・・って」
「さぁ?別にどの競技の審判かって書いてなかったよ」
「あのさぁ、あさ美ちゃん・・・すっごく嫌な予感がするんだけど・・・」
「あぁあ・・・多分、私もおんなじだ」
こっそりとまこっちゃんに振り返ってみた。
668 :
書いた人:03/09/10 00:04 ID:eofDQTK1
「アウットォォォォォオーーーーーー!!
って言うか、石川さん。その服装、もうワンアウトとかじゃなくて、スリーアウトですッ」
「えぇぇ!?何言ってんのよぉ・・・」
「いや、もういいから・・・チェンジです、チェンジ」
楽屋に入ってきた、お前はリメイク版ゴレンジャーのモモレンジャーを狙ってんのか、
って感じの衣装の石川さんが次なる標的。
「いや、小川。あんたねぇ・・・チェンジとか、訳分かんないんだけど」
抗議を重ねる石川さんに、
「あぁ、あんまり抗議すると、退場させちゃいますよぉ!」
と、よく分からないことを言うまこっちゃん。
「・・・・・・取り敢えず、今の判定には賛成」
「うん」
「ちょっと、あんたたち!!」
私とのんつぁんの声に、石川さんがジト目を向けてきた。
669 :
書いた人:03/09/10 00:04 ID:eofDQTK1
今日はここまで・・・って久々に言いますね。
続きはまた明日。
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!
新作期待してますので、頑張ってください!
(おかげさまでおいらも別スレで小説始めさせてもらってます。)
>8
ヤフーBBのお試しセットくばってるやつら最近見ないよね。
排除命令でも下ったのか。
結局ヤフーBBはどうなんだ、クソなのか。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!
しょっちゅう覗いてた甲斐がありました!
まこっちゃん……今度は逆の方向に吹っ切れてる?
(0^〜^)<作者さん、新作おめです。
つ日 うーん。まこっちゃんがリアル。
てゆーか、ピーマコそのものですね。
楽しい作品の続きが楽しみですYO。
@ノハ@ さて、また寝っ転びながら小説でも読もうかな
⊂´⌒つ‘д‘)つ ところで小説総合スレで紹介したんやけど、良かったかな?
>>674 あいぼんさん、お行儀悪いですよ。
とたしなめつつ書いた人タソキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!
レスは少ないですが、キカイノココロからずっと楽しみに読んでいます。
これでも食べてまたがんがってください つ◎ c□
676 :
書いた人:03/09/10 23:42 ID:lbSbAaDa
――――――――――
「・・・・・・どうしよっかぁ?梨華ちゃん、いい考えないの?」
「そんなこと言われたってさぁ・・・・・・これは無理でしょ」
「石川さんはまだスリーアウトだからいいじゃないですか。
私なんて、『アイドルなのに【豆】なんてニックネーム有り得ない』って、
楽屋入った直後に試合終了させられたんですよ!!」
「そこはさぁ・・・やっぱり人徳?の差じゃないかなぁ」
「・・・・・・石川さん、酷いです」
「あ〜、やっぱりシゲさんは流石だなぁ。
今度新垣塾で、すっごいたくさん話振るからね!」
とりあえず楽屋が同じ面々で、まこっちゃん対策会議を開催。
当然のことながら碌な意見が出るはずも無かった。
のんつぁん、石川さん、お豆、シゲさん、そして私。
で、まこっちゃんはと言うと・・・・・・
「あ〜、今のはアウトだぁ・・・・・・ここで視聴者が欲しいのは、あんたの自慢話じゃないってば!
もう退場だ、退場!」
テレビを見ながら、元インドネシア大統領夫人の化け物にダメ出しをしていた。
677 :
書いた人:03/09/10 23:43 ID:lbSbAaDa
その様子を一瞥して、再び石川さんは眉をひそめる。
「ほらぁ、テレビに向かって独り言なんて、ボケちゃったみたいじゃない」
「まこっちゃんあんなんで今日の収録大丈夫なんですかねぇ・・・」
「まあでも、あんだけ人数いるんだから、一人くらいちょっとおかしくっても大丈夫じゃない?」
「・・・・・・また毒舌です」
「でもさぁ・・・」
「どしたの?のの」
「・・・・・・今日って最初さぁ・・・ハロプロワイド撮るんじゃなかったっけ?」
のんつぁんの言葉にハッとなる。
そうだぁ・・・こんな日に限って忙しい中澤さんのせいで、今日はあれを最初に撮るんだったぁ。
絶対禄でも無いことが起きるんだから・・・
678 :
書いた人:03/09/10 23:44 ID:lbSbAaDa
「ちょっと、だったらさっさと着替えなさいよ。
ほらぁ、小川も・・・テレビ見てないで、衣装着ちゃいなさい!」
「はぁ〜い」
今度は素直に従ったまこっちゃんは、てくてくと衣装を掛けたラックに向かう。
ふぅん・・・普通に接する分には、特に問題ないんだねぇ。
まるでモーゼの十戒みたいにまこっちゃんの行く手をみんなが除けていく。
小学校の時『○○菌』扱いされて男子たちに苛められていた級友が何故か思い起こされ、少し目頭が熱くなる。
が、私の安心も束の間、まこっちゃんは自分用のスーツを手にとると、顔を顰めた。
「え・・・?どうしたの?まこっちゃん」
「アウトだぁ、これ」
「え?これって・・・・・・その衣装?」
その言葉に頷くと、まこっちゃんはズビビッと親指を立てた。
・・・・・・どーでもいいけど、偶にはセーフ判定は無いのかなぁ。
679 :
書いた人:03/09/10 23:45 ID:lbSbAaDa
『それは貴様の気に入らない衣装だからアウトなんじゃないのか』
という言葉が喉まででかかったのをやっとのことで止めて、
私はまるでハウスマヌカンのようにまこっちゃんの衣装を褒めちぎった。
「え?ほら、でも・・・このスーツも結構可愛いと思うよ?」
「ダメ!アウト」
「ほらぁ、ワイシャツの色とか、ピンクで可愛いよ?ね?」
「判定は変えられないよぉ、あさ美ちゃん。
だってスーツなんて、アイドルが着る衣装じゃないもぉん」
680 :
書いた人:03/09/10 23:46 ID:lbSbAaDa
むぅ。
何で私がこんなことをしなくちゃいけないんだろう・・・
このままじゃ私の衣装がえが間に合わないよぉ・・・と思いつつ、
いつものフリフリのドレスに手を伸ばす。
はぁ・・・こんなんで今日の収録大丈夫かなぁ・・・
と、目の前でまこっちゃんの瞳が光る。
・・・・・・マサルさん以来だよ、実際に目が光る人って。
「ッセーーーーーーーフッ!!」
「え!?なにが!?」
「あさ美ちゃあん・・・いいなぁ・・・その衣装。完璧にセーフ。
もうねぇ、あれ、2塁まで走っていいよ!」
ウットリとした目で、ロッカー(彼女の中の二塁)を指し示す。
セーフが出てもちっとも嬉しくない上に、この状況に少し慣れ始めた自分にびっくり。
とりあえず適応能力は、人並み以上に持ってるんだなぁ、私。
681 :
書いた人:03/09/10 23:48 ID:lbSbAaDa
結局ディレクターさんに我侭を言って、
まこっちゃんは衣装を80年代のアイドルみたいなのに変えてもらっていた。
いまどきそんなフリフリのアイドル、いないってば・・・
「「お願いしまーす」」
そう大声でお辞儀をしたスタジオには、全く収録に関係が無いのに娘全員がカメラ脇に勢ぞろい。
石川さんとのんつぁんが知らせて回ったんだろう。
飯田さんはどこか心配そう・・・・・・
中澤さんのお歳にアウト判定が出ないことを私と一緒に祈ってください。
矢口さん・・・なんでそんなに笑顔なんですか?
立ち位置に向かいながら、私はギャラリーに目で訴える。
『お願い・・・・・・助けて』
が、返って来たのはひたすら繰り返されるガッツポーズ。
横一列に並んで13人が思い思いのガッツポーズをしているのは、シュールな光景だった。
いや、ガッツだけじゃどうしようもないですって、これ・・・
682 :
書いた人:03/09/10 23:51 ID:lbSbAaDa
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。どんなことが起きるんでしょう。
期待そして不安・・・・・・でもワクワク。
684 :
670:03/09/12 01:10 ID:aX1H54DX
川o・-・)ノ<更新乙です
またま色んなスレを読みあさってたら偶然更新してるのをハケーンしますた
期待してますよ
685 :
書いた人:03/09/13 00:56 ID:CCkj+Spj
ちょっとですねぇ・・・体調を崩しまして。
申し訳無いのですが、更新はしばらくお待ちください。
ホントごめんなさいです。
無理しないでゆっくり休んでくださいな
川o・-・)ノ<健康第一
マターリいきましょう
(
>>684 ×またま→○たまたま)
8ノノ人ヽ8∈
ノノ*^ー^) <作者さんが健康になりますように♪
/ノ ∞ Yア うーん。なるなるなったぁー♪
. (J/_ノ_ノハ
(( (_/ ヽ_フ
689 :
書いた人:03/09/14 02:35 ID:RF0xVCTx
――――――――――
あれですよ、みなさん。
ガッツとファイトだけじゃどうしようもないことって世の中にあるんですよ。
と、収録を終えた私は真っ白に燃え尽きていた。
気分は対戦相手(ホセ)を試合中に白髪にさせていく、元不良のボクサー。
疲れた・・・こんなに疲れた収録、初めてだ。
――――――――――
690 :
書いた人:03/09/14 02:37 ID:RF0xVCTx
私たちに遅れてスタジオ入りした中澤さんは、
居並ぶギャラリーとどこか雰囲気の違うスタジオに、入ってくるなり後ずさりしていた。
「え・・・・・・なに?ずらーーっと並んで・・・・・・
あんたら、揃って何やっとんの?」
「え・・・と、たまには・・・・・・こっちの収録も見たいなって思って・・・ね?矢口?」
「え!?おいら?
・・・・・・・そ、そうだよ!たまには裕ちゃんの活躍してるとこ、見たいんだよね」
「そうだべ・・・・・ほら、最近なっち、裕ちゃんとめっきり接点減っちゃったっしょ?」
「なっちは前から接点薄いと思う・・・・・・ま、いいんけど」
691 :
書いた人:03/09/14 02:39 ID:q7JIebzY
疑い120%のほっそい目付きで、中澤さんは舐めまわすように私たちを見回した。
立ち位置に入ると、殆ど読まなくても進行が可能な台本に一応目を通し始める。
こういう所、この人は細かい。
私はといえば・・・飯田さんをじっと見つめてコンタクトを図る。
もう立ち位置からずれられないから、目で訴えるしかないもの。
届け!恋のテレパシー!・・・・・・いや、別に飯田さんに恋してないけど。
と、私の目から発せられた怪光線に気づいたのか首を傾げる飯田さん。
中澤さんに怪しまれないように・・・口をパクパクさせて何とか伝えようとする。
692 :
書いた人:03/09/14 02:40 ID:q7JIebzY
「(・・・・・・ちょっと飯田さん!何でまこっちゃんがああなってること、隠しちゃうんですか?)」
「(・・・・・・?)」
「(な・ん・で・い・わ・な・い・ん・で・す・か?)」
しばらく考えたあと、ぽんと胸の前で手を合わせて飯田さんは目を輝かせる。
ふぅ・・・やっと分かってくれましたか。
つかつかとADさんのところに歩み寄ると、飯田さんはカンペを奪い取ってマジックで何やら書き始めた。
『よし』と小声で言うと、飯田さんはカンペを中澤さんには見えない絶妙の角度で掲げる。
【金魚のマネ上手になったね!・・・・・・でも、収録ではやめようね】
しかもサイケデリックな金魚のイラスト付き。
・・・・・・・・・死んじゃえ。
693 :
書いた人:03/09/14 02:41 ID:q7JIebzY
「ちょっと圭織、そうじゃないべさ」
私と飯田さんのやりとりに気付いたのか、お隣にいた安倍さんがマジックを操る。
どうでもいいですけど・・・・・・中澤さんに聞こえますよ。
まだ気付かないのか、中澤さんは頬杖をついて台本をペラペラ捲る。
再び安倍さんと飯田さんに目を移すと、『おーっ、なるほど』と、えらく納得した様子の飯田さん。
自慢げに胸を張って、安倍さんはカンペを掲げる。
【カンペ見てもいいですか?っていったっしょ?
ダメだべ紺野、もう先輩なんだから、カンペなんかに頼ってばっかりじゃダメ!】
・・・・・・なんで文章まで北海道弁なんですか?
ダメだぁ・・・もっと日頃から、先輩たちとコミュニケーションとっておけばよかった。
諦めてうなだれる私に、
「そこ!紺野ぉ〜、感じ悪いぞぉ」
「んだべ・・・先輩の思いやり思いっきり無視して・・・」
余計な火種を一つ増やしただけだった。
つーか普通に喋っても、全然大丈夫だったんじゃ・・・・・・
694 :
書いた人:03/09/14 02:43 ID:I271t1kZ
――――――――――
「ハロープロジェクト唯一の公認プログラム、ハロプロワイドの時間がやって参りました。
キャスターの、中澤裕子ですッ!!」
いつも通りに、殆ど息継ぎをせずに一気に中澤さんが言い切る。
収録始まっちゃったなぁ・・・
ぬるいコーナーだけど、それなりの緊張感がスタジオを包んでいて、私は少し息を飲んだ。
「はい、そしてこの方」
中澤さんのまこっちゃんへの振りに、背筋をおかしな感覚が走る。
お願いまこっちゃん・・・頼むから、平穏に収録を終わらせてね。
台本通りに、いつもみたいにつっかえつっかえでイイからさ。
気のせいだろうか。中澤さんの振りを受けて、まこっちゃんの瞳が光ったように見えた。
695 :
書いた人:03/09/14 02:44 ID:I271t1kZ
「は〜い、私が小川麻琴です!
よろしくお願いしま〜す。中澤さん・・・・・・今日もお綺麗ですね」
フリフリのお洋服にうずもれて、まこっちゃんは可愛らしく頭を左に45度傾げる。
しかも口調・・・いつもの「だでぃどぅでど」って感じのバカっぽい話し方じゃない。
まるで完璧なアイドルを見ているみたい・・・・・・
ただ、思いっきりまこっちゃんには似合っていないけど。
「・・・・・・へ?」
呆気にとられた中澤さんは肩の力が抜けたみたい。
それでもそれなりの趣向だと思ったんだろう、いつものまこっちゃんいじりをアドリブで開始。
696 :
書いた人:03/09/14 02:45 ID:I271t1kZ
「いつもの『ピーピーピー』ってヤツやらないんですね。
それに衣装の方も・・・・・・どうされたんですか?」
「えぇ、あれはやめました!」
「またまたぁ・・・・・・あなたピーマコさんでしょ?」
「いいえ、あのキャラクターはアイドルがやるには痛いので封印したんですって」
「ご冗談を・・・まさか、恋しちゃってるから?」
「いえいえ・・・アイドルは恋なんかしませんって。
やっぱりアイドルたる者、こういう風じゃないといけないって思って変えたんですよ」
まるで神がかったみたいな目付きで、まこっちゃんはウットリとしながら自分の変節振りを語る。
いや・・・まこっちゃんのポリシーはいいんだけどさ・・・思いっきり台本から外れてるよね?
「カァーーーートッ!!
ちょ、ちょっと・・・・・・小川さん!!ちゃんとやってくんないとダメだよ!!」
私が思うのと同時に、状況にフリーズしていたディレクターの怒声が響いた。
予想していたとはいえ、あまりの大声に思わず肩がすくむ。
697 :
書いた人:03/09/14 02:47 ID:I271t1kZ
「あ・・・・・・あの、小川ちょっと暑さにやられてるみたいなんで・・・見逃してもらえません?」
「そ、そうなんですよ!それと知恵熱が出てきて、最近ちょっとおかしくって・・・」
ディレクターが二の句を継ぐ前に、飯田さんと矢口さんが速攻でフォローに入る。
流石はタンポポコンビネーション、私も見習わなくっちゃ。
同時に憤懣やるかたない、って感じの中澤さんには、
あらかじめ決められてたんだろう、石川さんが生贄として供出されていた。
ドナドナを口ずさみながら、石川さんはひたすら中澤さんの激しい言葉を受け止める。
698 :
書いた人:03/09/14 02:48 ID:I271t1kZ
その様子を脇目に、私はまこっちゃんの元へ走る。
まこっちゃんは既にのんつぁんとお豆の公開説教を受けていた。
「まこっちゃ〜ん、台本無視はマズイってば」
「いいんだぁ!だって、あんな台本アウトだもん!」
「つーかさぁ・・・・・・なんで話し方まで元に戻ってんのよ」
「あれは収録用の話し方にしたんだもん」
・・・・・・ダメだ、人語が通じる状態じゃないや。
お父さん、お母さん・・・・・あさ美は芸能界で疲れてしまいました。
混迷を極めるスタジオの中央で、私は悲劇のヒロインよろしく立ち尽くしていた。
699 :
書いた人:03/09/14 02:51 ID:I271t1kZ
今日はここまで。
暫定的に復活。ご迷惑をおかけいたしました。
>>683 あんまり深刻にはしないつもりです。
>>684 一週間では到底終わらなくなってしまいそうです。
>>686 ありがとうございます。
>>687 昼間寝込んでいたら、こんな時間に起床。
>>688 おかげさまで大分よくなりましたので、アップしてみた次第です。
☆ノハヽ 作者さん、更新乙です♪
ノノ*^ー^) <うーん。えりりんのオマジナイが効いてくれたのかな、嬉しいです♪
/∪:::::) 作品、不思議なお話ですね♪
~(__)_) どうなるのかな、続きが気になります♪
701 :
ぶっきー:03/09/14 04:59 ID:bONBTpU5
bubukaの写真どこにあるの??
みたいのよ
702 :
:03/09/14 05:26 ID:ZaykaDzp
川o・-・)ノ<更新乙です
体調が戻ったようでなによりです
にしても、相変わらず情景描写うまいなぁ〜
更新乙ー!
家でゆっくり読みます〜
てーか、こんなに早く次回作が読めるとは(w
うれしいです。
705 :
書いた人:03/09/15 20:37 ID:q11DAXCA
――――― 1週間後
「おはよぅございま〜す」
「うわっ!!ちょっと・・・・・・よっすぃ〜どーしたの?
目の下・・・・・・凄いクマになってるよ・・・」
「そーいう矢口さんこそ、痩せました?
何か・・・・・・頬、こけてますよねぇ?」
白い肌にくっきりと真っ黒いクマを浮かび上がらせた吉澤さん。
それを心配しつつも、返って心配されてる矢口さん。
朝の楽屋なのに、みんなまるで徹夜明けみたいにぐったりしている。
まだ吉澤さんに反応して見せた矢口さんはいい方だ。
他のみんなは、ある人は机に突っ伏して、ある人は窓の外をぼんやり眺めて、殆ど気力が無い。
706 :
書いた人:03/09/15 20:38 ID:q11DAXCA
「おはよぉ・・・・・・」
「あ、圭織・・・・・・・・・って、そのまぶた・・・
何か二重とかどころじゃなくなってるよ・・・・・・」
「何かねぇ・・・・・顔むくんじゃってさぁ・・・今朝数えたら、四重だよ四重。新記録」
最後に入ってきた飯田さんがこれなら、
「ののぉ・・・・・・・・・お菓子買うて来てるんけど、食べる?
ちょっとでもお腹に入れとかな、って思うたんけど、どうしても食べられんかった」
「いや・・・・・・いいや。
何か最近さぁ・・・・・・胃が痛むんだよねぇ・・・・・・こう、キリキリと」
「うそぉ!?うちもやで・・・・・・・・・食欲湧かんよなぁ」
のんつぁんと加護ちゃんは、二人で気力の無い話をし、
「私・・・・・・モーニング娘。続ける気力なくなってきた」
「エリ何言っとんの・・・・・・でも・・・気持ちは分かる」
「朝玄関出るときにさぁ、最近眩暈がするんだよねぇ」
六期の子たちは既に壊れかけていた。
707 :
書いた人:03/09/15 20:39 ID:q11DAXCA
原因は・・・誰も口にしないけど、誰もが分かってる。
全てのことに二進法の判定をし始めた、ヤツの仕業だ。
あるときはメンバーの生活態度に、
あるときはコンサートの振り付けに、
またあるときは歌のパート割にまで。
私たちは審判二級の彼女に、四六時中監視され続けて憔悴しきっていた。
なんつーか、もう「彼女」としか呼べない。
今この楽屋で彼女の名前を出しただけで、
みんなは鬼軍曹の面前のように、背筋を限りなく伸ばすと思う。
彼女の親友だった(過去形)の私としては、心苦しい限り。
そういう私も、最近は大好きなお餅も喉を通らない日々が続いている。
そのおかげでちょっぴり胃下垂も治まりつつあるんだけど・・・それでも気分はちっとも晴れないのだ。
自然と難しい顔になっていたんだろう、
「紺野・・・・・・あんたも、大丈夫?」
飯田さんが私の肩に軽く手を置いた。
708 :
書いた人:03/09/15 20:40 ID:q11DAXCA
飯田さんはそのまま、私の肩を後ろから抱きしめる振りをして、私に耳打ちを始める。
微かに吐息が耳たぶに当たって、ちょっぴりくすぐったい。
「(・・・・・・紺野・・・・・・今日、ヤツは・・・・・遅れて来るんだよね?)」
「(・・・・・・ハイ。確か、腰の定期検診がありますから、1時間くらい遅れてくるって・・・)」
私も前を向いたまま、誰にも聞こえないように呟いて返す。
ちょっとでもまこっちゃんの話をしているのが分かったら、この楽屋がまるで革命前夜のような大騒ぎになっちゃうんだから。
709 :
書いた人:03/09/15 20:41 ID:4skzOArq
飯田さんの動きが止まった。
じっと何かを考えているみたいに、ただ少しだけ、巻きつく腕の力が強まったみたい。
「(・・・・・・よし)」
「(・・・・・・・・・)」
「(・・・・・・やるか)」
「(・・・・・・?)」
「(・・・対策会議!)」
慌てて飯田さんの腕を振り解いて、振り返る。
見上げた飯田さんの顔には、どこか生気が戻っていた。
よっぽどビックリした顔を私はしていたんだろう、私の顔を見て、飯田さんが微かに笑っていた。
710 :
書いた人:03/09/15 20:42 ID:4skzOArq
――――――
「つまり・・・・・・小川を・・・黙らせるような方法を、みんなで考えて欲しいわけ」
『小川を』の所だけ、まるで禁忌のように声を潜めて、飯田さんはテーブルの周りに座った面々を見渡した。
「んなの無理よ・・・」と、石川さんが鼻で笑いながら、トメ子よりも疲れきった表情で呟く。
その様子を見とって、飯田さんの眉が危険な角度に上がった。
「んなの分かってるわよ!それでも何か、いい案を考えて、ってことなの!」
「圭織、そんなに怒っちゃ梨華ちゃん可哀想だべ・・・」
「あぅぅ・・・」
それを見て少し泣きそうになるのんつぁん。
ダメだ・・・みんなこの一週間で疲れきっちゃってるんだもん。
711 :
書いた人:03/09/15 20:43 ID:4skzOArq
「大体今のあいつにどんな反論してもさぁ、すぐにアウト、とか言われて一蹴されちゃうもんなぁ」
吉澤さんの言葉で、またみんなが静まり返る。
目を机の上の一転に集中させて、みんな一言も喋らない。
多分今のまこっちゃんには何を言っても通じないんだろう。
どんな基準かはさっぱり分かんないけど、まこっちゃんは某半島の豚主席並みの独裁振りを発揮してる。
その『基準』が分かんないから、どうしようもない。
「藤本・・・・・・あんたは、何か案無いの?」
みんなが沈み込んでいる中、藤本さんだけは頬杖を付いたまま、さっきからそっぽを向いていた。
飯田さんの声が聞こえているのかいないのか、ずっとその体勢を維持したまま。
712 :
書いた人:03/09/15 20:43 ID:4skzOArq
「藤本ッ!!」
飯田さんの怒声に、俯いていた六期の子たちがビクッと肩を震わせた。
零下30℃くらいの目付きを保ちながら、藤本さんは飯田さんは斜めに睨みつける。
「別に・・・・・・いい案なんてありませんから」
「ッ・・・!!」
飯田さんの左腕に、とっさに安倍さんがしがみついて押し止める。
その様子を見て、少しせせら笑ったように藤本さんは言葉を次々と紡ぎ出す。
「ホントにあいつがやってることが間違ってると思うんだったら、堂々と文句言えば良いんですよ」
「それもできずにこんな所でコソコソ会議するのが、時間の無駄です」
「もう行ってもいいですか?私、本番前に台本読んでおこうと思ってたんで」
そう言って立ち上がる藤本さんを、誰も止めることができなかった。
713 :
書いた人:03/09/15 20:45 ID:4skzOArq
出口の所で立ち止まると、少し馬鹿にしたように藤本さんは振り向いた。
「まぁ・・・・・・今度あいつが変なジャッジしてきたら、反対にアウトって言ってやったらどうです?
言うこと聞いてくれるかなんて、分かんないですけど」
そう言ってドアを開けた肩を、背後から飯田さんがグッとつかんだ。
刹那、一気に緊迫した空気が強まる。
矢口さんと安部さんはすぐに中腰になって、いつでも飛び出せるようにして。
私たち年下組は、ただその状況に震えていた。
でも・・・・・・
多分もう一言嫌味でも言おうと思っていたんだろう、振り向いた藤本さんは、目を見開いて止まっていた。
何があったんだろう?
でも私たちには構わずに、飯田さんは脳内電波で話を続ける。
「あんた・・・・・・今、すっごくいいこと言った!
・・・・・・そうだよ、そうすれば良いんだよね・・・なんで気付かなかったんだろう?」
お願いです・・・一人で会話しないで下さい。
714 :
書いた人:03/09/15 20:47 ID:4skzOArq
川o・-・)ノ<更新乙です
どの辺を誉めてるかって?
全てです!(w
次回更新も楽しみにしています
更新乙っす。
昼間、映画の宣伝番組を見て、
梨華ちゃんの演技はアウトやなあ、と思ってしまったよ。
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。緊迫感があって面白いですねぇ。
他人事じゃなく、2ちゃんねらにとっては
とても勉強になるお話ですね。
( ‘д‘)ノ <更新乙!ところで27日くらいでn日なんで気ーつけや
719 :
書いた人:03/09/17 01:46 ID:BKBm+TtJ
「ちょっと・・・どういうこと?ちゃんと話して欲しいべ」
安部さんに促されて飯田さんは再び席につく。
まだ興奮覚めやらぬように、飯田さんは大きい目をますます見広げて唇の端を上げていた。
その光景の異様さに藤本さんもいつの間にか、自分の席に戻っていた。
「つまりね・・・・・・」
「「「「「つまり!?」」」」」
「誰かがさ・・・・・・とればいいのよ。審判の資格!」
人さし指を立てて、天下を取ったように飯田さん。
まるでもう、まこっちゃんの脅威がなくなったみたい。
「できればねぇ・・・・・・小川よりも上の資格の方がいいかな?
あいつ2級でしょ?なら、準1級とか1級を取ればいいのよ」
その言葉でみんなの目がキラキラと輝き始めた。
石川さん・・・・・・さっきまであんなに沈み込んでたのに、
手まで組んで飯田さんを見つめないで下さい。キショいから。
でもただ一人だけ、矢口さんは神妙な顔のまま。
720 :
書いた人:03/09/17 01:47 ID:BKBm+TtJ
「でもさぁ・・・・・・」
「何よ?矢口。まさか圭織のこのスペシャルな案に、文句でもあるって言うの?」
妙なハイテンションのまま、今にも踊りだしそうに身体をくねらせる飯田さん。
矢口さんは眉間に皺を寄せて、口を尖らせた。
「その資格さぁ、誰が取んだよ?」
「え?そりゃ・・・誰か」
「圭織さぁ・・・英検とか漢字検定の準1級って、めちゃくちゃ難しいんだぜ?
そんな頭の持ち主が、モーニング娘。にいると思ってんの?」
「あぅ」
再び固まる私たち。
そうなのだ。
アイドルをやりながらで、学校の勉強でさえ追いついていない私たちがそんな資格取れるわけ無い。
学校を出ちゃった年上組に至っては、もっての外。
しかも相手にするのは訳が分からない「審判」の資格。
それなりの脳味噌が・・・多分必要だ。
721 :
書いた人:03/09/17 01:48 ID:BKBm+TtJ
そんな中、一人腕を組んで自信満々の様子で安倍さんは目を細めた。
「そんなら、圭ちゃんにやってもらうべ。どうせ今、ヒマっしょ?」
「・・・・・・安倍さん、酷すぎですよ?保田さん、もうモーニング娘。じゃないんですからぁ」
「なんで?圭ちゃんだって、元モーニング娘。っしょ?」
「いや・・・石川の言うとおりでしょ。
それにそんなに『ヒマ』にアクセント置くなよ、圭ちゃん聞いたら泣くぜ?」
「そうかなぁ・・・・・・圭織はどう思うのよ?」
「私はさぁ・・・やっぱり、モーニング娘。の中で解決したいなぁ、って思うの」
飯田さんの目は、この一週間で見たことが無い、とても優しい目をしていた。
「だって卒業した後にまで、いろいろ迷惑かけるのなんて、何か心配させちゃいそうだし・・・
もし頼んだとしたら、圭ちゃんや裕ちゃん、喜んでやってくれると思うよ。
でも、それに甘えてばっかりってのもさ」
「・・・・・・そっか・・・そだよね」
安倍さんの言葉に、何人かが一斉に頷く。
722 :
書いた人:03/09/17 01:49 ID:BKBm+TtJ
「あぁ!!・・・・・・・・・ふふふ」
「どうしたん?のの。
急に気味の悪い含み笑いしないでや」
「なぁに?のんちゃん・・・何か良い案でも出たの?」
「あのさぁ・・・・・・ピッタリの人がいること、いーださんもみんなも、忘れてるんだよ。
ちゃんとその資格が取れるくらいの頭の持ち主!!」
「誰!?」「そんなんいたか?」「やっぱなっちだべさ」
色んな反応が返ってきて、のんつぁんは少し照れたように顔を赤らめた。
それでもその反応に満足げに、大きく微笑み返す。
723 :
書いた人:03/09/17 01:50 ID:BKBm+TtJ
でも私はといえば、嫌な予感が全神経から発せられていた。
もし私に妖怪アンテナがあったら、頭に乗ってるオヤジの眼球を突き刺さん勢いで、
この嫌な雰囲気を察知しているはず。
やっばいよ・・・・・・さっきからずっと、のんつぁんは私を見てニコニコしていたもん。
多分、恐らく、いや絶対・・・・・・
「みんな忘れたの?一番頭がいい人がいるでしょ?」
「頭がいいヤツ?」
お願い、のんつぁん・・・・・・もうこれ以上、私を痛めつけないで。
「岡女で一位の・・・・・・紺野ちゃん!!」
「無理!絶対無理!!」
のんつぁんが私の名前を口にしたと同時に、私は立ち上がって絶叫。
私のあまりの剣幕に、のんつぁんは勿論、他のみんなもビクっと肩を震わせる。
724 :
書いた人:03/09/17 01:51 ID:BKBm+TtJ
・・・・・・行ける!!
このままなら、逆切れで押し通せる!!
脳内シナプスは某航空宇宙局のスパコンよりも早く、そんな答えをはじき出す。
みんなが呆気に取られてる、今がチャンス!
「岡女の問題とあの資格の試験とじゃ、多分問題の傾向が違いますって!!
あの問題は中学生だった私やまこっちゃんが上位で当たり前なんです!
つまり今まで慣れ親しんできた問題だからこそ、あんなにいい成績が取れたわけで。
覚えてますよね?私の英語。
やっぱり中学入ってから本格的に習った英語は全然出来てなかったんですよ、私。
ってことはあんなにいい成績を取るには、ちっとも時間が足りないわけで、
その辺考えても、やっぱり私を資格を受ける代表に据えるというのは、
判断の謝りで、全く状況の読み方が甘い、そんなんだと思うんですッ!!」
・・・・・・言い切ったぁ!!
なんだろう、この胸を満たす満足感。
心の中の審判団は、全員が10点満点を記録。
モーニング娘。に入って丸二年、初めて「完璧」だった気がする。
725 :
書いた人:03/09/17 01:52 ID:BKBm+TtJ
私は腰に手を当てて、みんなを自慢げに見渡した。
さぁ私のこの完璧な論証に、反論してみてください!
みんなどんな畏敬の眼差しで私を見てくれているのか、と思いきや。
「紺野ちゃん・・・うぅ、酷いよ」
「うちらが、何したって言うん!?」
目尻に涙をいっぱい溜めて、真っ赤な目で私を見上げるのんつぁんと加護ちゃん。
え?なんで泣いてるの?
「紺野ぉ!!あんた、言っていいことと悪いことがあるでしょ!!
同じ中学3年生なのに最下位争いしてた、のんつぁんとあいぼんが可哀想でしょ!」
あぅ
思わぬ事態に口がパクパクする。
多分すっごく上手く金魚のマネが出来ているに違いない。
完璧に言い負かせたと思ってた13人は、今は私を睨みあげている。
うわぁ・・・藤本さんが睨むと、めちゃくちゃ怖いんだけど。
ちょっぴり某半島で北に位置する国の気持ちが分かったりして。
周りが敵だけって、こんな感じなんだなぁ・・・
726 :
書いた人:03/09/17 01:53 ID:BKBm+TtJ
「決めた!!紺野には、絶対にあの試験の準一級、受けてもらうから」
飯田さんが言い終わらないうちに、満場一致の拍手が湧き上がる。
ちなみにこの場合、私の票というものは用意されていないみたい。
「あのぉ〜」
「何か文句あんの?」
取り敢えずしてみた反論も、「ねぇ、笑って」の時の数百倍怖い飯田さんの目付きで封じ込まれる。
魚類までなら、あの目付きで石にできるんじゃないだろうか。
「文句はぁ・・・・・・ハァ、無いです」
結局私の返事はこれしかないのだ。
策士策に溺れる、だったっけかなぁ?
会議を終えて思い思いのことを始めるメンバーを見ながら、私はまた一つ賢くなっていた。
727 :
書いた人:03/09/17 01:56 ID:BKBm+TtJ
今日はここまで。爆発で亡くなった巡査が気の毒。
>>715 一瞬「嘗めてる」に見えた、ひねくれものの私。
>>716 適材適所をかの事務所に誰か教えてやってください。
>>717 目指していた小説と、また乖離し始めてきたこのごろ。
>>718 それまでには何とか終わらせます。びくびくしながらは嫌なので。
川o・-・)ノ<更新乙です
「嘗めてる」を一瞬読めなくて鬱…。
亡くなった巡査のご冥福をお祈りします。
こんこんがんがれ!
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。横道にそれたり、路線変更したりって
大好きですよ私は。
>>作者さん
偶々このスレを見つけて、「記憶の中の『あの人』」と「昨日見た日々」、
それに新作も一気に読ませていただきました。
>>558や
>>605なんてうるるる泣いちゃいました。
文章も、めちゃ好みな文章だし、コメディタッチの喩えが、
またたまらんです。もう虜です。
>>724の勢い、最高ですね。読んでいてついニヤニヤしてしまいます。
今後の更新楽しみに待たせていただきます。
731 :
書いた人:03/09/18 12:23 ID:OPfnYGe1
――――――
まこっちゃんが来た時には何事もなかったかのように、既にリハが始まっていた。
みんなまるで七日振りにお通じが来たみたいな晴れやかな顔。
そんな中私の心だけはブルー。
月曜日でも雨の日でも、勿論あの日でもないけど、ブルー。
この一週間でまこっちゃんがアウト判定をすることは少なくなっていた。
みんながまこっちゃんの考えに合うような行動を、無意識でもとりはじめていたのが原因。
衣装や台本も、それとなくマネージャーに含んでおいたおかげで、
取り敢えずはまこっちゃんの許容範囲のものが多くなっていた。
それでもやっぱり、誰かにいつも監視されているというのはキツイ。
それに段々物足りなくなってきたんだろう、隣の楽屋の人にまで審判をしに行き掛けたので、
のんつぁんと私で、次藤君(九州男児)並みのタックルを決めたりもして。
・・・・・・やっぱり早く、やめさせたい。
732 :
書いた人:03/09/18 12:24 ID:OPfnYGe1
「ハイ、それじゃ今日のお仕事はここまでね。
明日も朝早いから、みんなしっかり休んでおくように・・・・・・で、紺野は残ってね。じゃ、解散!」
「お疲れ様でした〜」と大声で挨拶をした後で、何人かが私の顔をちらりと見る。
私を救世主のように拝むシゲさん・・・・・・うん、先輩としてがんばるからね。
もうことが終わったみたいな澄ました顔をしてる愛ちゃん・・・・・・いつかシメてやるんだから。
そして私を心配そうに見つめてくれる、のんつぁん。
と、私の前に飛び込んできたは、心底残念そうなまこっちゃんの渋面。
「なんだぁ〜、あさ美ちゃん居残りなのかぁ」
「う、うん・・・ゴメンね。ちょっとダンスレッスンの補習があるみたいだから」
まこっちゃんのせいだよ、って言うわけにいかないもんなぁ。
733 :
書いた人:03/09/18 12:25 ID:OPfnYGe1
「折角さぁ、いい甘物屋さん見つけたんだけどなぁ・・・・・・
じゃあ今度、のんつぁんやお豆も一緒に、みんなで行こうよぉ」
「うん・・・・・そう、だね」
頷くのに少し躊躇ったのは、今のまこっちゃんとは多分、誰も行きたがらないから。
この間ケーキの上の苺を外して食べていたら、「そんなんアイドルじゃない」って言われて、
アウトを喰らった覚えがある。
これで一緒に何か食べに行ったら、何が起こるか分かったもんじゃない。
でも・・・・・・
残念そうに楽屋を出て行ったまこっちゃんの後姿を見ていると、なんだか断ったのが申し訳ない。
別に私のせいじゃないってことは分かってるけど、
早く今までみたいに、一緒にお買い物したり、お食事したりしたい。
734 :
書いた人:03/09/18 12:26 ID:OPfnYGe1
うん、やっぱりがんばらなくっちゃ。
そう心の中で呟くと、思わず拳を握り締めてしまう。
最後まで楽屋に残っていた飯田さんが、少し笑ったように見えた。
「よ〜し紺野、そんじゃ私たちも行こっか?」
「え?どこへ・・・・・・ですか?」
てっきり審判試験について、ちょっと注意を受けるだけだと思ってたのに。
ふふっと笑って長い髪を掻き揚げると、飯田さんは出口の方を向く。
私はただ、その背中を追いかけるだけ。
「参考書・・・・・買わないといけないでしょ?
それに試験の日程だって・・・調べないと」
「あぁ・・・そうですねぇ。でもそれくらいだったら、私一人でやってきます・・・」
735 :
書いた人:03/09/18 12:27 ID:Ad6SIOKd
その刹那、私の方を向かないまま、飯田さんは手を大きくパーに開いて言葉を遮った。
何があったか一瞬分からなくて、きょとんと止まってしまう。
そんな私に構わずに、飯田さんはドアノブを見ながら呟く。
今まで聞いたことない、優しくて、それでいて寂しげな声。
「それくらいはさぁ・・・圭織にリーダーらしいことさせてよ、ね?」
ありがとうございます。
何故かそう言いたかったけど言葉には出ずに、私はただ小さく首を縦に振っただけで。
それを見たのか分からないけれど、満足したような飯田さんに続いて私たちは部屋を出た。
736 :
書いた人:03/09/18 12:28 ID:Ad6SIOKd
――――――
「あぁ・・・・・・審判なら、あそこの棚全部そうですよ。
それにしても・・・・・・お客様が受けられるんですか?」
「いえ、受けるのはこの子の方です」
「えぇ!?」
絶句した店員さんを残して、私と飯田さんはさっさと本棚に移動。
でもあの反応・・・私みたいな歳の人が受けて通る資格じゃないんじゃ?
本棚一つ、全て審判関係の本で埋まった棚を見て、思わず溜息が出る。
「いつの間に、こんな資格できたのかなぁ?しかも結構メジャーそうだし」
「ですよねぇ」
間抜けな相槌しか打てないほど、私たちは世間知らず。
やっぱりアイドルだからって、外の情報に目を向けないでいるのは問題だなぁ。
飯田さんは目の前の一冊を適当に手に取って、パラパラとページを捲る。
737 :
書いた人:03/09/18 12:29 ID:Ad6SIOKd
「えーと・・・ねえ紺野、審判は野球型、サッカー型、ラグビー型の三種類があります・・・だって。
型の併願は不可能で、各型によって問題は異なります・・・型によって審判の格が違う、ということはありません。
・・・・・・どうする?選ばなくちゃなんないみたいだけど」
「空手型はないんですかぁ・・・あればすぐ飲み込めそうなんですけど」
はっきり言って、野球やサッカーのルールなんてよく知らない。ラグビーなんてもっての他だ。
「あぁ・・・でも、まこっちゃんにあわせた方が良くないですかね?」
「そう?小川は多分・・・アウトとかセーフとか言ってたから、野球型だと思うよ?」
「じゃあ、それが良いですね」
どれも良く知らないルールだから、結局どれを選んでも同じなのだ。
石川さん並みにポジティブにそう考えれば、結構やる気も出てくる。
738 :
書いた人:03/09/18 12:30 ID:Ad6SIOKd
野球型は・・・背表紙の上の部分が青色かぁ。
並んだ本の背表紙を指でなぞり、青色の、そして準一級の表示がある本を抜き出す。
まあ、問題集ならこんなもんかな?って感じの厚さ。
薄過ぎず、厚過ぎず。
邪魔な注文票を取って一つのページに挟むと、ペラペラ・・・と適当にページを捲って、とりあえず一問やってみる。
えーと・・・数学か。
これなら何とかなりそうかな?
739 :
書いた人:03/09/18 12:31 ID:2LdhSOlg
【問七 今日は彼女の誕生日。
A君はケーキが大好きな彼女のために、ケーキをホールで買って帰りました。
A君と彼女はケーキを半分ずつにして、仲良く食べました】
740 :
書いた人:03/09/18 12:32 ID:2LdhSOlg
・・・・・・で?
ゴシック文字で書かれた問題文はそこで終わり。
あとは○と×を書く欄と、理由欄だけ。
・・・・・・まったくもって意味が分からない。
えぇ?こんなのが問題なの?
ケーキを買ってきて、二人で分けたんでしょ?
とりあえず・・・「仲良く」分けたんなら、半分ずつで○じゃないの?
741 :
書いた人:03/09/18 12:33 ID:2LdhSOlg
「問七○と・・・」心の中で呟きながら、ページを指で抑えて巻末の解答欄を捲る。
えーと・・・・・・数学の問七の答えは・・・・・・×?
なんで?
【問七 ×
理由:本当に彼女のことを好きな彼氏なら、『お前が好きなだけ、食べていいよ』と言う筈です。
と言うことで、この場合ハンブンコするような彼氏の行動は、人として×です】
・・・・・・意味が分からないんだけど。
一問目から自信がなくなってきた。
でも・・・・・・私ならホールで食べてみたいもんなぁ・・・これはこれでいいかも。
「どうした?紺野、ヨダレ垂らして」
気が付くと、眉間に深い皺を刻んだ飯田さんが私を心配そうに見ていた。
742 :
書いた人:03/09/18 12:37 ID:2LdhSOlg
今日はここまで。
ちょいと質問を。「・・・」と「…」どちらが見やすいですかね?
私はかちゅなので、殆ど差が無いのですが。
>>728 よくあることですよ、お気になさらず。
>>729 あまり横道にそれまくると、n日に引っかかるという罠。
>>730 ありがとうございます。昔書いたのも、是非読んでやってください。
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。どう考えても大長編になりそうな・・・
と、ぞぬの環境だと下方に張り付いてしまう
三点リーダーの…よりも・・・が見やすいです。
慣れてしまうと何てことないんですけどね。
川o・-・)ノ<更新乙です
個人的には「…」を愛用してますが…作者さんの気分次第でいいと思います
ぶっちゃけ、どっちも一緒に見える…(汗)
更新お疲れ様です。
次藤君にニンマリ。
・・・と…は、私もどちらでも良いように思います。
読み易さということでいえば、
>741の
>「どうした?紺野、ヨダレ垂らして」
の様に「?」や「!」の後に続く文章がある場合、
>「どうした? 紺野、ヨダレ垂らして」
と、空白を一字入れると、個人的には見やすいかも……。
(一般の小説等ではその様になっていたと記憶しております)
746 :
書いた人:03/09/19 23:18 ID:8vgMIxpA
「あ、あの・・・・・・飯田さん!」
とてもこんなの解けません。
その言葉をグッと飲み込んで、必死で他の問題を探す。
私のその様子に、少し首を傾けて飯田さんは私を見下ろしている。
いや、まだ絶望を伝えるには早すぎる。
他の・・・他の問題は?
何かにすがるようにページを捲る私の目にと、「類題」という文字が止まる。
さっきとおんなじような問題だったら・・・もしかしたら、応用して解けるかもしれない。
747 :
書いた人:03/09/19 23:19 ID:8vgMIxpA
【類題一 小学6年生のB君たちは、男友達6人でクリスマスパーティーを開きました。寂しいですね。
さて用意されていたのは、ホールのデコレーションケーキです。
そこでB君たちは、ケーキを六等分して食べました】
どうでもいいけど、「寂しいですね」なんて合いの手要らないでしょ。
男の子同士だからなぁ・・・・・・これはこれで○だと思うけど。
男の子だったら、別に相手に譲ったりしなくてもいいもんね。
よし、○!
自信を持った答えも、意地悪な巻末の赤い文字によって全否定される。
【類題一 ×
・・・・・・・・・男同士だったら闘え!!】
748 :
書いた人:03/09/19 23:20 ID:8vgMIxpA
・・・・・・・・・・・・
よし! 数学は捨てよう。
次行こう、次!
とは言ったものの、その後も私の回答は尽く外れていった。
【ブラジルの主要輸出品目は、サンバとカーニバルである】
・・・・・・○なの?
【日本の国技はほぼモンゴル相撲】
・・・・・・いや、モンゴル出身が多いだけであってさ、別にちがうでしょ。
確かにあの暴れん坊横綱のイメージ強すぎですけどねぇ。
749 :
書いた人:03/09/19 23:21 ID:8vgMIxpA
だめだこりゃ、と頭の中で爆発ヘアーのチョーさんが唇を突き出した。
ホワワワワワ〜ンというSEまで付いてくる、私の頭脳のサービス精神に乾杯。
「あのぉ〜、飯田さん」
ダメですよぉ、これじゃ。
と正直に言おうとした所、他の参考書をパラパラとみていた飯田さんが雄叫びをあげた。
「おっ! また正解・・・圭織ってば、やっぱりこういうの向いてるのかなぁ?
これだったら、紺野なら余裕だね?」
「・・・・・・・・・えぇ」
あぁ、私ったらダメなヤツ。
飯田さんの脳味噌と私の脳味噌の造りが根本的に違うのは、百も承知だけど。
こんな舞い上がってる飯田さんに言えないよ・・・・・・無理です、なんて。
750 :
書いた人:03/09/19 23:21 ID:8vgMIxpA
「それじゃ紺野、この本でいいのね?」
「はぁ」
自分のダメっぷりと、暗室よりもお先真っ暗な未来に返事も虚ろ。
正直言って、これじゃあどの参考書を使っても同じ気がする。
私を残して、飯田さんはさっさと会計に向かってしまった。
自分のお財布を軽くしないで済むのは嬉しいけど・・・
やってきた不幸の余りの濃密さに、これくらいの喜びなんか霞んでしまう。
どうなんだろう・・・ホントに準一級なんか受かるのかなぁ?
寺に篭って、一週間精進料理を食べるのよりはまだ楽だけどさ。
今度の試験がいつか、っていうのにもよるよね。
なるべく先の方がいいな・・・・・・
とぼとぼと飯田さんの後を追う私の身長は、多分オーラで5cmくらい縮んで見えたと思う。
751 :
書いた人:03/09/19 23:22 ID:8vgMIxpA
飯田さんは会計の横で、腕を組んで待っていた。
私を見つけるなり、嬉しそうにポスターを指差す。
「ほら、紺野。今度の準一級の試験、一ヶ月後だってよ」
「ええぇ!? 無理ですってば・・・一月(ひとつき)じゃ足りません
これならスワヒリ語をマスターするほうがマシですって」
「英語も碌にできないくせに、生意気言ってんじゃないの。
印鑑持ってきてるんでしょ? ほら、今すぐここで申し込みしちゃいな」
保険セールスのおばさんのような強引さ・・・って、私はセールス受けたことないですけど。
ともかくそんな勢いとあつかましさで、飯田さんは申し込み用紙とボールペンを私に叩きつける。
あとはまるで霊感商法に罹ったみたい。
あら不思議、私の右手が勝手に動いております
・・・・・と、ふざけてナレーションでも入れなくちゃやってらんない。
752 :
書いた人:03/09/19 23:24 ID:1EEeEivg
――――――
「結果が出るのが試験の二週間後か・・・・・・早くていいね。
それじゃそれまでは、とにかくガマンガマンだ」
「はぁ」
飯田さんは我慢するだけでいいんですけど、私は頭をフル回転させてあのふざけた思考回路に合わせないといけないんですよぅ。
私の心の中を絵で表すなら、ムンクの「叫び」がぴったりだ。
とりあえず一月・・・猛勉強だなぁ・・・
冷房が効いた本屋さんから出るのが少し名残惜しくて、私たちはゆっくりと出口へ向かう。
飯田さんが渡してくれた本屋さんの袋が、鉄アレイでも入ってるみたいに重い。
と、飯田さんの腕にも同じ袋が抱きかかえられているのに気付いた。
753 :
書いた人:03/09/19 23:25 ID:1EEeEivg
「飯田さん・・・・・・何か買われたんですか?」
「え? あ、うん・・・・・・ちょっとね」
そう言ってそっぽを向く。
あれ?
どうしたんだろう?
「何買ったんですか?」
「いや・・・別に、つまんないもんよ」
「ちょっと見せて下さいよ」
手を伸ばそうとした瞬間、飯田さんはその袋を頭の上に高く掲げる。
754 :
書いた人:03/09/19 23:26 ID:1EEeEivg
「見せるほどのもんじゃないよ」
「うぅ・・・」
多分のんつぁんが「見せて〜」って言ったら、飯田さんは本を一ページ一ページ、読み聞かせすらするだろう。
それに比べて私ときたら審判の資格取得を押し付けられ、
揚げ句の果てにリーダーの買った本まで見せてもらえないなんて・・・
『自分はもしかして、モーニング娘。の中で大切に思われていないんじゃないか?』
そんなことまで頭に浮かんできて、一気に悲しくなってくる。
あ、ヤバイ。
目に溜まった涙は、『止めなくちゃ』って私の感情とは関係なく、流れ落ちる。
755 :
書いた人:03/09/19 23:27 ID:+3sUMlox
「ちょ、ちょっと・・・紺野、泣いてんの?」
「いえ・・・・・・泣いてなんかッ、いませんよ」
涙を流しながら言うこの言葉は、殆ど説得力ゼロ。
飯田さんは漫画みたいにあたふたとすると、観念したように「しょうがないなぁ」と呟いた。
「紙袋破くの嫌だったから、見せなかっただけだって。
ほら、紺野・・・・・・教えてあげるから。私が買った本、ほら・・・えーと・・・これ、そうこれ」
「よっ」と背伸びをして、飯田さんはすぐそこの本棚から本を抜き出す。
心配そうに私と目を合わせたまま、ぞんざいに本を私に見せてくれた。
「ね? これだって、これ」
「・・・・・・ホントに・・・これなんですかぁ?」
「そうだって。ね? だからもう泣かない」
「ホントに・・・保田さんの写真集なんですかぁ?」
756 :
書いた人:03/09/19 23:28 ID:+3sUMlox
涙を手で拭いながらの私の言葉に、飯田さんは初めて視線を本に落とす。
「あ、う、うん・・・そうだよ、これ。
ほら、圭ちゃんの写真集まだ持ってなかったから、買ってあげないといけないって思ってさ」
「そうなんですか」
「そうだよ、ほら、だから圭織、『つまんないものだ』って言ったでしょ?」
「それって・・・酷いです」
私の言葉にぺろっと舌を出した飯田さんが凄く可愛くて、涙はすぅっとひいてしまった。
笑いながら本棚に写真集を返す飯田さんを見ながら、
今まで一度もあんな飯田さんの顔を見たことが無いのに気付いた。
泣いていたのと飯田さんの新たな一面を見た満足感で、この時私の感覚は鈍っていた。
だって保田さんの写真集を見て、飯田さんがあんなに慌てていたのを見逃していたから。
757 :
書いた人:03/09/19 23:32 ID:+3sUMlox
今日はここまで。
一応「・・・」に固定します。あと
>>745氏のご意見もご参考に。
不慣れで時々表記揺れが出るかと思いますが、お気になさらず。
>>743 容赦なく終わらせるつもり・・・長編は脳が疲れるのです。
>>744 つまんないこと聞いてゴメンね、こんこんさん。
>>745 一応他の書籍で確かめた、野暮な私。
川o・-・)ノ<更新乙です
こちらこそ、つまらない返答でゴメンね
ところで飯田さん、酷いです!
保田さんの写真集は、つまらないというよりむしろおもしろ(ry
勉強がんがれ、こんこん!
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。ホントに読みやすくて面白い文章を書かれますね。
いつの日か、天才的って褒めちゃうかもしれませんYO。
更新お疲れ様です。
いやはや、些細なことに口を出してしまいましてスマソ > 一字空白
飯田が試験受けた方が良さそうですねw
ハイペース更新乙です!
今日もお土産いただきます〜
あー楽しみだー
762 :
書いた人:03/09/20 22:39 ID:Q3iW4utN
――――――
次の日から、私の猛勉強が始まった。
人生でこんなに一生懸命勉強したことが無いってくらい、朝から晩まで勉強ばっかり。
なるべくなら、この労力を他のことに使ってみたい。
もう、これで私の歌とかダンスに支障が出たら、皆さんのせいですからね。
・・・・・・既に支障だらけっていう意見は、即却下です。
審判準一級の試験科目は、私が立ち読みで玉砕した【一般推論】と、もひとつ【審判概論】の2つ。
正直一般推論だけだったら、絶対合格できない。
でも審判概論の方は・・・・・・なんだか、少しは私の頭で理解できる内容だった。
取り敢えずしっかり内容を覚えさえすれば何とかなる科目だから。
助かったぁ。
763 :
書いた人:03/09/20 22:40 ID:Q3iW4utN
――――― 2週間後
「紺野ちゃん、またおべんきょ?」
「うん・・・・・・試験まであと2週間しかないから」
空き時間、楽屋で単語帳を繰る私に、のんつぁんが少し心配そうに声を掛けてきた。
今まではまこっちゃんにばれないように、お仕事の時は極力勉強はしないようにしてたけど。
でも試験が近付くに連れて、焦ってどうしようもなくって。
「これは何の科目なの?」
「うんとね・・・審判概論っていう、審判のこと色々って感じのヤツかな?」
「ふ〜ん」
そう答えたのんつぁんの顔は、殆ど分かっていないみたい。
私だって2週間前までは、審判試験なんて未知の領域だったから、のんつぁんの反応も当然といえば当然。
764 :
書いた人:03/09/20 22:40 ID:Q3iW4utN
というか、まだのんつぁんは良いほうなのだ。
他の面々といったら、私に審判試験を押し付けたことなんか忘れてるんじゃないかってくらい、ホントに無関心。
のんつぁんの背後に広がる風景は、本当にいつもの楽屋風景。
私を置いてきぼりにして、みんなが日常を送っているのがちょっぴり悲しい。
メンバーを見つめる視線が、最近恨めしげになっているのが自分で分かる。
「ね? 紺野ちゃん。私がちょっと問題出してあげるよ」
少しボーっと向こうをみていた私は、のんつぁんの声で我に返る。
さっさと私の手から単語帳を奪い取ると、「第一問! ジャジャン!」と調子良く続ける。
「えっとね・・・審判にとって大切なことを、審判三原則といいます。
それら全てをあげて、意味も答えなさい!」
765 :
書いた人:03/09/20 22:41 ID:Q3iW4utN
のんつぁんの行動にちょっと驚いたけど、受験モードまっしぐらな私はすぐに頭が切り替わる。
「えーーーっとねぇ、中立性でしょ?
審判は当事者どちらにも与することなく、常に公平な視線からジャッジを行うべし。
二つめはねぇ・・・正確性、だよね?
審判は常に正確であることを心がけ、けして勘に頼ることなく・・・・・・えっと、基本をおろそかにしてはならない。
えーっとぉ・・・で、三つめはねぇ・・・」
テキストの左隅に載ってたんだけどなぁ・・・なんだったっけかなぁ・・・
のんつぁんは「ふふッ」少し私に笑いかけると、
「うーんとねぇ・・・」と、上を見上げてヒントを捻り出す。
「紺野ちゃんさぁ・・・正確だったら、それだけでいいのぉ? 日が暮れちゃうよ?」
「あぁ! 迅速性・・・でしょ?
審判は常に判定に迅速であることを心がけ、
けして試合の流れを堰き止めることがあってはならない! かな?」
「あったり! だいじょぶそうじゃん」
親指を立ててウィンクをするのんつぁん・・・でもその手つきは、はっきり言ってトラウマだ。
766 :
書いた人:03/09/20 22:42 ID:Q3iW4utN
――――――
楽屋での勉強が功を奏してきたのか、試験の日が近付くにつれて正解率が上がってくる。
でも・・・それとは反比例して、私の心は段々ブルーになってきた。
審判試験は一年に一回。
2級は一年に二回あるのに、何でか知らないけど、1級と準1級は同じ日に一度だけ。
つまり・・・もしもこの試験にとちったら、まこっちゃん更生の機会はあと1年巡って来ないのだ。
まこっちゃんは今も時々、アウトだのセーフだの、色んな相手に出している。
それに合わせるようにモーニング娘。も少しずつ変わってきて、それで納得しているメンバーもいるみたい。
でも!! まこっちゃんにアウトを出されるのが少なくなってきてても、
それでも私には、まこっちゃんにジャッジを止めさせる必要があるんだ。
まこっちゃんがこうなってから、私はメッカへの礼拝のように欠かさなかった二人でのお食事を、もうずっとしていない。
一緒にお食事に行くのが、私は怖いんだ。
別にまこっちゃんにダメ出しをされるのが怖いんじゃない。
私が大好きだったまこっちゃんがこんな風に変わっちゃった、ってことを再確認するのが怖いんだ。
767 :
書いた人:03/09/20 22:43 ID:ug/HWDJ4
そのことに気付いてから・・・つまり、この試験が私自身にとって持つ重要性に気付いてから、
私の中の焦りは頂点に達したみたいだった。
もしもダメだったら。
もしもまこっちゃんを直せなかったら。
試験に通ったとしても、まこっちゃんにジャッジし返されて負けたら。
頭の中の樹形図は、悪い方向ばっかりに発展して。
自分がこんなにもネガティブな人間なんだって気付いて、また心は沈み込んでいく。
それが表面に出てきたらしく、私は歌もダンスも、番組の収録でも、しょっちゅう間違えていた。
私がどんなに怒られているのを見ても、メンバーは知らんぷリ。
勿論まこっちゃんを前に、大袈裟に心配して見せるわけにはいかない、ってことは分かってる。
それでも・・・
この苦しい気持ち、誰かに分かってほしかった。
768 :
書いた人:03/09/20 22:44 ID:ug/HWDJ4
結局、最悪の形で私は試験前日を終えようとしていた。
本当なら「若島津君を見習って、試験を前に百人組み手でもやりますか」
とでも言っておきたい所だが、生憎そんな冗談を言う気力も残っていない。
「ふぅ・・・」
お風呂に浸かっても、唇から漏れるのは溜息ばかり。
なんかなぁ・・・どうなっちゃうんだろ。
口をお湯につけてぷくぷくやってみても、ちっとも楽しくない。
もぉ・・・・・・いいや、どうでも。さっさと寝よう。
ぞんざいに身体を拭いて部屋に戻って、何気に携帯の窓に目を遣る。
メール・・・・・・来てるんだ。
って・・・・・・なんでメールの着信が13通もあるの!?
慌ててメールを一つ一つ開いた私は、呆気に取られた。
みんなからだ・・・
769 :
書いた人:03/09/20 22:45 ID:ug/HWDJ4
【詰まったら、娘。で一番可愛いこのアシスタントの顔を思い出してくださいね】
【紺野さん!! ファイトです】
【始まる前に深呼吸!】
【まぁ・・・・・・私には関係ないことだけど・・・
もしも受かったら、楽屋で一緒にハニーパイ踊ってあげるよ】
【間違ってもジュマペールとか書いちゃダメだよ】
【麻琴を取り戻せんの、あさ美だけなんよ・・・祈ってる】
【試験終わったら、おいし〜いお店、みんなで行こうね】
【ののみたいにお弁当に夢中で、試験に遅れたりせんといてな】
【分からない問題があっても、ポジティブポジティブ!】
【乳首コリコリいってま〜す・・・・・・ほら、緊張してるの解けた?】
【モーニング娘。の未来は紺野にかかってる・・・!! って、ウソだよ。
気楽にやってこいッ!】
【自分のペースでやってくればいいべ】
【紺野だけに押し付けちゃったことは、みんな悪いて思ってるよ。
頑張ってるあんたに「がんばれ」なんて圭織は言えないから、精一杯やってきて。ね?】
770 :
書いた人:03/09/20 22:46 ID:ug/HWDJ4
13通のメールを読んで顔がほころぶのが分かる。
そして目からだらだらと流れる水分を必死で右手で拭う。
涙で霞む目で一つ一つじっくり読みながら、保護設定にしていく。
でも・・・・・・1通足りないんだ。
一番大切な人からの1通。
あれだけ嫌がっていた試験なのに。
あれだけ気に病んでた試験なのに。
私は思わず入った気合いを胸に、グッと携帯を握り締めた。
やってやるんだから!!
771 :
書いた人:03/09/20 22:49 ID:ug/HWDJ4
今日はここまで。おかしい・・・どんどんシリアスになってる。
>>758 こんこんさんソロ写真集はいつ出るのやら・・・
>>759 その修飾語はよし子さんのためにあるのであり。
>>760 あんまり「!」とか出てくる文章を日頃読まないので、勉強になりました。
>>761 ハイペースって言うか、早くしないとn日に引っ掛かりそうでして。
流石スレが落ちたということは・・・
このスレもあと1週間以内に運命の日が来そうですなぁ。
。・゚・(ノ∀`)・゚・。
みんないい子だ…
よし子メールはワラタ
川o・-・)ノ<更新乙です
OH-SO-ROでレントゲン写真集出すって言って数ヶ月…
あまりに魅力的で日本中がメロメロになってしまうのが怖いんでしょうね(w
どんな結末になるのか楽しみです
藤本……もう、素直じゃないんだから〜
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。とにかく今は、こんこんガンバ!
それにしても、まこっちゃんと
どんな対決をするというのでしょう・・・
776 :
書いた人:03/09/22 00:35 ID:hyCwVzul
更新はちょっと今日はお休みで。
一応保全がてら、お知らせというわけで。
更新お疲れ様です。
おおっ、まともな(?)問題もあるんだ……よかったねこんこん
778 :
書いた人:03/09/22 22:49 ID:Ch2+vTFK
――― 翌日
会場の入り口を前に、思わず私は溜息をついた。
こんなに大規模だったなんて・・・
一つのイベントビルを借り切った会場は、開場30分前なのにもう人でごった返している。
手近なベンチを見つけてさっさと居場所を確保すると、熱心に参考書を読んでいるライバルたちを見回す。
おじさん、おじさん、おじさん、おじさん、おじさん・・・・・・
はっきり言って、私みたいな年代の女の子なんて一人もいない。
ハハァ・・・書店の店員さんが驚いたのは、このことだったんだなぁ。
審判歴が長いんだろう、真っ黒に日焼けして太い二の腕をした人たちの中で、明らかに私だけが浮いている。
でも私みたいに止むを得ないから受けるんじゃなくて、自分からこの試験を受けたまこっちゃん・・・
ちょっとだけ、まこっちゃんの度胸を見直した。
779 :
書いた人:03/09/22 22:50 ID:Ch2+vTFK
【準一級・野球型】の試験場に入ってからも、私みたいな人は一人もいない。
って言うか、女の人が殆どいない。
まるで動物園に入れられた珍獣のように、周りの視線がチクチクと痛い。
自分の席に座ると、周りからの視線に耐え切れずに私はずっと前を向いていた。
「おい・・・・・・あの子、受験生か?」
「まさか、試験官の助手かなんかだろ?」
「いや、受験票持ってるぜ?・・・受かると思ってんのかなぁ?」
ささやき声も、丸聞こえ。
ちったぁ聞こえないように喋れよ、と思うけど、おじさんだからしょうがないのかなぁ。
それ以前にモーニング娘。だって気付かれないことも、少し悲しい。
周りが殆どおじさんだから、気付かれないのも当然と言えばそうなんだけどさ。
一旦耳をそばだててしまうと、その人たちの声は斜め後ろから、聞くまいとしても容赦なく聞こえてくる。
780 :
書いた人:03/09/22 22:51 ID:Ch2+vTFK
「あぁ・・・でもさぁ、何か最近、若い女も受けてるらしいよ」
「へぇ・・・俺、初めて試験場で見たけどなぁ、女」
「さっきさ、1級のラグビー型受けてる奴から電話あって、向こうじゃ二十歳過ぎくらいの女居たらしいよ」
「ウソだろ?ラグビーって、一番難しいって有名じゃねえか・・・・・」
そのあとの言葉は、試験前のごちゃごちゃした空気に誤魔化されて聞こえなくなった。
でも女の人も私以外に受けてるって聞いて、凄く嬉しい。
多分大学の部活かなんかで、マネージャーとかしてて詳しい人なんだろう。
さっきまでは彼らの話し声に身を切り裂かれるような気持ちだったけど、でも今は彼らに感謝する。
と、試験官が壇上に入り、冒頭の注意を流し始めた。
私は試験官に言われる前に、携帯の電源を落とす・・・の前に、
もう一度みんなからのメールを見返した。
よし、がんばってきますね。
781 :
書いた人:03/09/22 22:52 ID:Ch2+vTFK
―――――
試験官の声が室内で響く。
「・・・・・・携帯電話、PHS、ポケットベルの電源は予め切っておくように・・・」
机の上に並べた鉛筆を見つめながら、じっとその声を聞く。
左胸がまるで飛び出しちゃうんじゃないかってくらい、心臓のドキドキが大きくなる。
もう一人の試験官が机の間を靴音を響かせて見回っていて。
「・・・・・・時計は計算機能のない物のみ、その使用を認めます。尚、アラームは解除して・・・」
あれ?私、ちゃんと携帯の電源切ったかな?
一瞬気になったその考えは、もう不安から確信に変わってしまう。
慌てて携帯を取り出そうとした私の肘に鉛筆が当たって、ゆっくりと落ちる。
「・・・・・・不正があった場合には、直ちに退出を命じます。その時は今後の受験資格にも・・・」
カラン
説明が私の出した音で一瞬止まる。
鉛筆の軽やかな音とは正反対に、私はもう泣き出したいくらい。
えっと・・・どうしよう・・・
782 :
書いた人:03/09/22 22:52 ID:Ch2+vTFK
と、私の隣まで来ていたもう一人の試験官が身を屈めて、鉛筆を拾い集める。
その様子を遠目に見て、何事も無かったかのように説明が再開。
拾ってくれたのは頭がつるっつるの、もうおじいちゃんって言って良いくらいの人。
あたふたする私を尻目に、彼は手際よく鉛筆を取りまとめて、私に笑顔で渡してくれる。
「はい・・・」
「え、ア、えっと・・・・・・ありがとうございます」
お礼すらまともに言えない私に、おじいちゃんはにこっと微笑むと、声を潜めた。
「もしも緊張してどうしようもなかったら、胸に手を置いて、鼓動がゆっくりになるのを確認してご覧」
「え・・・?」
私が反応するよりも前に、おじいちゃんは後ろ手に組んで颯爽と行ってしまう。
そうだよね・・・周りから見てどんなに浮いていても、私自身がどれくらいできるかが大切。
緊張しないわけないけど、緊張したらしたで、その時に落ち着いてみれば良いんだ。
783 :
書いた人:03/09/22 22:52 ID:Ch2+vTFK
注意事項は全てを説明し終わった。
あとは時計の長い針が12に辿り着くのをじっと待つだけ。
じっと見たって裏返した問題文が透けてくれるわけじゃないけど、それでも見つめてしまう。
試験官はじっと時計を睨みつけたまま。
私には、彼の持っている時計の秒針の音さえも聞こえるみたいで。
この一ヶ月の苦労はこれからの三時間次第で報われる。
モーニング娘。で私が得た集中力、見せてやる。
・・・と、試験官が時計から目を離した。
784 :
書いた人:03/09/22 22:54 ID:rhymbRfL
「始めてください!」
一斉に問題用紙を裏返す音。
でも私は一人問題用紙を裏返さずに、右手を左胸に当てた。
1回、2回、3回・・・・・・・・・
まるでプレストみたいなテンポだった心拍数は、次第に落ちていく。
今まで勉強したことを出せば、絶対大丈夫だから。
まこっちゃんは、絶対に元に戻るんだから。
12回・・・13回・・・14回・・・・・・
みんなが応援してくれた。
私には、頼もしい13人が付いてくれてる。
18回・・・・・・19回・・・・・・20回・・・
よし!心臓のバクバクは治まった!
遅れて問題用紙をひっくり返す。
隣のおじさんが私の行動に驚いた顔をしていたけど、もう気にもしなかった。
785 :
書いた人:03/09/22 23:00 ID:rhymbRfL
今日はここまでです。短くてスマソ。
ちなみにプレストとは1分間に180回打つくらいのテンポです。
プレステじゃないよ。
あぷろだに昔書いた小説が上がっててびびりました。
>>772 よし子なら実際にやってくれそうな気も。
>>773 個人的には「お尻じゃなくてお腹だよ」写真集でも(・∀・)
>>774 藤本さんの目からはビームが出るかも
>>775 どんなでしょうね。あんま考えてないかもしれません。
>>777 試験は多分、向き不向きが全てだと思います。
おっ、ついに試験開始。こんこんがんがれ!
試験官のおじいちゃん(・∀・)イイ!!
なんか自分が受験生だった頃を思い出すなあ。
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。試験中は静かにしてる事にしますYO。
川o・-・)ノ<更新乙です
そろそろゴールが見えてきそうですね
紺さんが合格することを祈ってます
789 :
書いた人:03/09/23 20:28 ID:aJo/Mz0d
――――― 3時間後
燃え尽きた・・・
解答用紙が回収されるのを見送りながら、殆ど放心状態。
こんなに精神を集中した3時間が、私の人生にあったんだろうか。
審判概論の小論文は、ちゃんと書けたと思う。
【審判三準則における相互関係について論じた上で、
それを踏まえて理想とされるべき審判を、実例を交えた上で論ぜよ】・・・だったかな?
のんつぁんが問題を出してくれた所だから、まあ・・・どうにかなった範囲。
問題はなぁ・・・一般推論。
飯田さんみたいに自分の感性でストレートに正解には辿り着けないから、
なるべく私の感性と違う答えを書くようにしたけど、それがどう出るやら。
とにもかくにも、もう勉強しないでいいってことにはホッとする。
790 :
書いた人:03/09/23 20:29 ID:aJo/Mz0d
試験場の出口で振り返って、あのお爺さんに会釈をしておいた。
空手でも何でも同じ、取り敢えず礼儀は大切にしなくっちゃ。
さぁて・・・・・・家帰ったら、何食べようかなぁ?
色んなことを考えて、とにかく試験のことを頭から忘れ去ろうと努力。
お餅かなぁ? でもお寿司でもいいよねぇ・・・のんつぁん誘って、どっかに食べにいこっかなぁ?
頭を使いすぎたから、とにかくお腹が空いてる。
あれ?
ボーっとしながら歩いている私の目に、私と同じくらい周囲から浮き立った人が止まった。
遠目で後ろ姿だけど、すらっと背が高くて長い髪の・・・まあ、女の人だろう。
あれで実は男でした、って言われたら詐欺だ。
ラグビー型で一級受けてたって人かなぁ?
早足で颯爽と会場から出て行くその人の顔、ちょっと見たいなぁ、と歩き出そうとした瞬間。
「・・・こぉ〜ん〜のぉ〜ちゃん!!」
791 :
書いた人:03/09/23 20:29 ID:aJo/Mz0d
ッ!!
後ろからの突然の大声と、背中をバンッと叩かれる感触。
痛いって言うよりは、もう驚いて何がなんだか。
う〜んっと・・・なんで? なにが? どうしたの?
恐る恐る振り返ると、後ろには少し私よりもちっちゃな色の黒い女の子。
街中で出るから気を遣ったんだろう、いつもとは違って後ろ髪を二つに分けて垂らしている。
「紺野ちゃん、お疲れ様!」
目をキラキラと輝かせて、のんつぁんがニッコニコと微笑んでいた。
「え・・・? あれ? 何やってんの?」
「へへへ・・・あのねぇ、紺野ちゃんがもう終わるかなって思って、待ってたの」
「そうなんだぁ・・・ありがと。あのさ、どっか食べに行かない? お腹減っちゃって」
「そのつもり」
もう一度会場の出口に目をやると、とっくにあの人はいなくなっていた。
でもあの人のおかげで変な緊張しなくて良かった・・・もう姿の見えないあの人に、心の中でお礼を言った。
792 :
書いた人:03/09/23 20:30 ID:aJo/Mz0d
「でね・・・その問題がちょっと自信ないんだぁ・・・それとも一つ、数学の所もなんか微妙かなぁ」
のんつぁんが安倍さんに教えてもらったと言うお店に向かって、二人で夕暮れの街を歩く。
試験が終わった開放感で、さっきから私ばっかり喋りっぱなし。
のんつぁんは私の言葉を、ずっと笑って聞いてくれる。
「85%正解すれば全員合格なんだけど、多分私が気付いてない間違いとかもあると思うし、
だから合格できたか、ちょっと自信無いんだよねぇ」
「そっかぁ・・・でも紺野ちゃん、お疲れ様でした」
そう言うと立ち止まって、のんつぁんはぺこりと頭を下げた。
その仕草が少し滑稽。
一瞬、なんでのんつぁんがそんなことをしたのか分からずに、首を傾げてしまう。
「みんなさぁ、紺野ちゃんには感謝してると思うよ」
その言葉に頷くと、昨日のみんなからのメールのことを話した。
「そっかぁ・・・ってかよっすぃ〜、あの人何を・・・」
「まぁ、でも緊張感解けたから良かったよ」
私の言葉で、のんつぁんの苦笑が少し軽やかなものになったように見えた。
793 :
書いた人:03/09/23 20:32 ID:TCZ42v/R
お店に着いた私たちはウエイトレスからメニューを奪い取ると、穴があくように見つめる。
ふふふ・・・・・・脳味噌にカロリー使いまくったから、今日は親の仇のように食ってやるんだから。
店員さんに「すいません・・・もう材料の方が」って言わせるのが、実は密かな夢だ。
未だにドラゴンボールでしかそんなシーン見たこと無いけど。
「うーんと、カボチャのサラダ美味しそう・・・でもこっちのサラダも食べたいなぁ」
「両方頼んじゃえば?」
「そうしよっか?」
店員さんは私たちのオーダーを必死にメモしながら目を丸くしていた。
「食べれるの?」って思ってるんでしょ?・・・・・・食べるよ。
店員さんが行った後、のんつぁんがトイレに立った。
その隙にバッグの中からもう一度問題用紙を取り出して、眺める。
食事の時くらいは思い出したくないけど、でも気になるもんなぁ・・・
794 :
書いた人:03/09/23 20:33 ID:TCZ42v/R
『あの問題は間違った』って思い出せるようなテストは点数がいい。
・・・って言ってたのは、誰だったかな?
なんでも自分がどこが出来て、どこが出来なかったかをしっかり覚えていられる位、余裕があったし集中もしていたから、ってことらしい。
確かにそうかも知れないけどなぁ・・・今回の試験は内容が内容だけに、この法則がそのまま使えるのか疑わしい。
のんつぁんはここまでの道すがら『絶対受かってるよ』って言ってくれたけど、それもどうだか。
私に気を遣ってくれたのかも、って言うのが抜けきれない。
あぁぁあぁ・・・もういいや、忘れよう。
こんなこと、さっさと食べて忘れてしまおう。
のんつぁん、早く帰ってこないかなぁ・・・トイレのほうに、思わず首を伸ばす。
丁度のんつぁんがトイレから出てきたところだった。
私に片手を上げると、ニコニコとこっちに向かってくる・・・・・・と、途中で止まった。
「あれぇ?いーださん、何やってんですか?」
795 :
書いた人:03/09/23 20:33 ID:TCZ42v/R
え? いーだ? いーださん? って・・・飯田さん?
慌ててのんつぁんの所へパタパタと駆け出すと、飯田さんがパスタを前に口をぽかんと空けていた。
「のんちゃんと紺野・・・・・・どしたの?」
「紺野ちゃんの試験終わったら、一緒にお食事しようと思って、私が誘ったんですよぉ」
胸を張ってのんつぁんが答える。もう先輩だもん、って言い張ってるみたいに。
飯田さんはその様子に目を細める。
「そうかぁ・・・偉いね」
「で、いーださんは何やってたんですか?」
「え? 圭織?
近くまでお買い物に来たんだけど、なっちがこのお店良いよって教えてくれてたの思い出してね。
ちょっと寄ってみようかな、って思ったの」
凄い偶然。
おんなじお店に同じ時間に入ってるなんてなぁ。
796 :
書いた人:03/09/23 20:34 ID:TCZ42v/R
「折角だから圭織と一緒に食べよっか?」
飯田さんはにこっと笑うと、私たちの反応にお構いなしに席を立つ。
いつだったかカラオケを断っちゃった時は凄く飯田さんがブルーになっちゃったから、今回は断れないなぁ。
のんつぁんもそれは分かっているみたい。
「私たちまだお料理来てませんから、こっちに移りますよ」
そう言ってのんつぁんは私に頷く。
797 :
書いた人:03/09/23 20:35 ID:H5Ngm0+h
荷物を取りに席に戻った時に、のんつぁんが私に囁いた。
「多分ねぇ・・・いーださん、紺野ちゃんが心配だから近くまで来たんだよ。
だってさ、買い物してた、って言ってたのに、全然荷物無かったじゃん」
「そういやそうだねぇ・・・でも携帯に電話くらい入れてくれれば、いいのになぁ」
「照れてたんじゃないの?」
確かにさっき、飯田さんは微妙なはにかんだ顔をしてた。
そっかもねぇ。
結局その後、飯田さんとのんつぁんとお食事をして。
いつも見れない二人が見れて、また少し得した気分。
お店を出たときには、もうすっかり試験のことは忘れていた。
・・・・・・まあ、やることはやったんだからね。待ってみますか。
798 :
書いた人:03/09/23 20:37 ID:H5Ngm0+h
今日はここまで。粛々とオソロを待ちますか。
>>786 半実話だったりして。
>>787 次回からまた馬鹿っぽくなりますゆえ。
>>788 あと1週間くらいで終われば上出来かな、と。
川o・-・)ノ<更新乙です
紺ちゃんも乙です
同じく粛々とオソロを待ちます
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。飯田さんものんつぁんもいいですねぇ。
とにかく読んででホントに楽しいです。
n日経過後も私が完璧に保全しますから
安心して長編にしてください。
( ´ Д `)<保゙っ
更新お疲れ様です。
試験終わって良かったね、こんこん。
読んでるこちらまで、なんだか緊張が解けた感じです。
803 :
書いた人:03/09/25 03:00 ID:5OBsQP/x
―――― 発表日
カチカチカチカチ・・・・・・
更新ボタンをクリックしまくる。
私はインターネットカフェで画面に張り付いていた。
合格者は朝10時から、審判協会のサイト上でも発表・・・って言ってたから、さっきからアクセスしてるのに。
ちっとも更新されてないんだから、もう。
今日は10時からお仕事だけど、みんなにはもう遅刻することは言ってある。
もしも受かってたら、このまま協会まで行って合格証を奪い取って、それからみんなのところへ行く。
まこっちゃんを止める一番の早道がこれだからって、私が主張したんだ。
804 :
書いた人:03/09/25 03:01 ID:5OBsQP/x
あれから結局まこっちゃんは酷くなる一方だし・・・・・・もし落ちてたらどうしよう?
この2週間、考えまいとしてたけど、それでもどうしても浮かんで来た不安。
落ちてたら・・・・・・このままお仕事サボりたいなぁ。
そんなことを考えながらクリックを続けていると、画面がさっきのから切り替わった。
更新・・・・・・されたんだ。
息を呑んだまま、【準1級合格者発表】のリンクをクリックする。
東京会場・・・・・・私の番号・・・
まこっちゃんを取り戻せるのは私だけ。
口に溜まった唾を飲む。
!!
あった・・・
これ・・・だよね。私の番号と同じ。これ・・・・・・だね!
よし、よくやった! 私!
私はポーチを引っ掴むとブラウザを閉じるのも忘れて、カフェから飛び出した。
805 :
書いた人:03/09/25 03:02 ID:5OBsQP/x
―――
息が上がる。
電車を降りて、そして局の通用門から入って、さっきからずっと走りっぱなしだから当たり前。
それでも私は走るのをやめない。
エレベーターが来るのを待ちきれずに、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
早く・・・早く、まこっちゃんを元に戻すんだ。
【モーニング娘。様】
と書かれた楽屋のドアを、走ってきた勢いそのままに押し開けた。
バァン!!
楽屋に辿り着いた途端安心感が出たのか、両手を膝について乱れた息を整える。
額から流れ落ちる汗は、頬を伝って鼻の頭から床にポタポタと落ちる。
床の浅い緑色が汗で深緑に変わるのをずっと見ながら、最後の息を大きくつくと首だけを上げた。
806 :
書いた人:03/09/25 03:02 ID:5OBsQP/x
私のほうを一斉に見ている14人。
鏡に向かっていた人、窓辺で話をしていた人、おやつを食べていた人、
みんなが私のほうを見たまま固まっていた。
いや、ただ一人まこっちゃんだけは私が首を上げたのを認めると、つかつかと歩み寄ってくる。
何が楽しいのかニコニコと笑いながら、まこっちゃんは私に向かって右手を差し出した。
息をついている私に、彼女が手を差し伸べたんじゃないことくらいは分かってる。
開いていた右の掌を一瞬グーにすると、まこっちゃんは親指だけを天に突き出した。
「あさ美ちゃぁ〜ん、アウトだよぉ。ダメだって、30分も遅刻しちゃ」
「ン・・・・・・と・・・・・・あのね・・・まこっちゃん・・・」
「言い訳なんか通用しないよぉ。
全く・・・飯田さんもついさっき来たばっかだし、みんなホントダメだなぁ。
言い訳じゃ、判定は絶対覆んないよぉ」
まこっちゃん越しにみんなに目をやる。
『紺野、試験どうだったの?』
みんなが私にそう聞いているのが、まるで声に出して貰っているみたいによく分かる。
ハイ、私は・・・やりますよ。
みんなに頷くと、疲れきった背筋をもう一度使って体を真っ直ぐに起こした。
807 :
書いた人:03/09/25 03:04 ID:DSoB1oSK
私の頷きが自分の判定への降伏だと思ったんだろう、まこっちゃんは首を左に傾けてニコッともう一度微笑んだ。
この一瞬のために・・・・・・私は努力してきたんだ。
息が完璧に整ったのをもう一度確認して、私は静かに息を吸った。
「まこっちゃん・・・・・・もうそんな風に、審判やるのやめて」
声には出さなかったけど、まこっちゃんは目を大きく見開いて口を半開きにして。
まこっちゃんの後ろでは、みんながまるで今すぐにパーティーでも開きそうな輝いた顔をしていた。
「あさ美ちゃぁ〜ん? どうしたの? ダメだよぉ、ちゃぁんとジャッジには従わないと、ね?」
驚きを一瞬で笑顔に変えると、まこっちゃんはもう一度私にアウトサインをした。
私はゆっくりと右腕を伸ばして、まこっちゃんの突き出した右手をつかまえる。
まこっちゃんの笑顔が凍りついた。
808 :
書いた人:03/09/25 03:05 ID:DSoB1oSK
「あさ美ちゃん? 何やってもジャッジは変わんないよ? これ以上やると、退場だよ?」
「あのね・・・もう一度言わせて? まこっちゃんもうこんなこと、止めて」
まこっちゃんはさっきよりも声のトーンは上ずり、心なしか早口になっている。
捕まえたまこっちゃんの右手が、プルプルと震えている。
私は左腕も伸ばすと、両手でまこっちゃんの手を包み込んだ。
矢口さんが唾を飲み込んだ音が、耳元で聞こえたような気がした。
「まこっちゃん・・・お願いだから、ね?」
「あさ美ちゃん、審判は絶大なんだよ」
意外な出来事に焦りを浮かべつつも、圧倒的優位を保っている余裕だろうか、まこっちゃんはまだ笑っている。
右手を離して、私はポーチを探る。
今日すぐに貰ってきた証明書・・・そして諸悪の権化。
左手でまこっちゃんの手をつかんだまま、真っ直ぐに薄茶色のカバーで包まれたそれをかざす。
一瞬不審な顔をしたまこっちゃんの目が、それを読んでキッと鋭いものになった。
809 :
書いた人:03/09/25 03:05 ID:DSoB1oSK
なるべく毅然とした態度で、まこっちゃんを見つめて言い放つ。
「じゃあ、私も準1級野球型審判として言うから。
まこっちゃん、そんな風に人を判定して回るのは間違ってるよ・・・」
「・・・・・・」
「お願いだから・・・もうそんな風に、自分や人を判定していくのは止めて」
のんつぁんと藤本さんがガッツポーズを決めた。
豆と愛ちゃんが抱き合って、飯田さんが優しく微笑んでいた。
でも・・・違うんです、皆さん。
みなさんからはまこっちゃんの顔が見えないから、もう決着がついたと思うんでしょ?
まこっちゃんの顔色は、一瞬真っ赤になると徐々に青くなっていった。
まこっちゃんはさっきみたいに笑ってもいなかったら、泣いてもいない。
ただじっと目を伏せて、口を真一文字に結んだままで。
突然信じていたものを奪われた恐ろしさに見舞われて、まこっちゃんはガクガクと震えていた。
それが握った右手からも伝わってきて、私の腕まで揺れ始める。
810 :
書いた人:03/09/25 03:06 ID:DSoB1oSK
流石に様子がおかしいことに気付いたんだろうか、安倍さんが私たちのほうに近寄ってこようとした。
その刹那、
「級が上だからって、正しいジャッジだって限らないよ!!
あさ美ちゃん・・・私がしているジャッジは、絶対にあさ美ちゃんのジャッジより正しい!」
そう叫ぶと、まこっちゃんは私の左手を振り放した。
大声に驚いて、安倍さんが肩を竦めて棒立ちになる。
「まこっちゃん・・・・・・まだ分かってくれないの?
そんな風に全てのことに審判してまわるのは、絶対間違ってるって!」
「違う!」
「私からしたら、そんな風にやってるまこっちゃんにアウト出しちゃうよ・・・」
「違う! 違うもん!」
まこっちゃんは下を向いたまま、ただ首をひたすら横に振りつづける。
811 :
書いた人:03/09/25 03:08 ID:upN1TzBj
楽屋の中の時が止まったみたいに、誰も動こうとしない・・・・・・いや、動けなかった。
まこっちゃんはずっと下を向いてるし、私はそれを睨みつけたまま。
他のみんなはただおろおろとしているだけで。
「そうか・・・・・・じゃ、しょうがないね」
さっきまで椅子にかけたまま見守っていた飯田さんが、おもむろに立ち上がる。
私とまこっちゃんの間に来ると、
飯田さんは今までどんなお説教の時にも見たことが無い、キツイ眼差しでまこっちゃんを見据えた。
「小川、顔上げなさい」
「・・・・・・・・・」
「小川ッ!!」
怒鳴られて、まこっちゃんがゆっくりと顔を上げた。
青ざめたままの顔の中で、血走った眼だけが異様に際立つ。
薄紫色に染まった唇が痛々しい。
飯田さんは顔を上げたまこっちゃんに、『よし』と頷いた。
812 :
書いた人:03/09/25 03:09 ID:upN1TzBj
「・・・小川は、級が上だからって、紺野の方が実力があるとは思わないんだね?」
「・・・・・・ハイ」
「それじゃ・・・・・・二人で勝負すればいいでしょ?」
「えぇ? 何をですか・・・」
飯田さんが言ってることが一瞬分からずに間の抜けた受け答えをしてしまう。
「何をって・・・勿論、審判の勝負。審判同士でその腕を勝負して、勝った方が上ってことでいいでしょ?」
「・・・・・・?」
まこっちゃんも意味が分からないんだろう、不審な顔で飯田さんを見上げる。
ただ一人突っ走る飯田さんに、なんとか私は食い下がってみる。
「いやだからですね、審判の勝負って・・・・・・どうやるんですか?」
「どうって・・・お互いに色んなことに判定しあって、どんだけ正しかったか競えばいいでしょ?」
813 :
書いた人:03/09/25 03:11 ID:upN1TzBj
何を当たり前のことを・・・って感じで、飯田さんは落ち着き払って応える。
「いや・・・誰が判定するんですか? どっちも自分の方が正しいって言い張りますよ?」
「そんなら心配いらない」
私の反論なんか折りこみ済みなんだろう、飯田さんは唇の端をニッと上げると私に掌をかざした。
手の中にはどこかで見た茶色い皮のケース。
【証 飯田圭織 右の者 審判1級であると認める】
「圭織が審判やるから・・・・・・文句ないっしょ?
紺野よりも早く来るのに、ハロモニ運動会の時よりも必死に走ったんだからね」
少し照れたように俯く飯田さん。
わたしもまこっちゃんも、いや、楽屋にいる飯田さん以外の全ての人間が、
信じられないように目を剥いて、立ち尽くしていた。
814 :
書いた人:03/09/25 03:14 ID:upN1TzBj
今日はここまで。
当初に思い描いた作風とか、気にしなくなってきたこの頃。
>>799 泣くのが怖くて、まだ聞けない私。
>>800 そう言って頂けるのは最大級の賛辞であり。
>>801 なんて読むんだ、ゴチーン。誕生日おめ。
>>802 しばらく緊張しっぱなしのシーンかも。
(0;^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。衝撃の展開ですね。
イヤこれは凄いことになってきました。
川o・-・)ノ<更新乙です
飯田さんも受けてたんですね…
これじゃ紺野が受けた意味がな(ry
こんまこの最後の闘い、楽しみにしています
817 :
Y:03/09/25 11:44 ID:+yc2z9aI
リーダーかっこいい・・・
実物も見習(ry
|
|ハ@
|д‘) <また実物よりもカッコイイいわれてるな
|ハ∪
|D`) <更新乙
⊂ノ
|
更新お疲れ様です。
おおっ! 会場で見かけたのはやはりリーダーでしたか。
821 :
書いた人:03/09/26 02:23 ID:HyhdOQ+U
――――
『勝負は収録後、すぐに。ただしお仕事なんだから、収録はキチンとこなしなさい』
飯田さんの毅然とした言葉の後も、しばらくはみんな固まっていた。
次第にその空気に耐えられなくなったのか、一人、また一人と楽屋を出ていく。
脇をすり抜けるみんなを首を振って顧みながら、私はおろおろとするだけ。
そうだ・・・まこっちゃん・・・
そう思って、まこっちゃんに手を伸ばす。
「あの・・・」
でも、まこっちゃんは私の腕をくぐりぬけるように、黙って楽屋を出て行く。
まこっちゃん・・・・・・
その背中を見つめていると、肩にぽんと手を置かれる感触。
振り向くと、最後に楽屋に残った飯田さんが少しはにかんだ顔をしていた。
「紺野・・・・・・私たちは遅刻しちゃったから、すぐにメイクと衣装」
「え? あ・・・・・・ハァ」
「色々聞きたいんでしょ? まぁ・・・ジャッジが不公平にならない範囲でなら、答えてあげるからさ」
822 :
書いた人:03/09/26 02:24 ID:HyhdOQ+U
そのままテレビに出ても大丈夫な衣装からサッと着がえると、飯田さんはメイク台の鏡と向き合う。
慌てて私も日常では絶対着ないような服を着ると、飯田さんの隣に腰掛ける。
別におかしなとこなんか無いのに、どこを直してるんだろう?
って思うほど完璧なメイクをしてるのに、それでもなお、飯田さんはパフで頬を撫でていた。
「紺野さぁ・・・どこから話せばいいかな?」
飯田さんは鏡を見つめたまま。
私もさっさとメイクを済ませちゃえ、ってことなんだろう。
この世界に入ってから散々教えてもらって、
最近になってようやく出来るようになった小細工を自分に施す。
823 :
書いた人:03/09/26 02:25 ID:HyhdOQ+U
「あのぉ・・・1級って・・・何型ですか?」
「うん、ラグビー型だよ」
事も無げに返す飯田さん。
ちょ、ちょっと待ってよ・・・・・・ってことは・・・
あの『二十歳過ぎの女』とか、私が見た後ろ姿は・・・飯田さん?
・・・気付け、私。
「それじゃ、もしかして、のんつぁんとお店で会った時、あれって・・・」
「うん、試験帰り。紺野と考えが一緒だったんだよ。
なっちに教えてもらったお店ってのはホント。
まさか会うとは思わなかったけど、我ながらよくあんな言い訳できたよ」
「って、そう! 何で隠してたんですか!?」
自分の言葉が失礼になってるのに薄々気付いてるけど、それでも私はその口調を変えられない。
大体飯田さんが1級を取っちゃうんだったら、私が受ける必要だって無かったんだ。
その時、初めて飯田さんがこちらを向いた。
その顔は収録仕様の完璧な飯田さん。
824 :
書いた人:03/09/26 02:27 ID:GaANVLYa
私の質問が意外だったみたいで、飯田さんは唇を尖らせる。
「え? だって、小川には知らせないで、紺野にだけ私が審判だって先に知らせんのは不公平じゃん。
習ったっしょ? 審判三原則。公平性って無かったっけ?」
「いえ、ありましたけどぉ・・・」
「小川がもし、『上級のジャッジが必ずしも合ってるとは限らない』って言い返したらって、考えなかった?」
「そりゃあ・・・考えました」
「だったら、準1級と2級の試合を裁決できるのは、その上の1級審判だけでしょ?」
飯田さんの言ってることは一々理に叶ってるけど、それでも喰らった不意打ちのインパクトが大きすぎる。
「まあ・・・・・・紺野が万が一落ちたら、ってことは考えたけどね。
それでも、圭織が1級を取ったのは、あくまでも、あんたと小川の試合をジャッジするためだよ」
「あのぉ・・・もしかして・・・」
「うん?」
825 :
書いた人:03/09/26 02:28 ID:GaANVLYa
首を傾げた飯田さんがおっきな目で私を見つめる。
飯田さんがいつからこんなことを考えていたのか。
そんなことはどうでもいいけど、それでも最後に解いておきたいこと。
「本、買いに行ったじゃないですか、一緒に。あの時・・・飯田さん・・」
その時、飯田さんは目を三日月にして白い歯をこぼした。
「あのねぇ・・・うん、そうだよ。あの時買ったの、1級の参考書。
紺野が見せろって言うから、こっちもテンパっちゃってねぇ」
「それじゃ、保田さんの写真集って言うのも・・・」
「うん、ウソ。いくら何でもメンバーの写真集くらい持ってるよ。
適当にそこら辺の棚から取ったら圭ちゃんの写真集でビックリしたけどさ」
そうか・・・
飯田さんの慌て具合が妙に印象に残ってる。
手に持った本を見たときの、あのキョドり具合。
凄いなぁ・・・ここまで騙されっぱなしって、私の人生隙だらけだ。
826 :
書いた人:03/09/26 02:29 ID:GaANVLYa
少し考えにふけってしまった私の顔を、心配そうに覗き込む飯田さん。
「あのさ・・・嘘ついちゃったことは、ごめんね。
もしこれで紺野にだけ私が審判やるかも、って言ったら、絶対小川からクレームつくと思ってさ」
そう言って、おでこの前で両手を合わせる。
飯田さん、リーダーなんですもんね。
『なるべくOBに迷惑掛けずに解決したい』・・・でしたっけ?
私には迷惑かかりまくりでしたけどね。
でも・・・
飯田さんもこの一月半、一生懸命やってたんですね。
自分の唇から、溜息ともつかない笑いが漏れたのが分かった。
827 :
書いた人:03/09/26 02:30 ID:DvexJAnC
「飯田さん、許してほしいですか?」
私の態度が予想外なのか、目を見広げる。
「もし許してほしいんだったら・・・・・・」
「・・・・・・」
「最高のジャッジをしてください」
雲の切れ目から日が覗いたみたいに、パァーーッと飯田さんの顔に安堵と笑いが広がった。
「最初で最後の、それで最高のジャッジをしてください。
私も・・・最高のジャッジをしますから」
「・・・分かった」
満面の笑みで頷く飯田さん。
その顔を見てると私もまこっちゃんに勝てるような気がして、自然と顔がほころぶ。
828 :
書いた人:03/09/26 02:31 ID:DvexJAnC
あれ?
飯田さんの肩越しに、扉の陰から半分顔を覗かせたシゲさんの姿。
「シゲさ〜ん、どしたの?」
そう言って手を振ると、飯田さんも首を伸ばす。
シゲさんは私たちの視線が集中したのが恥ずかしいのか、一瞬扉に顔を隠した後、目だけを覗かせる。
ちょっと怖い。
「あのぉ・・・矢口さんが、二人呼んできなさい、って」
「あ、ヤバッ・・・紺野、マズイよ」
時計を仰ぎ見ると、もう20分は経っていた。
慌てて立ち上がって、シゲさんと三人でスタジオに急ぐ。
829 :
書いた人:03/09/26 02:32 ID:DvexJAnC
「シゲさんさぁ・・・矢口、怒ってた?」
パタパタと廊下を早足で歩きながら、心配そうな飯田さん。
シゲさんは人さし指を唇において上を向くと、『うーん』と考え込む。
危ないなぁ・・・そんな風に歩くと、転んじゃうよ?
「うーんとですねぇ・・・・・・激怒です」
「「マジで!?」」
ハモッたのがおかしくて、飯田さんと顔を見合わせて笑う。
ひと月前までは、到底考えられなかった私たちの光景。
不思議そうに見つめてくるシゲさんの背中を、飯田さんがポンと押す。
「6期もさぁ、誰かが変な行動に走んないように、気をつけなよ?」
「ハァ」
私はシゲさんの気の無い返事を聞きながら、
『藤本さんが突然女王様宣言とかだったら面白いな』、と不謹慎極まりないことを考えていた。
830 :
書いた人:03/09/26 02:37 ID:DvexJAnC
今日はここまで。申し訳無いのですが、次は月曜です。
扱い悪い割にラテ欄にしっかり載せるうたばんにドロップキック。
>>815 一応この辺は当初の予定通りだったりして。
>>816 一応紺野さんの受けた意味は、今回書いたとおりでして。
>>817 「パイパン」と「タイタン(プロゴルファー猿のゴルフロボット)」は似てる。
>>818 実物もしっかり頑張っていると思われ。
>>819 ホントにねぇ、どうしよう。あいぼんさんの胸で泣かせて下さい。
>>820 伏線張るの下手でごめん。
川o・-・)ノ<更新乙です
ミキティなら女王様宣言しかねない気がする(w
次回更新も期待
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。かおりんもこんこんもシゲさんもいいですねぇ。
対決近し! n日越え完璧保全開始。
更新お疲れ様です。
なるほど、審判三原則に沿って
コソーリ受けてたのかあ
完璧保全
835 :
?:03/09/27 21:10 ID:SfG8Gkvz
保全
更新乙!
そして保全!
次に来るときまで、このスレが逝きませんように・・・
>837
このスレは読者がたくさんいそうだし大丈夫だと思いたい。
こんないいとこで落としてたまるか!
保全
>68-128 「記憶の中の『あの人』」 (>129 あとがき)[2003.06.20]
「昨日見た日々」
>168-180 *Prologue* [2003.07.07]
>186-194 ACT 1[2003.07.08]
>203-211 ACT 2[2003.07.10]
>218-227 ACT 3[2003.07.11]
>232-240 ACT 4[2003.07.13]
>247-255 ACT 5[2003.07.14]
>260-269 ACT 6[2003.07.15]
>274-282 ACT 7[2003.07.17]
>289-297 ACT 8[2003.07.18]
>300-307 ACT 9[2003.07.19]
>329-334 ACT10[2003.07.21]
>340-345 ACT11[2003.07.24]
>350-358 ACT12[2003.07.25]
>365-375 ACT13[2003.07.27]
>382-387 ACT14[2003.07.28]
>393-399 ACT15[2003.07.29]
>406-414 ACT16[2003.07.31]
>422-431 ACT17[2003.08.01]
>442-449 ACT18[2003.08.04]
>457-464 ACT19[2003.08.07]
>472-479 ACT20[2003.08.08]
>486-494 ACT21[2003.08.10]
>501-511 ACT22[2003.08.12]
>518-525 ACT23[2003.08.14]
>531-537 ACT24[2003.08.15]
>542-551 ACT25[2003.08.18]
>555-565 ACT26[2003.08.18]
>570-599 ACT27[2003.08.20]
>600-606 *Epilogue* [2003.08.20]
「ジャッジメント・ジャッジメント」
>660-668 ACT 1[2003.09.09]
>676-681 ACT 2[2003.09.10]
>689-698 ACT 3[2003.09.14]
>705-713 ACT 4[2003.09.15]
>719-726 ACT 5[2003.09.17]
>731-741 ACT 6[2003.09.18]
>745-756 ACT 7[2003.09.19]
>762-770 ACT 8[2003.09.20]
>778-784 ACT 9[2003.09.22]
>789-797 ACT10[2003.09.23]
>803-813 ACT11[2003.09.25]
>821-829 ACT12[2003.09.26]
843 :
書いた人:03/09/29 21:28 ID:JeqUQoFa
―――――
朝一番にこんなことがあって、まともに収録をこなせる人なんていない。
みんながみんな、収録の後に待ち構えている一大事を想っているのか、どこか虚ろ。
少しずつ収録が押していくのは、まるでその瞬間が来るのを怖がっているみたい。
ちょっと遅めのお弁当タイムになっても、いつもみたいな喧騒は楽屋には無かった。
チラチラと私とまこっちゃんを見比べるみんな。
いつもだったらそんなことをしてたら即座にアウト判定を下すまこっちゃんも、今日は静かにおかずの鮭を摘む。
いや・・・一人だけ・・・
「よしッ、小川、ちょっと来なさい」
一人元気に昼食を終えた飯田さんは、まこっちゃんを楽屋の外に連れ出す。
まるで市場に売られていく仔牛のように、それについて行く。
思わず私は、その背中を目で追った。
多分・・・さっき私と話したようなことを、まこっちゃんにも伝えておくんだろう。
844 :
書いた人:03/09/29 21:29 ID:JeqUQoFa
二人が外に出た途端、椅子を引きずって矢口さんが凄い勢いで迫ってくる。
「ちょっと、紺野! 勝てる・・・・・・よね?」
「え? さぁ・・・?」
「圭織もさぁ・・・なんでいきなり試合にしちゃうんだろ?
紺野の方が上なんだろ? だったら、紺野が小川に『アウトォーーーッ!!』ってやれば終わるんじゃないの?」
少し声を抑えながら、それでも興奮気味に一気に話すと、矢口さんは親指を立てる。
私たちの方に目を遣らずに、みんなが聞き耳を立てているのが雰囲気で分かる。
やっぱ・・・そう考えちゃいますかぁ。
「あの・・・まこっちゃんの言ってたことが、審判界では普通なんです。
別に級が上だからって、いつも正しいジャッジをするとは限らない・・・って。
私のほうが級が上だから、判定が正しい可能性は高いですけど、
でも『まこっちゃんがアウト』って判定そのものが正しいって訳じゃありませんし」
頭を抱える矢口さん。
ふと向こうを見ると、加護ちゃんやのんつぁんも、一緒に首を捻っていた。
845 :
書いた人:03/09/29 21:30 ID:JeqUQoFa
「だから一番いいのは、まこっちゃんよりも私の方が『正しい判定が出来る』
っていうのを直に見せ付けて、そこで初めてアウトにしないと・・・・・・
『級』って言うのはあくまでも目安ですから。お互いの実力の上下じゃなくって・・・」
「ダメだ・・・・・・おいらの頭じゃ分かんない」
「えっと・・・・・・つまり級の上下じゃなくて、
『紺野が小川よりも判定が上手い』ってことが大切なんでしょ?」
いつの間にか矢口さんの横に陣取った吉澤さんが、眉間に皺を寄せたまま人さし指を立てた。
朝から悪いものでも食べたのか、まともすぎる発言に少しビックリ。
『乳首コリコリ』とか言ってないで、こっちの吉澤さんの割合多くしてくださいね、ホントに。
その言葉で要領を得たのか、唇を少し曲げて矢口さんは私を覗き込んだ。
「紺野さ、ホントに私らは頑張れしか言えないけど・・・私らのことは気に病まなくていいからさ」
ちょっと意外なその言葉に、私は思わず目を見開いて口を開けっ放しにしてしまう。
待っていたかのように、今まで聞き耳を立てているだけだった他の面子も、私を中心に集まってきて。
846 :
書いた人:03/09/29 21:31 ID:JeqUQoFa
「そぉだよ、紺野。別に上手くいかなくっても・・・・・・って、上手く行かないって思ってないけど。
リラックスしてやればいいんだよ」
「うん、石川の言う通りだべ。小川には審判止めて欲しいけど、最近結構合わせるのにも慣れてきたし」
「結構楽ですよねぇ、意外と」
「うん、だからあんま緊張すんなって!! な?」
こういう時に声援をひたすら送られることの辛さはみんな経験済みなんだろう、私を気遣う言葉に私も笑みが漏れる。
確かに・・・・・・まこっちゃんのジャッジは『アイドルとしてダメだ』とかが多いから、意識的に合わせれば何とかなる。
それでもホントは、合わせないで自然体でいられるのが一番。
私を緊張させないための言葉だから、そこは呑み込んだんだろう。
847 :
書いた人:03/09/29 21:31 ID:JeqUQoFa
まるでお通夜みたいな暗さから一変した楽屋の空気に、私はますます頑張らなくっちゃって思う。
それは気負いとは違う、気合い。
でも、気になることが一つ。
「あ、でも・・・・・・」
一斉に振り向く12人。
「もし・・・私が勝って、まこっちゃんの審判止めさせることができたとしても・・・
それからもずっと、まこっちゃんと普通に接していってあげてくださいね?」
「分かってる・・・・・・けど・・・」
藤本さんの『けど』に被せられる、眉の辺りの憂い。
848 :
書いた人:03/09/29 21:31 ID:JeqUQoFa
この人たちなら、きっと何にも無かったみたいに翌日から普通にやっていける。
だって、脳味噌が鳥みたいな人たちの集まりだから・・・ってのは冗談で、
みんなそれ位のデリカシーはあるもの。
藤本さんが言っているのは、『出来ない』って意味じゃない。
まこっちゃんが、そう出来るかってこと。
今まで自分のやっていた行為を全否定された時、
それでもまこっちゃんは、ホントに今までのまこっちゃんのままでいてくれるんだろうか。
そこにいるのは、勝者と敗者だけ。
私たちの間には目に見えない、分厚い越えられない壁が出来ちゃうんだ・・・
「大丈夫だよ、きっと・・・」
「ンだべ・・・」
矢口さんと安倍さんの言葉に根拠も自信も無いことはすぐに分かった。
それでも、今はみんなを不安にさせておく必要は無いから・・・
849 :
書いた人:03/09/29 21:33 ID:M1fHRMxT
「はい」
頷いた私に、みんなが頷き返す。
終わった後、そこにいるのが勝者と敗者だけだとしても・・・それでも私はまこっちゃんと全力で戦おう。
だって、まこっちゃんを元に戻す唯一の手段なんだから。
この第一歩を踏み出さない限り、まこっちゃんは戻ってくれないんだから。
要らない心配は、勝った後にすればいいから。
「出来れば、まこっちゃんのことも応援してあげてくださいね?」
「え? なんでぇ?」
加護ちゃんが声に出すのも無理は無い。
そうだけど・・・15人もいるのに、13人対1人の試合なんて悲しすぎるじゃない。
「ううん、まこっちゃんがもし、とってもいいジャッジをしたら、その時はちゃんと歓声を上げてね、ってこと」
「あさ美ちゃん、どれがいいジャッジなのか、見ててもさっぱり分かんないよ」
お豆のあっさりした言葉がなんだかおかしくて。
私は笑いながら、自分も「こっち」の世界に来てしまったんだぁ、とちょっぴり頭を抱えた。
850 :
書いた人:03/09/29 21:34 ID:M1fHRMxT
――――― 収録後、路上
「ねえ、なっち! ホントにこの道で合ってんの?」
「ちょっと・・・あんま大声出すと、周りの人にばれますよ、矢口さん・・・」
「うーんとねぇ・・・もうちょっとかなぁ?」
「他のやつら・・・ちゃんと来れるのかなぁ?」
「だから声がでかいですって・・・・・・裏道だけど、ここ一応渋谷なんですよ?」
収録後、まるで何かいけないことをしているみたいに、こそこそと裏道を急ぐ私たちの姿があった。
一応変装はしてるけど、5人集まると一気に怪しい。
安倍さんと矢口さん、石川さんに、シゲさんと私。
15人一緒に移動は怪しいからって、5人ずつにしたけど・・・
「ッたくもぅ・・・圭織のヤツ、なんで場所変えんだよ?」
「しょうがないですよ・・・スタジオじゃ試合が出来ないらしいですから」
「だからってさぁ・・・渋谷のど真ん中を指定するのってどうなのよ?」
「15人一緒に移動するわけにいかないもんねぇ・・・
ところでさぁ、圭織の描いた地図、なんだかすっごく読みにくいんだけど」
「・・・・・・安倍さん・・・地図、上下逆です」
851 :
書いた人:03/09/29 21:34 ID:M1fHRMxT
シゲさんの言葉に、慌てて地図をひっくり返す安倍さん。
道理ですぐに辿り着けなかったわけだ・・・
駅から5分って言われてたのに、もう15分は歩いてるもんなぁ・・・
「なっちが天然記念物ものの方向音痴ってこと忘れてたわ・・・」
「ちょっと矢口、それじゃあまるで、なっちに地図読ませたのがいけなかった、って言ってるみたいだべ」
「『みたい』じゃなくて、そう言ってる」
「地図を読めないのが女の人は普通なんだよ!
なっちは矢口みたく、男っぽくないからいいの!」
「はぁ〜い、なつみちゃんもまりちゃんも、もうケンカは止めまちょうねぇ〜」
「・・・・・・石川、それなんかムカツクから止めて」
馬鹿丸出しのやりとりを前に、顔がにやける。
にやける・・・けど、やっぱり試合のことを考えると、少し気が重い。
このまま着かなければいいのになぁ・・・
そんなことを考えながら、私とシゲさんは暴走3人組の背中を追った。
852 :
書いた人:03/09/29 21:35 ID:M1fHRMxT
―――――
「あんたら5人、遅すぎッ!!」
合流場所・・・何の変哲もない喫茶店では、
飯田さんが東大寺南大門に並べられてもおかしくない勢いで待ち構えていた。
多分おもいっきり無理を言ったんだろう、店内には誰もいない。
「しょうがないべ・・・矢口がなっちにいちゃもんつけるから・・・」
「何それ? なっちが樹海に入った勢いで迷うからいけねーんだよ!!」
「はぁ〜い、飯田さん。迷ったのは私たち5人の責任です、ゴメンなさい!」
『お前、そのにやけ方はちっとも悪いと思ってねーだろ』って感じで頭を下げる石川さんに、飯田さんは諦めの吐息を漏らした。
ハイ、そこ、シゲさん。『私は悪くないのに・・・』とか言わない方がいいよぅ?
853 :
書いた人:03/09/29 21:35 ID:M1fHRMxT
「小川と紺野・・・・・・前に」
飯田さんに言われて、私たちは窓際に一歩踏み出す。
まこっちゃんと向き合っても、目を見れない。
まこっちゃんも私の方を見ようともせず、飯田さんをじっと睨んでいた。
「ここさぁ・・・窓、全部マジックミラーになってんのよ」
飯田さんに言われて振り返る。
道路側の壁は、全面一枚ガラスになっていて、外を行き交う人の流れが手に取るように分かる。
午後3時をまわった辺り、外には学生が出始めて、いよいよ活気を増してきた感じ。
向こうからはこちらは見えないから、みんな私たちの視線なんか気にせず通り過ぎる。
「小川・・・審判三原則、公平性と正確性と・・・あと、何?」
「迅速性です」
軍隊みたいに、毅然と答えるまこっちゃん。
854 :
書いた人:03/09/29 21:37 ID:KTZ05Buq
その答えに満足したみたいに、飯田さんは大きく頷いた。
「そだね・・・・・・でね、あなたたちは世界の全てのことをジャッジできる審判でしょ?
だから、この窓に映る全てのことを、ジャッジしなさい」
「「ハァ?」」
思わず声を揃える私とまこっちゃん。
いつもならそんなことがあればすぐに目を見て笑い合うのに、今はできないのが悲しい。
飯田さんは私たちの疑問を聞いてなかったみたいに、訥々(とつとつ)と説明を続ける。
「圭織はラグビー型の審判だから、一応その方式でやるから。
時間はラグビーの通りだと長いから、15分ハーフの前・後半制ね。
あなたたちは野球型の通りに、道行く人をジャッジしなさい。
圭織はあなたたちの判定を見て、いいジャッジだったらトライと認定するから」
「・・・で、時間終了の時に点数が高かった方の、勝ち・・・ですか?」
「そ」
855 :
書いた人:03/09/29 21:38 ID:KTZ05Buq
闘志満々の目をしたまこっちゃんに、飯田さんは笑って応える。
出来るかなぁ・・・頭が痛くなりそうなルールに、思わず後ろを振り返る。
そこにはみんなの顔。
安倍さん、矢口さん、シゲさん、亀ちゃん、レイナちゃん、吉澤さん、
石川さん、お豆、愛ちゃん、加護ちゃん、のんつぁん、藤本さん
みんながみんな、祈るような、泣き出しそうな、そしてどこか物静かな目をして。
悩んでる場合じゃなかったね・・・私は窓に向き直る。
「ごめんなさい、少しの間みなさんをジャッジさせてもらいます」
私たちのことなんか想像もできないだろう、行き交う人たちに心の中で謝罪。
まだ資格をとって一度もジャッジをしたこと無いけど、それでも今なら出来る気がする。
まこっちゃんがしているのに倣って、私も真正面に窓に対峙する。
どこから出したのか、笛を咥えて腕時計を睨んでいる飯田さん。
じっと窓の先に目を凝らすまこっちゃん。
見えないけれど、後ろで息を凝らして見つめている、12人。
思わず左胸に手を当てて、私は自分の鼓動を数えていた。
856 :
書いた人:03/09/29 21:43 ID:KTZ05Buq
更新乙です。ゴロッキーズ始まるしイ`
こんこんがんがれ!
まこっちゃんも。
明日が待ち遠しくて待ち遠しくてもう。
川o・-・)ノ<更新乙です
ハンバーグしかわからなかったけど、審判ならわかるはず!
こんまこ最終決戦に期待、両方がんがれ!
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。これは面白い試合方式ですねぇ。
さすがかおりん、ってここを感心してもしょうがありませんか。
ついに、とうとう、いよいよ、対決・・・
ほしゅ
更新お疲れ様です。
>847-848が切なくていいですねえ。
ミキティってとこがまた。
863 :
書いた人:03/10/01 01:35 ID:sa66dho2
心臓はいつものペースに戻っていて。
よし・・・全然緊張してないね。
ゆっくりと飯田さんの右腕が上がる。
垂直にその指先が天井を指し示すと、唇の端から僅かにブレスをしたのが見えた。
「それじゃあ・・・・・・前半15分。キックオフ!!」
ピッ!!
耳を劈く(つんざく)高音に、私は目を広げて窓全体を見回す。
手前の歩道には僅かな人通り、その奥の車道も車が行き交う。
ごく普通の風景、アウトも、セーフも・・・今の所は無い、ね。
そうおもった刹那、隣で上がった大声に私は思わず振り向いた。
「今の天気、暑すぎず寒すぎない、秋の午後を過ごすには最適です!
セーフです! ツーベースヒット!!」
864 :
書いた人:03/10/01 01:36 ID:sa66dho2
嘘でしょぉ?
天気なんて判定の対象なの?
ついつい、試合中だっていうのにまこっちゃんの方を見詰めてしまう。
両手を水平に真っ直ぐ広げたまこっちゃんは、凛とした目で飯田さんの判定を待つ。
ピィィィィッーーーーー!!
手を真っ直ぐ上に上げたまま吹いた笛の音が、私たちの鼓膜を震わせる。
「小川、トライ! 5対0!」
「トライなんですかぁ!?」
「よっし」
私の反応なんかお構いなしに、まこっちゃんは小さくガッツポーズを作ると再び目を凝らす。
あぅ・・・・・・そうだよねぇ。
飯田さんは『この窓から見える全て』を判定しろって言ったもん、天気だって当然入るのかぁ。
865 :
書いた人:03/10/01 01:36 ID:sa66dho2
よし、それなら私にだって考えがあるんだから。
ここで残念がってなんかいられない。
さっき見てたら、いいのがあったんだもんね。
窓から見える、道路を挟んで反対側のカフェ。
木目調の店構えが凄く素敵なんだけど・・・
考えをまとめていると、さっきのトライで調子付いたまこっちゃんが再び両手をピッと広げる。
「あそこに見える喫茶店! 雰囲気がすっごく素敵です。
セーフ! 三塁打!」
今度は私は呆気に取られない。
まこっちゃんが言い終わった瞬間に、即座に言葉を被せる。
「違います!! 素敵な店構えですけど、周りのビルと余りに不釣合い過ぎます!
ファールです!!」
866 :
書いた人:03/10/01 01:38 ID:JBPMN7Cn
今度はまこっちゃんが私に振り向く番だった。
両手を頭の上で大きく振りながら、私は飯田さんの判定を待つ。
確かに店構えは素敵だけど、両隣の煤けたビルの間じゃ魅力も半減してる。
「よし、紺野にトライ!! 同点、5対5!」
「ッ・・・!!」
「いいぞッ!!」
まこっちゃんの舌打ちをかき消すように、矢口さんが歓声を上げる。
それに頷き返したけど・・・今のはちょっと危なかったぁ。
まこっちゃんのジャッジに判定が出たあとだったら、
私のジャッジはただの後付けになっちゃうところだ。
867 :
書いた人:03/10/01 01:39 ID:JBPMN7Cn
気を抜いてられないなぁ・・・・・・鼻に滲んでいた汗を、指先ですくう。
ふと横目でまこっちゃんを見ると、こっちを向いて笑っていた。
この一月半、見ることが出来なかった、まこっちゃんの笑顔。
そう、あのジャッジをする時の不気味な半笑いじゃなくって、
いつものあの、あどけなくって少し照れたような笑顔。
「あさ美ちゃん・・・・・・やるねぇ」
「まこっちゃんも・・・ね」
試合中だっていうのに笑いあう私たち。
すぐに飯田さんが再開の笛を吹いたから、交わった目線はすぐに離れたけれど。
それでも私はこの試合に、何かの可能性を感じ始めていた。
868 :
書いた人:03/10/01 01:39 ID:JBPMN7Cn
―――――
「あさ美ちゃんさぁ・・・モーニング娘。ってなんなんだろ?」
「ハァ? どしたの? まこっちゃん」
「いや、ふと考えちゃってさ。モーニング娘。って何?」
「さあ・・・・・・アイドルでしょ?」
「アイドルなのにさぁ、あんなコントやったりしなくちゃいけないのかなぁ?」
「うーん・・・・・・それじゃ、エンターテイナー?」
「エンターテイナー・・・って、何?」
「それは・・・なんだろ?」
869 :
書いた人:03/10/01 01:41 ID:V04vaGVN
―――――
そうだ、私たちは、いつも考えてたんだ。
―――――
870 :
書いた人:03/10/01 01:41 ID:V04vaGVN
「あの男の人! 歩きタバコは危ないですからダメです。
即刻退場!」
「よろしい! 小川トライ、15対10」
「歩道にあるあのオブジェ、気持ち悪いだけで作った人の自己満足にしか見えません!
存在意義がありませんから、掠(かす)ってすらいません。三振ッ!」
「紺野もトライ、あと三振にした点を評価! ゴールキックの得点も!
15対17!」
871 :
書いた人:03/10/01 01:41 ID:V04vaGVN
―――――
「あ〜あ、またパート割り少ないなぁ・・・
いいねぇ、まこっちゃんは。たくさん歌える所あって」
「うーん、あさ美ちゃん、さくらの方でも、あんまパートなかったのぉ?」
「うん、愛ちゃんや加護ちゃんと比べたら、私下手すぎるから、しょうがないんだけどねぇ・・・」
「そっかぁ・・・・・・」
「・・・・・・うん、しょうがないの」
「でもさ!」
「?」
「あさ美ちゃんは、もっとがんばれば、もっと伸びる可能性がある、ってことだよ!」
「でもさぁ・・・でも『お前らは個性を大事にしろ』ってつんくさん言うよねぇ?
どーすればいいんだろ?」
「確かにねぇ・・・どこをとっておいて、どこを直していけばいいのか、分かんないよね」
872 :
書いた人:03/10/01 01:43 ID:ryo2uD5q
―――――
私たちはどうしているのが正しいのかって、ずっと考えてたんだ。
―――――
873 :
書いた人:03/10/01 01:44 ID:ryo2uD5q
「えーっとぉ・・・歩道の点字ブロックが・・・そう、あのブロックの上、放置自転車が止まってるから、
ホントに役立つか分かんないです。だから、ブロックはファール!」
「違うよ、あさ美ちゃん! 放置自転車とあれを置いた人、退場!」
「小川のほうが適切だから、小川にトライ! 27対17!」
「くぅ・・・」
「さっきのお返しだよ、あさ美ちゃん」
得意げにウィンクなんかするの反則だよ、まこっちゃん。
874 :
書いた人:03/10/01 01:45 ID:ryo2uD5q
―――――
「まこっちゃん・・・・・・また口空いてるよ?」
「あぁぁ、ごめん」
「鼻詰まってるわけじゃないのにねぇ、どして?」
「うーん・・・なんでだろ?」
「最近よく突っ込まれるよね、それ」
「うたばんとか?」
「うん、だから結構目立ってるよ」
「そうなんだけどさぁ、でもそれって、アイドルとして正しいか、微妙じゃない?」
「微妙っつーか、高校1年生としてどうよ? って感じ」
875 :
書いた人:03/10/01 01:46 ID:IcCEBdRZ
―――――
もしかして・・・『正しいもの』を見つけるために、まこっちゃんは審判になった?
―――――
876 :
書いた人:03/10/01 01:47 ID:IcCEBdRZ
「スーツの女性、清楚でいて美しいです! ストライク!」
「簡潔でよろしい! 紺野にトライとゴールキックのポイント、27対24」
「あのマンホール・・・」
「前半、終了! 小川、タイムオーバーだ」
笛の音とともに、私とまこっちゃんは床に座り込む。
慌てて後ろのみんな差し出してきた椅子に、なんとか這い上がっても、しばらくは顔を上げられなかった。
疲れた・・・
ずっと目を皿のようにして集中っていうのは、こんなにも体力使うんだ。
まこっちゃんも同じなんだろう、椅子の上でくたっとしたまま。
877 :
書いた人:03/10/01 01:48 ID:IcCEBdRZ
「どう、紺野ちゃん? 大丈夫そう?」
冷たいグラスに入ったジュースを渡しながら、心配そうにのんつぁんが見下ろす。
やっぱり見ているほうも気疲れがあるんだろう、どこかその顔には疲労感が浮かんでいる。
まこっちゃんのほうには私がお願いしておいたように、
公平になるように加護ちゃんがジュースを持っていってくれていた。
でも、一番疲れていたのは多分飯田さん。
奥の方で椅子に倒れこんだまま、ピクリともしない。
矢口さんがノートでパタパタ仰いでいるけど、首筋にじっとりと浮かんだ汗は一向にひく気配が無い。
「うーん、何とかなるかなぁ・・・? 分かんないや」
私の返事に、のんつぁんは要領を得ないような顔をした。
試合のほうは何とかなる。多分。
逆転できない点差じゃないだろう。
・・・・・でも・・・・・・
試合中に頭に浮かんだまこっちゃんの『理由』が、もしその通りだとしたら・・・
ちょっと納得できる。それだけに、私の胸の内は複雑だった。
878 :
書いた人:03/10/01 01:54 ID:IcCEBdRZ
今日はここまで。
当初1週間で終わるとおもってた自分の浅墓さにビクーリ。
>>857 _| ̄|○<うちの地方見れないんです・・・
>>858 すみませぬ、日付変わっちゃった。
>>859 実はそのハロモニすら、あぷろだの写真でしか把握してなく。
>>860 あと2回くらい続くと思われ。
>>861 乙です。
>>862 一応少ない脳味噌で、それなりに考えた箇所だったりもします。
川o・-・)ノ<更新乙です
おいらもまこっちゃんにちょっと納得
話がどんどん膨らむのは想像力が豊富な証だと思います
続き、期待してます!
(0;^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。緊迫した試合ですね。
息継ぎしないで見守ってますYO。
881 :
名無し募集中。。。:03/10/01 14:24 ID:OTbcis3X
( ´D`)<乙れす!
以前からコソーリ拝読しています。
あまり小説読まない人なので、こうやって少しずつの更新+
娘。が主人公ということで、楽しく読ませていただいてます。
まこっちゃんがどうして審判資格を取ったのか、
自分なりにずっと考えてたので、答えが見えてきました。
更新楽しみにしています。
はわわ・・すみません。ageてしまったyo_| ̄|○
まこっちゃんのアウト判定にやられて逝ってきます〜
883 :
:03/10/01 15:35 ID:0La1gLeR
884 :
名無し:03/10/01 18:56 ID:9hgfmrtp
ラグフェアのやつとの記事をBUBKAに載せられたってきいたんだけど
誰かうpしてください
更新お疲れ様です。
この回想(?)がまた切ないですねえ…
会話文だけってのがまたグッときます。
しかし、こりゃあリーダー疲れるわw
886 :
書いた人:03/10/02 01:41 ID:uM1OMJrM
歩道では私たちのことなんか思いもよらないんだろう、学校帰りの女子高生がキャピキャピと騒いでいた。
もしモーニング娘。に入っていなかったら、私も札幌であんな風な午後を送っていたんだろうか?
!!
そんなことを考えていると、突然こめかみの辺りにイタ気持ちいい感覚。
頭を抑えられてるから振り向けないけど・・・
多分のんつぁんだろう、私をマッサージしてくれてるみたい。
しばらくその圧に身を委ねて、目の疲れを癒す。
・・・・・・のんつぁん、ちょびっと痛いかも。
「あのさぁ・・・・・・のんつぁん」
「うん?」
887 :
書いた人:03/10/02 01:42 ID:uM1OMJrM
やっとまともな反応を返したのが意外だったのか、マッサージを続けたまま上ずった声で返事。
「あのさぁ・・・のんつぁんって、この世界で何が一番正しいっておもう?」
「え? さぁ・・・・・・どしたの? いきなり」
急に禅問答みたいなことをしちゃったのは気の毒だったかな?
分かるわけないもの。
それは相手がのんつぁんだから、ってことじゃない。
多分、矢口さんに安倍さんに藤本さん、飯田さんだって分からないだろう。
私だって分からない・・・・・・。
「じゃあさぁ、のんつぁんは色々お仕事してる時に、何を基準にしてる?」
今度はのんつぁんは返事をしてくれなかった。
代わりに手を離すと、椅子の前にしゃがみこんで私を見上げる。
888 :
書いた人:03/10/02 01:42 ID:uM1OMJrM
「ねえ、紺野ちゃん、だいじょーぶ? もしかしてすっごく疲れちゃたの?」
「え? いや・・・別に。そんなことないけど」
「そう・・・なら、いいけどさぁ。いきなり変なこと聞いてくるんだもん」
「変かなぁ?」
「変だよ」
「あ、ゴメンね、のんつぁん。さっきの気持ちイイから、もっとやって欲しいんだけど・・・」
「うん、いいよ」
私の思考がおかしな問答から離れたと思って安心したのか、
のんつぁんはてへてへと笑うと、再び後ろに廻り込む。
『まこっちゃん、そんな審判の基準なんかに従わなくていいんだよ!!』
って言うのはカンタンだ。
勝ったらそう言うと思う。
でも・・・・・・じゃあ、どうすればいいって言おうか?
私だって、そんな答え見つかってないじゃない。
889 :
書いた人:03/10/02 01:44 ID:o8AL4u5Q
「お客さ〜ん、凝ってますねぇ〜?」
いつの間にか肩揉みに切り替えたのんつぁんが冗談っぽく言う声も、左耳から右耳へ素通り。
まこっちゃんに審判を止めさせたら・・・まこっちゃんは何に頼るんだろう?
折角見つけた拠り所を、私たちに取り上げる権利なんてあるんだろうか?
窓から見える景色は、15分前と何にも変わらなくて。
それがなんだかとっても、恨めしい。
ダメだダメだダメだ。
頭をブンブン振って、自分の外に答えを探そうとした思考を追い出す。
景色が答えなんかくれるはずが無い、考えなくっちゃ。
890 :
書いた人:03/10/02 01:44 ID:o8AL4u5Q
「ハイ、終わりッ!!」
小気味よい声で言うと、トンッと肩をチョップで叩くのんつぁん。
私の顔を後ろから覗き込んで、ちょっときつめの声を出す。
「紺野ちゃんさぁ・・・あと15分もあるんだから。
あんまし色んなこと考えてると・・・・・・負けちゃうよ?」
『負ける』という言葉を怖がるように、そこだけ声が低くなる。
そうだよね・・・今は試合中だもん。
飯田さんが立ち上がって、手首をコキコキ鳴らしている。
そろそろハーフタイムも終了かな?
胸に引っ掛かるものは置いといて、もうちょっと頑張るしかないかぁ・・・
「そだね・・・・・・ゴメンね、のんつぁん。変なことばっか言って」
「いいよ、別に。あ、でもね・・・」
891 :
書いた人:03/10/02 01:45 ID:o8AL4u5Q
中腰になっていた私は、その体勢のままのんつぁんに振り向く。
のんつぁんは少し照れたように、指先で頬を掻きながら俯いた。
「あの・・・ね、基準? だっけ? さっきのヤツ。
あれさ・・・私は何にも基準になんかしてないよ・・・けど」
「けど?」
「私は・・・『あの人みたいになりたい!』って思うんじゃなくって、
『あんな風になれるように、努力したい!』って思うようにしてる」
・・・・・・・・・
そうだよ・・・・・
何で気付かなかったんだろう。
返事もしないで唇の端から笑い声を漏らす私を、のんつぁんが一歩退いて見ていた。
私はまこっちゃんじゃなくて、まこっちゃんは私じゃない。
勿論、私はのんつぁんでも、お豆でも、飯田さんでも、矢口さんでもない。
お互いが全く違うのに、みんな素敵なアイドルやってるじゃない。
892 :
書いた人:03/10/02 01:46 ID:MaKubHZP
のんつぁんは、どんなに頑張ってものんつぁんだ。
でもそれは、けして悪いことじゃない。むしろとっても素敵なこと。
―― 『正しい』アイドルなんていないよ。
じゃあ? どうしていけばいいのか?
―― 頑張ってる自分自身が、それだけで、素敵なアイドルなんじゃない?
頭の中の折角の考えを崩さないように、静かに立ち上がる。
「ありがとね」
のんつぁんに振り返ると、さっきまで私の反応を訝しげに見ていたのに、
「いいってことよ」
彼女は冗談っぽくそう言って、右手で軽く敬礼した。
893 :
書いた人:03/10/02 01:47 ID:MaKubHZP
まだ・・・まこっちゃんに伝えるには、考えがまとまっていない。
でも試合中には、何とかまとまるだろう。
今はとにかくこの結論を伝えられるように、『勝つこと』に集中しなくちゃ。
・・・・・・絶対負けないよ、まこっちゃん。
まこっちゃんは私の顔を見ると、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
その様子を見て、飯田さんが前に歩み寄る。
「二人とも・・・・・・大丈夫ね?」
「「はいッ!!」」
満足そうに飯田さんは頷いた。
「スコアは27対24で、小川のリード。残り15分。
終了5分前から、シゲさんに分刻みでカウントダウンしてもらうから・・・・・・イイね?」
「はい」
「分かりました」
シゲさんはまるで柱時計にでもなっちゃったみたいに、飯田さんから受け取った腕時計を睨みながら棒立ち。
まだあと10分は、リラックスしてて良いんだよぉ。
894 :
書いた人:03/10/02 01:47 ID:MaKubHZP
「そんじゃお互いに、悔いの無いように試合しなさいね・・・・・」
飯田さんが静かに右手を上げた。
シゲさんが差し出した腕時計の文字盤を睨みつける。
まるでその秒針の音が、私の耳にまで聞こえてくるみたい。
みなさん、絶対勝ちますからね・・・・・・
後ろをチラッと見た瞬間、
「始めッ!」
「あのマンホール! 歩道のタイルととってもよく調和してます!
ツーベースヒットッ!」
「よし、小川トライ! 32対24」
しまったぁ〜
油断した・・・
「コラッ! 紺野ぉ〜! 余所見してんじゃないの!」
矢口さんの怒声が耳に痛かった。
895 :
書いた人:03/10/02 01:52 ID:MaKubHZP
今日はここまで。多分あと少しです。
>>879 「妄想力」の方が適切かもしれません。
>>880 息はしとけ、よし子。
>>881 故意でなければagesageは気に致しませぬので。
あと数回ですが、お楽しみください。
>>884 私は無理ですので、他をお当たりください。
>>885 「回想」で正解です。いつもおんなじ形式じゃん、って言うのは無しで。
初のリアルタイム。
・・・実は一時半くらいから待ってました。
更新乙です。
のんつぁんの考え方が素晴らしいなあ…
あとちょっと頑張ってください。
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。後半、始まりましたか。
二人とも応援してますYO。
川o・-・)ノ<更新乙です
実は話が延びるのをちょびっと期待してたりします
あと少し頑張ってください
どさくさに紛れて900getよっ!>( `▽´)==○∬)T▽T∬/・:∴∵
更新お疲れ様です。
のんつぁんはもちろん、
シゲさんが実にいい感じですなあ
902 :
書いた人:03/10/03 01:28 ID:U0aqqGPX
―――――
後半が始まっても、一進一退。
いや、どんなに頑張ってもまこっちゃんとの差が詰まらないから、私の劣勢なんだろう。
「あさ美ちゃ〜ん、頑張ってよ!!」
「ほら、まだまだ出来るべ!!」
お豆や安倍さんの声援が耳に入るけど、もう限界っぽかった。
スピード型のまこっちゃんの方がジャッジにかかる時間が遥かに短いから、
どうしてもジャッジの数で差を詰めることはできない。
ゴールキックのポイントは私の方が多いけど、それ以上にまこっちゃんはトライ数を稼ぐ。
正確性で勝負しようにも、まこっちゃんのミス待ちだからなぁ・・・
チラッと横目で見たまこっちゃんは、唇の端にどこか余裕を浮かべていた。
多分もう、後半の半分は終わっただろう。
次第に私もまこっちゃんも、ジャッジのペースが落ちてきた。
まずい・・・・・・負ける。
903 :
書いた人:03/10/03 01:28 ID:U0aqqGPX
「あさ美ちゃん・・・」
「何?」
試合中だっていうのに私に話し掛けるのは余裕の表れなんだろうか、
手を腰に当てて少し胸を張って、まこっちゃんが生意気そうな笑いを浮かべていた。
「今なら・・・」
「?」
「今ならまだ、試合放棄できるよ?」
まこっちゃんが喋っている間もずっとジャッジポイントを探していた私の目の動きが、その一言で止まる。
今何て言った?
私に棄権しろ?
904 :
書いた人:03/10/03 01:29 ID:U0aqqGPX
「今だったらまだ、私もあさ美ちゃんもどっちが勝つか分からない時間帯でしょ?
だから今だったら、試合放棄できるよ?」
まこっちゃんは誇らしげに、そしてどこか悲しげに私を見つめていた。
無視して今のうちにジャッジをしようと思うけど、
まこっちゃんの言葉に心が動揺して、まともな思考ができない。
まこっちゃんは今・・・・・・私に勝利を宣言した。
「紺野が試合放棄なんかするはずないだろ!? 紺野!
今のうちにさっさとトライ決めちゃえって!!」
矢口さんの言葉の棘は、多分まこっちゃんの余裕に向けられたもの。
でも違う・・・まこっちゃんの笑いの中に見える影は、多分私への哀れみ。
この試合が終わった時に、まこっちゃんが勝者で私が敗者になる、その事実への哀れみ。
まこっちゃんの審判に徹しきれない部分・・・そんな部分があればだけど、
その部分が私に試合放棄をさせようとしている。
905 :
書いた人:03/10/03 01:31 ID:2YzZXQt9
歯を食いしばって、何とかまこっちゃんの隙を突こうと目を見開く。
まとまらない頭の中で、それでも分かりそうなもの・・・何か・・・・・・あ、
「あ、今降りだした雨! 折角の学校帰りに、しかも傘を持っていない人たちには酷い・・・
ダブルプレー成立!」
「ナイスジャッジッ! 紺野トライとゴールキック、49対46で小川リード!」
誰が見ても分かる変化・・・にわか雨だ・・・
窓の外では突然振り出した強めの雨に、みんな散り散りにどこかへ急ぐ。
・・・・・・そして、人通りはぱたりと途絶えた。
ただ雨が降りしきる景色には、判定する要素なんか殆ど無い。
人通りは止んだし、外の景色は一通り判定し尽くしたから。
どうしよう・・・・・・このままじゃ・・・負けちゃう。
「残り! 5分です!」
シゲさんが一生懸命張り上げた声が、無慈悲に店内に響く。
906 :
書いた人:03/10/03 01:31 ID:2YzZXQt9
シゲさんの宣告に、頭が真っ白になる。
このまま雨が続けば・・・このまま人通りが途絶えたら・・・私は勝てない。
膝の力が抜けて、私はその場にへたり込んだ。
穿いていたプリーツスカートが、私の動きに合わせてふわりと広がる。
雨の音だけが、ひたすら私の鼓膜を打つ。
ふと横のまこっちゃんを見上げると、彼女はまるで哀れむような目付きで私を見ていた。
「紺野ぉ〜、まだ試合中だぞぉ」
「紺野さん! 立って下さい」
「紺野ちゃんってば〜!!」
みんなの声がまるで遥か遠くで聞こえてるみたい。
私の視界の脇で、飯田さんは腕を組んだままじっと私たちを見ていた。
907 :
書いた人:03/10/03 01:32 ID:2YzZXQt9
まこっちゃんの唇が少し開くと、何かを呟く。
「・・・・・・」
「何?」
「・・・・・・だから試合放棄して、って言ったじゃない」
まこっちゃんは責めるような口調で、それだけ言い直した。
負けるの?
私はやっぱり負けちゃうの?
まこっちゃんはこのままずっと審判をしつづけて、自分らしさを見失っていくの?
「残り・・・・・・4分です」
シゲさんの声には、少なからず絶望感が入っている。
908 :
書いた人:03/10/03 01:34 ID:p5cbCS4E
まこっちゃんは諦めたように溜息を洩らすと、再び窓の外をじっと見遣った。
不規則なリズムを打つ雨しか見えない窓の外に、判定する相手なんて今は無いのに。
そしてそれっきり、もう二度と、まこっちゃんはこちらを向かなかった。
多分それは、私を説得することへの諦め。
いや・・・・・・ちょっと待って。
何でまこっちゃんは、もう一度私にあんなことを言ったんだろう?
まこっちゃんの中に残っていた、『徹しきれない部分』?
それもあると思う、けど・・・・・・
でも雨が降り出してもう勝負が決まったこんな時に、言う必要なんか無いはずだ。
「残り3分・・・・・・です」
909 :
書いた人:03/10/03 01:35 ID:p5cbCS4E
考えろ、考えろ、私。
漫画だったら多分斜線だけで表現できそうな雨を見ながら、頭を抱える。
まこっちゃんは正しいものに寄りかかるために審判になった。
そしてそれを止めることを賭けて、私と試合をしてる。
このまま行ってもしまこっちゃんが勝ったら、そのときはそのままずっと審判をやっていくんだろう。
じゃあ何かが起きたら?
?
何かが・・・・・・仮に私が勝ったら?
私がもし万一勝ったら、まこっちゃんは拠り所を失うはず。
もしかして・・・・・・まこっちゃんは怖いんじゃないだろうか。
勝ちが殆ど決まった試合でも、まこっちゃんは失うのが怖いんだ。
910 :
書いた人:03/10/03 01:36 ID:p5cbCS4E
そうか、そうだよね・・・・・・きっとそうだ。
頭の中で次々と繋がるパズルのピースに気持ち良ささえ感じる。
シゲさんが残り2分を宣言しても、私はちっとも気にならない。
私だってこの試合に入ったとき、まだ迷いが抜けきれなかった。
まこっちゃんから寄りかかるものを奪った時に、まこっちゃんがどうなるんだろう、って考えた。
でも例え私がここで負けても、まこっちゃんはこれからもずっと、
自分の正しさの証明に怯えなくっちゃいけないんだ。
「ふふふ・・・・・・」
自分の口から笑いがいつの間にか漏れているのに、私はやっと気付いた。
外の雨は少し弱まっていた。私の心のように。
まこっちゃんが少し意外そうに、私を横目でチラチラと見ている。
911 :
書いた人:03/10/03 01:38 ID:mhbSXRZ0
よしッ!
気合いを入れて立ち上がる。
下ろしている前髪が、その拍子に頬を撫でた。
安心して、まこっちゃん。
私が今すぐ、まこっちゃんをそんな不安から解き放ってあげるから。
「あと1分です!!」
シゲさんが精一杯張り上げた声に、私は再びじっと外を睨みつける。
「紺野! 落ち着いてやればきっと出来るべ!」
安倍さん、分かってますよ。
私の変わり様に驚いて、慌ててまこっちゃんも外を見つめる。
みんなの声が、また私の耳元で聞こえ始めた。
912 :
書いた人:03/10/03 01:39 ID:mhbSXRZ0
何か・・・誰でもいい、ジャッジできる相手を。
913 :
書いた人:03/10/03 01:39 ID:mhbSXRZ0
「「あ」」
まこっちゃんと私の声が揃う。
小降りになった雨の中、一人の女子高生が前を横切る。
なんつーんだろう? ドム? パーフェクトジオング?
ミニスカートとソックスの間に挟まれた脚は、まるでボンレスハムみたいに丸々として。
顔もオーブントースターで焼かれたんだろうか? 汚い茶色が見てて嫌悪感を催す。
あの人しかない。
殆ど脊髄反射のようにアウト判定を・・・・・・
あれ?
私の目が彼女の右手にぶら下げられたビニール袋に留まった。
そして右手にはめられた白い手袋・・・軍手?
ゴメンね、私の脊髄・・・・・・その判定、修正させてもらうよ。
「アウトォーーーー!! あの女子高生、アウトですッ!!」
「女子高生、スリーストライクッ!! 三振!!」
「タイムアップ!!」
まこっちゃん、私、シゲさん、3人の声が順に響いた。
914 :
書いた人:03/10/03 01:43 ID:mhbSXRZ0
今日はここまで。次回最終回。
1日かそこら、間が空くかも知れませんのでご了承を。
>>896 ということで、一時半周辺に更新してみました。
>>897 何だかんだ言って、説教臭い小説になって参りました。
>>898 後半の書き方、かなりおざなりでごめん。
>>899 ということで、次回最終回です。長く出来ないでゴメンなさいね。
>>900 7時間置いて「どさくさ」って言われても困るんですが。
>>901 実態から乖離しすぎていないことを天に祈ります。
川o・ー・)ノ<更新乙です
次回で最終回…寂しくなりますね
最後の更新、楽しみに待っていますよ
(0^〜^)<作者さん、更新乙です。
つ日 うーん。残り5分、スリリングでした。
最終回楽しみ。
更新乙です
正座して待ってます
918 :
書いた人:03/10/04 01:24 ID:5bn5oHSp
・・・・・・まこっちゃんと判定が違う・・・
思わず飯田さんを振り返る。
私と同じ気持ちなんだろう、まこっちゃんもすがるように飯田さんを見上げていた。
シゲさんよりも早くジャッジしたから、取り合えずインタイムだと思うんだけど・・・
「圭織・・・・・・判定は?」
声に出さないと緊張感に呑まれてしまいそうだったのは、矢口さんだけじゃない。
それはこの店の中にいる誰もが同じだった。
飯田さんは、まるで交信中みたいに一点を見据えて、じっと考えているようだった。
おっきな目を瞬きもせずに、じっとあの女子高生を見つめている。
スッ・・・・・・
飯田さんの右手が垂直に上がる。
「トライ!! 紺野! 51対49・・・・・・で、タイムアップ!」
919 :
書いた人:03/10/04 01:25 ID:5bn5oHSp
勝った・・・?
勝ったんだよね?
その51点は、私のスコアだよね?
「やったよぉ〜!! 紺野ちゃん!!」
頭の中で整理がまだついていないのに、私の胸にのんつぁんが飛び込んできた。
その拍子に一気に床に押し倒される。
頭を思いっきり床にぶつけたけれど、その痛みはちっとも気にならない。
馬乗りになっているのんつぁんに苦笑しながら、みんなが歩み寄ってきた。
その顔は、私の勝利を心から祝ってくれている笑顔・・・いや、ただ一人。
「何で!? 何でですか? 飯田さん!
どーして、今のがあさ美ちゃんのポイントなんですかぁ!!!」
まこっちゃんだけは、私から一歩離れて飯田さんを睨みつけていた。
920 :
書いた人:03/10/04 01:25 ID:5bn5oHSp
まこっちゃんの顔は、涙でくじゃくじゃになって。
「おかしいですって! どーして・・・私のほうが早かったし・・・
三振って言ったって・・・私の判定と大差ないじゃないですか!!」
負けることが・・・・・・怖いんだね、まこっちゃん。
その涙のわけを理解できるだけに、のんつぁんに押しつぶされている胸が余計に痛む。
飯田さんはじっとまこっちゃんを見つめると、少し悲しそうな目をした。
「そう・・・・・・ね、時間帯からいって、あの場面でもしもあの女子高生が『アウト』だったら、
あんたも紺野も『アウト』の点は同じだから、ノーカウントにした方が適切かもね」
「だったら・・・・ッなん・・・でッ!?」
飯田さんも・・・審判だからまこっちゃの気持ちに気付いているんだろう。
大きな瞳に涙が浮かんでいた。
「それは・・・・・・圭織が言うより、紺野に聞いたほうがいいんじゃない?」
921 :
書いた人:03/10/04 01:26 ID:5bn5oHSp
「・・・・はぁ」
飯田さんに促されて、私は気の抜けた返事。
のんつぁんが慌てて私の上から腰を浮かせた。
多分・・・説明の仕様によっては、さっきのトライが取り消されるかもしれない。
でも大丈夫、飯田さんもおんなじことに気付いていたはずだ。
だからこそ私にポイントが入ったんだから。
大丈夫。
立ち上がるとスカートの裾を手で何度か払う。
私のその緩慢な動作気に食わないのか、
唇を真一文字に結んだまこっちゃんが、歯軋りをするのが聞こえた。
ジャッジメントに伝わるように、いいや、まこっちゃんに分かってもらえるように。
922 :
書いた人:03/10/04 01:26 ID:5bn5oHSp
「あの人・・・見てみなよ、まこっちゃん」
腕を上げて、ゆっくりとまだ窓の外にいる彼女を指差す。
私を睨みつけていたまこっちゃんが一瞬だけその目線の先を窓に移すと、その瞳孔が広がったように見えた。
「・・・・・・ッ!!」
彼女の唇から、息を呑む音が聞こえる。
私たちの視線の先で、あの女子高生はゴミを拾っていた。
白い軍手は拾うため、ビニール袋はゴミを入れるため。
「確かにさ・・・あの人、アウトだと思ったよ?
・・・・・・美意識からすれば、そもそも掠りすらしてないし。
確かに判定する瞬間までは、あの人はあんなことしなかった。
だからまこっちゃんの方が、あの瞬間のジャッジでは正確かもしれない・・・けど」
窓から再びまこっちゃんに目を移すと、まこっちゃんは目を真っ赤にして俯いていた。
923 :
書いた人:03/10/04 01:27 ID:5bn5oHSp
「けど、もしかしたら、あのビニール袋と軍手で・・・って考えが捨てきれなかった。
だから、どうにか後戻りができるかもしれないジャッジが無いかなって考えたの・・・」
「・・・・・・」
「あの女子高生、スリーストライクで三振・・・ですけど、振り逃げで一塁進塁、だと思います」
今度は飯田さんの方を向く。
私とおんなじ意見だったんだろう、飯田さんは満足そうに私の説明に頷いた。
「そう・・・だね。だから、私は小川じゃなくて紺野に得点させた」
「・・・・・・」
室内には、ただまこっちゃんの泣きじゃくる声だけが響きつづける。
924 :
書いた人:03/10/04 01:29 ID:1DaX9mv9
これで・・・・・・やっとまこっちゃんの審判を止めさせられる。
飯田さんが私の勝利を宣言して、そして試合終了をコールすれば、私の勝ちが確定して。
そして、まこっちゃんは頼るものを失う。
でもいいんだ。
まこっちゃんはまこっちゃんらしくやっていけば、まこっちゃんなりの努力をしていけばいいから。
これで全てが解決して、まこっちゃんも助けられると思っていた・・・
なのに
・・・・・・なんだろう、この喪失感は。
まこっちゃんは床に座り込んで涙を拭いていた。
石川さんが差し出すハンカチすらイヤイヤをして受け取らずに、まこっちゃんは泣き濡れている。
925 :
書いた人:03/10/04 01:29 ID:1DaX9mv9
これは・・・・・・試合だったんだ。
試合が終われば、そこにいるのは勝者と敗者。
私がどんなに勝者面をしなくても、これから永久に誰もこの試合のことを口にしなくても、
まこっちゃんの中では私に一度負けている、っていう事実は残りつづける。
私が考えていたほど、甘いものじゃなかったんだ。
棒立ちになってまこっちゃんを見下ろしながら、今その事実に直面して初めて気付く。
私が勝者で、まこっちゃんが敗者。
試合終了と共に、それは永久に変えられない事実となる。
このまま、試合が終わらないで欲しい・・・・・・でも、
「小川、試合終了の挨拶・・・・・・まだしてないでしょ? 立ちなさい」
飯田さんの残酷な声が耳を突き刺す。
926 :
書いた人:03/10/04 01:30 ID:1DaX9mv9
石川さんと吉澤さんに両脇から支えられて、やっとまこっちゃんはふらふらと立ち上がる。
ダメだよ・・・・・・立ち上がったら、試合が終わっちゃう。
「あ、あの・・・・飯田さん!」
考えるよりも早く、口が動いていた。
少し意外そうに飯田さんが私に振り向く。
ダメです・・・試合を終えたら、私たちはもう二度と元の私たちに戻れない。
「試合・・・終了しないでくれません?」
「ちょっと! 何言ってんだよ、紺野!」
「んだべ・・・試合終了させなくっちゃ、紺野は小川に勝ったことになんないっしょ?」
矢口さんも安倍さんも、分かってないんだ。
二人の声に顔も向けず、じっと飯田さんの吸い込まれそうな瞳を見つめる。
927 :
書いた人:03/10/04 01:31 ID:gCfseo3r
「何で?」
・・・・・・何で・・・って・・・・・・飯田さんも審判なら分かるはずですよ?
私たちがこのあと、永久に勝者と敗者に分かれるんですよ?
まこっちゃんは審判を止めるから、永久にリベンジもできないし・・・
頭の中ではぐるぐると言葉が回るのに、一言も声にはなってくれない。
それが苛立たしくて、悔しくて・・・・・・
私の頬を、冷たいものが伝っていく。
突然泣き出した私を、みんなは遠巻きに見つめている。
何とか声に出さないと・・・試合が終わっちゃう・・・
「だってッ・・・・・・もし、このまま試合ッ・・・終わっちゃったらッ・・・
まこっちゃんがッ・・・・・・まこっちゃッ・・・ん・・・」
やっと出した声も、しゃくりあげてちっとも言葉にならない。
928 :
書いた人:03/10/04 01:32 ID:gCfseo3r
段々霞む視界の中で、処刑台の前でうなだれる死刑囚みたいに、まこっちゃんが俯いているのが見える。
もう諦めちゃったの?
私は最早ただのしゃっくりになってしまった言葉を、ひたすら繰り返すだけ。
でもその時、飯田さんは笑っていた。
あんまり飯田さんの表情では見たことが無い、
嘲笑じゃなくって、泣き出した子供を慈しむような笑い。
ただしゃくりあげるだけの私に、まるで諭すように飯田さんは話し出す。
「紺野さぁ・・・試合は終わんなくっちゃ、ダメでしょ?」
「でもッ・・・でも・・・・・・」
―― このままじゃ、私とまこっちゃんは元に戻れません
声に出なかったのに。
その言葉は私の胸の中でしか響いていなかったのに。
まるでその声が聞こえたかのように飯田さんはにこりと笑った。
929 :
書いた人:03/10/04 01:33 ID:gCfseo3r
「紺野さぁ・・・何のために、圭織がラグビー型で審判の資格取ったと思ってんの?」
「?」
笑いながら、飯田さんは続ける。
「ラグビー型って、一番難しいって言われてるのに、なんで選んだと思ってんの?」
まこっちゃんも顔を上げて、泣き腫らした目を飯田さんに向けていた。
私はまだ横隔膜の泣き癖を治められずに、いつの間にか手に握らされていた誰かのハンカチで涙を拭く。
「ラグビーの試合にはね・・・・・・魔法の言葉があるからね」
930 :
書いた人:03/10/04 01:34 ID:TRsrhMCz
いたずらっ子みたいに無邪気に笑うと、私とまこっちゃんを対面に立たせる。
私とまこっちゃんはその言葉の意味が分からずに、ただ吸い操られるように並んでしまう。
「安心しなさい・・・この試合が終わっても、紺野と小川は永久に友達だから」
飯田さんの右手が垂直に上がる。
みんなも飯田さんの横にピシッと並び立つと、少し嬉しそうな、そして少し心配そうな目で成り行きを見守る。
ダメですよ・・・・・・このままじゃ・・・ホントに試合が・・・
「それじゃ・・・・・・紺野対小川!
52対49で、紺野の勝ち!」
!
私の勝利を宣言した直後、飯田さんは少し俯いて唇の端を上げた。
931 :
書いた人:03/10/04 01:35 ID:TRsrhMCz
「ノーサイド!!!」
932 :
書いた人:03/10/04 01:35 ID:TRsrhMCz
―――― エピローグ
933 :
書いた人:03/10/04 01:36 ID:FE6k9QaV
「ほらぁ! 藤本さん! 脚の開きが足りませんよ!
もっと勢いよくパカパカやんないと、ダメですって!」
「ちょ・・・ハァ、やっぱこんな約束しなけりゃよかったなぁ」
「な〜に言ってんですか? ほら、一緒に? ハニ〜パ〜イ!!」
1週間後・・・・・・
お約束どおり馬鹿丸出しのダンスを楽屋で踊る私と藤本さん。
「ほら〜! ちゃんと踊んないとダメだべ!」
「キャ〜!! 美貴ッ! 素敵!!」
「つーか、なんで13人勢ぞろいしてこんなダンス見てるんですか!!」
「いや、面白いから」
飯田さんの言葉に、全員が爆笑した。
大きく口を開けて、にこやかに笑うメンバー。
その中に・・・まこっちゃんの顔も勿論ある。
934 :
書いた人:03/10/04 01:37 ID:FE6k9QaV
飯田さんがあの時言った・・・「ノーサイド」
野球で言えば「ゲームセット」。
ただその意味が全く違う。
もう試合が終われば、勝者も敗者も、どっちのサイドも無い。
またお互いに、仲良くしなさいよ、って言う言葉。
勿論それだけでわだかまりが抜けるわけじゃないけど・・・・・・
飯田さんなりに、必死に考えあぐねた解決策だったんだろう。
飯田さんが切々とその意味を説いたおかげで、どうにか最悪の事態は免れた。
まだどちらのサイドも無く、まこっちゃんとあの試合を笑って話せはしないけど、
今の所は、まこっちゃんは屈託なく私たちと接している。
みんなも私との約束を忘れていなかった、何事もなかったように、いつものモーニング娘。に戻っていた。
935 :
書いた人:03/10/04 01:37 ID:FE6k9QaV
♪
「ハァ・・・・・・これでいいでしょ?
もう約束は果たしたと思うけど・・・」
曲が終わって、藤本さんは溜息をついた。
だってこれでもう8周目だから。
藤本さんの目が『紺野、これ以上やらせたらシメる』って言ってるんだけど・・・
でもなぁ・・・・・・藤本さん、脚パカパカのペースがゆっくりなんだもん・・・
ダメです・・・私が一徹さんだったら、ちゃぶ台ひっくり返して怒っちゃうもん。
「みなさん! これで終わりにしていいんですかねぇ?」
責任回避。
答えの予想はつくけれど、私たちの周りに車座になって座る13人に問い掛ける。
矢口さんにはその意図が伝わったんだろう、おっきな目が三日月みたいに細くなった。
「ダメだろ〜、藤本ちっとも真面目にやってないし」
「ンだべ、もっとしっかりやんないと、紺野の苦労が報われないべさ」
936 :
書いた人:03/10/04 01:39 ID:4uE3MiSn
ブチッ
って音がしたように聞こえた。
うわぁ・・・藤本さん能面みたいな顔になってるんですけど・・・・・・
緊急警報、至急藤本美貴をなだめなさい・・・
って誰かが号令を掛けたみたいに、一斉にみんなが立ち上がる。
「あ〜、それじゃこうしようよ? あたしたちも一緒に踊ってあげるから?
これで藤本も満足でしょ?」
しょうがないなぁ、って感じで飯田さんが歩み寄る。
「ハァ? ちっとも解決になってませんって!!
何で全員で踊るんですかぁ?」
藤本さんの顔は、もう呆れ顔。
937 :
書いた人:03/10/04 01:39 ID:4uE3MiSn
「はい、それじゃ民主的に多数決をとります!
藤本と紺野と、みんな一緒にハニーパイを踊った方がいいと思う人!」
真っ先に手を垂直に挙げる私と飯田さん。
「しょうがねぇな〜、面白そうだからいいか?」
矢口さんと安倍さんがニヤニヤしながら手を挙げる。
「やるやるやる!! 面白そー!!」
吉澤さんとのんつぁんとまこっちゃん、加護ちゃんが張り切って挙手。
「先輩たちが・・・やるんでしたら・・・」
少し俯きながら、6期のみんな。
「カントリーは私のものだよ!」
いや、正確にはカントリー娘。のものだろ、と言いたくなる、意味不明の発言で石川さん。
「あさ美ちゃん、ご苦労さまってことで」
ありがとう、同期のみんな。お豆と愛ちゃんが最後に手を上げた。
938 :
書いた人:03/10/04 01:40 ID:4uE3MiSn
一斉に挙げられた手を、首をブンブン振って見回す藤本さん。
誰かが否定してくれると思ったんだろうなぁ。
藤本さんは血相を変えてまこっちゃんの両肩を揺さぶる。
・・・そんなにこのダンスしたくないのかな?
私、好きなのに。
「オイ、麻琴? おかしいって思わないの?
モーニング娘。は楽屋で15人勢ぞろいして脚パカパカやる異教徒の踊りみたいなのやるんだよ?
いいの? それでいいの?」
939 :
書いた人:03/10/04 01:42 ID:C5m0Xuyu
肩を揺さぶられて首をブンブン振りながら、まこっちゃんはニヤニヤ笑う。
「え〜・・・? 面白いから、いいんじゃないですかぁ?」
「いや、だからぁ!! アイドルとして、そりゃアウトじゃないのかってこと!!」
言った瞬間、藤本さんはハッと息を呑んだ。
この一週間、モーニング娘。の誰もが避けつづけてきた単語。
あの喫茶店での試合を、例え「ノーサイド」でも、けして思い出さないように、みんな避けてきたのに。
藤本さんの顔がさあっと白くなった。
胸が妙に騒ぐ。
でも・・・
藤本さんに、まこっちゃんはもう一度にやっと笑う。
いつもの、救いようが無く馬鹿っぽい笑顔。
「だってぇ・・・・・・アイドルとしてアウトでも、私たちが面白ければ、それでいいじゃないですかぁ」
940 :
書いた人:03/10/04 01:42 ID:C5m0Xuyu
・・・・・・そうだよ、まこっちゃん。
それでいいんだよ。
その言葉を待っていたみたいに、みんながまこっちゃんを暖かい目で見ているのに気付いた。
やっと分かってくれたんだね。
ううん・・・・・・ただ一人。
まあ、この人も分かってくれているとは思うけど・・・ね。
「お願いだから、麻琴もう一度審判になってよぉ〜!!!」
藤本さんの叫び声が、楽屋に木霊した。
・・・・・・でもハニーパイは踊りますからね!!
941 :
書いた人:03/10/04 01:43 ID:C5m0Xuyu
「ジャッジメント・ジャッジメント」
おわり
942 :
書いた人:03/10/04 01:44 ID:BZMVcTlO
――― あとがき
一月にわたりお付き合いいただいた「ジャッジメント・ジャッジメント」は終了です。
「小川が審判になり、ダメ出しをしまくる」
という意味不明のプロットを考えてから、よくもまぁ、こんなに話がふくらんだものです。
最初は限りなく下らない話にするつもりが、結局はいつものようになってしまいました。
あとがきで小説の中身を解説するほど格好悪いものはないのですが、タイトルにだけ少し。
一応日本語に訳すと「審判対審判」にでもなりましょうか、米国の裁判廷での表記を真似ました。
ダスティ・ホフマン演じるクレイマー氏が、子供の養育権を巡って妻のクレイマー夫人と争う、
映画「クレイマークレイマー」をご想像いただければ、意味の方はお分かりいただけると思います。
もっと気の利いたタイトルでも付けられればよかったのですが、
今回は始まる時点で殆ど内容を決めていなかったため、このようになりました。
例によって次レスへ続きます。
943 :
書いた人:03/10/04 01:46 ID:BZMVcTlO
もう諦めておりますが、
飯田さんしっかりしすぎ、まこっちゃん凛としすぎ、藤本さん仲良すぎ、というご批判は自覚しております。
開き直ってモーニング娘。を設定から取り払った娘。小説でも書けばいいのですが、
それだと「モーニング娘。」を登場人物に使う意味が、今の私にはまだ見出せませんので。
私の妄想上の飯田さんであり、まこっちゃんであり、藤本さんとでも御解釈ください。
今度こそ、潜伏です。
我ながら950レス近くまで書く事になるとは思いもしませんでしたが、まあ成り行きですね。
そう言ったわけで、また別の機会にでもお会いしましょう。
最後になりましたが、感想レスを下さった、そしてこれから下さる皆様。
ROMで読んでいただいた皆様。
本当にありがとうございました。
残り少ないスレ寿命ですが、ご感想を頂ければ幸いです。
それでは。
◇◆◇ジャッジメント・ジャッジメント 目次◆◇◆
‖ >660-668 ACT 1[2003.09.09] ‖
‖ >676-681 ACT 2[2003.09.10] ‖
‖ >689-698 ACT 3[2003.09.14] ‖
‖ >705-713 ACT 4[2003.09.15] ‖
‖ >719-726 ACT 5[2003.09.17] ‖
‖ >731-741 ACT 6[2003.09.18] ‖
‖ >745-756 ACT 7[2003.09.19] ‖
‖ >762-770 ACT 8[2003.09.20] ‖
‖ >778-784 ACT 9[2003.09.22] ‖
‖ >789-797 ACT10[2003.09.23] ‖
‖ >803-813 ACT11[2003.09.25] ‖
‖ >821-829 ACT12[2003.09.26] ‖
‖ >843-855 ACT13[2003.09.29] ‖
‖ >863-877 ACT14[2003.10.01] ‖
‖ >886-894 ACT15[2003.10.02] ‖
‖ >902-913 ACT16[2003.10.03] ‖
‖ >918-931 ACT17[2003.10.04] ‖
‖ >932-941 *Epilogue* [2003.10.04] ‖
‖ >942-943 PostScript.[2003.10.04] ‖
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
>>840 「私の願い」スレログ
>>841 「昨日見た日々」目次
脱稿乙です
最終回リアルで追えてちょっと満腹
結局最後に泣きをみたのが藤本ってのもおもしろかったですw
>>943 娘。小説に限らずネタなんかも個人の印象・妄想だからそれはそれで(・∀・)イイ!!と思うよ
川o・-・)ノ<更新乙でした!
飯田さんがラグビーで受けたのはそんな理由があったんですね…
前作でもそうだったんですが、話の奥の深さに感服です
くだらない話をここまで膨らませられるあなたは天才です!
またお目にかかれる日を楽しみにしています!
|
|ハ@ おバカさんなことをやってるんやけど、ひしひしと
|д‘) つたわってくる、この緊張感はなんやろうな〜。
|ハ∪ かなり読んでてドキドキやねん。相変わらず、こ
|D`) れを出せるのはホントすごいと思うで、正直。
⊂ノ .さすがやで。何やら潜伏するようやけど期待して
| まってるから、そのうち帰ってきてなー。
リアルで見てたのに感想に変なものしこんでるからこんな時間なのれす
(0^〜^)<作者さん、作品完結乙です。
つ日 うーん。本当に勉強になるお話でした。
善悪とか勝ち負けとかよりも、
面白いかどうかという基準の方が上である
と私も思っています。
このスレ本当に楽しみでした。
またどこかで必ず復活してください。
その時は同じAAで駆けつけます。
傑作でした。面白かったです。ありがとうございました。
作者さん、脱稿お疲れ様でした。
下らないことを全力でやるのって大好き。
じゃあハニーパイは何なんだって感じではありますがw
またどこかで会えることを楽しみにしてます。
更新、そして完結お疲れ様でした。
ミキティが溶け込んでいて好い感じですなあ
ハッピーであったかい締め括りに愛を感じます。
当初の予定外にシリアス路線が絡んできてしまったと云うことで、
娘。たちの描写をコメディ的な側面のみにとどめることなく
ついつい多面性を描かずには居られないところに、
作者さんの娘。たちへの愛がよく伝わってきましたし、
また、これらコメディとシリアスの同居、またそのギャップにこそ
作者さんらしさがあると思います。
いつの日かまた何処かで復活されることを楽しみにしております。
素敵な作品たちをありがとうございました。
( ´D`)<とってもとーっても良いお話だったれす!
更新乙!
完結したみたいですねぇ・・・
今日も持ち帰りますので、
次来たときには感想を書きたいと思います。
ではとりあえず、ありがとーでしたっ!
|
|ハ@
|дT) <クソ女保全
⊂ノ
|
川o゚∀゚)<こんなスレ保全してやる、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ…。
書いた人さんの小説は娘。に対する愛にあふれてて
読むほど娘。が好きになっていくような・・・。
どの作品も、紺野がたくさんなのも個人的に嬉しいです。
いつかどこかで次回作が読める日を楽しみにしてます。
お疲れ様でした。
川o゚∀゚)<こんなスレ保全してやる、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ…。
959 :
小泉:03/10/07 00:01 ID:smfBXcTj
よくがんばった!
感動した!
960 :
まめをたそ:03/10/07 01:06 ID:Oyvuti/o
埋め立て
ゴミ拾いをしていた女子高生は辻姉ですか?