【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜】

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116:【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜第二話】
宇神谷町の工場街。
しかし昨今の不況で工場は次々と倒産し、その跡地にはマンションがどんどん建てられている。
そんな一つ。
誰もいない廃工場。
20人位の男と真ん中に里沙が猿轡をされ、両腕を後手にぐるぐる巻きにされ、転がされている。

「麻琴の携帯の番号はわかったのか!」

男の一人が叫んだ。
十数人いる男たちの中でもひときわ身体が大きい。
金と茶のまだらになったドレッドに、鼻や耳や口にいくつものピアス。
どうやらこの男が、リーダーのようだ。

「今調べてるんで、もうちょっと待ってください」

男の一人が言う。

「バカ野郎、間違えて別の女連れてきやがって
しかも、こんなガキ犯す気も起きねえ」

「うー、うー、うー!!!」

里沙は猿轡の下で叫びまくっている。
足をバタつかせて暴れる。

「静かにしろ!」

リーダーが里沙の腹を蹴った。

「うぐっ……」

変な声を出すと里沙はおとなしくなった。
「くそっ!むかつく
早くしないか!!」

リーダーはイライラしながら歩き回る。

その時、工場の倉庫の奥の方から音が聞こえてきた。
シューン、ガチッ……シューン、ガチッ
金属と金属がぶつかり合うような音。

音のする方にはセーラー服姿の少女が一人立っている。

その手に握られているヨーヨー。

シューン、ガチッ……シューン、ガチッ

戻ってきたヨーヨーは、グローブの掌の金属板にぶつかって重い音を立てる。
彼女は男たちのいる真っ只中に1歩1歩近づいて来た。

「おいおい、何しにやって来たんだ」

男の一人が近づこうとした時、彼女の手元のヨーヨーがうなりを上げた。

「グエッ!」

重合金製のヨーヨーは一撃で男を倒す。
ざわめき出す男たち。

「だ、誰だ!お前は」

彼女は男達を睨みつけた。
「天王洲高校1年B組麻宮サキ。
またの名を7代目”スケバン刑事”
なんの因果か母娘そろってマッポの手先。
だがな、母親より名前と共に受け継いだ熱い血と、代紋入りのこのヨーヨーが
てめーらみたいな悪党を許せないんだよ」

サキは右足を前に出して、腰を軽く落とした。
左手を引き、正拳突きで右拳を前に出す。

「エイヤッ!」

拳と共にヨーヨーを男達に向ける。
仕掛けてある小さなスイッチを押すと、ヨーヨーの片面が開いた。
そこに現れたのは「桜の代紋」
サキはすぐに蓋を閉じ、ヨーヨーを握った。

「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」

「お前のようなガキが一人で、これだけの人数相手に何やろうってんだ」

リーダーが叫んだ。

「やっちまえっ!」

襲いかかる男達。
サキはヨーヨーを握り締めた。
重合金製のヨーヨーはかなりの重さがある。
特製グローブの突起とヨーヨーの重さがプラスされ、サキの拳の破壊力は格段にアップする。
「あなたには”具錬功”は向いていないようね……」

溜息をつくように、風間唯は言った。
「スケバン刑事」になるための特訓をした風間教官が、彼女に下した結論だった。
”具錬功”とは風魔でいう「道具を使った闘い方」の奥義である。
忍者は刀や手裏剣は元より、棒術や槍術、小刀やくない、手甲鉤といったポピュラーな物は当然。
更には釘や金具、小枝や石といった身近な物に至るまで、あらゆる物を己が武器とする能力を求められる。
風間教官の二人の姉が鋼鉄製の折り鶴やリリアンの編み棒を使う技術も、彼女達が極めた”具錬功”の奥義の一つなのだ。

元々空手の選手でもあった”紺野あさ美”には、どうもこの”具錬功”が性に合わなかった。
「あくまでも拳で闘いたい」そう願う彼女の為に、風間教官は早々に”具錬功”に見切りをつけ、「武器を使わない闘い方の奥義」”無手錬功”に切り替えた。
”無手”とは本来「剣の奥義を極めた達人」にのみ達せられる境地。
しかし、風魔では「格闘術」としての”無手”が早くから発達していた。
「素手でも相手を倒す」というのは忍者の必須技術の一つと考えたからだ。
格段に高い格闘センスを持つ彼女は、この奥義を乾いたスポンジのごとく吸収した。
「格闘戦」に限って言えば、風間唯でも彼女には敵わなくなるほどであった。

「これからはこれで闘いなさい」

訓練の最終日、晴れて”麻宮サキ”となった彼女に、風間教官は特注で作らせたグローブを手渡した。
重合金製のヨーヨーのウエイトが、その拳の破壊力を増すようにと工夫されたグローブだった。

不用意にサキの前に飛び出した不幸な男たちは、その拳の前に次々に倒されていった。
そして暗闇から放たれるビー玉。

「うわっ!」

「私もいる事を忘れてもらっちゃ困るね」

そう言いながら現れたのは、小川麻琴。
同時に放たれるビー玉は、次々に男たちにヒットする。
サキは男たちを避け、既に里沙の所に来ている。
麻琴の援護している間にすばやく縄と猿轡を解いた。

「さあ、里沙さん逃げて!!」

「嫌です、私もサキさんといっしょに闘います!」

そう言って里沙はスカーフを解いた。
生地の中に細い鎖が織りこまれた特殊スカーフ。

「サキさん、肩を借ります!!」

里沙はそう叫ぶと跳躍した。
右足一本のジャンプでサキの背の高さまで飛び上がると、左足でサキの肩を踏み台にして更に高く飛翔する。

「軽功跳飛」

片足一本で生卵の上に立てるくらいのバランス感覚。身体の重心を完全にコントロールする事で可能となる技「軽功」
「軽功跳飛」とは、この技を極める事で弱い力でも高く飛べる跳躍術。
「忍者」が高い壁を飛び越えたりするために、鍛えられた技。
里沙が風間三姉妹の長姉、結花から伝授された数々の奥義の一つだ。

里沙の身体が地上に舞い下りた時、4人の男がスカーフの鞭の餌食になっていた。
サキの拳が次々と決まる。
麻琴のビー玉が2人の援護射撃をする。

20人近くいた男達はあっという間に一人になった。

「お、お前らいったい……」

残ったのはリーダーのみ。
「マコさん、こいつはどうしますか?」

サキが訊いた。

「私にやらせてくれ」

麻琴は男にケリを入れた。男はその足をつかむ。
間髪をいれずに麻琴は片足を掴まれたまま、もう片方の足で男の頭を蹴った。
思わず掴んでいる手を離す。
さっと起き上がり、ビー玉を構える。

「待ってくれ、お前達には敵わない。悪かった許してくれ」

男は両手を上げた。
だが、麻琴はそれを無視してみぞおちにキックを食らわせた。

「グエッ」

唸り声を上げて、男は倒れた。

「いいか、もう2度とこんなことすんじゃねえぞ。
これからこの3人がお前らのようなグループを全部潰して、関東一円をシメる。
ここにいる麻宮サキがその大ボスになるんだ。よーく覚えておきな、」

「ちょ、ちょっとマコさん何言い出すんですか!やめて下さい」

「いいのいいの、こういう奴らにはこれくらい言っとかなきゃ
それにさ、”スケバン刑事”って言うくらいなんだから、本当に”スケバン”にならなきゃ」

「んもお……」

サキは頭を抱えた。
新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第ニ話
「さらわれた里沙」

終わり

次回予告

「神狼会」が裏で糸を引く英会話教室に潜入したサキ。
そこでサキはついに「神狼会」のボス高橋に遭遇する。
とっさの判断で高橋の洗脳から逃れたサキだったが、そんなサキに最大の敵”ナンバー5”が襲いかかる。
そして五代陽子はその”ナンバー5”の顔を見て驚くのだった……
果たして”ナンバー5”の正体とは?

次回 新スケバン刑事〜少女武闘伝〜
第三話「最大の敵・”ナンバー5”登場!!」

乞うご期待

「この拳の餌食になりたい奴、前に出な!!」

というキャスティングでドラマ化きぼ〜ん