365 :
書いた人:
――――
「・・・・・・・・・じゃあ、ちょっとだけだけど、戻ったってこと?」
局内の喫茶店。
時間が時間だから流石に2人で外に出て行くわけもいかず、
私はあいぼんの手を引っ張って無理やりここに連れてきた。
あいぼんは何とか自分に起こったことを伝えようとしてるんだけど、
何を言ってるかほとんど理解できない。
いつもは立場が逆なのになぁ・・・
その意外さと少しの優越感に、笑みを浮かべながら、私は局の長い長い廊下を早足で歩いた。
そして今、私の目の前には少し落ち着きを取り戻した相棒がいるってわけ。
366 :
書いた人:03/07/27 17:56 ID:5QjdG1GU
「ちゃう・・・・・・戻れたって言うても、別に3年後にうちが戻ったわけやないし。
ただ3年前の・・・・・・この時代のうちに戻ってた、ってだけ」
聞いていて頭痛がしてくるほど、あいぼんの話は荒唐無稽で意味が分からなかった。
それはあいぼんも同じなのかな?
眉を寄せたまま、どうやったら私に上手く伝えられるかを必死で考えているみたいだった。
「ってことは、今朝からさっきまでは、この時代のあいぼんだった、ってことだよね?
じゃあその間、あいぼんは・・・えっと・・・・・・3年後のあいぼんはどうなってたの?」
「分からひん。自分の言ったこととかやったことは覚えとるんけど、気がついたらもう収録途中だったし」
「はぁ・・・・・・なるほど」
多分私以外の人間、こんな話絶対に信じないだろう。
367 :
書いた人:03/07/27 17:57 ID:5QjdG1GU
あいぼんの言うことに心当たりが無いわけじゃない。
私がこっちにきた最初の日の朝、私は『ボーっとしている間に』楽屋に来ていた。
集合時間も集合場所も、けして間違えずに。
ってことは、多分『こっちの時代の』私が何か影響をもたらしたんだとしか思えない。
その時はメインが3年後の私だっただけで、
もしかしたら意識のメインが3年前の私になることもありうる、ってことだ。
「そんなに悩んだら、髪の毛に悪いよ」とは言わないが、あいぼんの顔は今まで見たことが無いくらい険しい。
「あれ?でもさ、どうしてあいぼんは、また3年後のあいぼんに戻れたのかな?」
「・・・・・・さぁ・・・・・・でも、ののが『ポンっていわないように・・・』とか言うてたのがきっかけかもしれん。
多分そのことは3年後のうちしか知らんから、それがきっかけで戻れた、としか思えんけど・・・」
慎重に言葉を選びながら、あいぼんは話を続ける。
368 :
書いた人:03/07/27 17:58 ID:5QjdG1GU
「多分・・・・・・そーいうきっかけがあれば、戻れるんやと思う。
でもな、それはこの時代のうちに戻るんも同じことやないかな?
うちらこっちの時代におるから、どうしたって『3年前の加護亜依』が出てくるきっかけの方が周りには多い」
落ち着くためのとっくに飲み終えたオレンジジュースのストローを、意味もなくあいぼんは手で弄ぶ。
こっちの時代にいればいるほど、私たちは3年前の私たちになって行っちゃうってことか。
またどうすることもできない要素が増えて、私は思わず下を向いてしまう。
どうしよう。
私たちはこのままずっと3年後に戻れなくなって、そしていつか、こっちの自分になっちゃうんだろうか。
「でもな・・・・・・」
あいぼんの声に、私はゆっくりと顔を上げた。
369 :
書いた人:03/07/27 17:59 ID:5QjdG1GU
そこにあったのは、やるせない感じだけど、それでも努めて明るくしようと頑張っているあいぼんの姿だった。
手を大きく広げたり、インチキアメリカ人みたいなジェスチャーを交えながら、あいぼんは笑って続ける。
「うちにはののがおるし、ののにはうちがおるから。
がんばって、未来の話ばっかしとけば、あんなガキんちょのうちらなんか出てこれへんって!」
「そう・・・・・・かな?」
「そうやって!!
実際うち、ののがあんなしょーもない話してくれたから、戻ってこれたんよ!」
「・・・・・・そう、だよね!!!」
370 :
書いた人:03/07/27 18:00 ID:5QjdG1GU
私には分かっていた。
あいぼんは私が落ち込まないように、必死で明るく振舞っていることを。
あいぼんの言ってることは確かにあってるけど、どうしたって3年前の『刺激』の方が多いってことも。
それでも私は、あいぼんに頷いた。
こんなにも私のことを考えていてくれるから。
紺野ちゃんのことがそうなると心配だけど・・・・・・
だからこそ、今私たちが3年後の意識をなくすわけにいかない。
この日から私とあいぼんの間に、もう一つ約束ができた。
私とあいぼん、どっちでもいいから早く起きた方が電話する。
そして未来のことをしゃべりまくる。
『私たち2人が顔を合わせない時が一番危ない』というのがその根拠。
371 :
書いた人:03/07/27 18:00 ID:5QjdG1GU
――――――
【はい・・・・・・あ、あいぼん?おはよう。
エヘへ・・・・・・そうだね。私があいぼん、って言ってるうちは、とりあえず大丈夫だよね?】
――――――
372 :
書いた人:03/07/27 18:01 ID:5QjdG1GU
――――――
【もしもし?あ、あいぼん起きた?
・・・・・・うぅ・・・・・・そうだ!ピース歌える?そう、ピース!・・・・・・・・・思い出した?
・・・・・・やっぱあいぼんの方が先にこっちに来てたから、戻りやすいのかな?
・・・・・・・・・・・・ううん、気にしなくていいよ。それじゃ、また後でね】
――――――
373 :
書いた人:03/07/27 18:02 ID:5QjdG1GU
――――――
【はぃ、もしもし?あれぇ、亜依ちゃん、どうしたの?
・・・・・・・・・なぁに?ミニモニって?
ミニモニ・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、はい、大丈夫だよ。
危なかったぁ・・・これで大丈夫・・・・・・かな?】
――――――
374 :
書いた人:03/07/27 18:03 ID:5QjdG1GU
――――――
【あ、もしもし?おはよう。
え?なんでこんな朝から電話したかって?
・・・・・・・・・・・・あれ?なんでだろう?
うん、大丈夫だよ、ごめんね・・・朝から、それじゃまたねぇ】
――――――
375 :
書いた人:03/07/27 18:04 ID:5QjdG1GU
ピッ
電話をきって、しばらくかんがえた。
なんで亜依ちゃんに電話したんだろう?
まあいいか。
「希美〜!!朝ご飯よ〜!!」
「はぁ〜い!!」
おかあさんにいつもみたいに大声で返事をして、すぐに着がえる。
今日もおしごと、しっかりがんばろっと!