406 :
書いた人:
なかざーさんに教えられたとおり、きょろきょろしたくなるのをぐっとがまんして、前を見ながら笑顔、笑顔。
自己紹介はさせてもらったけれど、今度は止まんないように、
って急いだら『つじののみです!』になっちゃってた。
こないだまでテレビでしか見たことが無いような、出演者の人たちに囲まれて私はちっちゃくなってしまう。
それに今日は、いちーさんが最後の日。
これで前に出て行けるって、ちょっと私にはできない。
前に出ろって言われてもなぁ・・・・・・何話したらいいか分かんないもん。
407 :
書いた人:03/07/31 09:32 ID:b3RzK+9/
結局私や亜依ちゃん、よっすぃ〜に梨華ちゃんは、おき物みたいにひなだんにすわっていただけだった。
で、番組が終わった後、やっぱりなかざーさんに怒られた。
すっごいいきおいで出てくるおせっきょうにちっちゃくなっていたけど、
マネージャーさんがとりなしてくれて、やっとおしまい。
なんだか10何才より下の人は、夜9時より後に働いちゃいけない、っていうのが決まってる、っていつか聞いた。
だからなのかな?
マネージャーさんは顔を真っ赤にして、楽屋を行ったり来たり、いそがしそう。
いしょうをぬいじゃった私と亜依ちゃんは、楽屋のすみでボーっとしてるしかない。
408 :
書いた人:03/07/31 09:33 ID:b3RzK+9/
「のの、やっぱなかざーさんに言われたの、気にしとるん?」
あんまり私がしゃべんないのが気になったのかな?
亜依ちゃんは心配そうに私の顔をのぞきこんできた。
ただボーっとしてただけなんだけどなぁ・・・・・・
「ううん」
とりあえず首を横にふった。
でも亜依ちゃんのほうが、何だか沈んだ顔してる。
やっぱなかざーさんに言われたの、こたえたのかなぁ?
「亜依ちゃんは?」
「いや、そのことはしゃあないけどな・・・・・・ちょっと気になってん」
「何が?」
亜依ちゃんの話し方って、まるでさっきのなっちゃんみたい。
話したいんだけど、話そうかどうか、すっごく迷ってる感じ。
409 :
書いた人:03/07/31 09:34 ID:b3RzK+9/
「あんな、のの・・・・・・」
「うん?」
「安倍さんに、うち、変なこと聞かれてん。
こないだまでは雑誌のインタビューとか、すっごく手馴れた感じでしゃべっとったのに、
なんで急におとなしゅうなった?って。」
「あ、私も聞かれたよ」
亜依ちゃんといっしょのところがあってちょっぴりうれしくって、つい声がはずんじゃう。
でも亜依ちゃんは、そんな風じゃない。
「でな、結局安倍さん、そのまま何も言わんかったんけど、なんかすっごく気になってん。
別に聞かれたことだけやったら、ぜんぜん普通のことやん?
でもな、なんか自分の中で、安倍さんの聞いてることって、すっごく大切なことみたいな気がしてん」
亜依ちゃんの可愛い目の中で、何かがびくびくしてるのが見えた。
410 :
書いた人:03/07/31 09:36 ID:0U7mb8xP
なんて言ったらいいんだろ?
私もおんなじだった、っていって、亜依ちゃんはよろこぶかな?
私は亜依ちゃんとおんなじところがあってうれしいけど、亜依ちゃんが困ってるのがそれで何とかなるわけじゃない。
うーん・・・・・・あ、このこと言えばいいかな?
私は亜依ちゃんの目をのぞきこんだ。
「あのね、私もおんなじようなこと聞かれたとき、なっちゃんなんか言いかけてたよ。
茶色いビンが・・・どうとか、ってやつ。それ、亜依ちゃんも聞かれた?」
「聞かれてへん」
ちょっとは解決できるかと思ったけど、何の足しにもなんなかった。
考えてみたってしょうがない。
やっぱりなっちゃんに聞いてみるのが早そうだね。
411 :
書いた人:03/07/31 09:37 ID:0U7mb8xP
モーニング娘。の片づけが終わったのか、マネージャーさんが、私たちを集めて解散の指示をする。
文字通りせなかを押されて、私たちは楽屋から出されてしまった。
なっちゃんがさっきの話の続きを言うのか気になってたけど、
何にも言ってこないどころか、先にタクシーに乗っちゃった。
私は亜依ちゃんと、そしてマネージャーさんといっしょにタクシー乗り場に向かう。
「なっちゃんに聞けなかったね」
「そやな・・・・・・ま、別の日に聞いてみよ、な」
「うん」
「はぁい、辻、加護。喋ってないで、もちょっと急いで!
工事で地下の乗り場使えないからちょっと歩くけど、
ファンの人に声掛けられても、立ち止まっちゃ駄目だからね!」
「「はぁい」」
マネージャーさんにせかされて、私と亜依ちゃんは急ぎ足。
タクシー乗り場はうらてにあるのに、ファンの人たちがすっごいたくさんいた。
412 :
書いた人:03/07/31 09:38 ID:0U7mb8xP
わかいお姉さんや、お兄さん、私よりも年下みたいな子までいる。
中には何だかずいぶん年とった人もいるけど。
『あ、新メンの子じゃない?』『どっちが加護?』『まだちっちゃいねぇ』『サインして−!!』
いろんな声が聞こえてくる中、私と亜依ちゃんはひたすら歩く。
ドアを開けて待ちかまえてるタクシーまであとちょっと、
ってところで、となりを歩いてた亜依ちゃんが急に立ち止まった。
マネージャーさんは気付かないで、先に行っちゃってる。
「どうしたの?亜依ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・亜依ちゃん!!」
私が怒鳴って、やっと亜依ちゃんはびくっとして私の方を見た。
亜依ちゃんは何もしゃべらないで、口をわなわなふるわせたまま、ゆっくりと左手で何かを指さす。
つられてそっちに目が行った・・・・・・
413 :
書いた人:03/07/31 09:39 ID:0U7mb8xP
女の子?
私たちと同じか、一つ上くらいの女の子。
大してとくちょうも無い、メガネで地味そうな子。
タクシーのすぐ手前のところで、ぽつんと立って何か口ずさんでる。
「あの子がどーしたの?亜依ちゃん?」
「・・・・・・声」
「あの子の声?」
「よっく聞いてみ」
そう言いながらも、亜依ちゃんはその子から目が離せないみたい。
私も思わずその子の口元を見ながら、耳をすませた。
414 :
書いた人:03/07/31 09:41 ID:pECNwy8G
「・・・・・・なんか、懐かしぅない?」
もう、亜依ちゃん、まだ聞こえてないよ。
どれどれ・・・・・・
・・・・・・歌?・・・歌かな?
すごく小さな声。多分声量が無いのかな?
それでもその声その歌が、大勢が声を上げている中で、
まるでむなぐらをつかまれたみたいによく聞こえてきた。
なんだろう・・・・・・懐かしい。
おんなじフレーズをくり返しくり返し、あきもせずに、それでも何だか必死にその子は歌っている。
「♪ じゅーうさんにん がーかーりーのー くーりすーまーすー 」
その子がだれかよく分かんないし、その曲がなんて曲かも知らない。
でも一つだけ言えることは・・・・・・
・・・・・・それにしてもへったくそな歌だ、ってことだ。