【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜】

このエントリーをはてなブックマークに追加
第二話「さらわれた里沙」

次の日、学校へ登校中のサキの前に、黒いBMWが停まった。
黒いスーツにサングラスの女性。
中から現れたのは、五代陽子だった。

「あ、五代さん……」

「サキ、ちょっと来て」

陽子はサキを車に乗せた。

「サキ、この男達に見覚えある?」

陽子は3人の男の写真を手渡した。
サキにはその写真のに見覚えがあった。
昨日、サキと里沙を襲った男達だ。

「昨日私たちを襲った……」

「やはりそうね、この3人死んだわ」

「え?」

「昨日、ビルの屋上から3人一緒に飛び降りて、即死よ
目撃者がたくさんいるわ、警察は自殺として処理したけどね」

「やはり神狼会と関係が?」

「そういうことね。
三人が同時にビルの屋上から飛び降りるなんて不自然過ぎる。
それも、あなたたちを狙っていた男たちがね。
どういう方法を使って、この三人が自殺したのかはわからないけど、それが神狼会のしようとしている事に何か関係がある……そんな気がするわ。」

「神狼会の目的?」

「恐らく神狼会が関係しているのではないかと思われる、ここ数年内に起こった事件はね、
優秀な脳外科医だったあなたのお父さんを初めとして、精神科医、心理学者や催眠術師……
これらの情報と、私の部下だった捜査員の命がけの潜入捜査で得られた調査結果から
私達は、神狼会は何らかの方法で大量の人間を「コントロール」しようとしているのではないかと見ているの」

「里沙さんのお父さんも?」

「ええ、新垣教授は行動心理学の優秀な研究者だった。
特に人間の潜在意識に働きかける心理的な効果の研究を続けていたわ。
「ハロー効果」と呼ばれる「無意識のコントロール」の研究。
もしその研究で「成果を上げる方法」が見つかっていたとしたら……
そのために神狼会に狙われたのだと思うわ。
新垣教授が行方不明になった後でも里沙さんを狙うのは、その研究の関する重要なカギを彼女が握ってるのかもしれないわね」

******************************

麻琴はまだ昨日の出来事が信じられなかった。
麻宮サキについて母は多くを語らなかったが、麻宮サキという名前が何やら特別な名前であるという事はなんとなく理解できた。

「それが何か知りたかったら、自分で探りなさい」
母はそれだけ言った。
「でも間違いなく、お前を退屈させる事はないよ」

(いったい麻宮サキって何者なんだろうか?)
麻琴はそう言った母の言葉を思い出しながら、学校に行った。
廊下の向こうに、その麻宮サキが歩いていた。
一人の女生徒がサキに近づいてくる。

「あれ、紺野さんじゃない?」

「え?」

サキは驚いたように彼女を見つめた。

「覚えてない?一昨年の空手大会の準々決勝で闘った……」

「人違いですよ、私麻宮と言うんです……」

「あれ、そうなの、ゴメン。いやあんまり似てたもんだから……」

それを見ていた麻琴は、その女生徒に近いて訊いた。

「ねえねえ、さっき言ってた紺野って誰?」

「ああ、北海道出身の女子空手の選手よ
大人に混じって練習してたくらいで、北海道の女子空手界じゃ無敵だったらしいわ。
私は2年の時に準々決勝で対戦して負けちゃったんだけどね……」

「ありがと」

麻琴は彼女に礼を言うと、すぐに学校の図書室に向かった。
パソコンを立ち上げ、検索サイトにキーワードを入力する。

「紺野……北海道……空手……」
1000件近い検索結果が出た。
確かに「全国空手道選手権」女子個人組手の部で、北海道出身の「紺野あさ美」という選手が中学生の部と一般の部で優勝している。
麻琴は、その選手権が行われた翌日の新聞記事をデーターベースから検索してみた。
データーベースに保存されていた新聞記事にも小さく記事が載っていた。
切手くらいの大きさの写真もあり、そこもに小さく顔が写っている。
なんとなくだが、その写真の少女は麻宮サキに似ていた。

(なるほど、あれは空手だったんだ……)

昨日のサキの動きが空手のものであることは、これで間違いない。
彼女の隠された強さの秘密が一つ判った気がした。

******************************

麻琴が教室に戻ると、サキが辻と加護にからまれていた。

「ちょっと、麻宮さん、お願いがあるんだけど?」

「なんですか?」

「購買部にいってパンを買って来てくださらない?」

「ええ、いいですけど……」

じっと立っている

「何やってるの早く買ってきてよ」

「あ、あのお金は……?」

「ああゴメンネ私達お金持ってないから、出しといてちょうだい」
「私も持ってないんですけど」

「じゃあ、誰かに借りたら?」

「それくらい自分で考えなさいよ」

サキは仕方が無いという感じで気弱な笑顔を見せた。
辻加護のイジメにも従順に従っている。

「私が貸してやるよ」

麻琴が言った。

「ほら、これで買ってきな」

麻琴はサキに1000円を手渡した.。

「ありがとうございます」

サキは小さく言う。
あくまでも、気の弱いイジメられっ子を装っている。

「いいよ、お金はこいつらから返してもらうからさ」

そう言って、麻琴は辻と加護の二人を睨んだ。

「お、小川さん、お金は麻宮さんに返しておくから、彼女からもらって頂戴ね」

麻琴に睨まれて、慌てて辻が言った。

「いや、私は”お前達”に貸したんだ、”お前達”から返してもらうよ、いいね」
そんな会話を無視するかのように席を離れて購買部に向かおうとするサキに里沙が近づいた。

「どうしてあの2人に従ってるんですか?
サキさんくらい強かったら、あんな奴らすぐにでも……」

「いいのよ」

サキは言った。

「この前も言ったけどあいつら、中学の時からこうやって女の子をイジメては……」

「わかってる、でも事情があって、目立った事はできないの
強さを鼓舞するよりこうやっていた方が都合が良いんですよ」

北海道にいた頃若干13歳で女子空手の頂点に立った。
北海道の女子では一般の部を含めてもほぼ無敵と言われるまでになった。
しかし、いわれの無い他流試合の申し込みや、ケンカを売ってくる者など後を断たなかった。
強くなりたくて始めた空手だったが、強くなって良かった事など一度も無かったような気がする。

******************************

次は体育の授業だった。

「はーい、女子の体育担当の保田です。
今日は、初めての体育の授業ですから、みんなのチームワークを高める為にバスケットボールをします。
良いですね、じゃあチームに分かれましょう」

保田先生はクラスを適当に何チームかに分けた。
サキは辻と加護と同じチームになった。

試合は小川麻琴と新垣里沙がいるチームとだった。
試合は小川麻琴と新垣里沙がいるチームとだった。
試合が始まると同時に、加護がサキにぶつかってきた。
よろけるサキ。

「ちょっと麻宮さん、何やってんの!!」

「す、すいません……」

辻がサキにパスを出す。
投げられたボールは勢い良く、サキの顔面をめがけて飛んできた。
よけるサキ、よけた手にボールが当たり跳ね返ったボールが加護の顔面に当たった。

「ちょっと、麻宮さん何やってんの!!」

怒る加護
ボールを投げつける。
サキが思わずよけた手に当たったボールは、今度は辻の顔面に

「すいません、すいません」

大笑いする、麻琴と里沙
つられて他のクラスメイトも笑い出す。

「大丈夫ですか?」

サキは辻と加護に駆け寄って謝った。

「す、すいません、わざとじゃないんです……」

しかし、麻琴はボールが当った瞬間に、サキが微妙に跳ね返る角度をコントロールしていたのを見逃していなかった。

(やるな……こいつ……)
授業が終わり、サキが一人水道で顔を洗っていた。
麻琴は周りに人が居ないのを確め、彼女に近づいた。
サキに手に持っていたタオルを手渡す。

「あ、ありがとう……」

タオルを受け取り、サキは言った。

「あんた何者だい?」

豪を煮やした麻琴は直接サキに訊いた。

「何の事ですか?」

「とぼけるんじゃないよ、私は見てたんだからね」

「やっぱり、あなたでしたかあの時は助けてくれてありがとうございます」

丁寧に頭を下げる
知らない人が見たら、麻琴がサキをイジメているようにしか見えないだろう。

「あんた、スケバン刑事なんだろ?」

そう言った瞬間だった。サキのそれまでの気弱なイジメられっ子の雰囲気が一変した。
一瞬にしてその手が麻琴の喉元を掴んだ。
恐ろしいまでの彼女の殺気。メガネの下の目つきがさっきまでとまるで違う。

「なぜそれを知っている」

「ちょっと、待って……話すから、この手を……離して……」
あとちょっとサキが力を入れたら、麻琴は喉の筋肉を握りつぶされていただろう。
答えによってはそれを躊躇わずにやる……そう思わせるまでの恐ろしい殺気だった。
力を少しだけ弛められた麻琴は激しく咳き込む。

「うちの母親が昔、麻宮サキと一緒に闘った事があるんだって言ってた。
麻宮サキはスケバン刑事の名前だと教えてもらったんだ」

「そうなんですか……」

彼女の殺気が消え、元のイジメられっ子に戻った。

「でもこれ以上私に構わないほうが良いと思います。危険な目に会いますよ」

「そういう訳にはいかないんだよ」

「どうしてですか?」

「なんだか面白そうだから」

小川麻琴はそう言って笑みを浮かべた。

「うちの母親が、騒ぎとか揉め事とか大好きなんだ。
やだねーそんな血を引いてるのか、わくわくしちまってんだよ。
麻宮サキに付き合ってたら、退屈しない高校生活を送れそうだ……ってね」

「でも、これは普通の市民が知ることの無い事件。
何か起きてもあなたの命までは守れません
それでもいいんですか?」
「いいよ、自分の身は自分で守る。
そのためにガキの頃から”技”を仕込まれてんだ。
私の名前は小川麻琴って言うんだ。通り名はビー玉のマコ、よろしくな」

そう言って、麻琴は手を差し出した。

「麻宮サキです。よろしくお願いします」

二人は固い握手を交わした。


続く