【モー娘。矢口の問題疑惑写真】

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289書いた人

「のんちゃ〜ん、大丈夫だからスタジオ降りておいで」
「・・・・・・・・・みんな怒ってるもん・・・・・」

ドア越しに聞こえる飯田さんの声に、見えるはずがないのに首を振る。
私の返事に飯田さんは少しだけ、溜息交じりの吐息を洩らしたようだった。

ドレスの汚れはあの時と同じように、除光液とシンナーを駆使することで30分ほどで何とかなった。
やっぱりあの時と同じように、その間ずっと飯田さんは私の肩を抱いていてくれた。
そして再び服を着せられ、撮影が再開されようとした時になっても、
30分前から流れつづけていた涙を止めることができなかった。

いつでも始められるように他のメンバーが移動したあと、私は一人っきりの楽屋で泣きつづけていた。
一人には広すぎる楽屋には、ひたすら私の嗚咽だけが木霊する。
290書いた人:03/07/18 19:11 ID:9M34nSDo

私はみんなの所へ行けなかった。
衣装を汚してしまった事に申し訳ない、と言うのが無いとはいえない。
でもそれだけじゃない、あれだけ注意したというのに同じ失敗を繰り返したことが、私にはショックだった。
流石にそんなことは言えないから、飯田さんには1回目と同じ『みんながまだ怒ってる』という駄々のこね方を使うけれど。

鏡の中の女の子は、目を真っ赤にさせて唇をへの字にまげて、3年後の私だったら抱きしめてあげたくなるほど可愛い。

これじゃ、3年前と何にも変わんない・・・
私はそんなに進歩できてないんだろうか。

「のんちゃん・・・・・・ね、誰も怒ってないよ?」

外から聞こえる飯田さんの声があまりに優しすぎるのが悲しくて、私は自分の身体をぎゅっと抱きしめた。
こうしていないと、自分がまるでどっかに行ってしまいそうで怖かった。
291書いた人:03/07/18 19:12 ID:9M34nSDo

みんなが怒っていないことは知っている。
私があと1時間30分後スタジオに降りていった時も、
みんなは私を叱るどころか懸命に慰めてくれるんだ。

私は失敗を変えられなかった。
それだけ私は成長していなかったのだろうか。
でもそれ以外に、どうしても納得できないことがある。
あれだけ注意していた瓶の栓が、何で開いていたんだろう。
誰が開けたか、が重要なんじゃない。何で開いていたか、が重要なんだ。

・・・・・・・・・一瞬、過去の物事は全て変えられないのか、とも思った。
でもそれは違う。
私がマニキュアをこぼしたドレスの色は、別の色だった。
そしてもう少し、早い時間帯だった。
少なくとも、飯田さんにお直ししてもらっている時に起こったりはしなかった。

――コンコン

私の重い考えとは正反対の軽やかなノックに、思考が中断される。
292書いた人:03/07/18 19:13 ID:9M34nSDo

「のの、入るで」

私の答えを聞くまでもなく、楽屋に入ってきた我が相棒。
その顔はどこか嬉しそう。
釣り目がちの目を三日月みたいに細くして、唇の端がかすかに上がっている。

「のの、やっぱりうちの言うこと、分かってくれたんやな」

彼女はそう言って、私の右肩に軽く手を置いた。
私は彼女の態度が意外すぎて、呆然としたまま動けない。

「いや〜、やっぱり迷っとって、最後の最後に決断したん?
そんでもちゃんと、飯田さんに言う『みんな怒ってるも〜ん』って言葉まで同じなんて、大したもんやで」
「・・・・・・・・・あいぼん、違うよ。私、最後まで変えようとしてた」

下手くそな私のまねを得意げにやる相棒に、
いつもだったら紺野ちゃん直伝の正拳突きをお見舞いしてくれる所だ。
でも今日は違う。
辛い気持ちの中で精一杯の気力を使って言うと、再び涙が溢れてきた。
293書いた人:03/07/18 19:15 ID:0XuoV25e

「え?そうやったん?
うちてっきり、ののがもう諦めたんかと・・・・・・」

心底私の返事が意外だったらしく、あいぼんはらしくない動揺を見せる。

「ううん、私、最後の最後まで、絶対に失敗しないようにしてた。
でもね・・・・・・できなかったんだ」

一度話しだしてしまうと、もう感情が出てくるのを止められなかった。

「私、そんなに進歩無いのかなぁ?
もしかして、これって絶対に起きなくちゃいけないことだったのかなぁ?
やっぱり・・・・・・私って・・・・・・」

喉がしゃくりあげてしまって、続けられない。
それすらも悔しくて、目をつぶって下を向く。

・・・・・・と、何かが私の両肩をつかんだ。
294書いた人:03/07/18 19:16 ID:0XuoV25e

「あんな、のの。進歩なんかめっちゃしとるで。
もしかしたら『絶対起きないかんこと』なんかもしれんけど、でも、それはのののせいやない」

私の両肩に置いた彼女の手が、ぎゅっと強まる。
私よりも遥かに力が弱いあいぼんにしては、かなり力を入れてるんだろう。

「変えられんこと、ないと思うで。
たとえば今、ののとうちが喋ってるのだって、ホントは無かったことちゃうの?」
「・・・・・・・・・うん」

全てのことが変えられないわけではない。
でも・・・・・・『絶対変えられない何か』があるんじゃないか・・・・・・
わたしはぼんやりと考えていた。
295書いた人:03/07/18 19:17 ID:0XuoV25e

「ちっとは落ち着いたん?」

私が喋らなくなったのを心配したのか、あいぼんが覗き込んでくる。
さっきの目を三日月にしていた笑いではなく、優しい微笑。

「・・・・・・うん、大丈夫。それより・・・・・・」
「うん?」
「早く、紺野ちゃんに連絡つけられるようにしよう。
で、早く元に戻れるように考えよう!」

私の言葉にあいぼんは力強く頷いた。
彼女は多分、あんまり過去を変えてしまわないようにって思ってるから、賛成してくれたんだと思う。
でも私はちょっと違った。
もし変えられない何か、があるんだとしたら、ここにいる私の存在が、酷く異常なものに思えていたから。
早くこの場から、元に戻りたかったから。
296書いた人:03/07/18 19:17 ID:0XuoV25e

「さて・・・・・・で、どうするん?」

ひとしきり泣いて落ち着いた私に、あいぼんが小首を傾げて尋ねる。
『どうするん?』って聞かれても、目的語が無いから分からない。
しょうがないので、私も一緒に小首を傾げる。
傍から見ればただのバカだ。

「いや、ののが楽屋に閉じこもったのって、2時間やったけど・・・・・
まだ1時間ちょいしか経ってないで。あと1時間どうする?」

相棒の言葉に、私は大きく頷いた。
決まってるじゃない、そんなこと。
確かにあの過去を変えられなかったけど、これから起こることは多分、変えられるはず。
だってこれは、完全に私の意志次第だから。
私の不敵な笑みに、あいぼんはほくそえんだ。
297書いた人:03/07/18 19:20 ID:tsIubuxH

「まぁ、しゃあないか。好きにしぃ」

ありがとう、あいぼん。
心の中で礼を言うと、私は立ち上がる。
楽屋に閉じこもった時間を1時間に変えても・・・・・・多分、大丈夫だよね。

私とあいぼんの意識が過去に来て、もうかなり変化が生じているんだと思う。
確かに大幅に何かを変えていくのは無理だけど、完璧に何も変えない、って言うのも不可能。
だから私は、今の私が納得いくように努力するだけ。

あいぼんの言うようにそれで何かが大きく変わってしまうかもしれないけれど。
彼女の気付いているんだろう。
全てを変えないことは不可能だから、とりあえず今を一生懸命やるしかないってことを。
許してくれた相棒に感謝。

メイク直しを入れて、押しが1時間15分。
ほんの少し。ほんの少しだけだけど、私の不名誉な過去は変わった。