1 :
:
つんく
↓
♂
4 :
8マイル:03/05/13 03:17 ID:f7WIUhi/
という題名の小説をここに
5 :
1:03/05/13 03:18 ID:f7WIUhi/
「たった8マイルの壁」
6 :
1:03/05/13 03:19 ID:f7WIUhi/
灰色の空を見上げた。この空は、私が物心ついてからずっと灰色だった。
「ねぇ、ごっちん」
「ん」
「見てよ」
ヨッスィーが指差した先に、駆けて行く影が見えた。私は答える。
「見たよ」
「そんだけ?なんか淡々としてんね」
「あぁ、お前もね」
7 :
1:03/05/13 03:20 ID:f7WIUhi/
私達は壁に座っている。2メートルもない、簡単によじのぼれる壁だ。しかしここから
向こう側に落ちると死ぬ。
だから私達は壁の上から向こう側を眺めるだけだ。
「久し振りだよね」
ヨッスィーがまた言う。「最近はめったにいないからさ」
私は首をかしげる。
「1年ぶりくらいかな」
「あぁ、多分」
ターン、という高い音が何度か響き渡る。影が崩れる。
「あーあ」とヨッスィーが言った。
8 :
1:03/05/13 03:22 ID:f7WIUhi/
と、ものすごいスピードでバイクが走ってくる。影まで辿りつくとすこし
立ち止まり、来た方へ戻って行く。
「お掃除だ」
「はやーい」
影のあったところにはもう何も見当たらない。バイクが引っ張って行った
からだ。
私達はそのバイクがどこから来てどこへ戻るのか知らない。向こう側
なのかこっち側なのか、それとも壁の住人なのか。それを知らない。
9 :
2:03/05/14 00:29 ID:OVX47I5f
「劇場」
10 :
2:03/05/14 00:30 ID:OVX47I5f
町には大きな劇場がある。私達はそこで毎日のように歌って踊る。それが
私達の仕事であり日課だ。
客は毎日のようにつめかける。小さな町で、それは大事な収入源だ。だから
私達は毎日のように歌わされ、踊らされる。休むことはできないし、考えること
も許されない。
梨華ちゃんはそれについてこう言う。
「あたし達はみんなに夢を与えてるの」
「やっぱり歌が好きだから」
わざとらしく腕を組んで、目をきらきらさせる。私は首をひねる。
11 :
2:03/05/14 00:32 ID:OVX47I5f
夜になると私達は解散する。くたくたになりながら家に帰る。私達には
みんな親がいない。
「また明日」
「じゃあ」
簡単な挨拶が済むと、私はすぐに劇場を出る。
私は一人だ。ヨッスィーと梨華ちゃんはいつも二人で帰る。他の子達も
たいていは固まって帰る。さびしいから、らしい。しかし一緒に住んだりは
しない。許されていないからだ。
家は劇場から用意されている。劇場は他にも衣服や、毎日の食事を配給
してくれる。
私は「よく食べるから」という理由で、いつも二人ぶんの弁当をもらって帰る。
12 :
2:03/05/14 00:34 ID:OVX47I5f
月に一度、スズメの涙くらいの給料をもらうと、私達はお酒を飲みにいく。
毎月のそれは別に誰が決めたわけでもない。古くから伝わる風習のような
ものらしい。
どこか店に行く時もあれば、誰かの家で集まることもある。私達はそこで
12時を過ぎるまでささやかなお喋りとお酒を楽しむ。
梨華ちゃんは酔うとたいてい泣きながら言う。
「あたし達はもう飽きられちゃってるのかもしれない」
「でもやっぱり歌が好きだから」
それを聞いて、ヨッスィーがケラケラと笑う。私は首をひねるばかりだ。
ステキ。
15 :
3:03/05/15 07:23 ID:umoldAlb
「合言葉」
16 :
3:03/05/15 07:24 ID:umoldAlb
家に帰りカギを閉めると、私はまず一杯、ゴクゴクと水を飲み干す。
それから押し入れに入る。コンコン、と二回、屋根板を叩く。
「…ちょこラブ」
やがて、くぐもった声でそう聞こえる。私はそっとささやきかえす。
「腹筋」
屋根板はすぐに向こうから取り外され、市井ちゃんがそこから顔を出す。
「お疲れ」
「ただいま、今日も疲れたよ」
17 :
3:03/05/15 07:25 ID:umoldAlb
市井ちゃんを飼うようになってもうだいぶ経つ。劇場から逃げ出した市井
ちゃんを、みんなは向こう側に行ったとばかり思っている。
「おいそう言えば聞いてくれよゴトウ」
弁当を頬張りながら市井ちゃんが言う。「メドが立ったぞ」
私は眉をあげる。
「今度こそあの壁、超えられそうだ」
その瞳は輝いている。私はゆっくりと頷く。
18 :
3:
市井ちゃんがもどかしげに弁当を全部かきこむ間に、私は水をくみに行く。
手渡した水を市井ちゃんはゴクゴクと飲み干す。それから喋りだす。
「わかったことがあるんだよ、あのな、壁と壁との距離は8マイルだろ」
「あぁこの間そんなこと言ってたね」
「要するに問題はその8マイルを、撃たれずにどうやって走りぬけるかって
ことなんだよ、でな、こないだ聞いた話だとどうも、あの銃がどこから狙って
るかがわからなかったんだけど、それがどうやら…」
私はその話を聞きながら寝てしまう。
市井ちゃんは今日一日の研究成果をいつまでも喋り続ける。屋根裏には
テレビとマンガしか置いていない。