【新スケバン刑事〜少女武闘伝〜】

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「なあ、サキ、里沙、今日授業終わったらどっか行かないか?」

午後の休み時間、サキと里沙の元にやって来た麻琴が訊いた。

「?」

サキはしばらく考えた後、答えた。

「私、渋谷とか原宿に行ってみたい」

「あ、渋谷はちょっと事情があってダメなんだ、原宿ならなんとかいいけど
連れてってやろうか?」

「うん、どこでもいい」

サキはその時初めて、普通の高校生らしい笑顔を見せた。

授業が終わると、3人は教室を飛び出し原宿駅に向かった。
駅を降りて竹下口から竹下通りに向かう。
学校帰りの時間帯ということもあって、通りには彼女たちのような制服姿の学生も多い。

「なんか食べませんか?」

いろんな店から流れてくる食べ物の匂い。
里沙はお腹を押さえながら言った。

「そうだな、サキ何がいい?」

「わたし、こういうとこ初めてだから……何でもいいです」
3人はアイスクリームやクレープ屋の前で食べたり飲んだりしながら歩いた。
ウィンドーショッピングをしたり、アクセサリーショップで足を止めたり。
ふざけ合う麻琴と里沙を見ながら、サキは目を細める。
ぶらぶら歩きながら、3人が明治通りに出た時だった。

「お、お前!、ビー玉のマコじゃねえか!」

そこにチーマー風の若い男が5人、3人の前に立っていた。

「あちゃー」

その男たちの顔を見て、麻琴は頭を抱えた。

「マコ。この前はひどい目に合わせてくれたな!」

「この人たちは誰?」

サキが訊いた。

「この前、大喧嘩した渋谷の連中……こっちまでは来ないと思ったのに」

麻琴はすまなそうに言う。

「ちょっと来い!」

男は麻琴の手を掴んだ。

「離せよこのタコ!、お前たちまたやられたいのか?」

麻琴はその手を振り払い、キッと睨みつける。
「なんだと!」

「お前達みたいなタコが10人束になっても無駄だよ。
またやられたいのなら相手になってやるぜ
でも今日は見逃してやるから、さっさとどっかに行きな!!」

「……」

男たちは黙っている。

「さあ、ここでまたやられるのか、どこかに行くか、どっちか選ぶんだな」

麻琴は強気に言う。

「じゃあ、行くよ」

麻琴はサキと里沙の手を引っ張って歩き出した。

「3ヶ月ほど前にね、原宿で同じ中学の友達があいつらに絡まれててね
助けようとしたら、仲間が現れて結局10人くらいを相手にケンカしたのよ
でも、そいつら私一人で倒しちゃったんだけど
男が10何人と中学生の女の子一人だったんで結構騒がれちゃってね
だから、私は渋谷はもう歩けないのよ」

「へー、マコさんすごいんですね」

しばらく歩いていると、一台の車が近づいてきた。
丁度、里沙が麻琴と立ち位置が入れ替わった時だった。
車のドアが開き、男の手が里沙の腕をつかんだ。

「あ!」
突然の事で驚いた里沙は、そのままバランスを崩す形で車の中に倒れこんだ。
男たちは里沙の身体を後部座席の中に引きずり込むと、急いでドアを閉めた。

「里沙!!」

麻琴は車の後を追って走り出した。
サキはとっさに車のナンバーを記憶する。
携帯を取り出し、すぐに五代に連絡した。

「車のナンバーは××××、車種は×××、白のセダン、そうです……」

麻琴は数十メートルほど走ったが、さすがに車のスピードには敵わず、里沙の乗った車を見失ってしまった。

「ダメだ見失っちゃったよ」

肩で息をしながら麻琴は戻ってきた。

「大丈夫、ナンバーで手配かけたから、持ち主はすぐわかるわ」

サキがそう言ったと同時に携帯が鳴った。
五代からだった。

「サキ、車の持ち主がわかったわ。
杉村のぼる……住所は渋谷区宇神谷町の工場街ね」

「ありがとう、五代さん」

サキは礼を言った。

「マコさん、杉村って知ってる?」
「ああ、連中のリーダーだった男がたしかそんな名前だった」

麻琴は答えた。

「間違い無いわ。里沙さんは恐らくそこね、行きましょう」

サキは腕にはめているリストバンドをはずした。
一見テニスとかで使う普通のリストバンドだが、テーブルに置いた時、ゴトリと音がした。
セーラー服の下にはベストのような肌着を着ている。サキはその肩と脇の下にあるマジックテープをはがした。
その肌着はゴトリ、とまた音がして床に落ちた。
靴と靴下を脱ぐ。靴下の下にも腕と同じようなリストバンドを付けている。
スカートの下、太腿の辺りにも大きなサポーター状のものを巻いている。
麻琴はその一つを持ってみた。

「お、重い」

服の下にまいたベルト、脱いだ靴も普通の物ではない。
両腕、上半身、腰、両腿、両足
見かけではわからないように作られているが、それぞれが1キロ近い重さがある。
サキは普通のセーラー服の下、見えない部分にこれだけのウエイトを仕込んでいたのだ。
全部数えるとその重さは10キロ近くにもなった。

「サキ、あんたいつもこんな物付けてたの?」

サキはにっこり微笑むと、鞄からカンフーシューズを出して履き替えた。
二、三度軽くジャンプする。
手首や足首も軽くほぐす。
そして、両手に黒い皮の手袋。
拳の部分にはメリケンサック状の金属の突起。掌にも金属の板が貼り付けてある。

サキはポケットからヨーヨーを取り出し、右手に握り締めた。
メガネをはずすと、弱々しいイジメられっ子の顔が「戦士」の顔つきに変わる。
戦闘準備は完了した。

「行きましょう、マコさん」

そんなサキの顔を見て、麻琴は鳥肌が立つほどゾクゾクしている自分を感じていた。
ケンカや揉め事が大好きな姉御肌の母親、元ビー玉のお京が若い頃「麻宮サキ」に心酔していたという話が、麻琴に理解できたような気がした。

「ああ、行こう」

そう答える麻琴も「戦士」の顔つきに変わっていた……

続く