274 :
書いた人:
私たちがそんな空気の中で立ち止まることを許さないかのように、撮影の準備は戦場のように続く。
「それじゃ、辻ちゃんはこっちに来て下さいね」
「は〜い、加護ちゃんはそこに座って〜」
私たちも例外ではなく、スタッフに背中を押されるように連れて行かれる。
私から遠ざかりながら、それでも尚、あいぼんはあの目つきを変えなかった。
こういう状況で頭の中にドナドナが流れる自分の神経が、少し危ないと思う。
あいぼん、ごめん。
やっぱり、防げるものなら防いでみたいんだ。
もう一度、今度は声に出さずに呟いた。
275 :
書いた人:03/07/17 00:12 ID:PM5HWPv8
「それでは最初は、こちらの色の衣装でーす!!」
衣装さんの中で一番年長と思われる人物が声を張り上げる。
そこかしこから『うぃーっす』とだらしの無い返事が聞こえた。
「えーと、辻ちゃん用のは・・・・・・これね」
薄い布地の、それでも煌びやかな衣装が運ばれた時、私は思わず目をぱちくりさせた。
「お?結構立派でビックリした?」
私担当と思われる男の衣装さんが、私の反応を面白そうに笑った。
『ちげーよ、バーカ』とは、流石に口には出さない。
私の心の中は、所詮あんたには分からないんだから。
因縁の衣装に3年の時を経て再び出会う、この気持ちなんか。
私がマニキュアをこぼした、あの衣装だ。
276 :
書いた人:03/07/17 00:13 ID:PM5HWPv8
お久しぶり・・・
と、おかしな挨拶を心の中で唱えると、私の脳はまるで爆弾処理班のような注意力を発揮し始めた。
慎重に鏡台のマニキュアの瓶を手にとると、栓がしっかり閉まっているか確かめる。
衣装が何かに当たらないように、少し鏡台から距離をおいて慎重に着替える。
人生の中で、これほど神経を使ったことがあるだろうか。
多分、なっちゃんの前で『プレステ』って言わないように気を使いまくった、遥か昔の日々以来だ。
確かあの時は、梨華ちゃんとプレステの話で盛り上がっている所に突然なっちゃんが入ってきたもんだから、
『プレ・・・・・・・・・−ンヨーグルト、何処のが美味しいかなぁ?』
などという、おかしな誤魔化しかたをしたんだっけ。
しかも梨華ちゃんが全く空気を読めず、アドリブについてきてくれなくて、ドキドキしたっけ?
277 :
書いた人:03/07/17 00:13 ID:PM5HWPv8
心臓が高鳴るのが分かる。
流石にマニキュアをどの時点でこぼしたかまでは覚えていないから、全ての動作に神経を払う。
ゆっくりと衣装を着終わった私は、今度は慎重にメイク。
あくまでもマニキュアとの距離を保ちつつ、メイクさんの手つきを鏡越しに厳しい目で見つめる。
顔も髪も終わって、そしてマニキュアも無事に終了。
終わったら即座に瓶に栓をする。
まるでロボットのように性格で緻密な動き。
我ながら惚れ惚れする。
・・・・・・よし、これで終了。
全てを終わった私は、即座にスタジオに向かう。
心の中で『ミッション・コンプリート』という声が響いた・・・・・・スペルは知らないけどね。
278 :
書いた人:03/07/17 00:14 ID:PM5HWPv8
撮影はつつがなく進む。
衣装を着て、踊り、そして着替えて、また踊る。
楽しかった。
自分がモーニング娘。に入って最初の経験、それを二回もできるなんて、最高の贅沢かもしれない。
マニキュアの件だけでなく、私はまこっちゃんに再び少しだけ感謝した。
あいぼんもおんなじみたいで、はしゃぎながら、そしてミスも無く、撮影をこなしている。
結婚式衣装の方はいくつか色のパターンがあるので、何度目かの着替えをする。
複数のシーンをつなぎ合わせるから、結局私たちが踊る量もそれなりに多くなる。
フォーメーションやプロモ用の踊りを思い出しながらなので、体力よりも気疲れの方が大きい。
これで・・・・・・最後かな?