申し訳ありません。一部訂正があります。
どっちも体育館でのスポーツだから、流れ的には問題ないはずです。
こっちの方がある娘との絡み上都合がいいので。
>>207 僕はバスケ部だから体育館で普段通りの練習だった。
↓
僕はバレー部だから体育館で普段通りの練習だった。
第二話「トメコの家族」
ある日、僕は駅前の本屋に立ち寄った。
毎週読んでいる漫画雑誌の発売日だったからだ。
店内に入りかけた途端、中から大きな罵声と子供が二人飛び出てきた。
「万引きだぁ!!誰かそいつら捕まえてくれぇ!!」
本屋の親父の怒鳴り声だ。僕のすぐ横を二人の子供が駆け抜ける。
僕はバレー部だけど足には少し自信があった。踵を返し二人を追いかける。
小学生くらいのくせにやけに素早しっこいガキ共だ。
小さい体をフルに生かし、商店街の人並みを駆け抜けてゆく。
(こいつら慣れてるな)
思った。尚更捕まえて反省させなければ。これじゃロクな大人にならない。
僕はスピードを上げた。いくら何でも小学生には負けられない。
アメフトばりのタックルで片方の子供を飛び押さえる。
ムニュ。
すると手のひらに柔らかいゴムマリの様な、妙な感触が飛び込んで来た。
「あいぼん!!」
もう片方の子供が足を止め叫ぶ。僕は押さえ込んだ子供の顔を覗き込んだ。
男の子みたいな格好をしていたので男だとばかり思っていた。
ところが僕の下でもがいている子供の顔は、可愛らしい女の子のものであった。
「いつまで乗ってんねん!ええ加減どけぇ!!」
手のひらに伝わる感触の正体に気付いた僕は慌てて体を起こした。
その頃には、息を切らして追いかけてきた本屋の親父や野次馬達が周りを囲んでいた。
商品を取り返した本屋の親父は、警察を呼び二人は交番に連れて行かれた。
状況説明という名目で僕も同行することになった。
話を聞くとこの二人は双子で、やはり万引きの常習犯らしかった。
警察のおじさん達が優しい声と厳しい声を使い分け、双子を叱り落とす。
しかし当の本人達にはまるで反省の色が見られない。
「うるさいねん!関係あらへんやろ!」
「やりたくてやってるんじゃねーのれす!」
ところが、保護者を呼び出すと言うと二人は急に黙ってしまった。
僕は何となく気になって、しばらくその場で成り行きを見守ることにした。
しばらくすると電話で呼び出された双子の姉が交番に駆けつけてきた。
その顔を見て僕はあっと声をあげた。
双子の姉も僕の顔を見てあっと声をあげた。
だが互いに言葉を交わす間もなく、双子が姉に泣きついてしまった。
「姉ちゃん、姉ちゃん、おとんは呼んでへんやろな?」
「一徹にはいわないれくらはい!」
双子の姉は、今にも泣き出しそうな二人の頭を撫であやしていた。
そうしながらまた僕の方を見た。
先週の傘の件があったので、僕は何となく気まずく首だけで挨拶する。
なんという偶然、この万引きした双子の姉はトメコだったのだ。
トメコもまた複雑そうな表情を浮かべ、小さく頭を下げた。
それからトメコは本屋の親父と警察、順に深々と謝罪してまわった。
あの悪がき双子はずっと姉の腰にしがみ付いたままだった。
数十分の問答と謝罪の後、ようやくトメコと双子の妹達は交番を退出した。
何となく僕も彼女達と一緒に交番を出た。
なんか切ない話だなぁ
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こういうのはヤバイなー。
もう泣きそうだ。
「なんやこいつ、姉ちゃんのクラスメイトか」
「もう少しらったのに…こいつのせいれ…」
交番を出た後も、双子はトメコの腰にしがみ付いたまま僕の方を睨みつけてくる。
そんな妹達をトメコはあの甲高い声で叱る。
「コラ!こいつじゃないでしょ!お父さんに言いつけるよ」
「ダメダメダメ!ごめんなしゃいれす!」
「姉ちゃん、それえだけは堪忍してえな」
警察にも物怖じしなかった二人だが、父親の名を出すとやけに怯える。
トメコと双子の父親、一体どんな人物なんだろうと少しだけ興味を覚えた。
それから僕はトメコに視線を移した。
学校のトメコからは想像もできない、いいお姉さんぶりだと思った。
「凄いしっかりしてるんだ、トメコって」
「えっ!?」
予想以上の狼狽ぶりで、トメコは少し強張った表情を浮かべこちらを覗き見る。
「怒ってないの?」
「怒る?」
「だって私…君の傘を折って…だから怒ってるんだって」
そうだった。僕はトメコに酷いことをしてしまったのだ。
傘のことを謝る為、ずっと校門で待ち続けた彼女を僕は知らん振りした。
だから怒っていると勘違いしているんだ。
それから一週間経つ今まで、わざと避けている様な態度に見えたのかもしれない。
「怒ってないよ。それより謝らなきゃいけないのは僕の方なんだ」
「え?」
「ちょっと恥ずかしくなって嘘付いたんだ。知らないって…」
「本当に?」
「うん、だから傘のことなんか気にしなくていい。捨てちゃっていいよ」
「捨てないよ、まだ使えるし。私大事にするから」
「プッアハハ…やっぱりトメコは変だ」
「そ、そうかなぁ?」
「変だよ…アハハ」
「エヘヘ…もうそんなに笑わないで」
僕はトメコと仲直りしてる間、後ろで訝しげに聞き耳立てる二人を忘れていた。
「何やこいつ?姉ちゃんの何や?」
「ろうゆう関係なんれしょうか」
「気に入らへんなぁ。そや、のの。こいつうちに呼んだれ」
「一徹に叱ってもらうんれすね」
「当たりぃ。うちのおとん見たらこいつもきっと逃げ出すで」
「お姉ちゃんの悪い虫はののとあいぼんれ始末するのれす」
まさか、こんな恐ろしい会話を交わしているとは露知らず。
お詫びがしたいから家においでという双子の誘いに僕の心は揺れた。
トメコもまんざらではない顔をしている。
僕は二つ返事でその誘いを受けた。
「おおきに。姉ちゃんの手料理食わしたるでぇ」
「こっちれすよ〜。はやくはやくぅ」
先ほどまでとは一変した双子の態度に、少し戸惑いも覚えたが、
それ以上にトメコの手料理という言葉が僕の興味を惹いていた。
トメコの家は、商店街から住宅街を抜けさらに雑木林を抜けた奥地にあった。
築何十年か分からない木造の小さなアパートの一室だった。
六畳一間に申し訳程度の台所と洗面所と小さなお風呂だけの部屋。
お世辞にも良い住まいとは言えない、生活の厳しさが滲み出ていた。
「ごめんね、こんな汚い所で」
「ううん、そんなこと…」
ねぎらいの言葉が続かない。トメコは本当に恥ずかしそうに俯いていた。
それでも双子が僕の両手を引くので、僕は言われるままに部屋の中へと入った。
入り口から向かって右側に小さな台所、左側に洗面所とお風呂に続く扉がある。
部屋の中央には丸い木のちゃぶ台がある。ここで一家はご飯を食べているのだろう。
部屋の片隅には小学校の教科書類が乱雑に山積みされている。間違いなくこの双子のだ。
対照的に反対の本棚には、トメコのものと思われる教科書ノートが丁寧に並んでいた。
漫画や雑誌の類は一切ない様に見えた。テレビもない。ラジオが一つあるだけだ。
生活用品も本当に必要最小限しか置いていない感じだ。
ここでトメコが起きて寝て暮らしているのだと思うと、少し胸がキュッとした。
「お母しゃん、ただいまぁ」
「今日は珍しくお客さんや。姉ちゃんの友達やで、おかん」
双子はちょこんと正座して、誰もいない所にそう報告した。
(トメコのお母さん?何処に?)
僕は首を伸ばして二人の前の壁を見た。小さな位牌が飾られていた。
それで理解できた僕は、口元に手を当てて視線を変えた。
トメコを見ると台所の前に立ち、何かを作ろうと手を動かし始めている。
僕はその細い背中に目を奪われてしまった。
おそらく家事全般をトメコがあの細腕で全て賄ってきたのだろう。
そんな境遇を学校では微塵も感じさせていなかった。
どんなにサムくても、誰にも相手にされなくても、めげずに頑張るトメコだった。
感情の高ぶりを抑えながら、僕はトメコの横に立ち言った。
「手伝うよ」
「ううん平気。それよりご飯できるまで、妹達の相手お願いしていいかな?」
これは料理のサポートより何倍も大変な仕事を任されたなと思った。
更新乙
いいですね。とても面白いです。
小説の続き、楽しみに待ってます
227 :
:03/06/01 01:40 ID:Qp9vRumy
トメコが夕食を準備している間、僕は双子と遊んだ。
しかしこの二人よく似ている。同じ背格好に同じ髪型なので区別がつかない。
唯一違うところといえば…僕は右手の感触を思い出す。
まだ小学生だというのにまったく末恐ろしい。
末恐ろしい方があいぼん。ペッタンな方がのん。僕は何とか二人の名を覚えた。
やがてトメコがちゃぶ台におかずを並べ始める。
尿意を感じた僕は、食事の前にトイレを借りることにした。
扉を開けた途端に芳香剤の匂いが鼻に付く。狭い部屋だから気を使っているのだろう。
和式便所を見て、トメコもトイレするのか、なんて下らないことを考えちょっと落ち込む。
「おかえりなさい」
便座にまたがっていると、扉の向こうからトメコの甲高い声が聞こえた。
僕は急いでズボンを上げる。きっと父親が帰ってきたんだ。何だか緊張してきた。
「今日はクラスの子が遊びにきてるの」
「お、おじゃましてます」
トメコに紹介された僕は、トイレから出てすぐに挨拶した。
一徹は無言だった。いかにも頑固な感じで一昔前のスポコン漫画の親父に似ている。
(この人がトメコのお父さん…)
唾を飲み込む。僕はすっかりその迫力に飲まれていた。
よく見ると、先程までふざけあっていたあいぼんとのんが怯えている。
一徹は僕に一瞥くれると、無言のままちゃぶ台の前に腰を落とし静かに口を開いた。
「座りなさい」
低く太い声だった。
その一言であいぼんとのんがちゃぶ台に並ぶ。トメコも座る。僕もその横に正座した。
「希美。亜依。何か言うことはないのか」
のんとあいぼんの表情が強張る。二人は目を落としたまま何も答えない。
(まさか、知っているのか?あのことを…)
フォローに回ろうとするトメコを、一徹は腕で制す。
「お父さん、あの…」
「お前は黙っていなさい。私は希美と亜依に聞いているんだ」
頑として聞き入れない口調であった。のんとあいぼんはもう完全に震えてしまっている。
僕は何だか凄く場違いな感じがして気がひけた。トメコを見る。
トメコは目を伏せてじっと押し黙っていた。
少しの静寂、しかしのんとあいぼんは何も言わない。いや言えないのだ。
そのときであった。一徹の眼がかっと見開いた。両腕でちゃぶ台を豪快にひっくり返す。
上に並んでいた茶碗や皿が、食事と共に崩れ落ちた。
「馬鹿娘が!!」
大音量の怒号と共に、ビシィビシィと立て続けに二発の張り手がのんとあいぼんに落ちた。
二人は頬を押さえたまま床に転がる。一徹はさらに立ち上がって吼える。
「人様の物を無断で拝借するとは何事か!!」
「やめてお父さん!」
「うるさい!わしはお前達をそんな風に育てた覚えはないわ!」
「暴力はやめて!希美も亜依もちゃんと反省してるから!」
「親に口答えするなっ!!」
「キャッ!」
一徹は、止めに入ったトメコにまで平手を打ちつけた。
その勢いでトメコはちゃぶ台の上に倒れ、ぐしゃぐしゃの夕食が服に付いた。
それを目の当たりにしたとき、なんだか僕は胸の中がかっと熱くなった。
「うわあああああああああああぁぁぁ!!!!」
我を忘れた僕は一徹に向かってぶつかっていった。
一徹は本当に凄い。
毎日バレーで鍛えているから少しは抵抗できつつもりでいたのに、
そんな僕をまるで問題にせず跳ね除け、ひっくり返す。
でもすぐに立ち上がってまた向かって行った。
不条理に暴力を振るう大人が許せなかったんだ。
「大の男が娘に暴力ふるうなよ!!」
「うるさい!!悪事に女も子供も関係ないわ!!」
「やめて!お願いだからもうやめて!」
僕等の間に入ったのは、立ち上がったトメコだった。
今にも泣き出しそうなトメコの顔が僕を正気に戻した。
一徹は息一つ乱さず、こちらを見下ろしていた。
「らって…」
束の間の静寂の後、口を開いたのは泣きじゃくるのんだった。
「らって、馬鹿にされたんらもん」
「アホ!言うな、のん!」
「おまえのうちは貧乏だから二人揃ってバカ女なんだって」
「言うなって!」
「貧乏だからナナメショーシェキも知らないんらって」
「…のん、夏目漱石や」
「らから二人でお小遣い全部持ってショーシェキ買いにいったの…でもお金足りなくて」
そこであいぼんがのんの口を塞ぎこんだので、言葉はそこで終わった。
トメコは下を向いたまま黙り込む。細い肩が小刻みに震えていた。
のんとあいぼんのすすり泣く声が狭い部屋に響いた。
一徹は口を硬く結んだまま、また静かに腰を下ろした。
「梨華、片付けなさい」
それだけ、ポツリと言った。
薄々予想をしていたのか?トメコは夕食をもう一食分用意していた。
ちらばった食事を片付けたトメコはそれらをもう一度並べる。僕も手伝った。
「いただきます」
「ごちそうさま」
食事の時に交わされた会話はたったそれだけだった。
あれだけ泣きじゃくっていたのんとあいぼんも、メシはしっかりと食べていた。
食事を終えた僕は、そろそろ帰宅する旨を伝えた。
「私、途中まで送るよ。もう暗いから迷うといけないし」
僕はトメコの申し出を快く受けることにした。
のんとあいぼんが姉の代わりに片づけを始める。
玄関で靴を履き、僕はトメコの家族に挨拶し、ドアノブに手を掛けた。
すると一徹があの太い声で言った。
「また、きなさい」
雑木林を抜け、川の袂の端までトメコは送ってくれた。
「お父さんね、嬉しそうだったよ」
「へ?あれで?」
「うん、前から息子が欲しかったって言ってたし。うち女ばかりだから」
「ちょっと、息子って僕のこと?勘弁してよ」
「ウフフ…だって男っぽかったもん。あのお父さんに立ち向かっていくなんて」
「それは褒め言葉かなぁ?」
僕とトメコは声を出して笑った。
そしてあのトメコと自然におしゃべりしている自分に気が付いた。
(全然普通の可愛い女の子じゃないか)
「また明日、学校で」
「うん」
橋の袂で別れた。トメコは見えなくなるまで手を振ってくれていた。
トメコと友達になれた日。僕は多分この日をずっと忘れない。
第二話「トメコの家族」終わり