329 :
書いた人:
「むぅ・・・・・・」
「あかんなぁ・・・・・・」
電話を掛けだしてから一時間が過ぎた。
最初の頃こそ、『これがホントのミニモニテレホンだ』などという、
馬鹿丸出しの発言をしながらやっていたのだが、いい加減私もあいぼんも疲れてきた。
途中あいぼんと、
『テフロン加工なんて昔の発言覚えとるか!!そやなぁ・・・・・・ほんなら、うちのコードネームは「雲のジュウザ」でええわ』
『え〜?どっちかっつったら「山のフドウ」の方が近いじゃん』
などと言う、人生のオリコンチャートでトップ10入りを果たすようなくだらない理由で喧嘩をしたものの、それなりに私たちはしっかりやっていた。
それでも成果が伴わない仕事、って言うのは疲労が溜まる。
330 :
書いた人:03/07/21 21:57 ID:7DjXq40V
確かに『コンノアサミ』は今までに2名確認できた。
でも電話口に出たのは、一人は陽気なおばちゃん。
しかも運悪く、おばちゃんの知り合いに『辻』がいたらしく、私に話す隙も与えずに延々と喋る喋る。
いつの間にか、スーパーでのお買い物に付き合う約束が締結されていた。
私のほうも切れば良かったんだけど、何故かこういう時にだけ、私の中の優しさ機能が発動。
伊達にバファリン並みの優しさ配合率ではないのだ。
あいぼんには『もっと日常でその優しさを発揮せえ』と嫌味を言われたが。
ちなみにもう一人は高校生の口が悪い女。
『ハァ?あんたなんか知りませんけど?つーか、誰?』
と彼女が言ったのが我が相方の気に障ったらしく、こちらはあいぼんが凄まじい勢いで口喧嘩を始めてしまった。
しかしリアル関西弁での罵詈雑言は恐ろしい。
更に『いてまう』『風呂にしずめる』『潰す』・・・・・・
あんたの前職はナニワ金融道ですか、ってくらいの単語の嵐に、
私は『あいぼんとマジ喧嘩は絶対にやめよう』と心に誓った。
331 :
書いた人:03/07/21 21:58 ID:7DjXq40V
黒ペンの印で塗りつぶされた、まるで警察関係の情報公開文書のようになったコピーを前に、
私とあいぼんは今日何回目かの溜息をついた。
ちらほら残った電話に出ない家を除いて、ひとまず終了。
成果はゼロ。
「おかしぃなぁ・・・・・」
「なにがぁ?」
お母さんが差し入れてくれたジュースを両手で包んで飲みながら、あいぼんは眉を寄せた。
母ナイス!と思いつつ、後ろについてきた姉文子には閉口したが。
「だってな、紺野ちゃんがこっちに来とらんくても、12歳の紺野ちゃんっていうのは、この時代にちゃんと存在しとるわけやろ?
なら、電話に出ないわけないんちゃう?」
「元々紺野ちゃんの実家が、電話帳に載せるの断ってるのかもよ?」
「なら、もうこっちの手でやんのは不可能かぁ・・・・・・」
そう言いつつドーナツをつまむ。
332 :
書いた人:03/07/21 21:59 ID:7DjXq40V
「そんなら、うちらだけで帰る方法考えないかんなぁ・・・・・・」
「やっぱり、あの薬のせいなんだよねぇ」
問題を解決するにはまず原因から、これは基本
少なくとも私たちがあの薬を飲んだから、こんなことが起こった。
これは分かっている・・・・・・って言うか、これしか分かっていない。
「まこっちゃんに聞けば何かわかるかもしれないんだけどねぇ・・・」
相方に『アホ』呼ばわりされるの覚悟で口に出してみる。
でも今回は、あいぼんも必死に考えているみたいだった。
「せやけど、こっちにいるまこっちゃんは、薬のことなんか知らん方のまこっちゃんやもんなぁ・・・
つーか、まこっちゃんの実家って・・・・・・新潟?」
「確か、柏崎ってとこじゃない?」
ちなみにそれを覚えていたのは『まこっちゃんの出身地だから』ではなく、
『蓮池さんの本拠地だから』とは言えない。
333 :
書いた人:03/07/21 22:00 ID:7DjXq40V
あいぼんも記憶の奥底にあったその地名を思い出したらしく、ほっそい目を少しだけ見広げた。
「ああ、それや。確か拉致されたり、10年くらい小学生が監禁されてたり、ってとこやんな?
その上あんな危険な薬のませる奴まで出るなんて・・・・・・物騒なとこやなぁ」
「それは・・・他の柏崎市民の人に失礼でしょ」
とりあえずあの薬を飲ませることが物騒だ、って所には反論はしない。事実だから。
「それでも、この時代のまこっちゃんに会ってみるのも、少しは意味あるんじゃない?
ちょっとは手掛かり掴めるかもよ?」
「他の人に相談してみる、って手もあるんやけどなぁ・・・・・・信じひんもんなぁ」
あいぼんの言葉に私は大きく頷いた。
そんなこと言った日には、間違いなく病院に送られてしまう。
334 :
書いた人:03/07/21 22:01 ID:7DjXq40V
「・・・・・・でもなぁ、まこっちゃんの家に行くんも、当分先にならんと無理ちゃうん?」
更にドーナツをつまみながら、あいぼんは小首を傾げる。
その姿はまさにロリコン界のペレ。
なんつーか・・・・・・『神』って感じだ。
生憎私にそっちの気が無いので、あいぼんのその姿を見ても何も感じないんだけど。
私はバッグから、マネージャーさんに貰ったスケジュール表を引っ張り出した。
飴やらガムの包み紙やら、いろいろ飛び出してきたが気にしない。
あいぼんも私のバッグの中が散らかってることを分かっているのか、気にもしなかった。
確かにあいぼんの言う通り、スケジュール表はテレビ欄のようにぎっしりと詰まっている。
まさに法律スレスレ。
150年程前までアメリカ南部でひたすら綿摘みをさせられていた、色黒の人たちの気分だ。
「そだねぇ・・・・・これじゃ、当分そんなヒマないよ」
「ほんなら、当分はこのまんまやなぁ・・・」
顔を見合わせて溜息をつくと、ちょっぴり涙が出てきそうだった。