【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜】

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96【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜】
「父は心理学者だったんです」

里沙は言った。

「サブリミナル効果って知ってますか?
顕在意識には知覚されないが潜在意識には届く、特殊な刺激により潜在意識を活性化させる手法
簡単に言えば、無意識をコントロールする方法なんですが、
父はその研究をしていました。
実際にサブリミナル効果では、簡単な決定事項にしか影響はありません。
のどが渇いて、ジュースを買う。コーラかオレンジジュースかどちらか選ぶ。
そんな簡単な決定事項に効果が出る程度なんです。
それによって、人格や意思の全てをコントロール出来る訳ではないんです。
でももしそれができるなら?
父が研究をしていたのは「ハロー効果」という「サブリミナル効果」に「自己暗示」を組み合わせた「意識のコントロール」
これなら集団の意識のコントロールが可能と考えていたようなんです」

「そういう研究者が次々に行方不明になっているのよ」

サキは言った。そう言う彼女の父親も、その中の一人だ。

「あの男達は、父の研究をまとめたレポートのありかを探しているようです。
父は私にそのレポートを預けたらしいんですが、だから執拗に私を狙ってきているんです。
でも私には覚えがありません。
でも、サキさんがあいつらを追い払ってくれたおかげで、あれから来なくなりましたね」

「そうですね」

サキは微笑んだが、その3人が既に謎の自殺をしていることを言えないでいた。

「せっかく、何時あいつらがやってきても大丈夫なように、特製スカーフにしてるんだけどなぁ」
そう言って里沙はサキにスカーフを見せた。
一見、普通のスカーフだが中に細い鎖が織り込まれている。
引っ張るとその鎖が寄り集まり、かなりの強度になる。
これでムチのように使えば十分な武器だ

「あ、そうだサキさん。今日私の家に来ませんか?
家と言っても、下宿させてもらってる先なんですけど
私、母が死んでから父と二人暮らしだったんですが、その父が行方不明になって
しかも、家は何者かに荒らされてぐちゃぐちゃになっちゃうしで……
護身術を習ってる道場の師範に相談したら、師範の家に下宿させてもらえる事になったんです。
その師範にサキさんの話をしたら、ぜひ連れて来なさいって」

「ええ、いいわよ」

彼女の下宿先は倉庫のような建物だった。
どうやらそこが道場になっているようだ。
すぐ横に玄関があった。
建物自体は倉庫風だが玄関や入り口は普通の民家の物と変わらない。
建て方からして以前、工場か倉庫だった建物とその事務所を改造して住居にした……そんな感じだ。

「ただいま帰りました」

里沙が言うと、奥から一人の女性が現れた。

「おかえり、里沙」

「先生、昨日話をした麻宮サキさんを連れてきました」
理沙の言っていた師範というのはどうやらこの女性のようだった。
髪の長い目の大きな美人。
こんな大きな道場の師範をしているとは、とても思えない。
彼女は微笑みながら、右手を差し出した。

「いらっしゃい、お待ちしてましたわ。
あなたが麻宮サキさんね?」

差し出したその掌が一瞬、鋭い手刀へと変化した。
サキはとっさにその手を掴む。
身を反転させて関節を決める。
しかし、師範は関節を決められないように体を回転させた。
同時に左手がみぞおち辺りを掴んでくる。
サキは冷静にその手をさばいた。
更に右足のハイキック。
連続するその技に覚えがあった。
サキは身をかがめて足を避け、しゃがみながら師範の軸足を払った。
彼女はバランスをくずすも、ぱっと身を離す。
つい最近、散々訓練させられた一連の動き。

「風魔鬼連組手」

たとえ武器を失っても、両手両足の一撃必殺の技を連続して繰り出す事により、確実に相手を仕留める。
いや、相手を仕留めるまで技を繰り出し続けるという、地獄の連続技。
暗殺を目的とした古武道……すなわち「忍術」の一種

「さすが、麻宮サキを名乗るだけあるわね、受け払いは完璧だわ」

サキは黙ったまま、彼女を睨んだ。
「いきなりこんなことしてごめんなさい、新しい「麻宮サキ」の実力を見てみたかったの。
随分風間教官に鍛えられたみたいね。「風魔鬼連組手」をここまで凌いだのは素晴らしいわ」

髪をかき上げながら、彼女は言った。

「はじめまして、私は風間格闘術道場の師範、風間結花と言います。
あなたを訓練した特殊教練課の風間教官は、私の妹なのよ」

「ああ、あなたが……」

彼女に付いては特殊教練課の風間教官に聞いた事があった。
風間教官は若くして、しかも女性にもかかわらず、いかつい体格の男性相手に高度な格闘術を教えている。
それも様々な実戦を潜り抜けてきた百戦錬磨の警官相手である。
なぜ彼女にそんなことができるのか、サキには大きな疑問だった。
その理由は彼女が代々「忍者」の家系に生まれ、幼い頃から特殊な訓練を叩き込まれてきたためと教えてもらった。
彼女の持つ高度な技術とは、「忍者」が実際に確実な暗殺を行う為に積み上げられた技術の集大成。
彼女に教えられる特殊任務を行う特務警官は、誰一人として彼女に勝つ事ができなかった。
30歳そこそこの小柄な美人の女性を前に、アメフトの選手のような体つきの男たちが手も足も出なかったのである。
そんな風間教官は自分より強いと思った女性が3人いると言った。
一人は特殊捜査課のエージェント「2代目麻宮サキ」の「五代陽子」。
2人目はすぐ上の姉「由真」
そしてもう一人は三姉妹の長女「結花」
彼女は現在「忍者」の一族「風魔鬼組」の頭領を務めていると聞いた。
その彼女が里沙に格闘術を教えた師範だったのだ。

「普段はこうやってみんなに格闘術を教えているのよ」

結花は言った。
「サキさんスゴイです!!
私なんか、さっきの技全然かわした事無かったですよ」

「里沙もねうちの道場じゃかなりの腕前なんだけど」

そう言って、結花は里沙の頭を撫でた。

「それでも鬼連組手はなかなか破れないのよ。
まあ、鬼連組手の技の稽古をつけられる段階ですでに凄いんだけどね」

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都内某所……とある高級マンションの最上階

真里と梨華の部屋のドアが静かに開いた。
そこに一人の少女が無言のまま立っている。

「来たわね」

「早速、愛様に……」

真里と梨華は互いの顔を見合わせて頷くと、大きなドアを開き、その少女を中に案内した。

「愛様、”ナンバー5”が参りました」

真里と梨華はうやうやしく頭を下げた。
”ナンバー5”と呼ばれたその少女は、無表情のまま黙って立っている。

「待ってたわ、早速あなたには働いてもらうわよ」

ナンバー5は相変らず表情を変えない。
愛はそれが当たり前かのように、彼女に話しかける。

「新垣教授が残した「ハロー効果」の研究データー、必ず探し出して頂戴。いいわね?」

ナンバー5は無言のままうなずいた。

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続く……前振りが長くて申し訳ありません。
2話のタイトル「さらわれた里沙」とか言っときながら、ちっともさらわれませんね。
次回でやっとさらわれます(w