幕間@「手紙」
(さよなら…)
君の告げたあの言葉が頭から離れない。
どうして…どうして…いなくなってしまったの?
私はただの一度だって、君を邪魔に思ったことなんてないよ。
ううん、私がどれだけ君に救われてきたか…知らないでしょ。
だからお願いだよぉ、そんなこと言わないで。行かないで。
お願い…。
祈るような気持ちで、私は手紙を開きました。
君が残した最後の手紙を。
『 トメコへ
もしトメコがそれでも僕を必要としてくれるなら
僕は三日だけ待つ 想い出のあの場所で 』
こんばんは、作者の辻っ子のお豆さんです。
三話終了後にして初めてコメントを書きます。
まずいつも応援して下さる読者の方、本当にありがとうございます。
まだまだ続きますので、どうかよろしくお願いします。
某スレにて短編と述べましたが、どうも無理そうです。中編小説に訂正します。
三話と四話の間に幕間を一つ設けましたが、現時点ではあまり気にしなくて結構です。
それでは、ハロモニで頑固一家の再登場を願いつつ、続きをお楽しみ下さい。
第四話「修学旅行 前編」
僕は三年生になった。
うちの学校は二年生から三年生に掛けてクラス変えがない。
だから可愛い子の多いうちのクラスの男子達は皆喜んでいた。
でも僕だけは、またトメコと同じクラスになれたことを喜んだ。
クリスマスイブの日以来、僕とトメコの仲はさらに親密になった。
教室で誰の目も気にすることなくおしゃべりし、家に遊びに行く回数も増えた。
他のクラスメイトも少しずつトメコとしゃべってくれる様になってきた。
トメコの顔にも段々と笑顔が増えている。
僕はそれが何より嬉しかった。
そうそう、矢口さん家のパーティーの件だが、僕が欠席しトメコが出席したから、
誰にも僕がトメコに会う為欠席したと疑われることはなかった。
頼んだ相手が圭織だったことも大きかったと思う。
委員長の圭織はみんなに信頼されており人望もある。
その代わり、お礼のケーキのせいで僕の財布はしばらくピンチが続いたが。
三年生になったので進路の話も少しずつ増えてきた。
僕は地元の高校に進むつもりでいた。
だけどトメコはその類の話になると曖昧に言葉を濁す。
やっぱりトメコは進学しないのだろうか…?
気になってはいたが、なんとなく僕は突っ込んで聞くことができなかった。
「もうすぐ修学旅行だねっ」
そう言ってトメコは微笑む。
そんな笑顔を見せ付けられると、悩むことさえバカバカしく思えてくる。
気のせいだろうか、最近以前に増してトメコが綺麗になっている気がする。
トメコと修学旅行…本当に楽しみだ。でも…。
「修学旅行に行くこと、一徹は許してくれたの?」
「…ん」
トメコの家は貧乏だ。夜遅くまで仕事の父とまだ小さい双子の妹。
だから家事のほとんどはトメコが一手に引き受けている。
そんな家庭の事情もあり、トメコが三泊もする修学旅行に行けるかは微妙だった。
「僕も一緒にお願いしようか」
「ううん、いいよ。いくらお父さんでもきっと許してくれるから」
家庭の問題だし、トメコにそう言われては僕もそれ以上口は出せない。
一緒に行けることを強く願うのみだ。
「オラー!席つけぇ!ホームルームすんぞぉ!!」
関西訛りが混じった派手な姉御が、突如教室に乱入してきた。
実はこの金髪の派手なお方こそ、3年になってからの新しい担任中澤先生である。
少々柄は悪いが、気風が良く生徒と友達のように向き合ってくれる人気も高い先生だ。
ただ「三十路」と「結婚」の話題を出すとすぐキレルことがたまに傷だが。
「全員そろっとるなぁ!今日はお待ちかね修学旅行の話だぁ」
教室から歓声が沸き起こる。みんな待ちに待っているんだ。
さっそくクラスのムードメーカー矢口さんが、中澤先生にちょっかいをかける。
「裕ちゃんの結婚もお待ちかねなんですけど〜」
「うっさい矢口!しばくでほんま」
クラス中に笑い声が響く。中澤先生の怒りが収まるまでホームルームは中断された。
矢口さんは頭に思いっきりゲンコツをくらっていた。
ようやく気を取り直した中澤先生が、本当におおざっぱに説明を始めた。
集合日時、スケジュール、持ち物、注意事項、etc…
そして最後にグループ分けについて説明する。
「適当に三人一組のグループ作っとけぇ!特別に男女関係なしや。良かったなぁ矢口」
「ちょっとぉ!なんでおいらだけに言うんすか!」
また笑い声が沸き起こった。中澤先生の仕返しだ。
ホームルーム終了後、僕はすぐにトメコの席へ駆け寄った。
「あと一人誰にしよっか?」
「え?私と組んでくれるの?だって…」
「当たり前じゃん。それより問題は三人目なんだよなぁ」
僕は辺りを見渡した。男友達連中はそれぞれ男友達でグループを作っている。
さすがに男女でグループを作っている所はあまりない。
女子で特別仲が良いのはトメコ以外には圭織しかいないので、なんとなく圭織を捜した。
ところが圭織は意外な人たちとグループを組んでいた。
「なんかさー、あの二人と組んでって皆に頼まれちゃってね」
圭織はそう言った。あの二人とは矢口さんと安倍さんのことである。
僕は何となく他の女子達がそう頼む理由を分かる気がした。
アイドル並のルックスを誇るあのコンビと組んだら、他の子では明らかに見劣りする。
負けないのは圭織か藤本さんくらいのものだ。
藤本さんは矢口さんと犬猿の仲だから、適任は圭織しかいないという訳だ。
「さて、どうしよう?」
しかしこれで当てがなくなり、僕は少し困った。
でもクラスはちょうど3で割れ、絶対誰か一人は余るはずなのでそれを待つことにした。
そしてグループがどんどんできていくにつれ、その一人がなんとなく見えてきた。
やっぱりあの人だ。僕はその人に声を掛けることにした。
彼女とはイブの前日に偶然街で会って話したきりである。
その後冬休み明けに声を掛けたのだが、やはり相手にはしてもらえなかった。
でも今回は状況が状況だし、さすがに無視されることはないだろう。
僕は意を決して、その子の名前を呼んだ。
「藤本さん」
更新乙
サクッと終わるのかと思ってたけど、
これから話が展開していくようで楽しみになった
おもしろい
続きが楽しみです
乙です。
かなり期待してますのでがんばってください。
「まだかなー」
修学旅行当日、目的地は京都・大阪・奈良方面。
集合時間は過ぎている。もう学年のほとんどがいて列に並んでいる。
だけどトメコの姿がまだ見えなかった。
電車の時間は迫っている。僕は中澤先生に聞いてみた。
「ああ、石川なら父親から連絡あって、諸事情により欠席やて。ほんと残念やわぁ」
脳天から爪先に向けて太い槍を突き刺された様な衝撃だった。
(もうすぐ修学旅行だねっ)
この旅行をあんなに楽しみにしていたトメコの笑顔が脳裏に浮かぶ。
(ううん、いいよ。いくらお父さんでもきっと許してくれるから)
無理にでも一緒に頼み込めばよかったという後悔の念が頭を支配する。
同時に、修学旅行すら行かせない一徹への怒りが込み上げてきた。
トメコが修学旅行に来れない。
ワクワクとドキドキが何処かへ消えうせてしまった。そんな出発になってしまった。
列車の中、友達の会話に空返事を返す。
大阪に着いた。たこ焼きを食べた。おいしかった。
ユニバーサルなんとかっていう遊園地に来た。
たくさん乗り物に乗った。クラスの友達はみんなはしゃいでいる。
僕も楽しいはずだ。きっと僕は今楽しんでいるはずだ。
なのにどうしてだろう、胸がこんなに苦しいのは?
僕らがこうして遊んでいる今、トメコは何をしているのだろう?
近くの安いスーパーで買い物をしているのか。
一家全員の洗濯物をコインランドリーへ運んでいるところか。
のんとあいぼんが溢した床の染みを拭いているところか。
トメコのいない修学旅行。
まさかこんなにせつないものだとは…。
夕暮れ過ぎ、一行を乗せたバスは初日の宿に到着した。
ここでそれぞれの部屋に分かれるのだが、僕らのクラスだけ何故か呼び出された。
中澤先生がニヤニヤとやらしい笑みを浮かべ待っていた。何か企んでいる顔だ。
だが僕はどうにでもなれという少し自棄な気持ちになっていた。
「部屋割りまだ言うてなかったなぁ。こないだ決めた三人一組で分けるからなー」
生徒から驚きと罵倒が飛び交う。僕も眼が覚めた。当たり前だ。だって…。
「裕ちゃん、男女関係なしってゆったじゃんか!」
「おお言うたで。そっちのがおもしろいやろ。なんや矢口は女三人か…つまらん」
数は少ないが、うっかり男女三人で組んだチームは大騒ぎだ。
いや一番問題あるのは僕だ。だってトメコが来ていないから…。
藤本さんが心なしか冷やかな視線で僕を睨んだ。
そう、トメコが来ていないから、僕は藤本さんと二人きりの部屋だ!気まず過ぎる。
僕は大慌てで中澤先生にくってかかった。しかし全く聞き入れてもらえない。
「お前と藤本なら別に問題ないやろ」
その一言でおしまいだ。
同じグループとはいえ、僕はまだ藤本さんと一言もしゃべれていない。
頑張って話しかけても相手にしてくれないんだ。
多分嫌われている。イブの前日、変な頼みをしたからに違いない。
嗚呼、せっかくの修学旅行がこんなことになろうとは…。
僕の憂鬱はさらに膨れ上がっていた。
ベットが三つ並んだ洋風の個室に、僕と藤本さんの二人きり。
僕はバックを無造作にベットへ放り投げる。
藤本さんは口を真一文字に結んだまま一言も発さない。
まだ「変なことしたら殺すから」とでも脅された方が幾分マシだ。
食堂での夕食と大浴場では、まだ他のクラスメイトがいるので救われた。
だけどそれらを終え、いざ個室に戻るとまたあの緊迫した空気が僕を襲う。
さすがにこのままの沈黙は我慢できず、僕は果敢に会話を挑むことにした。
何かきっかけはないものかと辺りを見渡す。
そのとき藤本さんのバックの隙間から一枚のCDが見えた。
本当はウォークマンは違反なのだが、僕はそんなことよりその中身に驚いた。
「へえ、藤本さんもそんなの聞くんだ」
カッと顔を紅潮させた藤本さんは、慌ててバックのチャックを閉じ僕を睨む。
「ひ、人の物勝手に見るな!」
「ごめん、つい…」
「私が聞いちゃ悪い?」
「ううん、僕も好きだよ。ゴマキの曲」
ゴマキ。金髪で大人っぽい13歳という話題性で一気にブレイクしたトップアイドル。
本名は後藤真希。僕らと同年代ということもあり、クラスの男子にもファンは多い。
でも藤本さんまで聞いているとは、イメージと違い少し可笑しい。
僕が笑いを堪えていると、藤本さんは一瞬睨み付けそして顔を落とした。
「私と…どっちが可愛い?」
「ハァ?」
「一回で聞け!私とゴマキのどっちが可愛いかって聞いてるの!」
「どうしたの急に?」
「うるさい!もういい!」
藤本さんは頬を赤らめて、プイッと向こうを向いてしまった。
僕はまた藤本さんの意外な一面を見つけて驚いた。やけに可愛いらしいぞ。
そのまましばらく藤本さんの背中を見ていると、やがて彼女はまたこっちを見た。
「相談、聞いてくれる?」
俯きがちで頬を真っ赤に染めたその表情からは、あの気の強いイメージが見えてこない。
僕は肯定の意を含む相槌を打った。
「好きな人がいるんだ…だけど告白していいか迷ってる」
藤本さんの口から出た台詞に、僕は素直に驚いた。
こんなに美人で綺麗な藤本さんでも恋の悩みを持っているなんて。
その相手はなんて幸せ者なんだろう。
相談されたことが嬉しくなった僕は、調子に乗って返答していった。
「それは絶対告白すべきだよ。藤本さんなら100%大丈夫!」
「でもその人には、他に好きな子がいるみたいで…」
「じゃあ強引に奪っちゃえ。藤本さんの魅力に断れる奴なんていないさ」
「ほんと?」
「本当だって」
僕は無責任に胸を張って答えた。
すると藤本さんは、いきなり着ていたTシャツを無造作に脱ぎ始める。
突然の出来事に僕は思わず部屋の端まで転げ下がった。
14歳とは思えない、均整のとれた藤本さんのプロポーションが露になる。
「…お前だ」
「え?え?え?」
「私が好きなのは…お前だ」
更新乙
わっ!急展開、どうなるんだ、と、思いつつもこの主人公がちょっと羨ますぃ・・・・
295 :
僕:03/06/12 08:07 ID:43u43LmV
>>294 この小説の主人公は僕なんだ。
すなわち、俺であり、
>>294であり、読者全員であるんだから、
自分が告白されたと思って喜んでおけ。
頭がゴチャゴチャ混乱し過ぎて、何が起きたのかよく分からない。
あの藤本さんが僕のことを…何かの間違いだ。そんなことあり得ない、だって…
「…藤本さん」
下はジャージ、上は紺のスポーツブラ一つという姿で藤本さんが近づいてくる。
僕は壁に背中をくっ付けたまま身動きがとれなくなっていた。
顔を真っ赤にし瞳を潤ませながら、藤本さんは少しずつ擦り寄ってくる。
「あの日からな…ずっとお前が好きだったんだ」
「あの日?」
「イブの前日。初めてだった、誰かにあんな風に助けてもらったことは…」
「……」
「それにこの旅行も。一緒に組もうって誘われたこと。すごく嬉しかった」
ポツリ、ポツリと、彼女の口から漏れる言葉の数々。
まだ信じられなかった。藤本さんがそんな風に僕を見ていたなんて。
だって僕が話しかけても、相手にもしてくれなかったし…
あれは全部。ただ照れていただけなのか?まさか、嘘だ。嘘だろ。
「そうか!わかったぞ!これはドッキリだ!クラスの誰かに頼まれた?」
「違う!本当だ!どうすれば信じてもらえる?」
「どうすればって…だってこんなこと…」
「私のすべてを見せれば…納得してくれるか?」
すると藤本さんはおもむろにズボンを脱ぎ出した。
健康的な脚線美とブラと同じ色の下着が、僕の視界に入る。
大声で叫んでしまいそうになった。
胸の鼓動がもう信じられないくらい高まっているのが分かる。
完全にズボンを脱ぎ捨て、下着姿となった藤本さんが今度は背中に手を回す。
ブラジャーを外す気だ。僕は辛うじて残る理性を振りしぼり慌てて上体を起こした。
藤本さんの前へ詰め寄り彼女の両腕を掴み、動きを止めた。
背中に回っている彼女の右腕を僕の左腕で、彼女の左腕を僕の右腕で掴んでいると、
眼と鼻先に彼女の肢体が位置し、まるで抱きしめている様な体勢になってしまう。
身長は彼女より僕の方が10cmくらい高い。
藤本さんは上目遣いで僕の顔を覗き込み、なまめかしい唇をそっと開いた。
「…いいよ」
もはや、何がいいのかとつっこむ気さえ起こらない。頭の中が真っ白だ。
「ジャーン!遅くなりましたぁ梨華でぇ〜す。心配かけて本当にごめんね。
お父さんを説得するのに凄く苦労して、でもやっとわかってくれたから。
一日遅れちゃったけど、あーUSJ行きたかったぁ。もうお父さんの馬鹿プンッ
でも明日からは一緒だから大丈夫だよ。色んな場所行っていっぱい遊…」
バックが床に落ちる音。扉がバタンと閉まる音。あの妙な甲高い声。
それらが僕の背中で同時に聞こえたんだ。真っ白な頭の中が真っ暗に変わった。
冗談はよしてくれ。なんてタイミングの悪さだ。酷すぎる。
個室に二人きり、僕の腕の中には下着姿の藤本さん。
これが今入ってきたトメコの眼に一体どんな風に映るのだろうか?
違う!違う!決してトメコが今想像している様なことじゃない!
藤本さんの腕を放し、互いに距離を置き僕は後ろを振り返った。
「…トメコ!」
いつものピンクのワンピース。いつもの黒髪に、いつもの黒い肌。
ただ僕を見つめるその眼だけが、いつものトメコじゃなかった。
まるで何か汚いモノを見るような眼…。そんな眼で僕を見ていたんだ、トメコが。
第四話「修学旅行 前編」終わり
はい、修羅場です。
次回はもっと凄いことになりますよ。
石川藤本にあの3人も加わり、辻豆作品史上最大の修羅場が待ち受けます。
ただ、これはエロ小説ではなく娘。小説であるということだけは忘れない様気をつけます。
この小説は現時点で全8〜10話になる予定ですが、次回が一番大変だろうなぁ。
まぁ頑張りますんで、期待して待っていてください。