指で透明で水色な水槽をなぞって、魚の口マネしながらこっちを見て笑う。
まん丸で、アーモンドみたいな瞳を見開いて、動作までつけちゃって。どうしよう、心臓の鼓動が止まらない・・!
「うわぁ〜!吉澤さん、見て見て!海の中にいるみたい!!!!」
トンネルの頭上を魚の群たちが泳いで行く。先に前を歩いてエスカレーターを上る高橋、儚くて人魚みたい。
あたしは、高橋の目の動きを目で追う。水槽を隔てた魚に変な顔して、笑う目、近寄ってきた魚に驚いて見開かれる目。
とにかくカワイイ。上から射す光が眩しくて、一瞬手の甲であたしは顔を覆った。すぐに手をどけると、クスクス笑いながらあたしを見下ろす高橋。
「吉澤さん、ちゃんと魚見てますかー?私のことばっか見てたやろー!」
「み、見てないよ!ほらほら、この魚・・・キレイだよ!見てる?」
「どれ?」
カンカン、と足音を鳴らしてエスカレーターを降りてきた高橋は、あたしが指差す魚に顔を近づける。と、同時に帽子から出る長い髪からシャンプーのにおいがした。
ああ、もう・・クラクラするっつの!そんな事おかまいなしの高橋は独り言みたいのをぶつぶつ言いながら魚に話し掛けていた。
やっとエスカレーターを抜けた。ふぅ・・・。
なんとなく気疲れしたあたしはほんとにため息をついて気合い(?)をいれなおして高橋に話し掛けた。
「ね、次どこいく?」
・・え?・・・・・・・?高橋がいないんだけど!今の今までいたよねぇ!?
「高橋ッ!?」
ついつい大声をあげて辺りを見回しても、いない。なんで?なんで!?
ブツっという音をたてて、思考回路がとまってしまう。まてよ、うん・・・冷静に・・・なれねぇっつの!
まだエスカレーターにいるのかも、よし、行こう!!!
と思った瞬間。
「何してんですかぁ?吉澤さん。」
手には2つのソフトクリームをもった高橋が、きょとんとして近寄ってきていた。
「・・・・・。」
「変なの〜!はい、ソフトクリーム!」
「おいしいですねぇ、このソフトクリーム♪」
嬉しそうにソフトクリームを口にしながら、てくてく歩き出す高橋。
なんかあたし、気合い(?)の入れすぎで今日変だよなぁ・・・・もうちょっと軽く行こう!軽く!
自分の意味不明なテンションに翻弄されながら、あたしはやっぱ変だって思った。あー・・・
「食べないんですか?」
ぼーっとしているあたしに、高橋が話し掛けてきた。やべっ・・・考えてる場合じゃない!
「あ、食べ・・(ベチャッ)・・・?・!」・・・・ベチャ?
溶けかけたソフトクリームが、コーンを残して地面に落ちていた。・・・泣きそう・・。
「あ・・・ご、ごめん・・ぼーっとしてて・・・あ・・」
あたしは動揺していた。せっかく高橋が買ってきてくれて、楽しもうとしてくれてるのにあたしってば、変な事ばっか・・・
「吉澤さん汚れてないですか?平気?」
「うん、吉澤は平気だけど・・高橋がせっかく買ってくれたのにさ・・・」
「いいのいいの、ハイ!これ食べてください!」
ずい、と口の前に出されたのは高橋の食べかけのソフトクリーム。また変になるあたしの心。
高橋はニコニコしてあたしが食べるのを待っているようだ。でも、できない、だって、間接・・
・・・ベチャ・・・!・・・・(ベチャ?また・・・!?え?)
ハッとして口元がなんだかひんやりした感触に包まれた。なんか甘いにおいと、ベタベタ感・・・爆笑する高橋・・?
「あはははは!!吉澤さん、ひげぇ、ひげやぁ!」
あたしの口に押し付けられたソフトクリームが離されて、あたしはサンタさんみたいになった。
「こ、こら〜〜〜!!何すんだよ〜〜〜!!!」
「きゃははは!だって、吉澤さんなんか考え事してるみたいなんですもん!!」
ティッシュで口元を拭きながら高橋に目をやると、口元の笑顔が薄れ、急に眼差しも真剣になった。
「・・・私といて、つまんないですか?」
真っ直ぐな目であたしを見た高橋は意を決したようにそう言った。