黒髪石川について

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323辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU
目のやり場がない。
すぐ左に藤本さん。すぐ右に圭織。向かい側に矢口さんと安倍さん。
そして、一番離れた所にトメコ。みんな裸だ。
僕はずっと視線を真下に向けていた。にごり湯なのがせめてもの救い。
しかしこのまま何事もなくという僕の願いは、すぐに崩れ落ちることとなる。

「あんた昔から小さかったからねぇ。ちょっとは大きくなったぁ?」

前置きもなくいきなり、圭織が僕の腕に腕を絡めてきた。
何を言い出すんだと僕は動揺しまくり、腕を振り払う。
圭織が水に濡れた長い髪を掻き揚げる。
ただの幼馴染だと思っていたのに、その仕草が色っぽ過ぎて僕は焦った。

「なになに、何の話ぃ〜」

案の定、こういう話題に矢口さんが喰い付いて来た。
嬉しそうにお湯をバシャバシャ掻き分けて、近づいてくる。
(そんなに激しく動いたら、胸が見えてしまう)
324辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/06/17 16:30 ID:OlEH5nay
「ほらぁいいじゃん、見せてみなさいよ」
「馬鹿!誰が…」
「じゃあさ触りっこしよ、おいらのもいいよ」
「や、そん…」

言葉に詰まる。圭織と矢口さんに絡まれ、僕は危機に陥った。
そのとき奥の方からトメコが冷たい視線を投げかけていることに気付く。
(なんで、なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ…)
僕は背を岩にくっ付けたまま、とことん後悔を重ねた。
すると、僕と二人の間に一つの影が割り込む。

「嫌がってるだろ、やめろよ」

藤本さんだった。藤本さんは僕の胸に肩を当てる形で割り込んできた。
僕の腕が藤本さんの背中から腰までに触れる。文字通り、肌と肌が触れ合う距離。
(言動と行為が反対なんですけど)
僕は岩を背にしていた為、さらに逃げ場を失う形となった。
少しでも身動きすると、僕と藤本さんの肌がこすれ合う。
(誰か…助けてくれ…)
325辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/06/17 16:31 ID:OlEH5nay
藤本さんのこの行為に、当然矢口さんが牙を剥いた。

「何よおいらの邪魔して!自分もどけよ!」
「ちっちゃい貴方より、セクシーな私の方を選ぶって」

藤本さんが頭をちょこんと僕の肩に乗せる。
もう僕は身動きができなかった。トメコの方を見ることもできない。
(違う…違うんだぁ…トメコ)
だがこの発言に矢口さん、それに圭織までがエスカレートしてゆく。

「セクシー隊長ヤグッチに喧嘩売ってんのかぁ!」
「あら、セクシーなら圭織も負けないわよ」

僕の目の前で二人がセクシーポーズを披露し出す。
ずっと傍で見物していた安倍さんもピョコピョコ近づいてきた。

「なっちは〜?なっちは〜?」
「お子ちゃまは引っ込んでろ!」

三人に一喝された童顔安倍さんはへこんで戻っていった。
326辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/06/17 16:31 ID:OlEH5nay
「誰が一番セクシーか、お前が決めろ」

僕の耳元で藤本さんが囁く。そのはずみで彼女の胸が僕の腕に触れた。
柔らかい。あまりに柔らかいので僕はもうおかしくなりそうだ。
とっくに限界は超えている。こんなのありえない。

「ま、どう見ても私でしょ」
「ねぇー、おいらの魅力がわかんないのぉ?」

圭織が自慢の曲線美をお湯の中から伸ばす。ふとももが眩し過ぎだ。
矢口さんが僕の手に自分の手を絡め出す。手つきと表情が妙にエロい。
藤本さんはまだ頭を僕の肩に乗せたまま肌をくっつけている。
(なんなんだこの世界は?一体どうして僕はこんな所にいるんだ?)
頭がグルグル渦巻いている。なんかもうどうでもよくなってきた。

「一番セクシーなのは…」
327辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/06/17 16:49 ID:OlEH5nay
僕は口を開いた。皆どんな答えが来るか緊張した顔で見ている。
知るか、もうどうにでもなれ!

「僕だぁ!!」

僕は三人の目の前で勢い良く立ち上がって温泉から逃げ出した。
他に方法が思いつかなかったんだ。
岩に隠れた僕は急いで服を着た。
しばらくして、みんなも温泉から出る音が聞こえてきた。
みんなの着替えが終わった頃合を見て、僕は岩陰から顔を出した。
すると藤本さんと矢口さんと圭織が僕の方へやってきた。
何を言われるかと、僕は顔をすくめる。
背中をと肩をポンと叩かれ、こう言われた。

「確かに、お前だ」
328辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :03/06/17 16:49 ID:OlEH5nay
さて、温泉から出た僕達は気を取り直して山を進む。
もう辺りは真っ暗になっていた。月明かりだけが頼りである。
温泉を出て30分程過ぎた頃であろうか、ようやく僕達は待ち焦がれた声を聞く。
「おーい」と、山々に呼玉する声。
いつまでも戻らない僕達を捜すため、先生が呼んだ救助隊の声だ。
僕達は互いに顔を見合わせ微笑んだ。そして疲れも忘れ、一目散に声の方へと駆け出した。
助かった。そう思った。これが思わぬ油断を生んだ。
辺りは暗く、すぐそばに崖があることなんて気付きもしなかった。
まず先頭にいた僕が足を滑らせた。だけど手近な草を掴み辛うじて落下を免れる。
それを見て気付いた周りの子達も間一髪で止まることができた。
唯一人、少し離れて走っていた彼女を除いて。

「きゃーーー!!」

甲高い悲鳴。トメコの悲鳴。転げ落ちる音。
必死で草や木の枝に捕まろうとしているが、落下は止まらない。
そのままトメコは、約5m程下にある激流に身を落とした。
頭が考えるよりも先に、僕は掴んでいた草を放し激流に飛び込んだ。

「トメコォ!!」