「ただいまー」
「おう、長いトイレやったなミキティー」
亜弥が笑い涙を拭きながら、美貴に顔を向ける。
「はあ、途中でスタッフに会って話を聞いてきたんですよ。何でも臨時ニュースが入って、出番が少し遅れるって」
「へぇー、良かったな後藤さん。涙を拭く時間があるみたいやで」
真希の白く透き通るような尻肉をぺしぺしと叩きながら告げる亜弥。
真希は、頭をうなだれたまま、姿勢を崩すまいと懸命に耐えるのみであった。
「おい! あややさんが声かけてくれてんだぞ! 返事しろよこのゴマキが!」
そんな真希に怒鳴りつけながら美貴がつかつかと歩み寄り、横腹に軽い――上に座る亜弥に支障がない程度の――蹴りをくれる。
うっ、とくぐもった悲鳴を上げ真希は顔をしかめた。さらさらの髪が、揺れて頬をなでる。
しかし真希は返事もせず、頑なに美貴の方を見ようとはしない。
「おい? まだ懲りないのか? 返事は?」
自分を無視する真希の態度に、握りこぶしを作って今にも殴りかかりそうになる美貴。
「おいおい、それぐらいにしといてやれやミキティー。後藤さんにはさっきも
ワシがたっぷりと言い聞かせておいたし、この後の本番で、
また衣装の下ノーパンノーブラで頑張ってもらう予定やからのう。ククク……」
「ま、まあ、あややさんがそう仰るならやめますけど……」
そうは言いながらもまだ腹の虫が治まらない様子の美貴。
「でもコイツ、ムカつくんスよねー。こんなになっても、あややさんのことはまだしも、アタシに対してはまだ自分の方が上だと思ってるような態度が見え隠れして」
「そぉんなことはないよな後藤さん?
後藤さんはワシらに忠誠を誓ったかわいい奴隷やもんな」
亜弥は子供と戯れるような御茶らけた様子で、真希に語りかける。
「ならいいんですけどねー。アタシはまだ、こいつがいらぬプライド持ってる気がするんスよ。
もうお前は負け犬なんだから、そんなの捨てろって何度も言ってんのに……。
売上げも人気もアタシに負けてることを、ちゃんと自覚してんのかしら、裸のお姫様?」
腕組みしながら美貴は、真希の前方に回り込む。そこで靴を脱ぐと、
「ホラ、服従の証として、アタシのおみ足を舐めるんだよ」
真希の顔の前に、裸足を突き出した。
「…………」
だが真希は、口を固く引き結んだまま顔をつんと横に背けて、完全拒否の意を示す。
亜弥の威を借りて成り上がったような言わば腰巾着の美貴に対してだけは、
どうしても屈服などしたくないという、真希の最後の意地のようであった。
「…舐めるのよ……」
冷静な言葉とは裏腹に、今にも切れそうなほど血管を額に浮かべる美貴。
突き出した足でそのまま真希の顎を下から持ち上げると、強引に自分の側に向き直させた。
「…くっ………」
美貴の足で顔をあしらわれたことが、よほど屈辱なのだろう。
真希は血の出るくらいきつく噛み締めた唇を震わせ、しっかりと目を閉じている。
目尻には、今にも流れ出しそうな涙が溜まってるのが見て取れた。