422 :
書いた人:
私と亜依ちゃん、そしてその女の子は向き合ったまま立ちつくしていた。
まるでスポットライトが当たってるみたいに、私たちだけ切り離されたみたいに。
私たちに気付いたマネージャーさんが後ろで何かわめいているけど、そんなのちっとも気にならない。
すごくいっしょうけんめいに、そしてすごく悲しそうな目をして、女の子は歌っていた。
長い前がみとメガネででよくみえないけれど、それでもすっごく印象に残る大きな目。
しまいには良く分からない振りまでつけて、女の子はまだ歌ってる。
「ダメなのかなぁ・・・・・・?
二人とも、これでも思い出してくれない?
もっと想い出に残ってる曲の方が良いのかなぁ?」
そう言って、女の子はさっきと違う曲を歌い始めた。
423 :
書いた人:03/08/01 16:54 ID:y7ZmAIll
どこかで聴いたことがあるような・・・・・・
でも懐かしいのは曲だけじゃなくて、この女の子。
この女の子に変な感情の原因があるような気がする。
亜依ちゃんはいつのまにか、女の子に合わせて歌っていた。
亜依ちゃんは知ってるのかな、この曲?
「♪す・き・な・ひとっが〜 し・ん・せ・つだった〜 う・れ・し・いで・き・ご・と・が〜 増えました」
「・・・・・・亜依ちゃん、何で歌えるの?この曲」
「え?わからひん・・・・・・でも、どっかで・・・・・・」
そう言って亜依ちゃんはまた女の子に合わせて歌いはじめる。
なんで?
頭が・・・・・・・・・・・・痛い。
424 :
書いた人:03/08/01 16:54 ID:y7ZmAIll
――――――――――
『私の見立てだとねぇ、東京だとここが一番美味しいんだよ』
『へぇ・・・・・・そう、なんだ・・・』
『あれ?どしたの?もしかしてあんま美味しくなかった?』
『ううん・・・・・・ただ、札幌でもよくラーメン食べたなぁ、って』
『そっかぁ・・・じゃあ今度、北海道にコンサート行った時、美味しいとこ連れてってよ』
『うん!でも・・・抜け出せるかな?ホテル』
『根性でどうにかする』
――――――――――
425 :
書いた人:03/08/01 16:55 ID:y7ZmAIll
「ちょっと、辻!加護!何やってんの!早く乗って!」
426 :
書いた人:03/08/01 16:56 ID:y7ZmAIll
――――――――――
『こんどさぁ、うちにお泊りおいでよ。まこっちゃんと豆はくるっつってるよ』
『えぇぇえ・・・・・・絶対行く!つんくさんが死んでも行く!』
『いや、つんくさんが死んだらそっち行ってやんなよ。
それじゃ、来週のオフの前の日からね!・・・・・・って、どしたのよ?』
『ふふふ・・・・・・あのね、こういう風にお泊りするのって、すっごい久しぶりだなぁ、って。
むかしはよくやってさ、クラスの好きな人の話とかしたじゃない。楽しみだぁ』
『ふっ、楽しみにしてなよ。夜はこの世で一番うまいお菓子は何かで、朝まで行くから』
『それは・・・・・・勘弁だなぁ』
――――――――――
427 :
書いた人:03/08/01 16:57 ID:ec2Ztl9O
「♪い〜つも〜い〜つ〜まで〜も〜 な〜んね〜ん たって・・・も・・・・・・」
「ごめんね、この二人、もう行かなくちゃいけないから、そろそろ止めてもらえるかな、あなたも。
大体、もう声かすれてるじゃない。
さあ二人とも、お願いだから、もう行くよ」
「・・・・・・お願い、思い出してよ」
428 :
書いた人:03/08/01 16:58 ID:ec2Ztl9O
―――――――――――
『え?なぁんで一人だけ居残りなの?』
『うん・・・・・・私、辻ちゃんみたいに声大きくないからさ、もっとお腹から声出せって言われて・・・』
『それかぁ・・・』
『ねぇ、どうしたらあんなに大きな声で歌えるのかなぁ?』
『え?そりゃあ・・・・・・なんでだろ?
でもさ、いっつも喋ってるときみたいな声だったら、充分大きいじゃん』
『うん・・・でもね、歌の歌詞とか台本とかって、自分の思ってることそのままじゃないでしょ?
だからあんまり、自信持って声に出せないんだよねぇ・・・』
『まぁ・・・・・・自分を信じていくのだぴょん、とかを自分自身の言葉、って言われてもアレだよね、確かに』
――――――――――
429 :
書いた人:03/08/01 16:58 ID:ec2Ztl9O
「まったく、入って一月しか経ってないのに、抱えなくっちゃいけなくなると思わなかったわ。
まだ軽いわねぇ・・・体重」
「ねえ、お願い、思い出して!」
「あなたもちょっとしつこいわよ」
「私、私だよ・・・・・・紺野あさ美!」
430 :
書いた人:03/08/01 16:59 ID:ec2Ztl9O
――――――――――
『へぇ〜、あさ美ちゃん同い年なんだ』
『・・・・・・うん』
『何で緊張してんのよ』
『だって・・・・・・今までテレビでしか見たこと無いのに、今こうやって喋ってるから・・・』
『あぁぁ・・・・・・私も入ったばっかのとき、そうだったなぁ』
『そうなの?』
『そうなの』
『・・・・・・ふふふ・・・・・・そうなんだぁ』
『これからよろしくね、紺野ちゃん』
『私も、辻ちゃん』
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431 :
書いた人:03/08/01 17:01 ID:adTmStIb
ごめん、3年前の私。
もう少し、もう少しだけ・・・・・・借りるね。
私を抱きかかえてるマネージャーさんの手を、振りほどく。
あいぼんも思い出したみたい、どこかいたずらっぽさが目の中に見えてる。
目の前の女の子・・・・・・・紺野ちゃんは、私たちの動きを息を呑んで見つめてる。
「辻、加護!もうお願いだから、早く乗って!」
「えっとね・・・・・・あの子、私の友達なんだ・・・・・・だから一緒に乗ってもらって良い?」
私の言葉に、あいぼんがにやりと笑いかけたのが見えた。
紺野ちゃんは大きな目をますます見開いて、口を開けたままこっちを見てる。
眼鏡の奥に見える目は、どこか涙目。
かすれた声が、喉の奥から聞こえてくる。
「・・・・・・戻ってくれた?」
「「ばっちり」」
思わず声が揃って、あいぼんと顔を見合わせて笑う。
そんな私たちに紺野ちゃんが飛び込んできて、3人で抱き合った。
すこし、ほんのすこしだけ、重かった。