「後藤さん、ミキティーもワシと同じ御主人様や。礼儀をわきまえんといかんで」
メディアの前での彼女からは信じられないくらい低い、地獄の底からとも思える声。
その声にハッとした真希は少しだけ首を振ると、悲しそうにうつむき、幾度か目を瞬かせた。
亜弥には逆らえぬ。逆らえばより酷い仕打ちと惨めな境遇が待っている。
幾度もの経験でそれに気付いている真希の神経が、亜弥に従おうとする堕ちた自分の精神を嫌でも再認識させ、
いっぱいの涙が、涙腺に溢れ出てくる。
「ミキティーの言葉はワシの言葉と同じや。無下にしたらあかんで? わかるな?」
「は……はい……」
心から悔しそうに、ぽつりと答える真希。
亜弥の恐ろしさと業界裏にまで達する影響力を嫌というほど思い知らされてきた真希。
逆らうことこそできないが、自分の返事が意味するところを理解したようにがっくりとうなだれる。
垂れた栗色の髪の下で小さな肩が小刻みに振るえていた。
そんな彼女の苦悩などお構い無しに、亜弥に目配せを貰った美貴は、
一歩進み出ると強引に足先を真希の両腕の間から胸の下に滑り込ませた。
「おーい、本当にわかったのぉ? 後藤センパイ?」
言うが早いか、真希の剥き出しに実った白く柔らかな乳房の頂点に聳える淡桃色の乳首を、
足の指先で挟んできつくつねり上げる。
「い、痛いっ!」
「わかったのか、わかってないのか、はっきりこの美貴様にお言い!」
「わ…、わかりましたっ!!!」
痛みと屈辱に耐えかね、真希は叫ぶように言い捨てる。
「フン! やっと素直になったようだねぇ。さっきからカマトトぶってた割には
乳首までこぉんなに固くして、本当は気持ち良くしてもらって嬉しいんだろ」
「だっ…誰が!――ああっ!くうっ!!」
真希の口を封じるように、美貴は足の指で摘んだ幼い乳頭を、縦横に引っ張って弄ぶ。
「気持ち、いいんだろ?」
減らず口は聞かなかったことにしてやるとでも言うように、美貴がギロリと睨んで再度問う。
真希は、一度蒼白になるほど強く唇を噛み締めると、わなわなと床に爪を立てながら、
「……はい…………」
喉の奥から搾り出すように答えた。
「キャハハハハ! やっぱりそうなのね。全く思った通りの淫乱マゾなんだから、後藤センパイは」
溜飲が下がったのか、ようやく足を降ろすと、腹を抱えて笑い上げる美貴。
そんな中、まだまだ生ぬるいと言わんばかりに真希の背中の上から、
「だめやろ後藤さん。仮にも芸能人なんやから礼儀をわきまえな。気持ち良うしてもらったなら、
『気持ち良くしてくれてありがとうございました』って、ちゃあんとお礼を言わなな」
亜弥のダメ押しが響く。それに美貴も便乗して、無条件降伏に賠償金まで加えるような要求を、
真希に突きつけるのだった。
「そうそう、あややさん言う通り。そしたら後藤センパイ、
ご褒美に、アタシのおみ足を舐める権利をもう一度与えてあげるわ」
「…………!」
美貴の足を舐めるという唾棄すべき行為。頼まれても拒否こそすれ決して受け入れられぬ
その行為を、あまつさえ自分が破廉恥な行為をしてもらった礼を述べ、
むしろその褒美として受け取らねばならぬとは。
あまりに酷く屈辱的な提案に、思わず哀願の目を上げる真希。
その視線の先には、彼女をひたすら冷たい目で見返す美貴がいた。
はっと我に返る真希。そう、遂に自分は美貴にまで哀訴を願う眼差しを向けてしまった。
その時、真希は、悟った。とうとう自分は、この女にも負けてしまったのだ。
理不尽に火照らされた身体の中を一陣の冷たい風が吹き抜ける。
自身の心の何かを切り捨て、また何かに押し流されるように、唇が開いた。
「気持ち……良く…してくれて――ううっ…あ、ありがとう、ございましたぁっ……」
心地よい音楽でも聴くようにそれを受け、美貴は改めて腕を組みなおす。
そして、わざわざ自分の裸足の爪先を床に一端擦りつけてから、真希の眼前に持ち上げ直した。
「じゃあホラ、舐めさせてやるよ」
その先を呆然と見つめる真希。美貴の足指からは、すえた床の汚れと汗の臭いが混ざり合った、
何とも言えない異臭がツンと漂ってくる。
しばらく、捨てられた子犬のように哀しそうな目をしてそれを眺めていた真希だが、
遂に決心したのか、自分に何か言い聞かせるように哀しくひとつ微笑すると、
観念したように両目を閉じる。
そして、今まで数々の可憐な歌声を紡ぎ出してきた小さな口をゆっくりと開き始めたのだった。
美貴がニヤリと勝利の笑みを浮かべた。その視線の先、真希の開いた咥内では、
かわいらしくも色っぽい舌先が、この後訪れる屈辱をやはり諦め切れぬように、
弱々しく震えている。
笑いあう亜弥と美貴。しかしその声はもう真希の耳には聞こえていなかった。
数瞬後、真希の薔薇色の唇と舌が、美貴の汚れた足先に触れた。
乳房をつねられても、屈辱の宣言をさせられても最後まで堪えていた涙の堰が遂に決壊し、
二度と戻らぬ流れとなって頬を伝った。
真希の中で、最後のプライドも崩れた瞬間だった。