132 :
QQQ:03/07/06 09:00 ID:Thx4OOkH
長めの前髪が視界を侵していた。
薄く開いた唇から酸素を吐き出し、意図も無く黒髪を泳がしてみる。
こんな所まで本人の性質が表れるものなのか、それは頼り無げに宙を漂う。
机に開かれたファッション関連の雑誌。
読む気なんて無い。
でも単に机に座ってぼーっとしているだなんて、如何にもだ。
同情を誘っているとは思われたくない。
「少し切れば?」
その声を聴覚が捕えた。
躯の内がざわめいて呼吸を静かに整える。
緩慢な動作で声の方へ首を傾げれば、
それを追うように視界のカーテンもまた揺れる。
合い間から覗ける吉澤は微かに笑っているようだった。
133 :
QQQ:03/07/06 09:01 ID:Thx4OOkH
「良いよ、このままで」
「邪魔じゃねぇ?」
「邪魔だ」
即答だった。
迷う必要なんて有るものか。
それに吉澤は肩を竦めて、困ったような顔をする。
会話は終了したように思われたのに、
吉澤は必然的な事の流れに身を任すように俺の前の座席に横向きに座り込んだ。
こっちを向く訳でも無く、じっと何処かを見つめている。
考え込んでいるのだろう。
134 :
QQQ:03/07/06 09:02 ID:Thx4OOkH
吉澤は何かについて思考を廻らす時、一点を見つめる。
そして今そうやっているように、左耳のピアスに触れる癖がある。
しかもたぶん、ほとんど無意識にだ。
そう思うと、その手を引っ手繰って自分の左耳のピアスに触れさせたくなる。
そんな衝動は一種の反射反応に過ぎない、と思えば思えない訳でも無い。
だって馬鹿げてる。
俺はそんな吉澤を見つめる訳にはいかず、視線のやり場を固定するのに戸惑う。
雑誌にも興味が無く、だからと云って窓の外を見つめるなんて以ての外。
仕方無く俯いた。
135 :
QQQ:03/07/06 09:31 ID:Thx4OOkH
「俺が切ってやろうか?」
「は?」
「だって邪魔なんだろ?」
「は?」
お前そんな事考えてたのか、と続ければ、
悪戯を思い付いた子供のように、けれど大人びた表情で
「我ながら良い考えだろ?」なんて言い、口端を上げる。
「何が良い考えだよ。このままで良いって言ってんだろ」
上目遣いで睨み付け、押し隠すように言葉を吐く。
それは苛立ちの塊。
こいつは何も分かっていない。
この前髪の意味を。
136 :
QQQ:03/07/06 09:31 ID:Thx4OOkH
此処から見つめる吉澤は鉄格子越しにいるように見えた。
俺は囚人だ。
囚われているだけ。
牢屋の内から吉澤を盗み見る事は出来ても触れられない。
感じる体温も全て錯覚だ、と信じる。
不意に泣きたくなって、唇を噛み締めた。
「まぁまぁ、俺に任せなさい」
「何勝手に漁ってんだよ!」
無闇矢鱈と云った感じに俺のペンケースを勝手に開け、
中身を広げて何かを探し出す吉澤。
奪い返そうとしたが意外に素早い吉澤ひとみ。
見事に避けてみせると御目当てのそれを見つけ出して。
137 :
QQQ:03/07/06 09:32 ID:Thx4OOkH
「ほら、あった。今、ここで切っちゃえよ」
銀色の繊細な体のハサミを安蛍光の薄暗い光に翳すようにして、
二、三度開けたり閉めたりを繰り返す。
「俺、藤本の持ち物って結構好き。
良く言えばシンプル、悪く言えば素っ気無い、
でも機能性が滅茶苦茶に優れていて、使い心地良いんだよね」
「だったら好きなように持って行ってくれて結構。俺なんて放っといて帰れ」
「そんなに切りたくないならお前が俺から逃げろよ」
「……」
138 :
QQQ:03/07/06 09:32 ID:Thx4OOkH
俺は動かず、言わず、静止していた。
睨む気にもれなれなかった。
俺がこいつから逃げられる筈が無い。
可能性にしても、意志にしても、俺はこいつからは逃げられない。
何故か。
ずっとそうだった訳で、その理由を捜し求めるのはとうに止めていた。
只、ひとつだけ分かってる。
一分の望みも残さない完璧さで、何も問わず、何時だって俺は不利だ。
「お前、そういう駆け引きは何処で覚えてくる訳?」
そっと瞼を閉じた。
吉澤が息を呑む気配がした。
「短くし過ぎたら殺す」
「怖ぇのな。大丈夫だって。俺が切ってやるんだ。光栄に思え」
「はいはい」
声を殺して表情だけで笑う吉澤を一発殴ってやりたくなった。
139 :
QQQ:03/07/06 09:48 ID:Thx4OOkH
二人きりの教室、ハサミが俺の前髪を切り落とす音だけが響き渡る。
妙な気分だった。
眼を閉じていても分かる。
暗闇の中、吉澤だけが息衝いていた。
躯中、至る所の血液が駆け廻り、吐息を熱くさせている。
敏感に吉澤を感じ取る五感をこんなに憎く思う。
「なぁ、こういうのを官能的だと思わないか?」
「思わない」
嘘を重ねても誰も俺を責めたりはしない。
「俺は少し、思う」
「……変態」
「……」
「冗談だってば」
面白くも無いのに笑ってみると、
それは以外と面白いような気がしてきてしまうのだから不思議なものだ。
140 :
QQQ:03/07/06 09:48 ID:Thx4OOkH
無理矢理の日常会話。
非日常は何時だって影で息を潜めている。
「なぁ、如何してそんなに前髪切りたくなかったんだ? 邪魔だったんだろ?」
「……別に理由も何も無いよ。お前こそ如何してそんなに切りたがってたんだ?」
気紛れな戯びにしては執拗だったように感じた。
でも吉澤の事だから理由なんて無いのかもしれない。
理由があって行動が有るなんて考えるのは哲学者だけで良い。
「前髪が邪魔して視界おかしくなってんだろ。
それじゃあ俺はちゃんと藤本の顔を見る事は出来ないし、
藤本はちゃんと俺の顔を見る事が出来ない」
「見る必要なんて無いじゃん」
「有る。きっと」
「何、俺に見て欲しい訳?」
141 :
QQQ:03/07/06 09:49 ID:Thx4OOkH
言ってしまってから自分のミスに気付いて、
慌てて繕って、声をあげて笑ってみせた。
吉澤は何も答えず、沈黙を生んだ。
時間が出来うる限り早く過ぎるように祈りながら耐えた。
祈っても時間は常に均一だと知りながらもひたすらに。
この感情はどうも理解出来ないでいる。
吉澤ひとみと云う人間に対して俺はとても可笑しい。
そう、可笑しいと云う表現が最も適しているように思う。
感情は暴走する為に存在するのだろうか。
俺の肉体は、精神は、異常になった。
欲求不満の一言で片付けられれば良いけれど、
それは少しばかり無謀な自己完結だ。
こんな感情、分からない。
苦しい。
こんな感情、分からない方が良い。
142 :
QQQ:03/07/06 09:51 ID:Thx4OOkH
「俺は見たくないんだ。お前の顔なんて見たくも無い」
だから前髪を切りたくなかったんだよ、吉澤。
お前の顔が様々な表情を創るその瞬間を見届けるのは精神的に悪いんだ。
「……結構酷い事言ってると思うんですけど」
「違う。酷いのはお前だ」
伸びていた腕が俺の顔から離れていった。
「やっぱりこれくらいの方が良いな。藤本の綺麗な顔がちゃんと見える」
「馬鹿じゃん」
「お前よりは馬鹿じゃない」
「……」
「綺麗だな」
吉澤の指がそっと俺の瞼を撫ぜた。
「触るな!」
「嫌だ」
「お前っ……」
143 :
QQQ:03/07/06 10:05 ID:Thx4OOkH
眼を開けたのに、視界はとても暗かった。
クリアになった視界に至近距離で吉澤の顔が映って。
触れるだけの口付けだった。
接点だった唇から熱が伝わってきて、涙を誘った。
吉澤はそれに驚いて、涙の筋を追うように俺の頬をなぞった。
の長い指が湿っていた。
こんなの嘘だ。
鉄格子が無くなっても俺は囚人変わりない。
そしてこの熱も、きっと錯覚に過ぎないんだ。
だってそうじゃなきゃ、俺は――救われない。
「御免、俺は……でも……ふざけたんじゃなくて……したくなったからした。でも、やっぱり御免」
「……お前は何も分かってない」
144 :
QQQ:03/07/06 10:05 ID:Thx4OOkH
矛先の分からない怒り。
自分の声が震えているのに気付き、滑稽だと思った。
自分の暴走していた感情の正体がやっと理解出来た。
そして恐怖した。
「藤本、俺はお前の事……」
「黙れよ!」
「藤本……」
わらった。
とにかく自分を守ろうと本能が必死で働いていた。
震えている。
声だけじゃない。
躯も、思考も、感情さえも。
145 :
QQQ:03/07/06 10:05 ID:Thx4OOkH
「俺は何も分かっていなかったんだ」
吉澤を見つめた。
「お前って、何そんなに怯えてるんだよ」
吉澤は俺の傍に寄り、俺の躯に腕を回そうとした。
「嫌だ!」
抵抗しようとしても、やっぱり不利だった。
敵うはずも無いって本当は分かってるんだ。
「落ち着け! 俺が傍にいるから、もう少し落ち着けよ!」
こいつから言葉を浴びれば浴びる程落ち着けそうに無かった。
叫びに嗚咽が入り交じって、それは何時しか悲鳴の類と化する。
「泣けよ。もっと泣いておけ。わらって済ますな」
髪の合い間に差し込まれた指や、顔を埋めている肩や、手を置く背中や、
とにかくそれらが急激に現実感を取り戻し始めた。
全ては錯覚なんかじゃない。
だって吉澤は眼の前に、ここに、いる。
146 :
QQQ:03/07/06 10:06 ID:Thx4OOkH
「ごめん」
謝罪の意味なんて分かり得ないだろうけれど、この言葉しか告げられない。
何時の間にか入口を通り過ぎていた。
もう、逆戻りは出来ない。
「藤本、俺も、ごめん」
吉澤が俺の言葉を理解出来ないように、俺もその言葉の意味を理解しかねた。
でも、もしかして俺らは根源的には同質なのかもしれない。
さっきよりもずっと深く口付けられる。
何かの儀式のようにその行為に没頭するしか今の俺には無かった。
吉澤の腕を掴む。
俺の頬には未だ乾かぬ涙と切り捨てられた前髪が残っていた。
147 :
sage:03/07/06 23:29 ID:016GFTGF
続きにちょっと期待の保全
なんだこの小説…
なんかすげーイイんだけど…
鉄筋系は?
乗っ取られたようだね…
まあ俺としてはこっち(藤本と吉澤)の方が興味あるかもしれん。まだ見ないカップリングだし新鮮。
藤本吉澤でなんとなく官能的だと妙なリアリティが出るな…
やるぞ!!
っと思ったときのこの脱力感ね。。。
QQQの作品はとりあえずおいといて、地蔵は続きうP!このふじよしはCMみたいな感じでいいと思う。完結してるっぽいし。
実際、地蔵降臨までのいい刺激になったというか軽い気分転換というか…「こういうのも良いね」と思えたよ。
でもやっぱり地蔵の続きも読みたい…
あやみき、よしごまヲタだったんだけど普通に萌えますた(*´д`*)ハァハァ
地蔵!生きてたのか・・・。
そろそろ庚申汁!
地蔵…
さすがにこの空気になっちゃ書けないだろうな…
なんかトリップも違うし
藤本も吉澤も一人称が「俺」なのがいいなw雰囲気が出てるというか。
そういやQQQは狼のみきよしスレのネタ職人やってる?ネタの雰囲気が似てる。
違ってたらスマソ
地蔵さ〜ん
なに?
もうQQQでも地蔵でもどっちか降臨汁…
氏にスレになりそうだよ…
保
保全。
162 :
test:03/08/01 04:33 ID:yn0uBr3x
ノノノ~\\ 〃川 |ヽ
从` ・ゝ´) ノ从~\ヽ 〃~~ヽヽヽ |( ゚〜゚ |||
|( ) 从#~∀~从 wノノハwヽ (●´ー`●) |( )|
. |. i | ( ) (0゚ −゚ 0) ( ) | i ,|
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. (_)_) (_)__). (_(__). (_(__) (_(_)
石黒 中澤 福田 安倍 飯田
@ノノヽヽヽ@
.(0^〜^0).(ノ~\\ (ノ^^^\) ノノノノ从ヘ ノノノノヽヽ
. ( ). L`.∀´」 〃ノハヽ ヽ^∀^ノ |(´Д ` )|. 从^▽^从
| i | ( ) ||ノ ^◇^) ( ) ( ) ( )
. | | .| | | | ( ) | | | | | | | .| |
(_)_) (_)__) (_)_) (__(_) (__(_) (_(_)
. 吉澤 保田 矢口 市井 後藤 石川
ノノノノヽヽ /| | | |ヽ ノノノノ从ヘ
∋oノハヽo∈ ∬`▽´∬ 川o・-・) 川’ー’川 /⌒ヽ、. @ノハ@
( ´D`) ( ) ( ). ( ) ( ・ e ・ ) (‘д‘ )
. ( ) | | | | | | | | | ノリリ从ルヽ.( )
. (_)__) (_)__). (_)__) (__(_) (__(_)
辻 小川 紺野 高橋 新垣 加護
164 :
こ:03/08/01 14:50 ID:Oqw4v9iU
川o・-・)
166 :
山崎 渉:03/08/01 23:37 ID:asD2XuRM
(^^)
167 :
test:03/08/02 00:55 ID:JjESBeCv
test
168 :
名無し募集中。。。:03/08/03 13:14 ID:LhyWrp8q
浮上
169 :
ぱた:03/08/05 09:55 ID:xeR+tnh2
もうあきらめな
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■■■■√ 彡 ミ │
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/ / \_)*(_/ \ \
|_/ \_|
保全しておきます。
保全。。。
みんなどっちの作者に対しての保全なんだろう?
あっ・・・そぉ・・・
保全
178 :
:03/08/12 04:41 ID:bf+J7AM9
179 :
:03/08/12 06:14 ID:GsLqmCOk
180 :
名無し募集中:03/08/12 08:30 ID:+iWJTHNV
181 :
名無し募集中。。。: