340 :
書いた人:
――――
『今のところはどうにもならない』
一見すれば絶望的な言葉だけど、割り切ってしまえば結構それなりに楽しめるのかもしれない。
私とあいぼんは、とりあえず3年前の世界で普通に過ごすことにした。
誰かに相談するわけにもいかない。
紺野ちゃんは今のところ見つからない。
私たちが飲んだ薬の中身がなんなのか、よく分からない。
『ダメだこりゃ』な状況なんだけど、実際ダメってことが明白だから諦めもつく。
とりあえず柏崎に行ける時間ができるまでは、しっかりこっちの生活をやっておく。
あいぼんと約束した。
それともう一つ。
なるべく余計なことはしないこと。
私もあいぼんも3年前どこでなにをやったか、なんてこと覚えていないから、
完璧に過去を再現することは不可能だ。
だから・・・・・・余計なことはせず、自然なままの行動をとればいいんじゃないか。
これが結論だった。
341 :
書いた人:03/07/24 18:19 ID:11LpPtOs
――――
「ののさぁ、なんだかモーニング娘。入って変わったよね」
「へ?何が?」
初めてのハロモニ収録の日の楽屋。
少し早めについた私を迎えたのは、時間間隔が麻痺してるんじゃないか、
ってくらいに早く来ているよっすぃ〜の悲しそうな眼差しだった。
3年後の自分が今とは比べ物にならないような、
『生命の神秘』とも言うべき変貌を遂げていることを知らないとは、なんて幸せなのだろう。
「何て言うのかなぁ・・・・・・いい意味で、緊張感無いよね。ののも、あいぼんも。
すぐに現場に打ち解けていけるじゃん・・・・・・羨ましいよ」
ここ最近、というか2年ほどまともに見たことの無い、よっすぃ〜の真剣な表情。
打ち解けすぎて、現場でもジャージで平気な3年後の彼女に、この初々しさを分けてあげたい。
「そっかなぁ・・・?別に私も、あいぼ・・・・・・亜依ちゃんも、あんまり意識してないよ」
こう言うしかないじゃない。
まさか『実は3年間、アイドルやってるからね。エヘ』なんて言えないもん。
342 :
書いた人:03/07/24 18:20 ID:11LpPtOs
でもそんな答えでよっすぃ〜が納得するはずも無い。
『なんでなんでなんでなんで・・・・・・』
個人的には何故何故どうして言っていいのは『それ行けノンタック』までが限界なので、
はっきり言えばうざい。
弱ったなぁ・・・・・・
聞いてくるよっすぃ〜は真剣そのもの。
でも『こうすれば甦ると思った』とか言って、
ホテルの一室でミイラを作っちゃう団体みたいなストイックな真剣さが、ちょっと怖い。
ホントのこと言うわけにいかないし・・・・・・
言った所で信じてくれるはずが無いし・・・・・・
「ねぇ、のの・・・・・・私ってさぁ、モーニング娘。でやっていけるのかなぁ?」
「それは・・・・・・」
と、私を救うドアの音がする。
343 :
書いた人:03/07/24 18:21 ID:11LpPtOs
「おはよございまぁす」
朝から気の抜けた声で挨拶をしたあいぼんは、私とよっすぃ〜の姿を見て不思議な顔をした。
少しは察してくれたっていいのになぁ・・・
「何やっとるの?2人とも」
「あ、あいぼん・・・・・・教えてよ。
どうしてののやあいぼんは、そんなに上手く溶け込めてるの?」
「?」
あいぼんはその問いに困った、というよりは意味が分からないようだった。
小首を傾げて、詰め寄ってくるよっすぃ〜を見上げる。
「私や梨華ちゃん、全然上手くトークできないし、歌や踊りだって2人とも手馴れてるじゃん。
合宿のときはそんなこと無かったのに、どうしてこの1週間くらいで、こんなに変わったの?」
よっすぃ〜の疑問は適切かつ正確だった。
確かに私とあいぼんが3年前に戻ってきて一週間ちょっと。
変わってないはずが無いし、別人と言っていい位の変化が生じているはずだ。
344 :
書いた人:03/07/24 18:23 ID:334aSC5A
「何言っとるの?よっすい〜。
ののもうちも、そんな変わってへんし・・・」
あいぼんは顔色一つ変えずに・・・むしろ、さっきの『?』という表情のまま、考え込んでいた。
このまま誤魔化しつづけるつもりなのかな?
詰問を続けるよっすぃ〜に、終始あいぼんはとぼけ続けていた。
最後には、『何言うとるのかわからへん』と逆切れまで見せて。
あいぼん、あんた・・・・・・やるね。
スタジオに向かう途中、あいぼんに駆け寄って耳打ちをする。
「あいぼん、さっきの誤魔化しかた、凄かったね。
やっぱりとぼけ続けないとダメだよね」
あいぼんは立ち止まると、私のほうに向き直った。
345 :
書いた人:03/07/24 18:24 ID:334aSC5A
あいぼんは眉を寄せて、細い目をますます細くしていて。
「のの・・・・・・何言っとるん?
誤魔化したって言うか、ほんまに分からんかっただけやもん。
それに・・・・・・」
「それに?」
「いつからのの、うちのこと『あいぼん』って呼ぶようになったん?」
「え・・・・・・!?」
そう言って踵を返して、あいぼんはスタジオに向かっていった。
私はただ呆然と、彼女の後姿を見ていた。
何が・・・・・・どうなっているんだろう?