300 :
書いた人:
―――― 5日後 某所図書館
「こんなにあるのかぁ・・・・・・」
「そやなぁ・・・」
机の上に開いた電話帳を目の前に、私とあいぼんは『はふぅ』と溜息を洩らした。
私たちが娘。に入っての最初のオフ。私がこっちに来てから5日目。
あいぼんの誘いで、私は図書館にやってきたのだった。
本当なら芸能人になって最初のオフだったら、とりあえず家族と一緒にのんびり、
というのが基本なんだろうけど、生憎今はそんなことをしていられない。
マロンも家を出ようとする私を止めようとしたが、カップラーメンをあてがってその隙に外に出た。
カップラーメンよりも私の順位は下なのか・・・
マロン、よく覚えておくよ。
301 :
書いた人:03/07/19 16:28 ID:K9gIGIE/
何故図書館なんていう、私には半永久的に縁の無い空間に来たのかというと、
あいぼんが紺野ちゃんへの連絡のつけ方を思いついたから。
あいぼんの案は『電話帳で札幌の紺野さん宅に電話を掛けまくる』という、
関係者でない皆さんには果てしなく迷惑この上ないもの。
そのために北海道の電話帳が必要だ、ということらしい。
休日、二人の中学生が図書館で字ばかりの本を熟読・・・
と言えば聞こえが良いけれど、残念ながら私たちが目の前に広げているのは、文字と数字の羅列。
こんな物を他人が熱心に読んでいたら、少し精神の調子を疑いたくなる代物だ。
これを上回る危なさって、乱数表しかないような気がする。
302 :
書いた人:03/07/19 16:29 ID:K9gIGIE/
「まあ、2人でやれば何とかなるんちゃう?」
私が無駄な考えをしている間『ひぃ、ふぅ、みぃ』と、
おばあちゃん子丸出しの数え方をしていたあいぼんが、顔をあげて満足げに微笑む。
そんなに微笑まれても電話の相手は減らないよ、とは言わない。
「それでも・・・・・・やっぱり多いなぁ」
「まあ・・・・・・でも、しゃあないやん。早いとこ紺野ちゃん見付けんと」
そうなのだ。
今は紺野ちゃんを見つけることが先決。
とりあえず電話してみて、紺野ちゃんがもうこっちに来てるのか確かめないと。
来てれば三人で戻り方を考えればよし、
来てなければとりあえず私たちだけでも考えるようにしなくちゃいけない。
「そだね。ドラクエだって、2人パーティーより3人パーティーの方が強いんだから」
「うちら三人が揃っても、商人・武闘家・遊び人にしかならん気がするけどな」
あいぼん・・・・・・それは言っちゃダメだって。
って、『遊び人』って・・・・・・私?
303 :
書いた人:03/07/19 16:30 ID:K9gIGIE/
その後『よく考えれば、シャッフルユニットは人数少ない方が売れてるじゃん』という、
してはいけない発想をしてしまった私は少しブルー。
あいぼんは私の突然のブルーの意味が分からなかったらしく、
「まあほら、うちら三人寄っても文殊にはならひんけど、じぞぽんくらいにはなるんちゃう?」
などと言うよく分からないフォローをしてくれた。
あいぼん、所詮あんたには
『絶対これ、鉛筆倒してコード進行決めたんじゃないの?』
ってくらいに適当な曲をあてがわれる余り者グループの気持ちは分からないのだ。
やっと今年は勝った、って思った途端に抱合せ販売だもんなぁ。
でもじぞぽんレベルの知恵って・・・・・・
ちょっぴり未来に帰るのを諦めた瞬間だった。
304 :
書いた人:03/07/19 16:32 ID:LPAYfxwU
電話帳をコピーして、さっさと用済みの図書館を後にする。
さらば図書館よ。
もう二度とお目にかかることは無いだろう。
「・・・・・・考えたんだけどさぁ、紺野ちゃんがもしこっちに来てれば、連絡くらいくれるんじゃないのかなぁ?」
あいぼんと肩を並べて図書館を出るとき、私は電話帳をコピーしながら考えたことを口にしてみた。
そうなのだ。
私とあいぼんが思いつくような方法なら、紺野ちゃんがやっていてもおかしくはない。
なぜなら紺野ちゃんの知的レベルがハーバード大学なら、私とあいぼんはハロモニ女子学園くらいだから。
しかしあのコントの学校名、もっとひねれよ、と思ったのは私だけじゃないはずだ。
305 :
書いた人:03/07/19 16:32 ID:LPAYfxwU
自動ドアをくぐりながら、あいぼんは幼い顔を横に向けると、心底哀れなものを見るような目付きをする。
「アホやなぁ、のの。
もしうちらよりずっと前に紺野ちゃんが来とったら、なんもわからん3年前のうちらと話してたことになんよ?
それに、モーニング娘。に入った後やったら、それこそ電話番号変えてもうたやん」
「あぁぁ、そうかぁ」
極めてお馬鹿さんな返事をしつつ、あいぼんの言うことに頷いた。
私たちが来るより前に紺野ちゃんが来てても、
モーニング娘。に入ってヲタ対策に電話番号を変えてしまってるから、電話帳や番号案内では辿り着けない。
それに番号を変える前じゃ、私たちがそもそもこっちの時代に来てないから、話しても成り立たない。
相方の『アホ』発言に怒ることも忘れて、私はだらしなく口をあけて感心していた。
306 :
書いた人:03/07/19 16:33 ID:LPAYfxwU
流石に携帯電話から北海道に電話する勇気は無いので、あいぼんを引き連れて私の家に帰還。
よく考えたらあいぼんを家に連れてくるのは、まだ片手で数えるくらいしかない・・・はずだ。
「あら〜、亜依ちゃん。こんにちは。
いつも希美がお世話になってますねぇ。
ホント、この娘だらしなくて甘えんぼだから、くっついてきて大変でしょう?」
玄関先で出迎えた母が、満面の笑みを浮かべてあいぼんを迎えてくれた。
ぐぅ・・・・・・なんで母親ってのは、こういう時に自分の娘の恥部を曝け出せるのだろうか。
しかも『だらしなくて甘えんぼ』とは・・・・・・二冠王だ。
実は泣き虫も入れて三冠王だということは、胸の内に秘めておこう。
「こんにちわぁ。うちもお世話になっとりますぅ」
あいぼんは世渡りが上手だと思う。
母親と何故か『10年前から知ってます』ってな感じで、普通に会話を成り立たせている。
しかも娘(私)についてのリップサービスも欠かさない。
まああの目をしている時は、大体心にも無いことを言ってる時だけど。
307 :
書いた人:03/07/19 16:35 ID:LPAYfxwU
母親の話が私の幼稚園時代の失敗談に及びそうになった時、私はあいぼんを急かして部屋に通した。
「マロン・・・・・・痩せとるな」
飼い主よりもラーメンを選ぶ、という偉業を達成した我が飼い犬を見て、あいぼんはポツリと洩らす。
その言葉、多分マロンも同じ状況ならあいぼんに言うよ、とは言わない。
まあ確かに今のマロンは『犬』だが、3年後は『マシュマロマン』に近い。
あいぼんがマロンと戯れている間、私は電話機を部屋の中央に持ってくる。
テーブルの上に電話機を置いて、気分はちょっぴり刑事ドラマだ。
『ラーメン犬』はこの間オソロで使っちゃったから、コードネームは今度は『焼きそば刑事』で行かせてもらおう。
「あ〜、そんじゃ始めようか、テフロン刑事」
「・・・・・・やっぱのの、アホやろ」
あいぼんの視線は、某アイドルグループグループのコンセプトが『半農半芸』だと初めて聞いた時のような、
驚きと・・・ちょっぴり呆れた感じだった。