唇を重ねた。
修学旅行の夜、あの河原で交わしたファーストキスとは違う。
トメコの唇に自分のそれをねじ込む様に、何度も何度も強く強く。
放してしまったらこのままトメコが何処かへ行ってしまいそうな気がして。
(嫌だ!嫌だ!離れたくない!ずっと…ずっとこのまま…)
力任せに僕はトメコをそのままベットに押し倒した。
その衝撃で、仰向けになったトメコの瞳が視界に入る。
拒絶するでも非難するでもない瞳が、じっと僕を見つめていた。
その目が、何だかとても悪いことをしている様な気に僕をさせて動けなくなった。
ピロロロロロロロ…
携帯の着信音が、僕を現実に戻す。
「はい、はい…わかりました」
「マネージャーから。ごめんね、仕事に戻らなくちゃ」
電話にでたトメコは、着信を切ると少し俯きながら答えた。
その一言でほんの数分間のランデブーが終わってく。
下に待たせていた高級タクシーに乗り込むトメコ。
携帯番号をメモに残し、僕の手のひらに乗せた。
「また連絡してね」
「うん」
「受験がんばって」
「トメコもがんばれ」
ニコッと微笑んで、トメコはまた僕の前から去っていった。
僕はトメコを乗せた車が見えなくなるまで手を振り続けた。
その日の夜の歌番組に「まりあ」が出演していた。
後藤真希、松浦亜弥と並んでキラキラ輝くステージに立つトメコ。
大勢のファンの歓声に応えるトメコ。
もう僕なんかとは違う世界へ行ってしまったんだと、改めてそう思った。
そしてそれを望んだのは…そうさせたのは…他の誰でもない、この僕だ。
(受け入れろ。トメコはもうトメコの道を…僕は僕の道を行くんだ…)
唇の感触と手のひらに残る感触を、ギュと噛み締める。
テレビを消し、携帯のメモを机の引き出しにしまい、教科書を開いた。